第88話 軟体動物捕獲と宴会 7月下旬

「むぅ~~。また外れたわ。結構難しいわね。最初のはビギナーズラックだったのかしら?」


釣果15匹くらいでペースが止る。


「それもあるかもしれませんが、多分、一カ所で釣りすぎたんですよ。イカは頭がいいですから、警戒して来たんです」


ヒューイが釣り人の常識を口にする。


「『スレた』ってやつか。じゃあ、場所動こうか」


「次はどの辺を狙うか。湖沼の方もいいかな。でも、今日は川で当たっているから、あそこに見える岩場に移動してみましょう」


「了解。スカリを一時的に上げてくれ」


スカリを上げるとイカと生き餌の小魚が元気に暴れだす。これは食うのが楽しみだ。


・・・


「あはは。また釣れ出した! なるほど、ポイントを変えればまた釣れるのね。すごいわ」


ほとんど接待釣りになってきた。まあ、いいけど。釣り友が出来るチャンスだし。フェイさんとヒューイはアングラーであることが分かったし。


「よっし。私のにも来た」


フェイさんの竿がグンと曲がる。結構大きい気がする。

リールが無いから、イカをひっかけたら手巻きだ。


水面から、生き餌を抱いたイカが顔を出す。


「フェイさん。ナイスサイズ!」


ヒューイがタモ入れ。

確かに大きい。


「助かるヒューイ。うん。これはなかなかのサイズかな」


確かに大きい。生き餌の方が大きいのが来るのかな?


「スカリ入れよう。イカを掴むためのはさみみたいな金具が欲しくなるな。今度、ラボにお願いしよう」


「あんたねぇ。そんな趣味に走った物でラボを使って。まあ、止めはしないけど、お金払うの貴方だし」


徳済さんはしゃべりながらロッドをしゃくり続ける。この数時間でしゃくりも様になってきた。


今は25匹は釣っただろうか。生き餌班もぽつぽつ釣れ出した。


「俺はそろそろ弁当食う。みんな頑張って。飯は適当な時にいただいて」


・・・・


弁当食いつつ釣り続行。場所を転々と変えつつひたすら釣る。フェイさんとヒューイは物心ついたときからのアングラーだから、黙々と釣る。とても上手。

徳済さんは負けず嫌いなのか、フェイさんの大物にサイズで負けたのが悔しかったらしく、目をギラギラさせながら釣り続ける。


時間は、14時を少し回る。

さて、何時くらいに切り上げればいいのだろうか。


今日は帰ってからお魚パーティの予定。宴会開始が19時として、調理に2時間。帰りに2時間として、15時には切り上げたい。


「さて、ラスト1時間くらい? 俺、イカを捌いておくから」


「あと1時間、了解。でも調理は帰ってからじゃないの?」


「開いて内臓を出すだけ。これだけでも1時間はかかりそう。フェイさん、箱をだすから、氷お願い」


「了解」


フェイさんが箱の中に氷を作ってくれる。


「あ~ん。また釣れなくなったわ」


「あ!? 徳済さん、忘れてた」


「何よ?」


「餌木のタイプや色を変えたらまた釣れるようになったりする」


「はあ? 早く言いなさいよ。そんなこと」


「ごめ、忘れてた。でも今でも相当釣れてるよ? 日本でこれだけ釣れたら超爆釣。新聞に乗るレベル」


今、3人で40匹近く釣れている。

徳済さんの餌木を変えてあげる。何となく、発光するタイプ。


「そうなのね」


「釣りも釣れたり釣れなかったりしてさ、基本釣れないから、どうやって釣ろうか試行錯誤。その辺が楽しかったりして。そのうち、高い道具買ったり。大人が釣りメーカーに釣られるというか」


