第33話 玉城晶 学園編 メイクイーン男爵登場 5月下旬

「あら、田舎貴族の八男風情がこんなところで何しているのかしら?」


エリオットが、『ここから中央棟に行くのなら、この道だよ』なんて言うからついていったら、知らない女性2人に絡まれた。


彼女たちは、間違いなくこの世界の女性。二人とも背が高くお人形さんみたい。ふりふりのスカートだし。バルバロ辺境伯を”風情”っていうくらいだから、この人たちもたぶん、貴族なんだろう。それに、エリオットって、八男だったのね。


「あなたたち、日本の方でしょう。そいつはどうしようもない田舎者よ。戦いにも弱いし。この間の戦いでは民間人の死者まで出して。何が武闘派よ。クズじゃない。この税金泥棒が。よくもこの学園に顔を出せたわね」


「いいこと? そいつ。日本人に声を掛けまくってんのよ。仲良くなって、家に連れて帰る為にね。でも実家が田舎すぎて、これまで誰にも相手にしてもらえなくってさ。もう辺境に帰ったのかと思ってたところよ。あなたたち、危なかったわね。もう少しで辺境送りにされるところだったわよ」


「僕はそんなつもりじゃない。もし、来てくれるんなら、こんな嬉しいことはないけど」


「言い訳は聞きたくないわ。ほら、あんたたち、私たちが助けてあげるわ。どうせ、シラバスの情報あげるとか言って釣ったんでしょう。シラバスなら私たちが手伝ってあげる。それにね、こいつのバルバロ家はタマクロー派よ、勇者嫌いで有名な、ね。こいつについて行っても良いことないわよ? 冷遇されるだけ」


「!タマクロー」


ちびっ子その1、志郎くんが”タマクロー”に反応した。たぶん、この子は今がどういう状況なのか理解していない。


「そう。勇者嫌いのタマクローよ。このサイレンで日本人が働きたいなら、私たちのブレブナー派か、ランカスター派にしておきなさい。ここの社会では、学生付き合いでも、どの派閥に所属しているかが重要なのよ。こいつと一緒にいると田舎者とみられるわ」


「タマクロー。お父さんが働いているって言ってた。タマクロー、触手、タマクロー」


志郎くん。単にタマクローっていう響きが気に入っただけなんじゃ。この状況でこの余裕。この子、案外大物かもしれない。あと、しょくしゅ? 触手って言った?


「な、何よこの子は」


「志郎君、その話は本当かい? サイレンのタマクロー家には僕の姉上も働いているんだ、もし良ければお父さんに姉上を紹介するよ」


エリオットが息を吹き返した。


「田舎者は引っ込んでなさい。ぶつわよ。それで、あなたたちはどうするの? 日本の人たちはみんな優秀だって聞いたわ。今はいろんな貴族家がアプローチしているはずよ。そのために学園に子弟を送り込んでいる所もある。私たちは同性だし、まあ、その子は男子みたいだけど、どうかしら。私たちと一緒に行動してみない?」


「そんなぁ。僕がせっかく仲良くなった人達なのに。それにタマクロー公爵が嫌っているのは先代の勇者だよ。この子たちは勇者じゃなくて日本人」


「おだまり!」バシィ! ドム!


あ、手を出された。え? 魔術障壁は?


「あっ!? やめてぇ」


「オラぁ!」バシッ! 「あぁ」 「ソぉレぇ!」 パアン!


ひどい。頭を蹴っ飛ばされてる。けど、なんなの? これ。

女の子にぼこぼこにされるエリオット。でも、あんまり効いてないような。


「ほらぁ。脱がせてあげるわ。アンタは頭を抑えて」


「分かったわ。ほらぁ。アンタは私の匂いでも嗅いでなさい!」


・・・顔の上に座られてるし。本気で抵抗したら逃げられそうだけど。必死でもう一人の子にズボン脱がされるのを耐えている。


「ほらぁ。こいつは腰抜けなのよ。田舎者の腰抜け。分かったかしら? それで、どうするの? 本当に、バルバロだけはやめておいた方がいいと思うけど? ほら、もうすぐ汚ったないブツが出てくるわ」


「むぐぅ。むぐぅ。むぐぅ。!? む~~~~~~~~」バタバタバタバタバタバタ


エリオットが女の子のお尻の下で窒息しかかっている。足をバタバタさせて抵抗しているけど、足の方にも別の女の子が座っているため逃げられない。

まさか、楽しんでないよね? エリオットくん。


何だか迷ってきた。この女の子たちについて行こうとは思わないけど、エリオットの方が軟弱すぎる。これからもこういうことが続くと思うと、頭が痛くなる。

そして、隣のルナちゃんの目つきが怖い。喧嘩しださないよね。この子。


「待てコラ! やっと見つけたわよ。エリオット! どうしたの? 何があったわけ?」


「むぐぅ。ぷはぁ。シ、シスぅ~~助かったよ~。こいつらが僕の友人を奪おうとするんだ」


「友人って、こちらの日本の方? いつの間に友人になったのよ。それよりも何、あんたお尻に敷かれてんの? 悔しくないわけ? おい。あんた達。とりあえず、詫び入れろ。話はそれからね」


