第82話 晶視点 学園編 バルバロ邸移住しばらく後 7月中旬

最近、私達の生活が変わった。概ね良い方に。


朝ご飯、バロバロ邸にて友人達と一緒にとる。ここの朝食は和食中心、おかず多め。私も作るのを手伝って、お小遣い程度のお給料を貰っている。


お昼はタダの学食から、1ランク上の有料の方を利用するようになった。

学園の学食にはランクがあって、タダで食べられるのは最底辺のところ。おいしくないし、量も多くない。私たちは貧乏だから、最初は諦めてタダの学食を利用していた。

だけど、エリオットが言うには、バルバロ家の事業が軌道に乗ってきており、食事くらいはちゃんとしたところで食べさせたいと。貴族の矜持に関わるとか。


私のせいで友人全員がおいしくない食堂に通うことになっても申し分けなかったし、他の学生も付き合いのある貴族から御飯をご馳走になっているみたいだから、エリオットというかバルバロ家のご厚意に甘えることにした。


そういえば、バルバロ家への誹謗中傷も減った。

最初、エリオットとシスティーナと一緒に行動していたら、よく悪口を聞こえるように言われた。


曰く、田舎者で野蛮。曰く、バルバロ領には米と魚しかない。曰く、食べ物を何でも生で食べようとする。曰く、食べ物をわざわざ腐らせて食べようとする。


私からすると、どこが悪口なのか解らない。最後の『腐らせる』は発酵食品と理解している。だけど、陰口を叩かれていることは間違い無く、不快な思いをすることもしばしばだった。


そういえば、”人を食べる”というとんでもない噂もあった。流石にそれはシスもエリオットも怒っていた。ほんと、とんでもない言葉だった。


それが減った。


エリオットによると、バルバロ家は学生や教師の囲い込みには失敗したけど、保護者達の方は成功したと思われてるみたい。

日本人達は、魔術的才能が高いらしい。そこで、最初に貴族達は年若い子供達の囲い込みに精を出した。それから、国に準貴族の位を与えられた先生達。青田買いと知産階級の取り込みと思ってそうしたらしい。


ところが、保護者達も実は優秀で、そして即戦力だった。というか、人数的にも保護者の方が多いし。


私の感覚からすると、当たり前だ。ここの保護者は、ほぼ全員中学生を育ててきている人達。日本で仕事をし、結婚して子供を育てている実績がある。ここ異世界でも、生きるために一所懸命働いている。


他の貴族達がそれに気付いた時には、多くの日本人が仕事終わりにバルバロ家の庭で汗を流し、大浴場でさっぱりし、宴会場で晩ご飯を食べて帰る生活になっていた。結構な人数がいるので、収入もバカにならないようだ。


バルバロ邸の庭は、最近では日本人だけでなく、現地の人にも大人気。


そして、バルバロ家の面倒見役と言われているタマクロー家。そこも最初は勇者嫌いと言われていたけど、それは誤解だったみたい。今、自宅の一部を日本人に貸し出して、ガラス製品などを作っている。


