第103話 バルバロ邸襲撃事件 小田原亨視点 8月上旬
多比良城がマ国に出かけた頃・・・
<<バルバロ邸 お昼 宴会の間 協議中>>
私の名前は
多比良さん達がマ国に向け旅立った後、ここ、バルバロ邸にタマクロー派貴族プラスアルファが集まっていた。
「みんな揃ったな。では、昼食会兼会議を始めるぞ。イマムラ殿、アヤコ殿、料理はどんどん運んでくれ」
会議の進行役はこの屋敷の主、バルバロ辺境伯家の長女、モルディベート・バルバロ。ストレートショットカットの髪にナイスバディの美人。成績優秀にして医者。でも、某人物からの情報によると、彼氏いない歴イコール年齢の女性。今日も元気いっぱいだ。あだ名はモルディ。
「最初は、ティ様、こと、ティラネディーア様がタビラ殿に付いていってしまった件、トメーザ殿、説明を頼む」
トメーザと呼ばれた男性は、シエンナ子爵の嫡男。不敬罪で強制労働者署にぶち込まれていたが、1ヶ月程前にシャバに復帰した。小さなおじさんの血を引いており、身長は低め。筋肉ムキムキのモヒカン男である。あだ名はトメ。今は自分のボスだ。見た目によらず穏やかで男気がある。少しのんびりしていらっしゃるが。
「はい。ディー様が署長を務めていらっしゃた強制労働署は、私が署長代理として後を継ぐことになりました。それ以外の屋敷の運営は、タマクロー家のどなたかが暫定的に戻られるそうです。私の従来の仕事は、ここにおりますオダワラ殿が補佐に入り、こなす予定です」
オダワラとは自分のこと。土魔術使いの縁で、今ではシエンナ子爵家の食客の地位を獲得している。
「小田原です。よろしくお願いいたします」
「あ、小田原さん、久しぶりじゃない。元気してた?」
「お久しぶりです、綾子さん」
綾子と呼んだ女性は、バツイチ1児の母。異世界で居酒屋を始めたが、今日はバルバロ邸の昼食会の手伝いに来ている。彼女もかつてのDチーム、多比良城氏の元チームメイトである。生物と風と火魔術使いで負けず嫌い。娘大好きな元気はつらつシングルマザーである。
「それから、バッファ男爵家のチーネクリス殿も今はバルバロ邸で警備の任務に就いていますが、落ち着いたら、タマクロー家の補佐に入る予定です」
「うん。よろしく」
チーネクリスと呼ばれた女性もトメ殿と同じく強制労働署にぶち込まれていたが、つい先日シャバに復帰した。罪名は強制わいせつ罪。旦那とやりすぎて訴えられた猛者だ。彼女も筋肉ムキムキだが、顔は美人で、意外と常識人である。あだ名はクリス。
「うちの庭の警備の仕事だが、あまり危険も少ないと言うことで、冒険者見習いを補佐に付けることにしている。クリスにはその総括的な役割を担って貰っているが、バッファ家の者を何時までもそのままという訳にはいかないだろう。しばらくは続けて貰いたいが何とか対策を考える。よし、これでタマクロー家の話は終わったかな。次は、サーキットの話だ。ドネリーいいか?」
ドネリーと呼ばれた男性は、サイレンの街の伝統3大貴族の一角、ブレブナー伯爵家の嫡男。つまり、次期伯爵様である。
190cmくらいの長身、垂れ目のハニーフェイス、レの字の揉み上げ、そして立派な胸毛の持ち主である。
某人物の情報によると、ケツに対して思うところのある人物でもある。
「おう。バイクサーキットは、もうすぐ賭博場として開催可能だぜ。知り合いの貴族達にバイクのスポンサーになってもらい、レースを行う。レートや賞金は日本人に詳しい者がいて、彼らの計算を参考に設定する予定だ。胴元は絶対に損しない仕組みになっているから安心してくれや」
