第81話 VSジニィ  7月中旬

「おじさん! 勝負です!」


ジニィがビシッとこちらを指さす。


ここは元Dチームが使っていた広場。


「がんばれー」


ザギさんが声援を送ってくれる。イセは四阿あずまやで優雅に紅茶。


ジニィは、いつも俺らDチームの練習を覗いていたらしく、自分もやってみたかったんだそうな。


というか、ジニィは、イセの護衛。

空間魔術の使い手にして接近戦闘のスペシャリストらしい。


俺も練習になると思ったので、彼女との特訓は快諾。


『空間魔術を極めてはいけない』


かつて、イセが俺に忠告したこと。


だけど、普通の空間魔術、すなわち、自衛に関する魔術や便利魔術などなどは、別に『魔術の極み』であるわけでもなく、普通に、むしろ訓練を推奨された。


と、いうわけで、同じ空間魔術使いのジニィに面倒を見て貰うことに。


ちなみに、さっきまではアイテムボックスを教わっていた。

だけど、これがなかなか難しい。適性があってもすぐに使えるようになるわけではないようだ。

ただ、ジニィはジニィで、ここでば~と魔力を出して、空間にガッと手をつっこんでぇ~と言った感じの説明で要領を得ない。

というか、ここの人の魔術って、結構感覚で使っているところがある。


もう少し理論があるのかと思ったけど。勇者召喚や強制労働者の模様みたいな複雑な魔術もあるのに。


で、今は戦闘訓練。


「私からいきますよ~~~~~ほい!」


うお! いきなり小手。


今は練習なので、バリアを張らずに模擬戦を行っている。魔力障壁は咄嗟とっさに出てしまうが、俺のは生身とあまり変わらない。いや、徳済さんのバシィは弾いた記憶がある。


パン! バン! バシィ!


ジニィに3発連続で当てられる。全然勝負にならない。


俺とジニィの武器は、お互い同じ。1本物の植物の茎にリバーサーペントの皮を巻いたヤツ。

魔力注入は弱めで、当たっても大事には至らない。


この白黒の皮、マ国が産地らしく、ジニィのやつ、わざわざ本国から取り寄せて自分でこしらえたようだ。というか、今日のジニィのズボンも白黒ギザギザ模様の皮。俺のマントとお揃いにしたかったらしい。


「くそ! 全然勝負にならん」


「打ってきていいですよぉ~」


「オラアァ!」


ブン! 当たらない。


足を使って肉薄を試みる。


「ハァ!」


バン! 触手で止められる。


「ティヤ!」


蹴ってみる。簡単に避けられる。くっ。ジニィは澄ました顔をしている。なんかムカつく。


「力任せはだめですよ~」


「オラぁ!」


タックルしてみる。


「きゃ! 情熱的ですねぇ。ですが」


するん! とすり抜けられる。は? どうやったんだ今の。


「ハァ!」


もう一度!


「もう、ベッドでしてくださいよぉ。それぇ」


前に居たはずのジニィが後ろに。ぽこんと頭を叩かれる。いや、今のは確かに、両腕の中に胴体が収まっていたはずだ。飛んだ? いや、そんな感覚は・・・ウナギを逃したような感覚は、無かった。


