第22話 王城最終日 お買い物 異世界10日目 5月中旬
紹介された店には、いろんな種類の品物が並んでいた。ここは、古着屋というか、『古着も扱っているリサイクルショップ』のようだ。
訳の分からない物がずらっと並ぶ。
その一角に、長い棒を扱っているスペースが。
こ、これは釣り具。ここは釣り具コーナーだな。間違い無い。異世界にもアングラーがいるのか。
俺の趣味は実は釣り。サイレンに行って落ち着いたら、こういったレジャーに勤しむのもいいかもしれない。
だが、予算は一万
とりあえずの目的は、フランさんのアドバイス通り、騎乗ズボンとマントだ。
でも、調度品やら靴、サンダル、用途不明な物品、色々と並んでいる。やばい、異世界リサイクルショップ楽しいかも。
・・・・
騎乗ズボン、発見。
手に取って、確認してみる。
ズボンのお尻の部分と内股の部分に分厚い皮。間違い無くこれ。
ポケットもファスナーも何もないシンプルな造り。日本で言う柔道着みたいに、サイドにスリットが入っている。ズボンをはきやすくしているのだろう。
止め方は、腰紐タイプ。この辺も道着ズボンっぽい。あんなにダボダボではないけど。
「こんにちは。ズボンをお求めでしょうか。私はこの店の店主でございます」
お店の人が話しかけてきた。日本のリサイクルショップではあまり見かけない行動だけど。ここは店長自ら案内してくれるようだ。
「ああ、はい。すこし騎乗する用事がありまして」
「なるほど。貴方は日本の方でしょう? 明日はサイレンまで移動されるとか。騎乗されるならズボン。それからブーツなどをお勧めしています」
「ブーツもいいのですか? 騎乗には」
「はい。足首まで固定されるタイプの靴が楽でいいですよ。一日中乗りますからね。隣町までの移動は」
「ほう。でも中古の靴って抵抗が」
「うちの靴は、中古なのは素材だけですよ。みんな一旦ばらして、靴底は新品か削るかして、新品同様に仕上げてます」
「へぇ。そうなんだ。俺、中古屋さん初めてだから。ただ、予算は1万が限度」
「1万ストーンですと、ブーツは厳しいですね。購入できますのは、騎乗ズボン一着でしょうか」
騎乗ズボン高! だけど、ここは日本みたいに大量生産大量消費ではないだろう。手作りなら、中古でもそんなものかもしれない。
「ブーツは無理か」
「ですが、うちはブーツが自慢でして、それに、お客様は、その、異世界の方ですよね。何か珍しい物をお売りになられれば。その」
彼の目線が俺の腕時計に注がれる。
「ん? 時計? これは売れないかな。ここの時計は大きいのしかないって聞いたし。腕時計がないと困る」
この辺の話は噂で聞いた。確か、高値で時計を売った日本人がいたとか?
「いや。腕時計は”例えば”の話ですよ? うちもいくつか仕入れましたので、ご無理は言いません。他に何かあれば、勉強させていただきます」
「ん~ 例えばだけど、これとかは?」
俺は、たすき掛けのポーチから、ボールペン2本を取り出す。
ボールペンは、弓道部が魔力兵装のコアに使ってた。価値が付くかもしれない。
俺のポーチにはボールペンが3本、シャープペンが1本。
そのうち、2本のボールペンは、文字が熱で消えるタイプ。そこそこ使っているので、もうすぐインクが切れる。俺が持っていても、しょうがない一品だ。
「これ? でございますか? これは、ちなみのどのような?」
「これは、本来、文字を書く道具。でも、インクがもう切れかけてる。だけど、これで魔力兵装が出来るみたいだけど」
「はあ。試してみてもよろしいでしょうか?」
・・・・
「お待たせしました」
俺がリサイクルショップを物色していると、先ほどの店長が戻ってきた。査定が終わったようだ。
「こちらは確かに珍しい触媒ですね。かなりしなやかな魔力兵装ができるようです。武器になるかはわかりませんが、色々な用途が考えられます。買い取り価格ですが、そうですね。1つ2万、合計4万でどうでしょう」
一応、即答せずに交渉開始。彼らにとって、これはもう手に入らないものなのだ。
