第95話 下着売りとエメラルドのプレゼント 7月下旬

<<サイレン 『ラボ』>>


「こんにちは」


「はぁい。多比良さんね。いらっしゃい。徳済さんもお待ちよ」


「では、入ります。この屋敷も久しぶり。中はだいぶん変わってる」


今日は、タマクロー家の離れ、『ラボ』を訪れていた。ここで色々と用事を済ませる予定。

目の前の女性はラボ副代表、佐藤さん。美大出身。


「好きなように変えていいって言われたから、好きなように変えたの」


「そうです。まあ、火を使う仕事もあるしね。間取りを変えないといけないか」


「来たわね。では、お話をしましょう。で、どうだった? 下着。買って貰えそう?」


『ラボ』の屋敷に入ると徳済さんが待ち構えていた。用意されていた席に座ると、早速、徳済さんが情報を要求し始める。


「下着は好評。買いたいって。でも全権大使様だから、ここに来るわけにも行かないらしくって。でも来てくれたら買うってさ。書類はこれ。王城でこれを見せれば通してくれるらしい」


「もう書類があるの? 早いわね。流石だわ。で、どのくらいのサイズが必要なの?」


「え~っと、イセは、ブラジャーの一番大きいヤツは少しぶかぶかだった。だから1ランク下がよい。ショーツは一番大きいヤツでぴったり。護衛は一番大きいブラでよし。ショーツのサイズはそういえば聞いてない。でもイセより小さいと思う。メイドさんはちっこいから、ブラもショーツも一番下のサイズ」


「なんか見てきたような言い方ね。まあいいけど。色とかは?」


まあ、自分ではいたり、はかせたりしたからね。


「イセは黒。Tバックがいいみたい。動きやすくてズボンに下着の形が浮き出ないから気に入ったって。護衛は普通のでいいみたい。色は赤を着けてた。メイドさんは、ベージュだったかな。ショーツはTバック。スカートはくときにいいって。けど、いろいろと欲しいみたいだった。特にブラジャーは気に入ったってさ。今まではさらし巻いてただけだって」


「なるほど。色々なサイズを持って行けばいっか」


「それから、スカートとか、他の服も気になってたけど」


「いいじゃない。沢山持って行くわ」


「あ、あと、切子も欲しいって。すぐにで無くてもいいけど。今、大使館に、大学の助教の人が来てて。お土産に欲しいって」


「まあ、嬉しい。どれがいいかしら」


『ラボ』の佐藤さんが表情を輝かせる。


「ひとまず、全セット持って行って、聞いてみたらどうかな。下着売りの時に少し同席して貰うように言っておくから」


「了解。楽しみにしておくわ」


「よぉ~し。私の方は、美容魔術は軌道に乗ってきたし、アパレル関係に力を入れてみようかしら。あ、そういえば宝石はどう言ってた?」


「ああ、それもメイドさんに聞いた。別にプレゼントしても良いって言ってた」


「やったわね。それじゃあ、何種類か持って行って、着けて選んで貰おうかしら」


「一応、言っておくけど、イセはあまり夜会とかには出ないから、噂にはならないと思う。それから、タマクローというか、ディーに最初に送らなくていいの? へそ曲げないかな。あいつ」


「エメラルド製品に関しては、一応、ディー様とシエンナ子爵家には渡したわよ。心配いらないわ」


「さすが徳済さん。それで移動の方は?」


「バッチリよ。バイクの運転。王城くらいまでは自分で行けるようにしたいわ」


「私も大丈夫です。ここと、それからバルバロ邸のサーキット場で練習しましたから、2時間くらいは全然平気です」


「それに、一応、冒険者ギルドで護衛を雇うわ。今回は、私と佐藤さん、それから針子の3名で行く予定。でも、切子の運搬は貴方にお願いして良いかしら」


「了解。割れたら大変だもんね」


「後、行く日だけど。今日か明日なら良いらしい」


「まあ。じゃあ、明日にしましょう。早速」


「了解。早速伝えておく。今日も行くし。『ラボ』で魔石の補充と高速輸送艇の調整の後だけど」


「高速輸送艇ねぇ。それ、貴方専用なのよね」


「そうだけどね。バリアの展開範囲とフレームの強度次第だけど、完成すれば、4~5名は時速400キロで運べるようになる。もちろん、全員シートベルト用の触手の操作と、万一事故の時に着地が出来る程度は反重力魔術を訓練してもらう必要があるけど」