「いや待て。お前、それどうやってんだ?」


「ん~? すり抜けの術?」


魔術だったのか。こちらの攻撃は当たらないということ? いや、どこかに穴があるはずだ。


というか、俺もあの技欲しい。


「おりゃ~~」「きゃ~!」


逃げるジニィを追いかけ回す。


・・・・


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ・・・・・」


「どうしましたぁ? 負けを、認めちゃいます?」


途中、休憩を挟んで1時間くらい戦った。結局一度も当たらなかった。

ジニィも結構走ったはずなのに、ヤツは少し汗を掻いている程度。澄ました顔は変わらない。


基礎が全然違うのだろう。


「ああ、負け。俺の負け」


「おじさんは基礎訓練からですねぇ。ジニィ流触手術。しっかり身に着けてください」


あんのかよ。ジニィ流触手術。


「まあ、俺も体がなまってたのは事実。最近飛んでばかりいたから。稽古つけてくれるんならありがたい」


最近、魔術のおかげなのか、運動してもあまり疲れない。若返った感じで体を動かすのが楽しい。


「よろしい。まずは、道着を作りましょう。この、リバーサーペントの皮で」


「まあ、その皮。通気性とか結構いいよな。道着に向いているかはわからないけど。汗とか吸わないだろそれ」


「中に、下着を着ればいいんですよ」


「飛ぶときとかいいかもなこれ」


ジニィのズボンを引っ張ってみる。なかなかいいかもしれない。


駄弁りながら四阿に戻る。


「終わったかの。夕飯までには少し時間がある。温泉にでも浸かってこい」


「そうする」「やったぁ~。おじさんと温泉だ!」


「お前も入るのかよ」「ひどい。私だって、結構汗掻いたんですよ?」「いや、お前女だろ」「まっ! 私が男に見えるんですか?」「顔だけみたら男みたいだろ。お前」「げ! 言ってはいけないことを。これは、私の女らしさを見せつけてあげるしかありません」「見せなくていい。いや待てよ。肩まで浸かれば男みたいだから、ムラムラすることもないのか」「そうですそうです。だから、一緒にはいりましょう」


「お前らのう。まあ、よいか。早く入ってこい。夕飯までには戻ってこいよ」


・・・・・


混浴。とはいえ、このバカ広い温泉にジニィと2人。ジニィも堂々としてるし、あまりエロさはない。


普通に体を洗って、普通に入る。


「おじさんって、最初の頃に比べると、ずいぶん体付きが良くなりましたよねぇ」


「最初の頃って、いつの話だよ」


「う~ん。日本人がここに来て2日目くらい?」


温泉に肩までつかり、ジニィと駄弁る。お湯から顔だけ出したこいつは、本当にイケメンに見える。


ざばぁ。視線でわかったのか、ジニィは上半身を湯から出し、自慢の胸をアピールする。


とはいえ、俺はイセの体の体験者。

女体耐性が付いている。


「その頃は、運動不足のおじさんだったからなぁ。その後の肉体労働でだいぶん、筋肉が付いた。普通、この年で肉体労働なんてしても体痛めるだけなんだろうけどなぁ。魔力のおかげなんだろう」


「生物魔術による自己修復と身体強化の影響でしょうかねぇ。ずっとこっちで生きてきた人には解らない感覚ですね」


ジニィは、バタ足を始めてしまった。


ここには2人しかいないから、マナー違反ではないとはいえ・・・


まあ、俺はゆっりまったりしたい。


「久々に、洞窟風呂に行く」


すいすい泳ぎながら、洞窟の入り口に到達。ここの温泉は何時入っても夜だ。洞窟中は真っ黒。

だけど、少し怖いが、慣れると落ち着く。


泳ぎながら洞窟に。


んぐ!? 途端、体に何かが巻き付き水中に引き込まれる。


な!? なんだ? 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


両手両足が動かせない。沈む。息ができない。なんだこれ。なんでここでこんなことが。

体をもぞもぞ動かす。ん? 意外と柔らかい。


いや、これ、ジニィだ。たぶん。


「ぷは! おいこらジニィやめろ。ぶふ。ぶは! おま、怖かったぞ今。何かに襲われたかと思った」


「リバーサーペントごっこです」


「リバーサーペント怖ぇな!」


「んふふ~。リバーサーペントはこうやってぇ~、得物を水底に引きずり込むんです」


バジャ。ジャブ。


「引っ付くな! というかよ、今度、川に釣りに行こうと思ってたのに。怖くなるなそれ。というか、ジニィ。ここは一人用だぞ」


「いいじゃないですかぁ。一緒に洞窟探検しましょうよぅ」


ジャバ。


「探検といっても、浅いだろ。もう奥だぞ」


「違いますよぅ。もう一つの洞窟です」


「お、おいやめろ。というかどうなってんだこれ。真っ黒でわからん」


「リバーサーペントの交尾ってぇ、とっても長いんですって」


「意味がわからん。おい、ちょっと本当にやめろ」


「んふふ。おじさん。本気で抵抗しないから好き・・・どうですかぁ? ここの洞窟。浅いですかぁ? それとも深いですかぁ? 少し狭いかもしれませんねぇ」


「くっ。お前、まさか・・・」


バシャ! 「あれ? 何か音がすると思ったら、タビラさんと、ジニィではないですか」


ケ、ケイ助教!?