「バルバロ家では、ギャンブルは禁止されているからな。うちは、場所代を貰うだけでいい。私個人としては、レーサーで出るが」
「ホントにいいのかよモルディ。うちとしては棚からぼた餅なんだがな」
「三方良し。日本人が言っていたんだ。うちだけ儲けても恨みを買うだけ。お前達も儲けてくれ」
「ああ、分ったよモルディ。お前を見直したぜ」
「ふっ。もっと見直してくれてもいいんだぞ? 次は、野球場の活用だな。野球の試合自体は、バルバロ、ブレブナー、ランカスター、タマクロー、ケイヒンの5チームが誕生したからな。次からは一日中、野球大会が楽しめる。だが、それ以外の使い道もあるんだろう? ネメア」
「そうだよ。あれだけの設備。他にも活用しないと損だよ」
ネメアと呼ばれた男性は、サイレンの街の伝統3大貴族の一角、ランカスター伯爵家の次男。少しなよっとしているが、イケメン。ぽんこつぎみでよく父親に怒られているらしいが、最近はうまくやっているようだ。
彼もケツに対して思うところのある人物である。あだ名はネメ。
「僕のところで劇団や歌手を手配するからさ。大規模コンサートをやりたいんだ。個室もあるから貴族も呼べるし。照明も凄いから夜もできる。運営はランカスター家から連れてくるから任せてよ。日本人が運営しているアイドルグループもいるから、彼らにも出て貰おうかと思っているんだ」
「分った。あまり夜遅くやると、うちに居る学生に迷惑がかかるからな。曜日と時間はわきまえてくれ。それから、弁当とかつまみ、お酒が売れそうなイベントだな。その日は、うちも何かやろうかな。日にちが決まったら教えてくれ」
「わかったよ」「おう。俺のブレブナーにも1枚噛ませてくれよ、ネメ」「いいよ。ドネリー。イベントは人数がいるからね。その辺の細かい話は今度」
「それから、こいつがラブレス商会のミドー。バルバロ辺境伯領出身の商人だ。うちも飯屋を始めたり人数が増えたりで、食材やらの調達を任せるようになっている。今回の庭の利用についても一枚噛ませて欲しいというので、今回参加させている」
彼、ラブレス商会のミドー氏は、我々がまだ王城にいた頃から日本人に接触し、平祥子さんと知り合いになった人物。そして、サイレンに移動後、彼の出資で祥子さんと綾子さんの居酒屋の早期開業が実現した。バルバロ辺境伯領出身とのことで、主に米の仕入れなどで活躍していると聞いている。そのほか、不動産業にも精通しているらしい。
「いや、モルディベートさん、そんなにはっきり言われると少しあれなのですが、はい。まあそうです。イベント事は何かと人・物・金が動きます。商人のバックアップは必要になってくるはずです。お見知りおきを」
「イベントを盛り上げるためには商人の活用もやむなしだ。ああ。うちは、場所代さえ貰えればいい。あと、施設は壊すなよ。壊したら直してもらうからな」
「分ってるよモルディ。この件は親父も注目しているんだ。ちゃんとするよ」
ちなみに、モルディベート、ドネリー、ネメア氏の3人は、学園時代の同級生であるらしい。
「おい! コラァ! 誰かいねぇかぁ。また来てやったぜぇ」「オラァ! コラ!」「ぎゃははは。お前らイキがりすぎ。相手怖がって逃げ出すんじゃね?」
ん? いや、誰か威勢いいのが来たみたいだ。