「好事家とかに転売できませんか? あなた方にとっては、かなり珍しい物ですよね?」
「確かにそうなのですが、裏方で試しましたところ、”しなる”だけで用途が限られるとか。鞭にはよいかと思いますが」
「基本、それは売ってもいいかなとは思ってるけど、もう一声!」
「う~ん。そうですね。こちらでお買い物される品物に”色”を付けるというのはどうでしょうか」
・・・・
試着しまくった。
とりあえず、ズボンはぴったりのヤツを5000ストーンで購入。裾直しはサービスで即刻対応。
しかし、店長も負けじと商売開始。
「こちらのブーツは、極楽蛇の皮で出来てございます。とても縁起のよい蛇で、通気性、耐久性に優れているだけでなく、若干の伸縮性も備えております。それの編み上げブーツです。かかとに入れる柔らかい樹脂と皮のケアセットを付けて、本来5万ストーンのところ、3万でどうでしょう」
このブーツは、グレーを基調に、斜めから見ると少し輝く部分のあるとても綺麗なブーツだ。はいてみてぴったりのサイズがあったし、本当に通気性が良さそうで、とても欲しくなってしまった。
「ズボンも買うし、もう一声」
俺の全財産は、最初に貰った1万と、ボールペン2本の4万。合計5万だ。
ブーツとズボンで3.5万だが、もう少し粘る。
「そうですねぇ。この時期に最適なマントもお付けして4万というのはどうでしょう」
お? マントか。
「こちらは マ国の人外魔境に生息するリバーサーペントの皮で出来たマントです。白黒のギザギザ模様が美しいと評判の蛇ですが、その皮は表面は水を通さず、ですが内側からは湿気を通す素材で、雨の時にも活用出来ますし、耐久性にも耐火性にもとても優れています」
なんだよ人外魔境って。
「そんなよい素材が5000?」
「実はこのマント、品物自体は文句なしの良品なのですが、事故物件でして。裏側に血が付いています。新品なら10万ストーンはくだりません」
血? 何それ怖い。
俺は、それを手に持って、『ばさっ』と広げてみる。
確かに柄は白黒ストライプがキザギザに入っている。じっとみると、遠近感がおかしくなる。
次に少し羽織ってみる。
結構大きい。大きめのポンチョみたいな感じかな? かっこいい。
確かに湿気が籠らない。いいな、これ。風避け、ちょっとした雨避け、紫外線避け、これが5000ストーン。とてもお得な気がする。
「血はどの辺?」
「ここですね。ほとんど目立ちません」
血痕なんて全く解らない。これは買いか? 柄が気に入った。
「う~ん。あそこにある麻布っぽいやつ付けてくれたら買う」
「ジュートのことですか? お買いいただいた方にはお配りしていますので、数枚ならいいですよ」
「うし。買ったぁ!」
「ありがとうございます。では、実質は、先ほどの棒と、我々からは、ブーツ、騎乗ズボン、マントを交換という形になります」
「はいはい。ところでさ、日本人が売ったていう時計、どんなやつ?」
「はい? 確認されますか? 少しお待ちください」
俺は、少し気になったことを確認することに。
・・・・
「こちらになりますが」
そこには高級そうなトレーに、3つの腕時計。
はぁ~やはり。
「手に取って見ても?」
「はい。どうぞ」
俺は、3つの時計を裏返す。
3つとも裏側のパネルがネジで留めてある。そして、”Made in アジアの外国製”
water proofの文字さえないものもある。
どう見ても乾電池式の安物だ。日本で買うと、3000円から下手すれば100円だ。
「これ、買い取り額は?」
「申し分けありません。それは、お伝えできませんが、何かありましたでしょうか」
「いや、貴方にはお世話になったし、同じ日本人が売ったものの価値が気になって。でもまあ、この世界に無いっていう時点でプライスレスなんで、とやかくは言わないけど。でも、こいつは全部これから2年経たずに止まる可能性が高い。下手すると明日にでも止まる。そして、こちらの時計は水につけたら壊れる。時計として売るなら気を付けてください」
「は? いや。まさか、そんな」