「本当に平均時速400キロで行けるなら、ここから王城まで15分。500キロ先のケイヒンまで1時間ちょい? 本当に破格の性能ね」


「日本の新幹線がどれだけ偉大だったか分るよね」


「そうね。そちらも楽しみにしているわ」


◇◇◇

<<次の日 マ国大使館>>


「イセ様。日本の方がいらっしゃいました」


「お、来たのか。徳済さんたち」


俺は一足先に大使館入りしてお茶してた。


「よし。通せ。しかし、昨日話を貰って今日来るとは。早いな。お主が送ったわけではないのだろ?」


「そう。出来る人材はすぐに行動するもの。今回、彼女らはバイクで来たはず」


「そういえば言ってましたね。バイク。一人乗りの乗り物とか?」


「時速100キロくらい出るから。まあ、オフロードはそこまでスピード出せないけど、サイレンからここまで2時間位で着くとか」


・・・・


こんこん!


「お通しいたしました」


ザギさんが見知った人を連れて入って来た。


「この度はご利用とお招きありがとうございます。日本人、徳済多恵と申しますわ。サイレンで『診療所』を営んでおります。最近では美容コーディネーターもさせていただいております」


「日本人、『ラボ』の佐藤です。切子の製造、それから、ブラに使われる金具やワイヤーの加工も担当しております。


「ジマー家当主イセじゃ。大使を仰せつかっておる。よしなに」


「私は、マ国王立魔道学院 魔道学部 空間魔術専門講座助教のケイです。お見知りおきを」


「そのほかは護衛とメイドじゃ。こいつらにも下着を見繕ってやってほしい」


「私は切子を少々。お土産に。妻と娘に下着もいいのですが、サイズが分らず。いやはや」


「切子のサンプルはこちらに。どうします? 男性陣は隣の部屋に行きましょうか?」


「そうじゃのう。いや、女性陣が寝室に行こう。下着は服に合わせる必要もあろう。クローゼットがある部屋でやるのが合理的じゃろう」


そう言うと、イセ、ジニィ、ザギさん、フェイ、徳済さんと針子の人は寝室にぞろぞろと移動する。


移動する時に、徳済さんにウインクされる。グッドラック!


「じゃ、私は切子の方を。サンプルをテーブルに並べていきましょう」


手持ち無沙汰の俺も手伝い、佐藤さんと一緒に切子をテーブルに並べる。


「おお、綺麗ですなぁ。この屋敷にも2つありましたが、色々な形があるのですねぇ」


「はい。ケイ様は、どのような楽しみ方をされますか? お茶とか、お酒とか」


「家族が紅茶を嗜みます。この急須はおしゃれでいいと思います。1つ購入しましょう。私はお酒も飲むから、これとこれと。ううむ。妻と娘と。こちらの大きいのはなんですか?」


「こちらの壺の形をしたものは調度品用ですね。こちらの平たいお皿は調度品としても、サラダなんかを載せるお皿としても利用できます」


「ほう」


切子の接客対応中ではあるが、時々、隣の部屋から歓声が上がっている。少し気になる。


「ここは、全部1つずつ買おうかな。急須、壺、ボウル、皿、全部1つずつ。よく使いそうな紅茶用は家族分3つ。お酒用は2つ。それから実家用にスタンダードコップの3点セットを1セット」


助教って結構お金持ちなのかな? まあ、いいけど。


「あちらはまだまだ時間がかかりそうですね。この商品、今お支払いしてもいいですか? ラメヒー王国ストーンがいいですか? マ国通貨が良いですか? そしてですね、これを今購入して、この茶器でお茶を振る舞いましょう」