明かりの魔道具で洞窟内部を照らされる。


「あ、あらら。お楽しみ中でしたか。ごゆっくり」


バシャ!バシャ!バシャ! ケイ助教が急ぎ歩きで去って行く。


「・・・おい、ジニィ。見られたじゃないか。どうすんだよ」


「見られちゃいましたねぇ。リバーサーペントごっこ・・・は、恥ずかしぃ~~~」


ジニィがとても恥ずかしがっている。


「お前、恥の概念あったのな。そっちがびっくりだわ」


・・・・


大使館で夕飯をいただいて客間で就寝。


今日は訓練で体力使って、温泉にも入って、お腹もいっぱい。


缶チューハイも飲んだし、お眠むモード。


そういえば、缶チューハイと缶ビールはなかなか好評。イセはチューハイ6%派、ジニィはビール派、ザギさんはチューハイ9%派。ザギさん、流石に仕事中は飲まないけど。


チューハイとビールは、減ると勝手に補充されている。娘に感謝だ。しかし、どうやって買ってるんだろう。娘は18歳。まあ、いっか。


娘とはあれから何度かメッセージノートのやり取りを続けている。

その内容は、当たり障りのない、会話程度。

やっと、高校が再開して、今はちゃんと学校に通っているみたい。


・・・ほろよいでいい気分。ああ、寝そう・・・


・・・

<<多比良、ベッドで就寝中>>


ごそごそ、しゅるっ、もぞもぞ。


「んんん・・・・」


もぞもぞ。はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。


・・・誰かの吐息?・・・・何?・・・


重たいまぶたを開ける。目の前に角。

体の左半分に重み。このサイズ感は、イセじゃない。


「・・だれだ?」


「・・・おじさん? 起きちゃいましたかぁ。寝てていいですよ?」


「・・・暑いし重い。寝れないだろ」


「邪魔にならないところで寝ますからぁ」


「・・・お前・・・俺に襲われるとか、思わんのな」


「襲ってもいいんですよ?」


そう言って、額を俺の鎖骨付近に当ててぐりぐりされる。角が目に刺さりそうで怖い。


「・・お前なぁ。せっかく寝てたのに」


「もう、おじさんのいけずぅ~」


何なんだよ一体・・・

ただ、ジニィはシャツを着ている。裸ではないようだ。残念なようなほっとしたような・・・


しかし、それならば、ジニィのやつ何用なんだ? 添い寝? 寂しがり屋なのかな、こいつ。


「はぁ・・・おじさん? この間ぁ。イセ様の体に入ってぇ。おじさん自身の体に攻め立てられてたんですよねぇ」


「・・・そうだな」


「はぁ・・・はぁ・・・どうでした? そのとき。どんな感じでした?」


「・・・どんなって・・・ひたすら乱暴にされた・・・気を失っても続けられて・・・」


「はぁ・・・では、本当の感じは、体験してないんですね?」


「・・・なんだよ・・・・感じって」


「こんな感じですっ」


顔を近づけられる。おでことおでこが当たる。


瞬間、脳が焼ける。もの凄い快楽が全身を駆け巡る。


「かっ・・・・はっ・・・・」


息が出来ない。体が勝手にこわばる。

ボタボタボタ・・・・。


何かが天井から落ちてきた。


「あらあら~? おじさん、すごい。天井付近まで飛びましたよぉ~。どれだけ溜め込んでいたんですかぁ? これは危険です」


脳が焼け続ける。何も考えられない。


「あん。おじさん、顔にかかってます。自分で自分の顔にひっかけるなんて、この変態」


・・・な、なにを言って・・・


「どうでしたか? 私はイセ様の護衛。こんなに貯め込んだ危険人物をぉ~、イセ様とひとつ屋根の下にぃ~置いておくわけにはいきません。私が処理します」


「が、は、はぁ。はぁ・・・・」


息がやっと整ってきた。やっと、状況が。ジニィが俺の横に寝そべってる。シャツきてたから油断した。こいつ、下ははいてない。


「私の感じ、気持ちよかったですかぁ? 私の特技、『感覚同調』、しちゃいましたぁ」