まな板とナイフを取り出してイカを締めて捌き出す。


「あはは。ゴルフなんかと一緒ねぇ。そういえば、バルバロ邸の庭に出来たわよね。打ちっぱなしとコース。あなたはやらないの? ゴルフ」


「ゴルフはしない。あれは難しい」


「ふぅ~ん。あ! 来た! 餌木を変えたら一発。すごいわ!」


「おめでとう。やっぱ、エギチェンジ効くんだ」


「やったぁ! そこそこのサイズ。時間ぎりぎりまでがんばるわ!」


若いなぁ。徳済さん。


「頑張って。俺は締めるの頑張らなきゃ。ところでさ。この生餌用に釣った魚はどうする?」


「あ、それは持って帰りたい。おいしいんですよ。その魚。私好きなんです。そのウグイス」


「この魚、ウグイスっていうんだ。これ。締めておこうか?」


「お願いします」


ウグイスは20cmくらいの綺麗な魚。

『締める』が分かるだけでもアングラーだ。


・・・・


よし、撤収。


イカとウグイスを締め終わり、時間は15時。少し遅め。

四阿をその辺の川辺に適当に置いて、反重力発生装置を外し、道具類や釣り物も纏めてアイテムボックスに入れる。そして徳済さんを体に付ける。

ちなみに、アイテムボックス内部は時間は普通に経過する。だけど、温度や湿度は謎だ。今度ジニィに聞いておこう。


「では、浮上! 目標サイレン」


「「「了解」」」


長距離移動モードにバリアを展開し、帰宅する。


今日の釣果は川イカ42匹。ウグイス20匹。4人の釣果としては多分大量。


・・・・


「あらぁ。また沢山釣ったわね。でも、内蔵と鱗取ってある。これなら、大して手間でもないわね」


「そうですね。特にイカの方は、料理のバリエーションが多いですから、みんな喜びますよ」


バルバロ邸にいる綾子さんと今村さんに釣果を渡す。綾子さんは、今日、お店の夜の部がお休みなので、バルバロ邸のお手伝いに来ている。


徳済さんとフェイさん、それからヒューイは先にお風呂に行っている。


俺は、少し料理を手伝ってから入るつもり。


今は、17時少し前。

これから、ここの食堂には、競技場で運動を終えた人達が大量に晩ご飯とお風呂に入りに来る。彼らの営業終了時間は19時なので、我々の宴会は19時からの予定。


子供達も屋敷の手伝いなどをするため、いつも19時くらいから晩ご飯を取るようだ。


「お、タビラ殿、これはもの凄く新鮮な川イカじゃないか。どうしたんだ。これ」


「あ、モルディ。聞いてないのかよ。今日、釣ってきた。こいつら、ほんの2時間位前まで生きてたんだぞ」


「どおりで、綺麗な色をしている。なら、これは生で食べれるな」


「刺身か。川イカって生で大丈夫なのかよ」


「ふっ。生で食うのがバルバロ人だ。みんな理解してくれんがな。生が一番うまいのだ」


「ふん。生食なら日本人を舐めるなよ。こんな淡水イカなんぞ、生が当たり前な気がしてきたぞ」


「ほう。タビラ殿も生派か。ますます婿でないのが悔やまれる。では、生食の方は私が作ってやろう。タビラ殿は風呂にでも入ってくるといい」


モルディって、料理できたのか。


「風呂は少し手伝ってからな。じゃあ、何匹か刺身にしようぜ。大丈夫だろう。少しくらいなら」


「ああ、私が生物魔術で殺菌しといてやる。仮にお腹が痛くなっても治してやるぞ」


ホントかよ。殺菌できるのか生物魔術。これまで培われてきた生活の知恵みたいな? 刺身に関してモルディがここまで有能とは。


ここに来て2ヶ月以上。たまには刺身が食いたい。モルディを信じよう。


「それは、楽しみだ。では、料理するか」


・・・


お手伝い開始。

イカを身とゲソに分けたり、皮を剝いたり。


そうこうしていると日本人達が話かけてくる。


「おや。多比良さん。この屋敷に就職なさったんですか?」

「いや、バイトしてるだけです」


「おや、多比良さん。おいしそうでなぁ。え? それは、まさか刺身ですか?」

「これは、秘密です」


「いや、多比良さん。ここで、刺身が食べれると聞いてですね」

「気のせいです」


適当にはぐらかす。たぶん、日本人達は、刺身に餓えている。ゆゆしき事態だ。でも、今日は仲間内でひっそりと食べる。タイガ産、釣り物、活け締め川イカを。


で、ようやく他の日本人おっさん達に混じって風呂へ。この人達は俺と同じような年代、同じような境遇の人たち。なんせ、同じ私立の中学校に子供を入れた親なのだ。

だからなのか、なんとなく親近感が湧く。


はぁ~~。魔術で湧かした湯もなかなか良い。ここの湯は、基本的に水は木ノ葉ちゃん、火は晶と聞いている。あの温泉アナザールームもいいけど、あそこは、少し静か過ぎて怖い。こういった、わいわいした感じの銭湯もいいもんだ。