「え? ええと、マ国通貨ですか?」


「ケイさん。マ国通貨の支払いの方が都合が良いですか?」


「まあ、そうですね。支払いが楽です」


「じゃあ、佐藤さん、マ国通貨でいいんじゃないですか? いざとなったら、自分が両替しますし。商会がマ国と交易したがっていたから、今後役に立つと思うし。マ国通貨」


お客さんに両替の手を煩わせるわけにはいけない。佐藤さんには判断しかねるだろうから、俺が答えておいた。


「多比良さんがそうおっしゃるなら。マ国通貨でお願いします」


・・・・


「お茶を入れても綺麗ですなぁ。この色。光の輝きが素晴らしい」


ケイ助教が、自分が買った急須で早速紅茶を入れてくれた。メイドのザギさんは下着選び中だからいない。


コップは、ヒューイを入れて4人分を試供品の中から出した。


俺も始めて切子使ったかも。キラキラしてて、これは贅沢な気分になる。ここの世界の照明は、上からではなくて横からが多いから、余計映えるのかも。


隣の部屋からはまだ話し声が聞こえる。4人も居れば時間もかかるだろう。


時間つぶしにケイ助教にマ国の話でも適当に聞く。学生さんのこと。景気のこと。国王のこと。


ケイ助教からみて、マ国は結構善政らしい。でも、お隣の神聖グィネヴィア帝国との戦争はずっと続いており、こちらはもう慣れっこになっているんだとか。

マ国との戦争はかの国の存在理由になっているらしく、講話の道もないのだとか。


ヒマなので、使ったコップを洗ったり、早速お土産用に梱包したり、途中に佐藤さんが隣室に呼ばれたりして時間が過ぎていく。


「あのぉ~多比良さん。イセ様がお呼びよ」


「え? 俺?」


「下着の話は終わっているわよ。次は宝石」


「ああ、そう。こちらに出てくればいいのに。まあいっか」


呼びに来た徳済さんの後に着いていく。ケイ助教とヒューイを残すのも忍びなかったが。


部屋の中には女性陣が勢揃。結構広い部屋なのに、男が俺一人だと、圧迫感を感じる。

で、なんの話なんだろう。


「いや、宝石を貰うことになってな。多比良はどれが良いと思うのじゃ? もちろん、わしに対してじゃ」


「どれって、服とかに合わせるものでは?」


あ、イセがスカートはいてる。珍しい。


「良いから選べ。さあ」


ううむ。トレーに載せられた10以上のネックレストップ。


石の大きさが様々、結晶の形も様々。どれも選び抜かれた一品で、美しいと感じてしまうが。


「難しいな。では、これなんかどうだ?」


「ほう。理由を聞こうか」


「は? 理由? そうだなぁ。綺麗な結晶が2つ。大きな結晶と小さな結晶。傷は入っているけどそれがまた味があるというか。うん。似合うんじゃないか? 角との相性もぴったりかも」


「あら」「あらまあ」「おお」「ふっ」


みんなどうした?


「いやなに、お主がどれを選ぶか賭けをしておいたのよ。わしの勝ちじゃな」


「そ、そうか」


「ひぃ~ん。外したぁ。じゃあおじさん。私には、この小さいの買ってください」


「おい、ジニィ。買うって言っても、1人だけというわけにはいかんじゃないか」


「ほう。皆、多比良が買ってくれるらしいぞ? ホレ、選べ。わしは賭けに勝ったから貰うぞ」


女性陣がきゃいきゃい言いながら宝石を選び出した。は? 買う前提で話が進んでるし。


「ち、ちょっと、いいの? ここにあるの、貴金属を使っているし、銀ならまだしも、プラチナと金を使ったやつは高いわよ」


「そ、そう。どのくらいする。あと、イセのヤツは何使ってるやつ?」


「あれはプラチナよ。最高級。良かったわね、当てられて。銀が50万、金が100万、プラチナが150万を設定しているわ」


「でもプラチナ、あげちゃったんだろ。ええつと、ザギさんとジニィとフェイさんだから、3つ? まあ、いいさ、買う。買う。ほれ、どれでも選べ。ホレェ!」


なんだか少しやけくそだ。だけど、ジニィはアイテムボックス教えてくれたし、フェイさんは俺の冒険者パーティとしてかなりの戦力だし。ザギさんは、まあね。


「あ、貴方って、剛毅ねぇ」


300万くらいだろ・・・・。


・・・そう思って時期もありました。全員プラチナを選びやがりました。事前に聞いていたんだろう。高いヤツを。フェイさんですらプラチナを速効で手にしてた。細くて繊細なタイプ。多分、狙っていたんだろう。