さらに、今後はトカゲ競馬や、バイクレースも始まるらしい。

それはどう見てもギャンブルだけど、日本にも競馬とか競艇があったし。


この大規模なギャンブル事業が、他の貴族達から大注目されているみたい。


と、いうわけで、田舎者で貧乏と思われてたバルバロ家の評価が180度変わっている。


私達はバルバロ家に住み込んでいるため、そのことは肌で感じている。


クラスの男子達からの視線。最初は『レイプ被害に合いかけたヤツ』から、『優秀な大貴族に庇護されている少女』あたりに変わった気がする。気のせいかも知れないけど。


あの事件以来、学校の人とは、友人以外とは全く付き合いがない。話をすることもない。


などと、益体も無いことを考えながら、今は人を待っているところ。


「ごめんごめん。待った?」


学校の終わり、最後の茜&颯太が合流。午後の授業は選択授業なので、終わりがみんなバラバラだ。

シラバスを提出するときは、このメンバーで連んでなかったから、これは仕方が無い。


「いや、今着いたところだ。よし、部活行くぞ」


先に着いていた元Dチームメンバー武が応じる。


全員揃ったので、バルバロ邸の庭に皆で歩いて向かう。



現在の私達の日課は、学校が終われば部活。

部活といっても、日本みたいに引率の先生がいるわけではなく、自分たちで勝手に練習しているだけ。


今は、野球の練習試合が近いので、みんなで野球の練習。

いや、志郎くんと加奈子ちゃんは障壁癖が治らず、みんなで走り込みをした後は陸上競技場の方に行って、スケートの練習をしてる。


スケート用のブーツは、あの後、おじさんがどこからともなく持ってきた。ブーツの底に木の棒を着けただけの簡単なものだけど、履いて魔力を通すとブレードが出てくる。


このブレードと土魔術の摩擦抵抗を減らす技を合わせると、本物の氷のように滑る事ができる。

この、氷いらずのスケートは、今では日本人大人気のスポーツになっている。地元の人で嗜む人もちらほら。


ブーツの方は針子連合作とのこと。野球のグローブも針子連合らしく、大助かり。今度は陸上シューズも欲しいけど、実は陸上やる人はあまりいなかったり。少し寂しい。


競技場に着くと、まずは更衣室に向かう。

と、向こうから見たことのある人が近づいてくる。


「あ! 茜ぇ~~。ちょっと、キャッチャーしてくんない? 今日、うちのいなくて」


「なんで、私が敵チームピッチャーの相手しなくちゃいけないのよ」


「そんなこと言わないで。逆に考えてよ逆に。敵チームの実力が分かるじゃん」


「ま、いっか」


我が軍、キャッチャーの茜が元チームメイトに練習を誘われてるようだ。


でも、『ま、いっか』は軽すぎないだろうか。


「晶ぁ。今日はちょっと、こっち行くわ」


「うん。敵情視察よろしく」


まあ、これは遊びみたいなもんだし、私に駄目という資格もなし。

それに、確か茜とこの人はソフト部でバッテリーだったはず。ピッチャーの彼女は、ウインドビルを止めてサイドスローの練習をしているとか。


・・・・


「あ。晶ちゃん。ノックしてあげようか。ノック」


走り込みが終わってみんなでキャッチボールをしていると、ノックおじさんから声をかけられる。この人、よく知らない人だけど、野球ファンでただ単にノックをしたいらしく、毎回声をかけられる。


「あ、はい。じゃあ、よろしくお願いします」


私達としては助かるので、毎回ノックをしてもらう。

私とシスティーナとルナちゃん、男子留学生が内野。エリオットが外野だ。外野の残りは茜とモルディベートさん。モルディベートさんは、監督兼センター兼4番バッターをやるらしい。


このノックおじさんのノックは結構上手で、跳ねるヤツ、ゴロ、フライと色々と打ち分けてくれる。


「お~い! 晶ぁ! バッティング練習するぞ!」


しばらくノックの練習をしていると、遠くで武くんの呼ぶ声が聞こえる。


「わかった~。おじさん、ありがとうございます」


「うん。がんばってね。晶ちゃん」


・・・・


練習の終わり。

バルバロ邸に戻る。


この夕方の時間、この屋敷は日本人でごった返し状態。


大浴場でお風呂に入り、宴会場で晩御飯を食べる。


今日の御飯は豚汁定食。なんと、バルバロ領には味噌に似た調味料がある。それを利用して和食っぽい料理が再現されている。


今のバルバロ邸には料理人がいる。日本でハンバーグ屋さんを営んでいた今村さんと家臣の人、小さなおじさんとその奥さん。この2人は朝ご飯も手伝ってくれる。


「さてと。私達は先に魔石補充ね」


「私達、掃除してくるわ」


一応、そうじと魔石の補充は、私と加奈子ちゃんの仕事。これでお給料貰ってる。

でも、今はみんな手伝ってくれる。一緒に御飯食べれるように。

みんな優しい。


晩ご飯は以前は学食でいただいていたけど、おいしくないし量も具材の種類も少なかった。なので、この屋敷にお抱え料理人がやってくると同時に、晩ご飯もここで取ることにした。

というか、多比良のおじさんがお金を出してくれたらしい。いくら払ったのか怖い。なので、私と加奈子ちゃん、もちろん志郎君は、無料で食べさせて貰えている。いつかお礼しなきゃ。


一応、システィーナ達の分もおじさん資金から出ているらしく、システィーナ本人は何故か青い顔をしていた。どうも、学園卒業後、おじさんの嫁に貰われると勘違いしたらしい。

そんなわけないのに。あの子も可愛いところがあるもんだ。ふふ。


掃除と魔石の補充が終わると、屋敷の外部開放時間が終わりに近づき、一般のお客さんは少なくなる。


「今日はどうする? お風呂にする? 先に御飯?」


「今日は少し遅いね。今村さんにご迷惑かけちゃうから、先に御飯にしよう」


「そうね」


・・・・


「あ、タビラ殿。椅子とテーブルが届いているぞ。一体何に使うんだ。だいたいどうしてういつもうちに送り着けてくるんだ?」


「まあ、いいじゃないかモルディ。部屋は余ってるんだろ?」


「しょうが無いヤツだなぁ。別にいいけど。御飯はもう食べたのか? 食べていくか? お前の息子も今から食事だぞ?」


「へ? そうなんだ。お? 晶と志郎! でも、この時間いいのかよ。時間外だろ」


「いいんじゃないか? 私も今からだし。豚汁モドキまだ余ってたぞ?」


「いいのかよ。俺も御飯まだだけど。でも、豚汁かぁ。いいのかよ食べて」


「おお、来い来い。今村殿ぉ~1名追加よろしいか?」「はぁ~い。いいですよぉ」


おじさん登場。


おじさんとここの女主人のモルディベートさんは、とても仲がいい。かつて、一緒に仕事をした仲だとか。一緒に仕事をしたらあんなに仲良くなれるのかなぁ。というか、私達がこの世界にきて2ヶ月くらいなのに。


