第100話 マ国へ 準備編 8月上旬
カポーン!
「あ! ごめんなさい。桶が転がっていった。お父さ~ん、それ取ってー」
「はいはい」
「でも、お父さん。ザギさんの体。あまり触ったり揉んだりしたら駄目だからね」
「しないよ。そんなこと。でも触る手もザギさんのものなんだぞ?」
「むう。そうなんだけどぉ」
俺は今、娘と2人で温泉に入っている。例の温泉アナザルームの温泉。
今、娘は洗髪中。先にザギさんの体を娘に洗って貰ったのだ。娘的に、何故か俺がザギさんの体を洗ってはいけないらしい。
「ここのシャンプーも良い匂いがするね。日本のと何ら遜色無い。いや、それ以上かも」
「このシャンプーと石けんは、イセが持ってきたヤツだ。結構高いものらしい。あいつ御姫様だし」
「ええ~、使っていいのかな」「いいんじゃ無いか? 別に」
俺はザギさんの体でジャブジャブと温泉を泳ぐ。
「よし。美人になぁ~れ。美人になぁ~れっと」
ザバン!
娘が温泉に願掛けしてお湯に飛び込む。ここには父娘2人しか居ないから多少の粗相は許される。
「お前はもう十分に美人だぞ」
「むう。もっと美人になりたいの! はぁ~でもいい湯」
「だろう? きっと、『温泉に入ったら気持ちいい』という概念が作用して、気持ちよくなる物質になっているんだろう。多分」
「そ、そう考えると怖いけど、でも寿命も延びるらしいし、いいよね。そんなこと」
「そうだな。でも美人になりたいって、お前も勇者島津君みたいな人がいいのか? イケメンスポーツマン」
「島津君? いや、全然。それにあの人、そんなに剣道強くないよ。勉強も微妙だし。しかも、目つきがいやらしいし。まあ、目つきのいやらしさは、お父さんほどじゃないけど」
娘からどこかで聞いたことがあるようなセリフを言われてしまう。
「そうなのか? あの勇者くん。まあ、聖女ちゃんと付き合いだしたみたいだからどうでもいっか」
「え? 島津くん、龍造寺さんと付き合ってるの?」
「ああ、こっちに来てからだと思うけど、いちゃいちゃしてるの何回か見たし」
「へ、へぇ~。いいなぁ彼氏」「彼氏なんていりません」「もう、お父さん。ザギさんの顔で言われても可愛いだけだけど」
2人してジャブジャブ泳ぎながら駄弁る。
「ふぅ~~。ここの夜空って綺麗。でも、知ってる星座は無いから、地球ではないどこか。不思議~」
「そうだな。ここのお陰で、またお前と会えた。それから、星座は、何故か第1世界も第2世界も同じ気がする」
「本当の、奇跡」
しばらく2人して空を見上げながらぷかぷか温泉に浮いていた。
娘の豊満な胸部が、畳部屋からの明かりに照らされゆらゆら揺れる。よく育ったなぁ。
「ねえ、お父さん」「なんだ?」
「・・・・何でも無い」「なんだよ」
娘は潜ってしまった。多分、肺の空気を抜いただけ。
「あれぇ~、なぁ~にやってるんですかぁ? おじさんとサクラコさん。晩ご飯必要か聞きに来ましたぁ」
ジニィが現われた。まあ、今日の親子水入らずも終了。また今度。次はマ国に行ってからかなぁ
◇◇◇
<<次の日、サイレンの『ラボ』にて>>
「お疲れさまです。徳済さん。ちょっと相談したいことが」
「あ! 来たわねぇ。お金持ちの色男! マ国大使館、女性だらけだったじゃない。イセ様もまんざらでもなさそうだったし」
「からかわないでくださいよ。結構気を遣うんですよ。あそこ」
「おほほほ、ごめんなさい。貴方でも気は遣うのねぇ。でも、楽しかったわ。沢山売れたし」
徳済さんはとても上機嫌。下着とエメラルドが売れたし。エメラルドを買ったの俺だけど。
「で、相談したい事って何かしら?」
「実は、今度マ国に行くことになって、というか明日か明後日には出発する勢い。それで、何か持って行きたいと」
「は? 何それ。誰に会うとかあるの? そもそも何しに行くのよ」
「色々会うと思う。ケイ助教のご家族と助教のゼミの研究生。イセの娘。滞在中はイセの実家のジマー家にお世話になるから、そこの関係者。それから、帰りに温泉都市ユフインに寄るらしい。そこでユフインの領主夫人と会食。それから魔王。あ、でも、国王には会わなくていいらしい。そこは助かった。マ国に行く理由は、ちょっと秘密。今度話す。必ず」