まあいっか。俺、お金あまり使わないし。今は2000万くらいあるはずだ。その気になれば1日中魔石ハントすれば1日100万くらいは行くし。


「貴族通貨分散支払でいい? 一種類を急にストーンに変えたらびっくりされるかもだし」


「それでいいわよ。でも、450万よ? あるの?」


「そのくらいあるよ。いいさ。お世話になってる人達なんだし」


「お金持ちね。貴方っていくらくらい持っているのよ」


「あれ、あと3セットくらい買える?」


「ホントに? そんなに持ってるんなら投資しなさいよ。もったいないわよ。貴方が一番個人資産持っているんじゃない?」


「いや、家族に渡している分もあるから。全部俺のじゃない」


「八重さんに渡してるのね。それもそっか。いや、じゃあ逆に大丈夫なの?」


「換金の権利を渡しているのはメインバンク?のタマクロー通貨だけ。最悪、ブレブナー通貨が700万ある。大丈夫」


「貴方って、ほんと侮れないわね」


・・・・


徳済さん達は、軽くなったバッグを持って、意気揚々と帰って行った。


一応、途中まで飛んで送って行った。徳済さんのバイク、貨物用のサイドカーが着いていた。本人は、ズボン姿にサングラスにメットを被って、格好いい感じ。ホント何でも似合う人だ。


「お待たせ、彼女らは無事に帰っていって・・・と、あれ?」


あれ? 誰も居ない。


きぃ~い。


と、思ったら寝室からザギさんが出てきた。


「あ、ザギさん。送ってきた。さて、今日は残り何するか。特訓? 研究? え? ザギさん?」


ザギさんが両手を首に回してきた。


え? なんだ? これ。俺とザギさんは男女の関係では無いはず、こんなことされるなんて・・・意味が・・


ゴスン! へ、ヘッドバットぉなぜ、ざぎさんが・・・・・・意識が遠のいた。


・・・・


「こ、こうですかぁ?」 「う~ん。そうじゃなぁ。もう少し足を広げる角度をだな。こうして」 「はい」


あ痛ててて。頭が痛い、うう。俺はどうやらソファに寝かされていたらしい。


そして、ベッドで不穏な声が聞こえる。


「そうそう。そして、声を出せ」「はい・・・、あ、アヒィイイイ!」「違う、もっと高く、大きく。絶頂を迎える時のように」「はい、アヒィイイイイイ!!」「よしよしそうじゃ。今度はこのポーズ。わしのお気に入りじゃ」


何やってるんだ。あいつら。


下着姿のイセに、女性物のパンツをはいた俺。パンツは前後ろ逆にはいているようだ。そうするとケツはTバックみたいになり、前はちゃんと隠れる。が、ほぼ変態だ。いや、変態だ。日本人達が丹精込めて作った下着を何に使ってるんだ? こいつは。


「こ、こうですかぁ」「そうじゃ、いや、ブラははずそう。そして、足をもっとだらしなく広げて、手はこうじゃ。カニのはさみのように。両手ともじゃ」「はい。こうですかぁ」「大体近づいてきた。後は、顔と声じゃ。顔は、イキ顔じゃからな。眉毛をこうハの字に。セリフは『あへぇ』じゃ」


「あ、あへぇ」「気合いが足らん」「あへぇ。あへぇ。あへぇ」「指と足がお留守になっておるぞ!」


「あ、あへぇ~~~~」「そうじゃ。良いぞ。わし!」


「・・お、おい。何をやっているんだ?」


「お!? 起きたか。ちょっとな。ザギィに頼んでこれを再現していたのじゃ」


は? いや、俺は誰だ? 誰になっている? 手とか足とか胸とか触ってみる。これは、ザギさんだ。なに? そんなこと出きるの?