なんかすごいのが出てきた。

金髪のツインテールがもっふもふしている女の子。気が強そうな顔つきだけど、とても美人。というか、どうやったらあんな毛量と巻き毛になるのか理解に苦しむ。そして、スカートをはいているが、どこか垢ぬけてないって感じ。それから、体が細い。顔と髪は派手だけど。


「あらぁ? これはまた超ド田舎の娘が出てきたわね。メイクイーンさん? この間は怪物にお城がめちゃくちゃにされたんでしょう? それに、きったない服ねぇ。お洋服を買うお金もないのかしら。この、貧乏ド田舎の男爵家風情が。こいつを連れて消えなさい。目障りよ」


「あら。なんか聞こえたわね。伯爵の小娘風情が、この私に逆らう気?」


「な、なによ? やる気なの? このサイレンでブレブナーに逆らえばどうなるか。うぐぅ!」


早い! そしてグーで腹パン? いいの? 貴族うんぬんの前に人として。障壁なんてほとんど無視して思いっきりおなかにパンチ入ってるし。


「こっちのブスにもぉ!」


「え? 何、何よこの娘。やめなさい。ぎゃぁ!」


今度は、頭をつかんで膝蹴りをおなかに!


女の子2人はおなかを押えて呻いている。


「1万、よ。最近、私が殺したモンスターの数。私をどうこうしたければ、軍隊を連れてきなさい」


な!?

貴族のことはよくわからない。分からないけど、男爵が伯爵殴って軍隊連れてこい? まずくない?


隣のルナちゃんは目をきらきらさせているし、志郎君は目を見開いて、口をぱくぱくさせている。この子もさすがに驚いたみたい。


(だがしかし、この時、志郎はある記憶を思い出していた。それは、父親が新築の家にテレビを買ってきたとき。自慢の大画面。父が嬉しそうにアニメのDVDを借りてきての鑑賞会。その中に出てきたキャラクター。あれは、確かなんと言ったか。両腕と体が回転して地面を掘り進み、必殺技を叫んで敵を倒す。とても興奮した記憶がよみがえる。目の前の少女の髪型は、あのヒーローの姿に酷似していた)


「ドリル!」


「なに言っているの?志郎君?」


「ドリル!」


「なんなの? ドリルって?」


「ドリルはロマンって、お父さんが言ってた」


多比良のおじさん。この子に一体何を教えたの?


「まあ、いいわ。エリオット。行くわよ。あなたたち、どうするの? 私たちと来るの? ここに残るの?」


「ついて行こうよ。先輩。絶対面白いって。こっちの方が」


「ドリル!」


「シロ君。それやめなよ。たぶん、違うドリルだよ」


「いや、加奈子ちゃん。多分合ってる。だけど、直接言ってはいけない言葉だと思うの」


とりあえず、私たちは、この不思議な少女について行くことにした。


・・・・


「しかし、エリオットも情けないわねぇ。あんな小娘たちのどこが怖いっていうのよ。まさか、楽しんでたんじゃないでしょうね」


「ごめんよ~シス。苦手なんだよ。ああいうタイプは」


「まあ、いいわ。私は、システィーナ。システィーナ・メイクイーンよ。メイクイーン男爵の長女」


「玉城晶よ。こちらは、小峰月ルナ、多比良志郎、木葉加奈子。助けてくれてありがとう、になるのかな? でも、いいの? 貴族のことはよくわからないけど、男爵が伯爵に手を出すって」


「大丈夫だって、子供の喧嘩にいちいち親なんて出てこないわよ。それに私の寄り親というか、こいつはバルバロ辺境伯家の男子なのよ? 八男だけど。辺境伯って、一応、伯爵と同格、考え用によっては公爵レベルに権力のある爵位のはずなんだけど、この一族がぽんこつすぎてなめられてんのよ」


「シスぅ~~」


「それにね、前回のスタンピード。うちの領土の隣で出たのは知ってる? 私はその時の戦果で爵位をもらうことになっているの。私本人がね」


「伯爵の娘より、男爵の娘であるあなたのほうが格上ってこと?」


「そういうこと。私は男爵家の娘であり、男爵本人でもあるのよ。この話、あいつらが知ってたかどうかは知らないけど。それでぇ~。私たちと一緒に活動するの? 一応、言っておくけど、うちがド田舎で貧乏なのは本当よ? うちの辺境にはお米以外な~んにもないわよ? 私と一緒にいるってことは、あなたたちもそう見られるわけ。それでもいいの?」


「私はかまわない。親なし貧乏だし」「私もいい。楽しそう」「僕もいい。ロマンだし」「私もいいかな」


「了解。では、私たちはお友達ね」

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