徳済さんは頭を抱えて悩んでいる。
「あ、貴方ねぇ。物事には準備というものがあるって知ってる?」
「いや、俺も何でこうなったのか。イセが言うには、何も準備しなくていいらしいんだけど」
「まあ、そんな事はないわよねぇ。まあ、いいわ。私を頼ってくれてるんだもの。でも、私が付いていく分けには行かないのよねぇ。う~ん」
「やっぱ、切子かなぁ。機密的に迷うけど、反重力ベアリング、というかバイクも先方は少し気になっているようではあった」
「切子はいいけど、バイクはディー様に相談した方がいいわね」
「そうだよなぁ。切子をできるだけ準備しておいてくれない? あと、下着も良いかも。一応、アイテムボックスに入るだけ入れていこう。バイクは今からディーにお願いしてこようか。1台でいいから」
「そういえば、エメラルドはどうだったの?」
「あ、そうだった。みんなかなり気に入ってた。イセとかずっと着けて鑑賞してたし」
厳密には、俺の体で、エメラルドを着けた自分をずっと堪能してた。
「そう。よかったわ。じゃあ、エメラルドも少し持って行って。それから、物というか、どちらかというと情報が欲しいかしら。マ国では装飾品や洋服はどういう物が売られているか。一般女性はどういった下着をはいているのか。布の値段はいくらか、どんな布があるのか。いや、沢山言っても仕方がないわね」
下着の調査はなかなかハードだ。
「なんだか、役立たずでごめん。カメラがあったらいいんだけど。後は、お土産なら適当に買ってこようと思うけど・・・」
「いや、そんなこと無いのよ。貴方はずっと、結果を残してきている。自信を持って、行ってらっしゃい。それから、余計なことかもしれないけど。ご家族とも少しはふれ合いなさい?」
娘とは昨日、一緒に温泉浸かりました! とは言えない。
まあ、嫁と息子はもっとふれ合いの場を持った方が良い気がする。
「そうだなぁ。今日の晩ご飯は家族で食べるかな。相談乗ってくれてありがとう。徳済さん、明日もラボに居る?」
「貴方が来いって言うなら、居るわよ」
「ありがと。ひとまずディーを探してくる」
・・・・
<<タマクロー邸>>
「・・・ひさしぶりだなタビラ。噂は色々と聞いているぞ?」
「どうしたんだディー。何か怒ってないか? せっかく来たのに」
ディーの屋敷、といってもラボの隣だけど、そこを訪れるとすぐに応接間に通されて、しばらくするとディーがすっ飛んできた。
メイドさんがお茶を出してくれて、すっと消え去る。
「いや、すまん。変な話を聞いたものでな。何でもマ国の大使ととても懇意な関係だとか。下手すると、男女関係にまで発展している可能性があるとかな」
「は? 何でそんな噂が広まってるんだ? けしからん。あ!」
「どうした? 何かあったのか?」
「お前の親父さんと会ったわ。王城で」
「そ、そうだ。親父から聞いたんだ。で? どうなんだ?」
「懇意が何処まで指すのかわからないけどなぁ。あの日は大使殿が日本製の下着が欲しいと言うことで、日本人の下着職人というか、そういう人達を連れて行ってたんだ。その後は、ほら、俺って、反重力で飛ぶだろ。イセが気を遣ってくれて、王城から俺が飛んで良いって事にしてくれたってわけ」
「ふむふむ。それで、どこに親父が出てくるんだ?」
「ああ、それで、飛行許可をもらいに王城の防衛施設に行く途中でさ、軍務卿とお前の親父さんと、知り合いの糸目の女性3人組に会ったんだ」
「で、親父はお前が自分の事を知っていたと言っていたぞ? どういうことだ?」
んん? 俺の体に入ったイセが『こちらはタマクロー大公殿下です』とか言ってたような。どうしよう。
いや、あの温泉アナザルームを知るディーは仲間に引き込んでおきたい。下手に嘘ついたりすると、タマクロー家とマ国の摩擦になりかねない。ただ、イセの能力、入れ替わりのことはべらべらしゃべっていいかどうか解らない。どうしよう。
「ど、どうしよう。なあ、ディー、俺はどういたらいい?」
「お、おう。どうした? タビラ。一体」
「少し、時間をくれないか。ディー。別に悪いことをしている分けではないんだ。マ国側に配慮すると、言っていいのかよく分らない事があるだけで」