「これは『アヘ顔ダブルピース』というんじゃろ? 日本に伝わる伝説のポーズらしいじゃないか」


・・・頭が痛くなった。誰だそんなの広めたヤツは。イセが持っている本をひったくる。というか、お前、こんなことをやるために体を入れ替えたのか? 馬鹿じゃないのか?


「ん? なんだこれ。マンガ?」


「そうじゃ。王城で出回っておるマンガじゃ。これで4作品目だ。借りてきたんじゃ」


パラパラとめくってみる。イセがモデルとみられる女性と、短髪の醜悪なぶ男がこれでもかと絡み合っている。いや、最初の頃のイセは男性だ。最初、男性同士で絡みあって、途中でイセが女性に変態するという内容らしい。そして、短髪の醜悪なぶ男のモデルは俺かもしれない。髪の気や顔のパーツが酷似している。


「なんだこれ」


「日本の文化なんじゃろ。これは多分、わしとお主じゃ」


「いや、そんなばかな。ん? 怪人キャッスルだと? 誰だこれ書いたの。いや、いたな。マンガ研究会、いや、出回ってんの? これ」


「その怪人キャッスルは、第2作目からずっと出演しておる。2作品目は聖女を屈服させ、3作品目は幼女を調教し、4作品目はわしとジニィをこれでもかと犯しまくる」


「な!?」一部強調されて書かれているが、確かに俺だなこれ。名前がキャッスル(=城)だし。


「肖像権の侵害だ。良いのかよこれ。いや、お前ら的にもよ」


「出てしまったものは仕方が無い。わしらとおぬしが懇意にしているという噂は流れるだろうが、それで別に損はしないがのぅ。しかし、この表現方法は、なかなか凄いのう。プロパガンダに使えそうな気がする」


「そうか。お前が良いならいいか。で、今これを再現していると」


このマンガ、よく見ると、日本語の横に現地語訳が書かれている。


「そうじゃ」


もう、何も言うまい。内輪で遊ぶだけなんだし。


「う~む。アヘ顔ダブルピースとはまたマニアックな。まあ、これも贅沢の一種か。別に否定はせんし」


上級貴族のたしなみ、ストレス解消、まあ、その当たりと思っておこう。


「流石多比良じゃ。話が分る。よし、ザギィ。次はこっちのM字のヤツじゃ」


「おい。俺はどうすればいい? どうすれば。このまま行けば、俺はイセのエロポーズをひたすら眺め続ける変態的な俺を見続けるわけで、とてもハートにダメージが。 そうだ、俺、寝たい。気を失いたい。ジニィ。ジニィ居るんだろ? 俺を気絶させてくれぇ」


「煩いヤツじゃのう。お主は温泉にでも行っておれ。さ、ザギィ。まだ沢山あるからな」


「嬉しいです。イセ様。私、幸せです」


ま、まじか。良いのかそれ。ま、本人達がいいならいいのだろう。別に写真を撮って残すわけでもないし。


ザギィさんが、マンガのセリフっぽい嬌声を上げ始める。


仕方がないのでザギさんの体で寝室の外に出る。あそこに居たら巻き込まれそうだ。


そのまま温泉アナザルームへ。


ふむ。畳部屋でたまった新聞に目を通す。


あれから、娘はずっと新聞を送り続けてきている。感謝だ。


それから文通も。ノートも結構たまってきた。その殆どが他愛ない会話。本を送って欲しいといったお願いや日常の連絡。


さあ、これからどうなるのだろうか。この問題もいずれは解決に向けて進めなければいけない。今はケイ助教の研究待ちか。


かちゃ! 日本の俺の家に繋がっている扉をくぐる。


扉を抜けた先はいつもの部屋。


ん? いや、いつもより明るい気がする。ケイ助教が照明でも付けた?


ばさ! キッチンの方で音がする。


「だ、誰? 誰ですか? ここは私の家ですよ?」


「あ、桜子・・・」


「え?」


娘がいた。思わず名前を呼んでしまった。

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