「さて、次は、パシュート大会と弓道大会だな。これは、日本人の教師である、メグミ殿に説明をお願いする」
モルディさん、完全に外の喧噪は無視しているな。自分のボスであるトメさんも無視している。ここの人はどこかのんびりしている。ここは私も無視しよう。首を突っ込むと何だか面倒な気がする。
ちなみに、目久美先生は、1年1組の担任の先生である。多比良城さんの息子、志郎くんの担任。志郎くんは、あの子、加奈子ととても仲がよい・・・話が逸れた。
目久美先生の教科は体育であり、女子弓道部の顧問である。
『体育』というものは、この異世界ではその概念が無かった。そのため、体育教師である彼女は、この異世界で冷遇されていたようある。しかし、バルバロ邸の庭にグランドや弓道場が出来たこと、ケツ協会という秘密クラブに入ったことで有力貴族のドネリー氏やネメア氏とお尻愛になったことなどにより、今は生き生きとしている。
「はい。まず、パシュートですが、何故かここサイレンの街で爆発的にヒットしています。触手を用いたスケート靴も売れています。それで、今回、パシュート大会を開催することとなりました。元、陸上部が中心となって、チームが約10ほど出来ています」
「ほう。パシュートも賭博になればいいかもな」
「はい。でも、学生の大会は賭け事は無しですよ、ドネリー様。そのうち、プロパシューターが出てくれば、賭博も考えましょう」
「そ、そうだったな。メグミ。おれも気が早っちまって。済まなかったぜ」
「おい! 居るんだろ? なぜ出てこない!」「ぶっ壊すぞゴラァ!」
やっぱり、玄関にいる人達が気になるのだが。何でこの人達は普通にしていられるんだろう。
「あ、あの、モルディさん? お客さんのようですけど。でも、あれって、日本人の生徒よね?」
先に綾子さんが玄関の輩を気にしてくれた。自分もなんだか不甲斐ない。かつての自分は何処にいったのだろう。
「どうしたんだ? アヤコ殿。あのイカ臭い男どもはこの間も来たんだ。下手に相手をすると、もっと踏み込んでくるからな。無視が一番なんだ」
「そ、そうなんだ。でも、玄関壊されそうよ?」
「何? アレは日本人達が一生懸命造ってくれたんだ。しょうが無いヤツらだな。おい! じじい! じじぃ~~~・・・あれ? いないのか」
「じじい様でしたら、厨房で皿洗いを手伝ってくれています」
「そうか、アヤコ殿、悪いけど、じじいに相手しに行くように言って貰えないか?」
「え、ええ。いいけど・・・」
「さ、会議を再開しよう。ええと、パシュートの方も大会やる分にはかまわない。だけど、使った後、グランドをそのままにするヤツがいるみたいなんだ。パシュートをすると少し、表面がでこぼこになるからな。使い終わりはちゃんと均して貰うように指導してくれないか」
「はい。そんな苦情が出ているんですね。分りました」「そうなんだ。普通にかけっこをしたいという人も一定数いてな」「分りました。改善できるように方策を取ります」
「なんだぁ! コラじじい。何か話があんのかぁ? ああ!? 責任者だせやコラァ!」「オラァ!」
ボゴ! ゴス! ボン!
「へへ。おい、お前まずいって、もろに入ってるじゃねぇか」「はは、このじじい。もう終わりかよ」「ぼっちゃんたち、やり過ぎはよくありやせんぜ。今回は、書類にサインさせるのが目的でさ」「分ってるよ。殺しやしないって。でも、おれまだ殴ってないんだよねぇ~。ホレ、おれにも殴らせろや!」
ボゴ! パン!