「そうか。親父殿も、別にお前が悪いことをしていると疑っているわけではない。でも、あそこにお前がいたことは間違い無いんだな? そして、王城から飛び立った」
「ああ、あの時、俺は王城に居たし、確かに飛び立ったな」
俺の体とその中身のイセが。
「ふぅ~~~。そうか。お前がガイアを選んでくれれば良かったんだがな」
「ん? どうした?」
「いや。な、何でも無い。いや、まあ、な、タビラ。オレ、とさ。温泉に入っただろう?」
何? 温泉? あそこの存在を知るマ国関係者でないただ一人の人物。それが目の前のディーだ。ここには今ディーしかいない。どうしよう。あの秘密は俺の存亡に関わるのだ。緊張してきた。
「ん? そうだな。あの時は済まなかったな。無理矢理お前を、その、見ようとしてしまって」
「いや、まあ、いいんだけどよ、そんなこと・・・」
ディーが顔を真っ赤にさせながら、そっぽを向いた。どうしたんだ? 一体。
「で、どう思った? その、オレはどうだ? お前にとって、その」
「な、何を焦っているんだ? お前らしくもない。俺とマ国との関係と言ってもな。ん? ひょっとすると、あのマンガの事を言っているのか?」
とっさに、あのマンガのことを思い出す。
怪人キャッスルという人物とイセと思わしき女性との邂逅が描かれた作品だ。
「んあ。なんだか話をはぐらかされた気がするが、マンガとはなんだ?」
「絵とセリフが一緒になったような本で。誰か知らないけどさ、どう見ても俺をモチーフにした男がいろんな女性と、そのな、セッ○スしてる絵が出回ってるんだと。そのうちの1つがマ国の全権大使殿だったと言うわけで」
「は? なんだそれは」
「俺も、何でそんな物があるのか知らない。だけど、俺は現物を見た。確かに俺と全権大使殿がセッ○スしている絵が描いてあった。で、王宮の特に女性の間で回し読みされているんだと」
「あ? ひょっとして、それ、オレもか? オレの絵もあるのか?」
「俺が見たのは1冊だけだけど、そういえば幼女を調教するマンガもあるらしいから、それかもしれん。内容は分らない」
「はぁ~~~。普通、そういった怪文書は噂話を広めるために作るもんだ。だけど、これは、単に、お前とマ国や、オレとの、その、関係を印象づけるものだ。誰が何のために・・・」
「多分だけど、単に書きたかったから書いたただけじゃないかな」
「は? バカな。相当な労力を要するものだろうに。何故・・」
「何故? それは、書いたやつが多分、日本人だからだ。深く考えたら負けだ」
「に、日本人の仕業か。な、なるほど。いや、話を戻そう。お前は、オレをどう思っている?」
ちっ、覚えていやがったか。
「いやな、ディー。俺はお前のことは友人だと思っているぞ。その、異性としての話なら、なんだ? 俺はお前が男性の心を持っている者として、接してきたつもりなんだ。そりゃ、顔は、超絶の美形だし。刺激されたら堅くなるかも知れないけど。俺にとって、お前は男の友人だ」
「では、オレが女になったとしたら?」
「何だよ。今日はぐいぐい来て。俺には嫁も子供もいるからよ。お前が女だったら、さぞかし美人だろうから、綺麗な人が居るなぁくらいは思うと思う。でもさ、日本人としての倫理観で、そこは線を引くと思うけど・・・」
「オレがさ、女になって、お前に迫ったとしたら? その、男女の仲になろうと」
「さらにぐいぐい来るなぁ。実際に迫られたらそりゃ分らない。理性が飛ぶかも。でもさ、仮定の話はなかなか応えにくいんだぞ?」
「ああ、済まない。オレらしくなかったな。まあ、安心しろ。オレは今でも男だ。それは変わらない」
「ああ、分ってるつもり。でもよ、今日は一体どうしたんだ?」
今日のディーは何か変だ。
「ああ。親父が王城でお前に会ったって言っただろ」
「そうだな。会ったことは事実」
「親父がよ。お前を落とせって。少なくとも絶対に離すなと」
「落とせって、男女としてってことか?」
「まあ、そういうことだ。いや、勘違いするなよ。親父は、オレの心の事は、誰よりも理解してくれている。でも、同時に、家や国の事も大事に、そして、オレの女としての人生も大事に考えてくれている」