「おお~ここが、噂の銭湯か。広いな。お! 多比良さんじゃないか。元気かい?」


うお! 元気のいい人が入ってきた。この人は、冒険者ギルドのギルドマスターである前田さんだ。かなりごつい体格の人だ。


「前田さんですか。びっくりしました。お疲れ様です」


「おう。お疲れ様。今日は、タイガ日帰りだって? そして、パーティに徳済さん追加と。とんでもないお人だなぁ」


前田さんは、体や頭を洗いながら、話しかけてくる。


「徳済さん。押しが強いから、色々と押し切られちゃって。でも、楽しそうだからいっかな」


「多比良さんも女にゃ弱いか。気を付けろよ。色々といるからよ」


「色仕掛け一回来たな。例のシングルマザー。でも、回避した。まあ、徳済さんはね。意外と。あの人、努力家で反重力魔術もかなり使える。だから、安心して空輸出来る」


「あはは、多比良さんにも来たんだ。色仕掛け。気持ち悪いよな、あいつら。アレで、セッ○スさせるのが、売りになると思っていやがる。誰が好き好んでお前達と寝てやるか、ってよ。でも、やってしまった奴らが結構いるから侮れない。お酒の席とか、色々と気を付けるにこしたことはない」


「ご忠告ありです。気を付けなきゃ」


まあ、色々と。ここは誘惑が多い。多すぎる。


・・・・


風呂にゆったり入ってあがったら、バルバロ邸は、びっくりするほど静かになっていた。

ここの宴会場の一般開放は19時までが原則。今は、19時少し前くらい。だから、残っている人もみんないそいそと帰り支度をしている。


まあ、煩くしてここの主人にへそを曲げられて、使用不可になってもいけないしね。


代わりに、


「こんばんは。斉藤ですぅ~」「こんばんは。平です」


茜ちゃん母子と、祥子さん(平は祥子さんの名字)母子がやってきた。


今回のイカパーティメンバーは、徳済さんが呼んだ。一応、バルバロ家縁の人を選んだみたい。


「おう、こっちでやってるぞ!」


宴会場の奥には高遠氏がすでにあぐらを掻いて待っている。それに俺のパーティメンバー徳済さん、フェイ&ヒューイも。


別のテーブルには、子供達が座っている。


我が息子の志郎もいる。軽く手を振ってやる。息子と晶が手を振って返してくる。嬉しい。

その長テーブルには、息子と晶の他に、木ノ葉ちゃん、茜、月、武、颯太、祥子さん娘、システィーナとエリオット、留学生2人が座っている。


そして、テーブルの上にはコンロが。いつか見たヤツ。


「こんばんは~」


「あら、八重さん。お久しぶり。来たんだ~」


綾子さんと我が嫁の会話。八重とは嫁の名前。


「うん。旦那がイカ釣りって言ってたから、来ちゃった」


一応、嫁も呼んでおいたのだ。息子に頼んで。


「がははは。タビラ殿。姉御が呼んでるぜ。刺身の件だ。ここで、刺身が食えるとは思わなかったぜ。感謝するぜぇ」「私もいただいてる。おいしい」


「うむ。タビラ殿。わしも少し刺身を食べさせてもらっておるからのう。おいしいぞ」


バルバロ家の家臣団。3名、小さいおじさんとその奥さん、そしておじいちゃん。


「え? 今日、何かやるの? え? イカパーティ? どういうこと?」


前田さん夫婦がお風呂の帰りに宴会場の異変に気づいたようだ。


「前田さんも寄ってけば? イカ沢山あるし、モルディに聞いてみようか?」


「まじか! でも急だし、悪いな」「そうですよ多比良さん」


前田さん夫婦が遠慮する。でもとても食べたそうだ。


「個別料理じゃなくて大皿だからいいのでは? 2人くらい。お酒は持ち込みみたいだけど。あ、モルディ! 俺に用事って? それから、2人くらい追加していい?」


厨房でモルディ発見。俺を探していると聞いたけど?


「イカの刺身のリクエストが多くてな。みんなに出していいか聞きたかったんだ。それから、人数の方は、お前がいいならいいんじゃないか? 2人くらい、座席は余っているんだし」