いや、じじいさんがぼこぼこにされてる。何だか焦ってきた。
「あ、あの。モルディベート殿。流石に介入なさった方がよろしいのでは? あいつら、中坊でも結構体が大きいですし、大人も混じっています」
「そう言うがな、オダワラ殿。私が出たら貴族同士の争いになる。それにじじいは、よぼよぼに見えて丈夫だ。あいつは私が殴ってもびくともしないんだ。今も多分、エロいことを考えているだけだ」
「オラァ。もう一発!」 パアン! 「へへへ」「あはははは」「ゲラゲラゲラ」
「しかし! モルディさん!」
「ああ、もう、そんな怖い目をするなオダワラ殿。またっく、しょうが無い奴らだ。おっさん! おっさぁ~~ん! おっさんはいないのか? どこ行ったんだ。あいつは」
「モルディさん、目覚ましおじさんなら、1階にはいませんけど」
「またか。あいつは奥さん大好きだからな。まだヤッてるんじゃないのか? 自室で」
モルディさんはどこかのんびりしている人だ。時と場合によっては美徳になるのかもしれないが、今はそれどころではないと思う。
「それじゃ、目久美先生。あなた学校の先生でしょ? いいんですか? 日本人中学生が、バルバロ家の家臣に暴力を振るっているんですよ?」
「小田原さん。私はこの国のルールに則って行動することにしています。この屋敷の主がいいと言っているんです。それから、ドネリー様もネメ様も落ち着いていらっしゃいます。私はこちらに従います」
「そ、そんな。どうすれば。自分はシエンナ家の食客だし。トメ殿。どうすれば」
「え? 大丈夫ですよ。だって、バルバロですよ?」
「は?」
我がボスからも意外な言葉。ボスのトメ殿も元々のんびりしていらっしゃる方ではある。そういえば、この国の人達はみんなどこか皆のんびりしている気がする。
「モルディさん、何か考えがあるのでしょうか」
「考えというか、イカ臭い奴らの喧嘩は無視したいのだがな。ほら、子供の喧嘩に親が出るのは、少し気が引けるんだ」
「いや、子供というか、思いっきりバルバロ家に喧嘩を売っているような気がしますが」
「モルディの姉御。この間、書類出したって言ってたじゃ無いですか。もう、抗争状態じゃ無いんですか?」
「あ! そうだったクリス。あいつら、ワックスガー準男爵だった。苦情届けを出してたんだった」
「ぎゃははは。じじいは寝とけや! ほらぁ!」 ゴン! 「つぎは俺だ!」 ガン! 「ぎゃははは」「ぼちゃんたち。少し頭、冷やしてください」 「大丈夫だってほら」 バシ!
「・・・は? モルディ。お前、ワックスガー準男爵と抗争してたのか?」
「ああ、そうだぞ。この間、敵になると言われて、苦情届けの書類を出しておいたんだ。ちゃんと受理されたぞ? で、あいつら、その状態でまた襲撃を掛けてきたみたいだから、たった今抗争状態になったな」
「そうか。ワックスガーか、確か、キャタピラーの寄子、ヘレナ伯爵系列の新興貴族だな。このサイレンに多数の不動産を持っている・・・よし。ブレブナーはバルバロに助太刀する。証人はここにいる者たちだ」
「むふふふ、僕も助太刀するよ」
「あ、自分のシエンナも助太刀で」
「あたしも! あたしのバッファ家も!」
貴族家全員がバルバロ家の助太刀を宣言したみたいだが、自分的には状況が分らない。この国のルールかなにかだろうか。
「お前達なぁ。まあいいか。では、抗争・・・討ち入り、といくか」
「いよっ! 姉御ぉ、待ってましたぁ」
ここにきて、ようやくモルディさんが重たいお尻を上げてくれたようだけど。
「あ、あの、一体、どういう?」
自分的には今の状況の意味が分らない。
抗争? これから、抗争が始まるのだろうか。貴族家同士の。この世界の貴族のルールなんか自分は知らない。一体どうすれば・・・いや、今の自分はシエンナ子爵家の食客、トメ殿の指示に従おう。
そうこうしているうちに、じじいと中学生との間に一直線に飛び込む人影!
「おお、前たちぃいいいい、いい加減に、しな!」
パァン! ダガン、パリン! がしゃ! ぼご!
たまりかねた綾子さんが敵に突撃してしまった。
抗争・・・か、久々に熱くなってきた、かな?
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