「・・・その親父殿が、お前に俺を落とせと? 何でなんだろ。俺、王城から飛んでいっただけだぞ。一緒にマ国関係者といたのはそうだけど」
「一応、言っておくと、反重力魔術は貴重な人材だ。我が国は、正式にお前を欲しいと考えているということだ。それでな、タマクローで駄目なら、お前には別の女性がアタックすることになるだろう」
「は? ああ、それでお前が体を張ろうとしてたわけか。バカだなぁ。でも、他の女性のアタックが来るのも面倒。それじゃさ、俺とお前が男女の仲って事にしていいからよ。適当にごまかせばいいじゃないか」
「いやいや。お前な。オレの体のこと忘れたのかよ。異性に恋をするか、体に刺激を与えると、女になるんだぞ?」
「あ、そうだった。お前に、体に刺激を与えろって言うのも酷だよなぁ」
「何か、済まん。変な事になってしまって。後な、落とせって言っても、最悪男女の仲とまではいかなくて、協力し合える関係を築いたり、養女や養子、その他の関係とかでもいいと思うんだ」
「お前には恩がある。何とか協力してやりたいし。何か良い案はないものか。ガイアと仮面恋人? でもあいつ軍人だしなぁ。お前を養女というのも変だろ? いや、いいのか、養女・・・」
「度々済まん。ホントにオレが女だったら良かったんだが」
「いや、お前が女だったら、他の男が放って置かなかっただろう。それはそうとしてさ、今日、俺がここに来た用事を伝えていいか?」
「お、おう。そうだったな。一方的に話して済まなかった。で? なんだ用事って」
「ああ、俺、今度というか速くて明日から、マ国に行く。しばらく会えないのと、バイク持って行っていい? 向こうさんが興味を持ってて。んん? どうしたディー。ぷるぷる震えて」
「タビラ! 頼みがある。よく、聞いてくれ。ああ、バイクは持って行っていい」
「ああ、何だ? ディー。いや、近い! 近いぞディー」
ディーがこれでもかと顔を近づけてくる。
「オレも行く。マ国に。ラメヒー側は、お前がマ国に独占されることを問題視している。マ国は友好国だから、最悪の事態は回避されると願いたいが」
「は? あ、いや。まあ、いいんじゃないか」
よく分からん。俺は元々ラメヒー王国のためになることはあまりしていない。もちろん、公共事業で働いていたから、国家の歯車の一つとしては役に立っていただろう。だけど、なんでラメヒー王国が俺とマ国の関係を問題視するのか。まあ、俺を召喚したのはラメヒー王国だけれども。
「ディーがマ国に付いてきてくれるんなら心強い。知らない国に行くのも少し心細かったし」
「え? いいのかよ。頼んだオレが言うのもなんだけど」
「だけどな、ディー。いくつか覚悟を決める必要がある。前提条件として」
「なんだ? 何でも言え。女になる覚悟だってある」
「俺やマ国の関係には、秘密事項が多い」
とりあえず、女になる覚悟の部分はスルーする。
「う。覚悟はしている」
「俺たちについて行くと、その秘密を知ることになる。その秘密は、おそらく、俺やマ国にとって超機密事項。そうすると、ラメヒー王国、あるいはタマクロー家より優先せざるを得ない事象が発生する。それでも、秘密を守れるか? 下手をすると、命を失う可能性がある。俺はお前を、危険な目にさらしたくない」
実家のために、心を殺して女になる決意をしているディー。しかし、状況次第では、その実家を最優先できない。
それではあまりにもディーが報われない。
「・・・なるほど。『家の為』が大前提なやつは、お前の仲間になる資格はない、ということか。いいぜ、タビラ。改めて言わせてくれ、オレを、一緒に連れて行ってくれ。純粋に、一人の人間としてお前の仲間になる。もし、女になることが出来たら、その、女に・・・」
「わかった。それ以上言う必要はない。お前の件は、先方に頼んでみる。お前なら、多分大丈夫だ。それから、無理に女にならなくていい」
ディーは温泉アナザルームを知っている人物。ここで、巻き込んでおいた方が良いだろう。
というか、『仲間になる』と言ってくれたディーの一言がとても嬉しかった。
・・・・・
<<新アパート>>
かちゃかちゃ、がちゃん!
