第12話 異世界講義 トカゲ騎乗 異世界3日目 5月上旬

異世界生活3日目の朝。


日本人600人に思ったほどの混乱は無い。


昨日、息子は、別れてからひたすら魔術障壁の練習をしてきたそうだ。

教導官のかけ声に合わせて、広域魔術障壁を張っていくのだそうな。今日もまた、同じメンバーで集まって、強度や効果範囲などを調べるとか。


嫁の方は、よく分からない。気づいたら帰ってきてた。


俺は、今日もDチームで空手の練習を行う予定。そのために、古着の中から道着っぽいのを見つけてきた。

兵舎には、我々のために大量の古着が集められていた。その古着は、自由に貰ってきてOKなのだ。


・・・・


朝のルーティンを終えて、授業部屋に入る。トイレはいつもの快適トイレで済ませた。混まないし綺麗なのでよい。場所は秘密にしている。


今日も午前中は、全員で講義を受ける。教導官は、昨日と同じく、糸目の女性。


「は~い。皆さん。今日は、モンスターについての講義です。人類の天敵とも呼ばれるこの存在は、文献が残っているだけでも、およそ3000年前から確認されています。歴史のお勉強は時間がかかるので、詳しくは皆さんが学園に移動してからとなります。ここでは要点だけ。今からおよそ3000年前に”大破壊”と呼ばれる今とは比べものにならないくらい大規模なスタンピードがありました。その際に、人類の大部分が死滅したと言われています。施設とインフラ、文献や記録も大部分が破壊されてしまいました。そのため、実際に何が起こったのか、また、それ以前の人類の生活はどうだったのか、知る術がありません」


大破壊。このイベントが多分、この世界の文明に大きな影響を与えたのだろう。

恐竜は生き残っているのに、一方の人類は滅亡しかかった。

そして、どこかアンバランスな文明。機械が無い。魔術はある。中世かと思えば、衛生観念は高い。勇者召喚なんていうびっくり技術もある。絶対王政かと思えば議会制だし、我々に対してとても寛容、すなわち人権意識がある。

召喚された日本人を従わせようと思ったら、子供を人質にとったり、監禁の上に洗脳など色々考えられるはず。でも、それはしない。


「それで、このモンスターですが、活動パターンが2つあります。すなわち、野良のモンスターと、スタンピードのモンスターです。 野良のモンスターは、城壁の外にランダムで湧きます。倒しても倒してもいつの間にか湧いています。この野良モンスターですが、一定数倒すとその地域のモンスターが一斉にリポップするようです。野良モンスターは、基本的に止まっているか、リポップした周辺をうろうろするだけで、長距離の移動はしません。ただし、人間や文明的な建物を見つけると、途端に反応して襲いかかってきます」


モンスターは、その存在自体謎だ。雄雌ある動物でも無く、何のための存在なのか。何故、人間を襲うのか。それに、ここは恐竜が絶滅していない。ならば野生動物は襲わないということなのか。なぜ?


「そして、スタンピードモンスターは、野良とは違って各地に発生する”転移門”から出現します。この転移門が出現するのは9月ですね。そして、毎年、3月、スタンピードモンスターは、この転移門を通って地上に出現し、人間の居住地域に向けて突撃してきます。”何故スタンピードが起きるのか”については、未だに分かってはおりません。ですが、確実なのは、奴らは必ず人類の生存圏近くに出現し、必ず周辺の都市に襲いかかるということです。スタンピードが起きる場所やその規模もランダムですが、人口が多い箇所ほどスタンピードが起きやすくなります。我が国の規模ですと、ほぼ毎年1カ所といった所です」


スタンピード現象も謎。


「モンスターは、基本的に食事を取りません。口を使って攻撃しているヤツはいますが、別に食料を欲しているわけではないようです。そして、ダメージ超過になると、”魔石”を残して消滅します。野良モンスターの中には、伝説級と言いますか、明らかに数百年、人類未踏の地にはそれこそ数千年モノがいる可能性があります。一般的にモンスターは年を負うと内包する魔石は大きく、かつ純度が高くなります。この魔石に関しては、話せば長いので、別の講義で行いたいと思いますが、一点だけ。大きい魔石は、高値で取引されます。大物を狙って人類未踏の地に挑む方々もいらっしゃいます」


糸目の教導官は、他にもいろいろと小話を挟んでくれて、大変ためになった。


「まとめますと、野良はその辺にいるが、近づかない限り襲ってこない。スタンピードは、1年に1回発生し、問答無用で襲ってくる、ということです。さて、モンスターの授業は、他の日にも行います。今日はこの辺にしておきましょう。次は、騎乗訓練を行うらしいので、兵舎に移動してください」


こんな感じで、今日の座学は早めに終了。

次のコマは、騎乗訓練とのこと。

俺は乗馬経験がない。なので少し楽しみだったりする。


・・・・


これ、馬じゃない。トカゲだ。トカゲのわりには四肢が異常に長い。いや、これは恐竜?


騎乗訓練と言って我々の前に連れてこられた生物は、馬ではなくてトカゲ。多分、小さな恐竜だった。その背中にくらあぶみが装備されている。

そして、騎乗用トカゲの大きさは様々。頭からあ尻尾までが、1.5mから3mくらい。それぞれ、自分の体にあった個体を選ぶらしい。


「乗るときに怖がってはいけません。魔術障壁が生じ、トカゲをはじきます。信頼関係が肝心です。まずは心を落ち着けて、トカゲを撫でてあげてください。一度トカゲに触れると、障壁はトカゲごと自分を包むようになります。まずはその感覚を掴みましょう」


インストラクター役の兵士が説明している。


早速、騎乗に成功している中学生達がいる。若いって素晴らしい。


おじさんも負けてはいられない。このトカゲ、停止時は2足歩行でほぼ直立だ。まずは首のあたりをなでなで。表面はつるつる、そしてひんやりしてて気持ちいい。

次に、2足歩行状態の鐙に足をかけると、トカゲに抱きつく形になる。ここまでは以外と簡単。

だけど、このトカゲ、手綱を握って頭を下げさせると、4足歩行状態になる。その後は、手綱を緩めると進み、引くと止る。


この2足歩行から4足歩行への移行のときに、上手に鞍に跨がる必要がある。その瞬間にコツが必要だが、それ以外はかなり簡単だ。揺れもあまりなく、スッタ、スッタと走って行く。鞍の大きさも、結構細く、中型バイク程度。そこまで辛くはない。


嫁も木ノ葉ちゃんも難なく騎乗成功。

しかし、ここで問題児が一人。我が息子、志郎である。


「もう、乗れない~~~」


今にも泣きそう。

どうも、2足歩行から4足歩行への移行が苦手のようである。


「お、お前な~」


俺は息子の横に付いて、体を支えてやることに。だが、なかなか成功しない。途中で俺にしがみついてばかり。


「・・・」 おや!? 俺の逆サイドに嫁登場。


息子は父と母に支えられ、騎乗訓練を反復する。

しばらく、親子三人+トカゲの奇妙な散歩が続いた。


・・・・


「股が痛い」


息子が訴える。木ノ葉ちゃんも疲れてそう。今日の騎乗訓練は終了かな?

ただ、このトカゲ騎乗、この国では一般的な移動手段らしい。


およそ1週間後に迫るサイレンへの移動は、各員、トカゲ騎乗で行う案があるようだ。

それを見越し、練習は続けたい。


午前の部は、これで終了。

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