店長が真っ青になる。
はは~ん。結構払ったな? この人。
「日本人の腕時計は太陽の光で半永久的に動くとか。最初に別の店に持ち込まれた時計に対し、大物貴族がかなりの値を付けられたので、私どもも結構な額を投じましたのに」
「太陽で動くヤツは、太陽電池といって、ここのところが黒くなってる。最近のヤツは見た目でわかりにくいけど、基本的に色は黒。ここにある3本は、間違い無く太陽電池ではなく、カートリッジの乾電池式。2年に1回くらいは中身の一部を変えないと動かなくなる。まあ、裏側にネジがあるやつは大概安物」
「なんですと?」
俺は、自分の時計を外して、貸してあげる。
「ほれ、針がある面は深い黒。後ろにネジは無いですよね? 腕時計を知らない人でも、こちらの方が丈夫だと分かるはず」
「本当ですね。重厚感と細部の精密さが全然異なります」
とはいえ、俺のは
5万もしないくらいの時計だけど。
「これ、日本人にだまされた?」
「いえ、当店に来られた日本の方は、単に腕時計であるとしか。我々としては全て同じものと思いまして、これを逃すともうチャンスはないと思い、購入を決断してしまいました。完全に我らのミスだと思います」
これでは、売った日本人も、だましたのか、思いのほか高く買ってくれてラッキーと思っているのか解らない。ただ、腕時計は、この世界にとって唯一無二の製品だ。書けないボールペンにも価値があるのだ。動かない時計も、価値はあるのかもしれない。
「いくらで買ったか知らないけど、気を付けた方がいいと思います。時計として下手なとこに売ったりしたら、大変なことになるかも」
「ええ、貴族に売った後にすぐに壊れたとしたら、大変なことになったでしょう。貴族になら、ね」
こいつ、どこかに横流しする気か?
「まあ、あなた達がどこで何を取引しようと、俺は関係ないけど」
ついでに、
「・・・とても参考になりました。この話、しばらく秘密にしていただけると、その」
「言うつもりは無い、と言ったら?」
「本日お買い上げの商品は無料に。先ほどの棒2本は倍の値段で買い取りをさせていただきます。ついでにこちらの靴下セットと手袋の方も、好きなものを1つずつお付けします」
「まいど!」
情報は金なり。
彼は、貴族に粗悪品を売ってしまうというミスが回避でき、うまくいけば同業者に転売して損益を回収することも出来る。さらには、ほんの初歩的なことだが腕時計の目利きの知識を得た。
数万ストーン分の商品を無料にするくらい、安い物だろう。
俺はそう思うことにし、商品と8万ストーンを受け取り、お店を出た。
さて、嫁達と合流だ。
俺は、荷物の入った麻袋を抱え、反対側の武器屋に向かう。
・・・・
お店に入ると、まず、防具類が目に飛び込んできた。
ここ武器屋では?
まあ、攻撃用の武器と防具が別々の店、という自分の発想が古いのかも。
気にせず嫁らを探すと、鎧コーナーで発見。
ヘルメット、膝当て、肘当て代わりの防具を物色しているようだ。
日本だったらそれも必要そうだが、ここでは魔術障壁がある。不要だと思うけど。
まあ、値段次第か。
「よ!」
「あ、お父さんが来た」
「防具買うのか」
「うん。落ちたら怪我するから」
「そうか~」
値段の数字を見ると。値段は数千ストーン台のようだ。まあ、このくらいならいいだろう。1回しか使わない可能性大だけど。
「お父さんは何買ったの?」
「お父ちゃんは、ブーツとズボンとマントとか」
手に持った麻袋を掲げてみせる。
「沢山ある」
「半分くらいは麻袋だけどな。部屋にある服を入れようと思って」
「ふ~ん」
・・・
この後、息子の志郎と、木ノ葉ちゃんは、体に合った防具類を購入。
「さて、と。みなさん戻りましょうか。これから帰って荷造りしていれば、すぐに送迎会の時間になりますからね」
買い物終了。
我ら1年1組、約30人くらいの集団は、買い出しを終えて宿舎のある王城に向かうのだった。
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