第65話 おっさんvs大砲娘 7月上旬

「そこまでよ! この変態! そこに直りなさい!」


「ち、痴女!?」


くっ、こいつは、なんだ? 痴女!? 痴女なのか? こんな街中でほぼ下半身丸出しの女が現われた。

俺もマントで顔を隠した状態なので不審者っぽいけど。


「だぁ~れぇ~がぁ~痴女かぁ~~~~~~~~~~~~!」


30個くらいの石の塊が飛んでくる。発動が早い。


でも、けん制攻撃?


魔術の訓練を受けていない俺でもだんだん解ってきた。この攻撃は発動が早いが威力はない。

こいつは痴女に見せかけて意外と冷静なやつだったらしい。


一応、避ける。スケート走法だ。

というか、ここは野球場だ! ホームベースを起点とするダイア型!

そしてこの芝生のカット! なぜ野球場がこんな所に?


「こんのぉ~!」


ランチャーが現われる。


かつて、ガイアが出していた物よりも長い。それが3本。


「はぁぁぁああああああ!」


ガイアの時は、おっぱいの大きな人との合わせ技だった。今、こいつは1人で操っている。


というか、コレは殺人級だ。つまり、相当堅い障壁のヤツでもコレを食らえば、障壁を破られて死ぬ。


つまり、こいつは街中でそんな物をぶっ放そうとしている。


後方を確認。射線的にこれを避けたらあの屋敷に当たる。あの屋敷には晶がいた気がした。


そして、あの屋敷の先には我がアパートがあるのだ。大勢の人と、息子と嫁がいる。


「これで~~~どうだぁああ~~~~~~~~~~~! しっねぇえええ~~~~~~!」


前言撤回。こいつは冷静な痴女、ではなくて単なる馬鹿だ。


ドドドォォォン! ボガァァン! ガガガン!


全弾受け止める。この程度では俺のバリアはびくともしない。

最近バリア1枚あたりの強度がかなり強くなった。さらに、イセとの戦闘のせいで、魔術の威力も、だいたい読めるように。

というか、こいつは最後の一発に爆発型の砲弾を混ぜていた。

障壁を破った後、中の人を確実に仕留めるための技、『死ね』と言ったのはそのままの意味だろう。


「へぁ!? 馬鹿な!?」


馬鹿はお前だろうが、この馬鹿がぁ!


「お前はぁぁぁああ~~。何処に打ちよっとかぁぁぁぁああ! ヒトにあたるだろうがぁぁぁ~~~」


バチィーーーーーン!


異世界に来て鍛えた接近戦闘術。一瞬で肉薄して魔力を抜き取る。そして、むき出しの尻を平手でぶっ叩く。


触手を使う必要すらない。


「ギャアアアアアアアアア~~~~~~~~~~」


「うるさい! 騒ぐなぁ~~~~~~~~!」


とりあえず、こいつを触手でぐるぐる巻きにする。

ちゃんと優しく巻き取る。本気でやると潰れる。


触手を操作してケツを打ちやすいポジションに。軽い。貧相な体だ。ケツだけは叩きやすいように、丸く肉が付いてるけど。


バチィーーーーーン!


「ギャアアアアアアアアア~~~~~~~~~!」


「騒ぐなぁ~~~うっせぇ~~~~~~~~!」


バチィーーーーーン!


「っギャアアアアアアアアア~~~~~~~~~!」


「これでも騒ぐつもりか~~~~~~~~~~~!」


バチィーーーーーン!


「っギャアアアアアアアアア~~~~~~~~~!」


なんだこいつは、マンドラゴラか? ご近所迷惑だ。いや、ここは周りには何も無い。


「これでもぉ、騒ぐつもりか~~~~~~~~~~~!」


バチィーーーーーン!


「っギャアアアアアアアアア~~~~~~~~~!」


なかなか騒ぐのを止めない。


「おらぁあああああ~~~~~~!」


バババババパパパパ バッチ! バッチ! バッチ! バッチ! バババババパパパパ 


こいつのケツを太鼓に見立て、達人のごとく叩きまくる。


「っギャアアアアア~~~~~アァああああっあうぇあうぇひん。ひん。ひん。ひん。ひん。ひん。」


やべ。こいつ泣いた。逃げよう。晶も我が家もきっと無事だろ。


「な、何をやっているの、おじさん? シス? 大丈夫なの?」


「ひん。ひん。ひん。ひん。ひっう、うう、うえぇえ~~~~~~~ん」


は? 晶? 綾子さんに、お月ちゃんに加奈子ちゃん? なんで?