感覚同調? 何だそれ。いや・・・脳みそがくらくらする・・・意識が・・・


「でもでもぉ~? まだ元気ですねぇ。次はぁ~両方にしましょう」


ジニィに・・・乗られた気がした。


「・・・んっんっとぉ。はぁ・・・男と女の両方。同時に感じてください」


そんな声が聞こえた気がした。


瞬間、脳がしびれ、意識を失った。


・・・・


ちゅん、ちゅん、ちちちち。


鳥の声。朝だ。朝ちゅんだ。すずめでもいるんだろうか。


ベッドから上半身を起こす。


・・・となりでジニィが寝てる。俺に背中を向けて、丸まってる。


昨日の記憶のとおり、シャツ1枚で。というか、俺もジニィと同じ格好。


シャツ1枚に下半身丸出し。おかしい。昨日、寝るときはちゃんとはいたはず。


俺の下着、どこを探しても無い。


ジニィの生っ白い尻を撫で回す。


「おい、ジニィ起きろ。俺のぱんつどこにやった?」


「ふぁぁあい。もう少し寝ていましょうよう」


二度寝か。今何時なんだろ。というか、体の調子が凄くいい。ぐっすり寝たからだろうか。

かつての、胃カメラ検査を思い出す。なかなかカメラを飲み込めず、麻酔してもらったのだ。麻酔から覚めたら、凄く体が休まってて気分爽快になった。

今まさにそんな感じ。


「・・・もう一度寝るか」


ジニィは起きる様子がない。

尻を撫でるのを止めて、ジニィの横でもう一度横になる。


しかし、昨日はひどい目にあった。寝てたら布団に潜り込まれて、こいつの感覚を無理矢理体験させられて。一瞬で意識が飛んでしまった。


・・・確か、護衛がどうとか言っていたか。俺は危険だと。


確かに、溜めこんだ状態でイセに体を貸すと、この間のようにイセが暴走する危険性がある。

ジニィがいう危険とは、俺がイセを襲うことを言っているのだろう。


だけど、それはない。


なぜならば、俺が襲っても、イセに反撃されて負けるからだ。

と、いうか、そもそも俺には嫁と子供がいる。積極的に襲うワケがない。


だから、


それはそれとして、最近、色々と誘惑も多い。処理した方がいいんだろうなぁ。

中学生の心配以前に、まずは自分だったか。


でも、ここ、ネットも本もない世界。風俗は病気が怖くて行けない。こいつのアレは、おでこを引っ付けるだけだから、あれはいいかも知れない。


不倫には、当たらないだろう。

ぜひ、定期的にやってもらいたい。


だが、まあ、そんな都合のいいことは無理か。

というか、廃人になりそうだ。アレ・・やり過ぎると・・あ、寝そう・・・2度寝って気持ちいい・・・


ふわぁっと。いい匂いが鼻腔びくうをくすぐる。顔の皮膚に髪の毛がかかる。


んん・・・誰かが、俺の上にいる感覚。


せっかく寝れそうだったのに・・・どうせジニィだろ。


重たいまぶたを開ける。やっぱりジニィだ。


「おじさん。本当ですか? 私でいいならぁ。定期的に処理してあげます」


ジニィが本気で嬉しそうな顔をしている。


「・・・何の話だよ」


心の声が漏れていたのか?


「何って、この、いけず、ぽんず」


「なんだよそれ。そうだ。ぱんつは? 俺のぱんつはどこにやったんだ?」


「ああ、それはですね」


ジニィは何もない空間に手を突っ込む。アイテムボックスか!?


「はい。ぱんつです」


手には2枚のパンツが。1枚は自分のだろう。


ん? 閃(ひらめ)いた!


「そうだ! お前の感覚同調。それを使ってアイテムボックスを使うコツとか、掴めないかな?」


「あ! なるほどぉ・・・でも、なんか、ずるのような気もしますけどぉ? まあ、いいでしょう」


・・・・


アイテムボックスは簡単に習得できた。


今度、あのすり抜ける技も伝授してもらおう。

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