第112話 温泉都市ユフイン おっさんvsラメヒー王国勇者ご一行 8月中旬

<<温泉都市ユフイン 目抜き通りにある喫茶店>>


「桜子! やっぱり桜子だな。どうしてここに!?」


「どなたでしょうか?」


とりあえず、すっとぼける。


「僕だ、島津純だ」


「知りませんね」


いや、本当に知らないしね。詳しくは。


「ちょっと純、違うって言ってるじゃない。失礼でしょ」


「いや待て。キミ。それは日本刀だね。何処でそれを手に入れた?」


今度は先生か。


バチィ。


いきなり近づいて来た先生は、無遠慮に俺に触れようとする。障壁で弾いたけど。


「これは頂き物です・・・興が醒めましたね。ツツ落ち着いてください」


先生のせいで、ツツが殺気立っている。

とりあえず、椅子から立ち上がる。


「キミ、少し話をしないかね? 飲み物くらいは奢ろう。どうだい?」


先生から微笑みかけられる。イケメンかもしれないが、俺は男。かなり気持ち悪い。


「そうだぁ! この巨女。お手つきにしましょうよ。お面を被っているけれど、造形的にアルセよりあいつに似ているわ。きっと楽しいわよ。純も双角族の愛人が欲しいって言ってたじゃない。嬉しいでしょ?」


あいつ・・・ね。


「貴様ら、我らを愚弄するか!」


ツツが怒った。そりゃそうだろう。

『その種族であること』を理由に愛人にすると言われては、同族である彼が怒るのも当然だろう。そもそも合意の上でもないし。


「何よ。私達は勇者なのよ? そのパーティに入れるなんて、とても名誉なことなのよ?」


「この国で勇者なぞ何者でもないわ。即刻去られよ!」


ツツも若いなぁ。そいつは何も知らない世間知らずの高校生。


「こら、ツツ。落ち着けって。帰るぞ」


ムカつくのは分かるけど。


「こら、龍造寺。そんな言い方はないだろう。聖女らしくないぞ。なあ、お嬢さん。キミは剣士なのだろう? どうだね。一緒に修行するというのは。私が剣道を教えてあげよう。その、腰の刀の使い方だよ」


この先生もぐいぐい来るなぁ。剣道好きなの分かったから放っておいてくれよ。


「聖女、だと?」


ツツの目が本気でおかしい。まずい気がする。


「ツツ、無視だ」


無視してすたすたと歩いて行く。ここから迎賓館まではすぐだ。


「ま、待ってくれ。俺からもお願いする。少しだけ話を」


お次は勇者くんか・・・


「何よ、純、あの巨女に気があるわけ? まあいいわ。あいつを新しい見学担当にしてあげる。先生、こいつを連れて行きましょうよ。そこの男性もどう? 今なら、そこの女近衛兵4名を付けてあげるから」


何となく、女近衛兵の方を見る。

フランがにへらぁ~って顔になっている。

平和なやつだなぁこいつは。


だがしかし、ツツの目が怖い。尋常じゃない気がする。


「ツツ。無視だ。帰るぞ」


こいつらの移動途中の竜車を思い出す。翻るラメヒー王家の旗。

手を出すと面倒だし、無視が一番だ。


「は、はい・・・」


ツツも分かってくれたか。若い割には自制が効いている。

きっと、俺の護衛なんかにはもったいないイケメンなんだろう。


「おい。待てって、それではこうしよう。私と剣道で勝ったら、キミは帰っていい。もし負けたら、私の指導を受ける。どうだ? 損はしないはずだ」


何を言っているんだこのおっさんは。ヤリ過ぎて頭おかしくなったのか? 何が『損はしない』だよ。こちらのメリットなんてほぼ無いじゃねぇか。


無視だ無視。


「貴様はっ」


「テヤァア!」


バン! パリィ・・・


追い返そうとして付きだしたツツの腕を、先生が木刀で叩く。

障壁で止ったみたいだけど、こいつは・・・


「どうだね。これが剣道の小手と言うものだ。これを習えば、キミも強くなれるぞ?」


後の自称聖女がニヤニヤと笑っている。


こいつら、ここが外国ということを解っていないな?

逆に、近衛兵4名と愛人軍団は青ざめているが。


「お仕置きが、必要だな・・・ツツ、早まるなよ?」


ツツは、俺に付けられた護衛。

弱いわけはないはずなのだ。しかもこいつは双角族。その気になれば、先生がまずいことになる。ここは、俺が何とかするしかない。


足りない頭で考える。


とりあえず、腰に下げた日本刀をツツに渡して先生と向かい合う。

今の俺は身長195センチプラスブーツと角。完全に見下ろす格好になっている。


先生の身長はせいぜい175くらいだろう。姿勢が良くてバネはありそうな感じだが・・・


中背細身の剣士と、それを見下ろす巨女が相対する。


「け、決闘だぁ~~~」「決闘が始まるぞ!」「なんだと!? 今から戦勝式典だってのに、楽しくなってきたぁ!」「よし、賭けを開始するぞ。うちが胴元をやる」


「ん? ありゃ双角族じゃねぇか。あの兄ちゃん、負けたな」「双角族だと? 白兵戦最強の部族だ」「だが人数は向こうが多い。どうする?」


賭け事が始まった。どうしよう。


「決闘か。それも良いかもしれん。ほら。私の武器は木刀だ。当たっても少し怪我をするくらいだぞ。どうする?」


やるしか無いか、俺は久々に、アレを出す。


腰のベルトから、あの植物の茎を。


リバーサーペントの皮付き。最近は別の用途でしか使っていない、かわいそうなやつ。

触手に絶大なる信頼を置いている俺は、娘の体に入っても護身用に1本装備していたのだ。


「・・・舎弟をやられて、そのまま帰るわけにはいかん・・・」


植物の茎に魔力を通す。ちょうど木刀くらいの長さにして、反りも付ける。この触手の宿命として、先っぽはメイスのように膨れているが。


「おお! いいぞ鬼のねぇちゃん! がんばれぇ~」「うお~男剣士も頑張れや。根性見せろ!」「先生頑張ってぇ!」「なんだあの武器は!?」「スマイリーさん! 頑張ってけろぉ~~~~あなたに全財産賭けたぁ!」