「そっか、刺身は、大人席には大皿で出そう。子供は出さなくていいんじゃないか? お腹壊してもいけないし。食べたい人がいたら、大人の分を分けてあげればいいし」


「了解。切り分けるから運ぶの手伝ってくれ。それから、薬味はバルバロ醤でいいのか? 塩味があって刺身には合うと思うぞ。少し独特の臭いがするから都会人には不評だが」


「あ、それでいい。醤油っぽいやつ。それから、酸っぱい系の柑橘類があるなら付けて。イカにかけたい」


「しょうが無いヤツだなあ。今村殿に聞いてくる。後で厨房に来てくれ」


そういうと、モルディは厨房に戻っていく。


「と、言うわけで、2人くらいはいいみたいですよ?」


前田さん夫婦に振り返って、協議?の結果を伝える。


「では、参加で」「ありがとうございます。私はお酒買ってくるわ。お金とかはいいの?」


「お金はイカの現物支給でチャラになってるからなぁ。別にいいんじゃないです? 他の人も払ってないはずだし」


・・・・


「「「「「かんぱぁ~い」」」」」


目の前の携帯コンロの上には、油の入った鍋と、お湯の入った鍋が。

コンロの熱源は、当然、火魔石。


今日は、油シャブと普通のお湯シャブ両方が楽しめるらしい。


具材は、肉とイカ。


「まずは刺身。うん。うまい。イカ甘い。うまい」


「このバルバロ醤というのもいいですね。醤油みたいで」


「自分的にはこの酸味のある柑橘類をかけるのがお勧め。醤油に飽きたらどぞ」


大人達は、子供達のテーブルとバルバロ家臣達とは離れたところで飲み始める。


「お疲れ様。いやいや。多比良さん。こんな会を開いてくださるなんて。やるじゃないですか」


「あ、高遠さん。お疲れ様です」


大人テーブルは、見事に男女に別れていた。こちらは、俺と高遠氏、前田氏、それからヒューイだけだ。


「いや、野球の話なんですがね。うちから2チームを作って、ランカスターとブレブナーが1チームずつ支援してくれることになりました。スポンサー的な感じで。ありがたいことです。それから多比良さんから相談があったタマクロー家の事ですが、うちから何人かだそうと思っています」