「こら泣くな。俺が悪いみたいだろ。お前が大砲撃ったんだろうが、なあ!」


ケツをペチペチ叩きながら言い訳してみる。


「うう、うう、ううう、ううっ」


下唇を必死でぷるぷるさせて泣くのを耐えている。

何だかすこし可愛いと思ってしまった。


・・・・


俺達はバルバロ邸にいた。ここは我がアパートの隣。廃屋と思っていた場所。

いつの間にか改修していたらしい。ここがバルバロ邸とは知らなかった。妙な縁もあるものだ。

そして、今いるここは、畳部屋。日本人の関与が疑われる。さっきの野球場も。

その辺の突っ込みは置いておいて。


「では、この子はバルバロ家の寄子の男爵さんなんだ。バルバロ辺境伯の寄子のメイクイーン男爵家のご令嬢だけど、本人も男爵さんのシスティーナさんかぁ。貴族の関係も難しいね」


「もう、おじさん何をやっているの? 理由は聞いたけどぉ」


「おじさんは一応、娘一人を育ててるんだぞ? 悪さをした子を叱るのは、お尻ペンペンくらいがちょうどいい。殴るわけにもいかんし。それに、魔術使いは大砲とか火炎放射器を内蔵しているんだぞ? 縛らないと危険だし」


システィーナは今は落ち着いて、いわゆる体育座り状態。いじけているんだろう。

それから、服もちゃんと着た。


一応、俺が魔術を使って飛んで帰ってきたこと。システィーナに襲われて反撃したこと。などは説明している。


それから、風呂を覗く格好になった件については怒られた。


今、俺たちは畳部屋に座りながら駄弁っていた。俺以外、みんな風呂上がり。


ここでお世話になっている、晶と木ノ葉加奈子ちゃん。

それから綾子さんとお月ちゃんがいる。今日の居酒屋は夜の部がお休みで、お風呂借りに来たんだと。

女性組とは別に、エリオット・バルバロと名乗る少年と、他知らない男女2名がいる。この世界の人っぽい。


「あ、あんたさぁ。シスちゃんも女の子なんだからさ、少しは手加減したらどうだったの?」


「いや、綾子さん。こいつの撃った大砲は普通の人なら死んでいる。建物に当たっても、相当の被害が出ていたはずだ」


システィーナと呼ばれた少女の方を見る。とても不機嫌そう。


お月ちゃんはにこにことしてこのやり取りを見ている。何が楽しいのだろうか。


「・・・・この変態が」 反省いていると思っていたシスティーナがぼそっと悪態をつく。


「あん? 最後までやるか? ケツ割ってやんよ」 ムカっとくるので挑発する。


「ちょっとアンタ!?」 綾子さんが止めに入る。


「私はあんたを殺すつもりだったのよ? なによ。それ。それじゃあ、私が惨めじゃない! うう、ぐず、う゛う」


また泣くの我慢モードに。それやめろよ。俺が悪者みたい。


「シス。はいはい。よしよし。多比良のおじさんは強いって言ったでしょ。それなのに貴方は。いきなり飛び出して行くんだもん」


晶がシスティーナと呼ばれた子を抱きしめて慰めている。


「う゛えぇ。ごべん、アギラぁ。くやじい。くやじぃよぉ。こんなおぢさんに。ぐぶっうぷっ。おえ」


やばい。こいつ、嘔吐えずきだした。

この子は、尻をぶたれたことではなく、負けた事がくやしい様子。

負けずぎらい? 自分から戦いを挑んできたくせに、負けたら泣くとかとても面倒だ。

だけど、ここは女子率が高い。おっさんは不利だ。


「システィーナ。俺に負けたからってな、気に病むな」


「ぐずん。なによ」


「そこの晶はなぁ。俺に勝つほど強いからな?」


晶には負けた。それは事実だ。この小娘は面倒くさそうなので、晶になすり付けることにした。


「へぁ? あきらぁ? あなた、強かったのぉ?」


シスさんが晶の方を向いて顔を近づけている。


「へ? おじさん? 何を言って? え?」


あのシスティーナという少女は、多分、戦闘中毒若しくはバトルジャンキー。目の前に強敵を設定してやれば、ベクトルがそこに向くはずだ。俺のことなんてすぐに忘れるだろう。