「いくぞ!」


勝負が始まった。


中段に構えた先生は、フットワークを使いながらじりじりと間合いを詰めてくる。

こちらも何となく剣道の構えを取ってしまう。剣道なんて、学校の授業以来だ。

まともに戦ったら、俺に勝ち目は無い。


「コッテェア!」 フォン! 


あ、危ねぇ。この先生の踏み込み早い。

娘の身体能力がなければ当たっていたな、今の。


「テヤァ~~メェエ・・・メェン!」 む? フェイント? いや、面打ち?


受けたらまずい! 反重力で後ろに下がる。


「ふぅ~ふぅ~」


何とか逃げることができた。近づかれたらテクニックで負けてしまう。


いやいや、これは剣道の試合ではない。俺は、彼と剣道をする気はない。


触手を下段に構える。久々の土魔術走法を使って近づく。


「ハァ!」


さらに、反重力魔術で体をスライド。


「リャァ!」 バン!バン! 「キャァアア!」 ブウン!


俺の突き2連ははじかれる。最後の胴は空振り。結構、魔力込めているのに。


この先生、実は強いんじゃ?

というか、娘の体で気合いを入れると、かけ声が高音になる。今はどうでもいい話。


「うおおお~~~」「がんばれ~~~」「スマイリーさぁ~~~ん」


「不思議な体さばき。ちゃんと練習したら、キミはとても強くなる。でも、今日は負けてもらおう。それは、キミの為なのだ。いくぞ!」


ふん。こちらは剣道をするつもりは無い。まともに付き合ったら負けそうだし。


・・・ジニィ流触手術・・・


「メェン!」 ブオン! 「なに?」


すり抜けからのぉ・・・


「オラァ!」 バゴォオオン!


後から思いっきりケツバット。フルスイングだ。


先生は自分の踏み込み運動エネルギーも加わり、派手にすっ飛んでいく。


腰の骨くらい折れてるかもしれない。

ま、自称聖女に回復してもらえば問題ないだろう。


「さて、次は誰かな?」


肩に木刀型触手をぽんぽんと当て、挑発してみる。


「よくも先生を・・・お前は、桜子じゃない! お前は、あいつの剣とは違う」


ああ、違うよ?


「だから何だ? 勇者くん」


彼の身長も先生と同じくらい。とりあえず、見下ろしてみる。


「僕が相手だ!がぁ!」


「遅いよ勇者くん」


こいつは弱い。そういえば娘もこいつは弱いと言っていた。


というか、めんどくさいので反重力魔術を使った超加速からの空間魔術を使ったすり抜けの術からのケツバット。


ジニィ流、初見殺し。


勇者くんは、体をのけぞらせた状態で倒れて固まっている。気絶したようだ。

『僕が相手だ』発言から1秒くらいしか経っていない。


「きゃあ!? 純、純~~? あんた達、あいつを倒しなさい。早く!」


自称聖女が後ろに控える有象無象に指示を出すが、みんな真っ青な顔をして尻込みしている。


まあ、俺的には後ろの奴らはどうでもいい。だが、この自称聖女は少しムカついた。


反重力、注入・・・ブォン・・


一瞬で背後を取り、大きく見下ろす。


「・・・煩いなぁ、お前は、こうだ!」


ずるん。


自称聖女の魔術障壁を、木刀型触手で絡めて一瞬で剥がす。


「ひぃい・・・」


そして・・・


「食らえ・・・ザギィ流シュイン術、『重ね4点攻め!』 オリャァアアア!」


必殺の水魔術を発動させる。


これは、ザギィさんに散々やられた技をインプットしたオリジナル魔術。

魔力も沢山込めたので、しばらく剥がせまい。


「イ、イヤァアアア~~~~~ア!? アアーーーーーーーーーー! あっ・・・」


どさ。


気絶したようだ。


少し強すぎたか。

倒れて動かなくなった自称聖女の体に水魔術だけがうにうにと蠢めいている。

なんだか気持ち悪い。


「次は誰だ? ああん?」


「い、イヤァ。私達は、勇者にむりやりされていただけで・・・」


・・・興が冷めたな。


「どうでもいいや。ツツ、帰るぞ!」


「はい!」


ツツ、我慢させて悪かった。


「いいえ、大丈夫です。私も未熟でした」


ツツもすっきりした顔をしている。良かった。


「うおおおお~~強ええ~!」「勝った!」「スマイリーさん素敵ぃ~」「全財産が倍になったけろ! やったぁ」


俺達は野次馬の歓声を聞きながら、この場を後にする。


「ん? あれは・・・」


人混みの先から視線を感じる。とても冷たい視線だ。


そこには式典中のイセ(俺の体)とディー、桜子(イセの体)そしてオリヴィアさんが冷たい表情でこちらを見ていた。


隣でやってたのね。戦勝式典。


そのど真ん前で決闘してごめんなさい。

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