しかし、モルディベートさん、大貴族出身にして、とてもがっちりした体格の大きな女性。目つきもするどく、私からすると少し怖い印象。

だけど、おじさんはまるで友人と接するかのように普通にしている。さすがだと思ってしまう。


おじさんとモルディベートさんが、一緒に宴会場に入ってきた。


「みんなお疲れ様。志郎。ちゃんと練習しているか? お父ちゃんも見に行くぞ。試合」


「僕出れない」


珍しく志郎くんがすねている。父親に甘えている感じ?


「まあ、そう言うな。今度がある。またな。おじさん達は別テーブルで食べるから」


おじさんは中学生組にそう言うと、モルディベートさんと2人で少し離れたテーブルに座って食事を始めてしまった。


目線を目の前に戻すと、システィーナがおじさんを見つめていた。まだお嫁さんに貰われるとか思っているのだろうか。


私は沢山の人に囲まれながら、『楽しい毎日を過ごしている』と感じてしまっている。本当は異世界転移で両親と離れ、男子に乱暴されたりして大変思いをしているはずなのに。

それは、この非日常の連続のせいなのだろうか。


こうして、私の非日常の日常が過ぎていく。


◇◇◇

<<学園編 男子中学生グループ>>


「えりかが謹慎明けたらしいぜ。どうする? また呼ぶか?」


「そうだな。だが、場所が問題だなぁ。どこかにヤリ部屋作りたいよなぁ。どこかいい場所はないか?」


「ああ、あいつらみたいに女子寮に忍び込むなんてバカのすることだ。おかげで晶にはガードが付いてしまったしよ」


「晶どうするよ。あいつ顔はいいけど、抱きごこち悪そうだぜ? 絶対ごつごつしてるだろ」


「顔が良ければいいだろうがよ。抱き心地なんて。だけど、あいつバルバロ家に匿われてるんだろ。流石にもう手を出すのは無理か」


「だがよ。考えたら、あの屋敷は女だらけだ。まずは家主が女。家臣も少ない。しかも、あの家は晶と一年の木ノ葉。それから2年のドリルの子。留学生とみんな美人じゃねぇか。ガードが付いてるといってもあのデカい女2人に徳済とDランクの高遠だけだろ。あと、木偶のボーみたいなヤツもいるけど」


「お? やるのか?」


「あの屋敷をやり部屋に出来ればオレ達ハーレムだぜ。あそこにはお風呂もあるらしいからな」


「俺の母親がとある貴族家にお世話になっている。兵隊を貸してもらうか?」


「そうだな。バルバロ家なんて、俺の知り合いの貴族が相当バカにしてたぞ? ザコじゃね? 大体『辺境伯』ってなんだよ。偉いのかどうなのか良くわかんねぇよ」


「そうなのか・・・晶はザコ貴族に匿われていたのか。これはチャンスだな。この世界は貴族制とか言う身分制なんだろ? ザコ貴族なんて上位貴族にしてみたら虫みたいなもんだろ。でよ、その屋敷ごと俺らが占領できたらどうなる? 毎日ヤリまくりじゃないか」


「俺たちは全員Aランクだ。勝負したら楽勝だろ。ここは異世界。せっかく来たのに毎日学校とかやってらんねぇよ。飯もまずいしよ。なんだよあれ。味付け殆ど塩だけだしよ」


「はは、確かに学食はまずい。でも屋敷をゲットできたら飯もうまいの作らせりゃいいじゃねぇか。オレ達よぉ。チートなんだぜ? チート。モンスターなんて一発よ。学校卒業したらモンスター狩りで大金持ち確定だしよ」


「違いねぇ。とりあえず、えりかはどうする? やる場所が便所とか俺はいやだぜ?」


「とりあえず、母親がお世話になっている貴族家のサイレン屋敷を貸してもらおう。兵隊も一緒に頼んでみるわ」


「お前の母ちゃん美人だよなぁ。いいよなぁ。一緒にお風呂とか入ってたんだろ?」


「母親と風呂なんて、こっちに来てから入ってねぇよ。当たり前だろうが」


「お、おう。そうだな。まあ、ヤリ部屋と兵隊は任せたぜ?」


男子グループの暗躍も続く。

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