「あぎらぁ。ぐす。私と、練習しよ。魔術戦闘。野球も頑張るからさぁ。ぐずっ。ふん。ちー~ん」


「ああ、はいはい。シス。分かったわ。おぢさん? 今度、話しをしようね?」


「分かったよ晶。じゃっ! お休み。綾子さんとお月ちゃんも」


「・・・お疲れ」「お休みなさい」


綾子さんはジト目っぽい感じで見送ってくれる。お月ちゃんは、とてもニコニコしている。


「加奈子ちゃんもお疲れさん」


「あ、はい。お疲れ様です」


この子はうちの息子のガールフレンド。親御さん無しでここに来て、それでも腐らずに頑張っている。


境遇に同情して、色々と世話を焼いている子である。

親御さんが居ない割には落ち着いている。今時の中学1年生、こんなもんなのかなぁ。


・・・・


「ただいまぁ~~」


「あ、お父さん」


久々の我が家。玄関をくぐると、息子の志郎がテーブルで水を飲んでいた。


「お母さんはどうしたんだ?」


伝言板件カレンダーを見ながらなんと無しに聞いてみる。さて、桜子のことをどう説明するか。


「お母さん? 寝てる」


「そうかぁ」


時間は21時、夜中の9時を回っている。ここの社会は夜は早く朝が早いから、寝てておかしくはないか。


嫁はアパートの一番奥の部屋に陣取っている。


そろ~と、ドアを開けてみる。俺は単身赴任をしたことがない。なので、なんやかやと俺は嫁とずっと一緒に住んでいる。20日以上離れたことはない。


・・・嫁が寝てる。


「・・・チッ」 起きてた。


扉を閉じる。嫁は、口をきいてくれないとはいえ、舌打ち、ため息のほか、臭い、死ね、汚い、はあ? などの単語は発してくれる。


「お父さん何処行くの?」


「ちょっと出てくる。晩ご飯まだなんだ」


「行ってらっしゃい」


・・・・


俺はなんのために働いているのか。何のためにぽんこつや鬼2体の猛攻に耐えたのか。


涙が出そうだ。


一人で夜の街に繰り出す。

この街は治安がいい。一人で普通に歩ける。というか、みんな魔術障壁を持っているのである。襲う方も大変だろう。

タマクロー家の政治が優秀、というのもあるんだろうか。


ちなみに、夕飯を食べていないのは嘘だ。今日はディーと食った。

寂しいのでどこかお姉ちゃんのいるお店を探そう。

それっぽい店にはあたりを付けている。


綾子さんと祥子さんのお店『日本居酒屋』。その隣の建物は丁字路の角になっており、横道にそれると、それっぽい看板が立ち並ぶ。


『夜の水魔術屋 性処理コースあり』『のぞき部屋 性交渉がのぞけます』『生物魔術マッサージ 性感コースあり』『触手の館』『ウサギまみれ』『女騎士クラブ』『数珠つなぎ』『前から後ろから』『セーラァ服と一晩銃』『あなた許して』『俺の穴』


ここは、覗いた後にお風呂も兼ねて水魔術屋のはしごコースだな。

謎の横町に1歩を踏み出す。


「あら? 多比良さんじゃない? どうしたの?」


いきなり首にがばっと腕を回された。


「・・・徳済さん。こんばんは、いえ、ヒマなのでちょっと」


『診療所』の徳済多恵さんが現われた。お隣には祥子さん。綾子さんと一緒に居酒屋を開いた人だ。


「ヒマなら一緒しなさいよ。今日は日本居酒屋、夜がお休みの日だから、祥子と飲み歩いてんのよ。いい? 祥子」


「私ならいいわよ?」


「じゃ、そういうことで」


徳済さんが俺の腕を取って、無理矢理連行。この人、小さいけれど、結構胸がある。


「あの手の風俗はダメ。怖い性病になるわ」


真顔で脅され、バーに連行。バーの給仕係が美人で巨乳だったのは徳済さんの優しさだったのかも知れない。

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