「ただ~いまぁ~」
今、我が家は別のアパートに引っ越している。バロバロ邸の隣のアパートから向いのアパートへ。
引っ越したから国の補助がなくなったが、今の俺の稼ぎなら、まあ、大した出費じゃない。
「・・・誰もいないのか?」
今はまだ18時くらい。平日だから、息子の志郎はまだ部活中。今日は久々に家族3人揃うことができる。息子には晩ご飯キャンセルしてもらって、3人でどこかに食べに行くか。
しかし、嫁は?
伝言ボードは空白。仕事帰りに食べて帰ってくる可能性はある。
最初の頃は御飯の情報も書いていたけど、最近御飯はバラバラで取るのが普通だから、伝言ボードの空白イコール『御飯はバラバラで』の意味になっている。
今日いきなりで家族団らんは無理だったか?
ガタン! 部屋の奥で物が落ちる音がする。
瞬間、体の周りにバリアを展開。
音は奥の部屋から。泥棒か?
がちゃん!
扉が開く。イセから借りている攻撃用触手に魔力を通す。この触手はすでにそこそこ練習した。扱いが難しいが、戦闘用だけあってとても強力だった。
「ちょっとぉ!? 怖い怖い。ちょっと待ってよ、お兄さん。ねえ、彼って旦那様だよね?」
「・・・ボソ」
「まあ、いいけどね。僕は修羅場に付き合う気は無いよ。じゃあね。今日は帰る」
黒いイケメンが現われた。何言ってるんだ? こいつ。
イメージ的にカラスみたい。ヒューイを黒くした感じ。
「誰だ?」
ま、まさか、部屋を間違えた? いや、でも鍵は手持ちの鍵で開いた。
「それは、キミの奥さんに聞いてよ。じゃあ・・・ひゃあ!」
「黙ってろ。泥棒。そういえばこの国って警察はどこだ? 領主、だからタマクロー領主館に行けばいいのか?」
とりあえず、触手でぐるぐる巻きにして、先っぽを口に突っ込む。先はちゃんと丸めたから痛くは無いだろう。
「む、むぐ~。むぐ~」
「黙ってろ」
少し締め付けを強める。
「ぐ~~~~~~~~~」
顔が青ざめて、少しぐったりした。これでよし。この触手は優秀だ。魔術障壁など無いにも等しい。
「あ~めんどくせぇ。今日は久々に家族で飯と思ってたのに」
何故、若いカラスみたいな男が我が家にいるのか。そして、部屋の奥に居たもう一人の気配。
現実を忘れたい。そう思いつつ、サイレンの空に飛び立った。カラス男を吊り下げて。
・・・
<<領主館>>
「こいつ泥棒。俺のうちに入ってた。現行犯な。しょっぴいてくれ。それから、俺のタマクロー通貨の残高を確認したい」
「は、はい。お、応接室でお待ちください」
・・・・
「彼は、貴方の奥さんに部屋に呼ばれただけと主張しています。それから、タビラさんのタマクロー通貨残高は0ストーンです」
・・・疲れた。俺は何のためにここで頑張ってるんだろうな。いや、何も考えるな。考えたら・・・
「そうか、手間を掛けさせたな。済まなかった」
今日は何処に行こうか・・・
バン! ぼ~と考え事をしていたら、急に扉が開き、ディーが飛び込んできた。
「タ、タビラ!? 連絡が来た。どうしたんだ? お、お前、一体どうした?」
「いや、何でも無い、ディー。少し疲れただけだ。それから、腹が減った」
「あ、ああ。飯くらい奢ってやる」
「いや、今からじゃ悪い。どこかで食べる。明日、屋敷に迎えに行くからよ。じゃあな」
「おい! オレ達仲間だろ? 飯くらい付き合ってやる。オレに気を遣ってるなら、今日は無礼講だ。外食するぞ。場所は知らないから、お前が連れて行け」
「・・・済まんな、ディー。じゃあ、行くか」
「ああ、とことんまで付き合ってやるぜ」
「俺はおっさんだぞ? 途中で寝るかもしれん」
「気にすんな・・・ま、今日は飲め」
その後、適当な居酒屋に入った。そこからの記憶は朝起きるまですっぽり抜けていた。
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