「スポンサーよかったですねぇ。それから、タマクロー家も済みません。無理なお願いで」


「いえいえ。野球はピッチャーがいれば、あとは素人でも少し練習すればなんとか試合になりますから。チームはある程度、多い方が面白いですしね」


「これで、野球チーム持つの、サイレンの3貴族、プラス、バルバロとケイヒンですか。前回は3試合しかありませんでしたからね。これで一日中楽しめますね」


「そうなんですよ。後はゴルフも楽しめますし、言うことないですよ。ささ。どうぞ一杯」


高遠氏からワインを注いでもらう。ちなみに、今日、俺と徳済さんは酒の持ち込みは無し。川イカの持ち込みで免除。


「バルバロ邸が一気に日本人だらけになりましたもんね」


「そうですそうです。あの大浴場とこの宴会場の組み合わせがたまりませんもんね」


「ああ、俺もギルド事務所の就業時間、もっと早く終わるように設定すれば良かったぜ」


「まあ、まあ、前田さんも1杯。もうすぐナイターも出来るようになるそうですから」


「バイクレースも始まれば、夜の娯楽も結構出来そうですね」


男だけの話が始まる。ヒューイは気を使っているのか、話に入ってこない。


「こら~! 何男だけでしみったれてんのよ。宴会じゃないの。ほら、騒いで騒いで。子供達が寝たら騒げないわよ」


「あ、徳済さん、イカおいしい」


徳済さんが気を遣ってくれたのか、男席にやってくる。


「そうよ。半分くらいは私だもん。釣ったの」


「え? そうなの? これ徳済さん?」


「そうよ。私は冒険者。チーム風雲多比良城のメンバーなのよ!」


「そうなの? 徳済さん、冒険者なの?」


信じられないのか、高遠さんが何度も聞き直す」


「ギルドとしちゃ、ギルドの仕事受けて欲しいんだけどなぁ。まあ、風雲多比良城としては結構な量の魔石を預けてはくれてるけど」


「え? 多比良さんも冒険者ってこと? 流行ってるの?」


「そうよぉ~。ある意味高額レジャーよ」


「何処で釣ってきたんだ? 結構な数だけど」


「タイガよ。多比良さんと、そこのヒューイとあそこのフェイで行ってきたのよ」


「タイガだって? どうやって。片道5日はかかるだろ」


「ふふん。秘密」「いや、教えろよ。多比良さん、前田さんも知っているんだろ?」「秘密」「秘密」


「私、今日のために沢山練習したんだもん。しばらくは秘密」


「ぐぬぬ」


「そうそう、多比良さん。あなたの奥さんって、挨拶以外で始めてお話したけど、意外とちゃんとした人よね。まあ、旦那に対しての愛はなさそうだけど」


向こうの方で、『やだぁ。綾子さん。あんなのの何処がいいのよ。そんなにいいならあげるわよ。にょほほほ』とか聞こえる。少し悲しくなる。


「いや、悲しくなるから言うの止めて」


「いや、元気出しなって。多分、冗談だと思うわよ。多分」


徳済さんが慰めてくれる。男性陣は無言だ。


「それと、モルディさん。美容魔術受ける気は無いかしら。綺麗になると思うけど。あの方、日焼けが凄くって。元が良いのにもったいないわ」


「う~ん。今度それとなく言っておこうか。ただ、あいつ医者だぞ。日焼が気になるなら、自分で直すだろうし」


「いや、医者でも日焼けを直すのは皮膚科の知識と技術が必要よ。でも、あの方、医者だったのね。ふぅ~ん。この国のお医者さんにお知り合いとかいらっしゃらないかしら」


「お母さん、それ少し頂戴よ」「私も。刺身食べたい。それから、その焼いたヤツも」


子供達が大人テーブルに。

自分たちのテーブルに無かったメニューに興味津々のようだ。


ここには、刺身の他、お酒のつまみ用に、イカの塩焼きやゲソの湯引きもある。


「おじさん、少しお刺身分けてよ」


「お、晶か、いいぞ。ほら、木ノ葉ちゃんも食べな」


「あ、ありがとうございます」


「いやいや。いつもうちの志郎と遊んでくれてありがとう」


「ほら。シスもおいでよ。食べたかったんでしょ。イカのお刺身」


「うう。そうだけど。なんでそいつなのよ。別のお皿でもいいじゃない」


「一応、釣りと、この会を企画したの、おじさんらしいし。おじさんに頼むのがスジ」


「うう」


いつものツインドリルは風呂上がりだからなのか、普通のツインテールになっている。


「ほれ。食え。ほれ。食え。食えぇ」


女子中学生にせっせと餌付けを行う。


徐々に席順もぐちゃぐちゃになり、みんなで好き勝手しゃべり出す。


高遠さんは徳済さんに捕まり、前田さんはご夫婦でまったりと。斉藤さんと平さん、綾子さんは、フェイと打ち解けている。


うちの嫁は何故かヒューイとモルディの3人で一緒に大盛り上がり。不思議な組み合わせだ。楽しいようでよかった。


「いつも母がお世話になっております」「お世話になっております」


徳済さんとこの息子さんが、彼女を連れてやってきた。親公認なんだろうね、この2人。この年で挨拶回りなんてエライエライ。


コミュ障の俺はリア充中学生アベックとの会話スキルなんて皆無なので、適当に会話してしのぐ。


「がはは。タビラの兄ちゃん。ヒマならワシと飲もうぜ」


「お。目覚ましおじさん。おじさんお酒強そうだよね。そういえばさ。あの現場以来、おじさんに起こされないと、起きた気がしない。いや、懐かしい」


バルバロ家家臣の小さなおじさんがやってき。この人は、あの時の厨房担当兼モーニングコール役を務めていた人だ。ちなみに、名前は知らない。今さら聞けないし。


でも、よく頑張ったよなぁ。あの現場。


「がはは。そうか。それ飲め。それから食えぇ」


「そうそう。それそれ。いい思い出」


「ふん。うちの姉御もあれ以来、楽しそうにしておる。この屋敷も賑やかになった。あの時、お前と日本人達に出会えたお陰だ」


「それは何より。そういえば、一度バルバロ辺境伯領に行ってみたいと思ってて。今度行こうかなと。注意点とかある?」


「旦那は飛んで行くんだろ? あそこは名残で軍人気質のものが多い。実際、軍隊が常駐しているからな。平和になって大分減ったが」


「行くならもちろん反重力」


「知らないヤツが飛んで来たら打ち落されるから気を付けろ。あそこの都市は元々海峡の守り。そういう所だ」


「なるほど。そういえばスタンピードはバルバロ辺境領で起きたわけで。その辺の影響とかは?」


「先のスタンピードでは、兵隊が何人も死んどるし、民間人にも被害を出してしもうた。だが、バルバロの民なら、今頃忘れて酒でも飲んでる。辺境の地では、細かい事は気にしていられん」


そう言った目覚ましおじさんの顔は、どこか寂しげに見えた。


「行った時、何かお土産いります?」


「それなら、バルバロ酒と腐り豆を頼む」


「了解」


今日は平日。食べ物も無くなり、縁もたけなわ。

バルバロ家や子供達に迷惑かけてもいけない。


なので、宴会は終了。明日から平常運転。


今日は久々に家族3人揃って家まで歩いて帰った。

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