第11話 Dチーム、結成 + イセ登場 5月上旬
放置された我々は、途方に暮れてしまった。
とりあえず、
みんな初対面だし、自己紹介からだろうか。
みんな無言。仕方がない。俺から発言しよう。でも、俺はコミュ障なんだぞ?
「まずは、おじさんから、かな? 自分は、
一瞬、周りから『はあ?』という顔をされた。特に元ヤンねーちゃん。三白眼が少し見開いたのを見逃さない。
「数値が全部1って何なのよ! ってああ、ごめんなさい。私は
顔は元ヤン、言葉は元ギャルって感じ。髪の毛はお下げ。少し茶髪。目は三白眼だけど、基本的に美人だ。
「よろしく。小峰さん。数値はどうしましょうか。プライバシーもあるけど、お互い知っておくと何かと意見とか言い合えると思うんですけど」
俺は、『シングルマザー』というキーワードをスルーした。聞いたら面倒だし。
「そうね。あ、書きましょうか?」
俺は、ポーチからメモ帳を1枚とシャープペンを取り出す。
「確か。射程、出力、拡散、伝導、回復だったですよね」
さらさらと紙に表を書いていく。
その表に、元ヤンちゃんが書いていく。
・多比良城;属性:土、射程1、出力1、拡散1、伝導1、回復1 ランクD?
・小峰綾子;属性:火・風・生物、射程1、出力5、拡散2、伝導2、回復4 ランクD
ふむふむ。接近攻撃型? 生物だから単体回復役? でもここの回復魔術って、ゲームみたいにピカっと光って傷がみるみる回復する分けでは無いらしい。
まあ、いいか、さて、じゃんじゃんいきましょう!
次に、すらり系女子中学生と目が合った。首肯する。
「わ、私は、
凄い緊張が伝わってきた。この子は、少し地味だが中学生らしからぬ美貌の持ち主だ。ヘアスタイルはショートカット。そして陸上で鍛えたと思しき美しい手足と胴体。特にお尻と足がグッド。
・玉城晶;属性:火、射程1、出力4、拡散7、伝導1、回復1 ランクD
射程が1なのに、拡散が7。そして適性が火。火魔術を使った瞬間、自分も炎に巻かれそう。
「あ、あの、多比良さんって、娘さんが高校にいませんか?」
「ん? ああいるよ? そうか、陸上部だからね。娘も。お知り合いだった?」
「は、はい。私、同じ道場に通っていたことがあって。その時に。すごいですよね。え? でも、あの人。というか陸上部だったのですか?」
「ん? ま、まあね。スポーツ少女だからなぁ。会えなくて寂しいけど」
「あ、いえ、そういうつもりじゃ無く」
どこかちぐはぐな会話になってしまった。
俺の娘の桜子は、高校陸上部だが、道場では柔道と剣道をやっている。彼女は道場での知り合いなのだろう。
「ま、まあ、話を戻しましょう。お次は?」
「3年2組、
お次は、ぼうず頭の男子中学生、やっぱり野球少年だった。ガタイがいい。顔はイケメンの部類かな?
能力値をさらさらと書いていく。
「武君の守備はどこなのかな?」
スキンヘッドの御仁が話しかける。
「ピッチャーです」 「「へぇ~」」
武君がすこし恥ずかしそうな顔をして、場が和んだ。
「次は自分かな。私は
数値の方をさらさらと書いていく。まさかの巻き込まれ系の人だった。
「え~つと。最後はイネコさんだけど、娘さんからお手紙もらってまして。イネコさんは、全属性持ちの射程5,その他はオール9だって」
「「「「!!!」」」」
我がDチーム(仮称)のメンバーは、次のとおり。
・多比良城;属性:土、射程1、出力1、拡散1、伝導1、回復1 ランクD?
・小峰綾子;属性:火・風・生物、射程1、出力5、拡散2、伝導2、回復4 ランクD
・玉城晶;属性:火、射程1、出力4、拡散7、伝導1、回復1 ランクD
・高遠武;属性:火、射程1、出力6、拡散1、伝導3、回復3 ランクD
・小田原亨;属性:土、生物、射程1、出力2、拡散2、伝導3、回復5 ランクD
・楠木イネコ;属性:全、射程5、出力9、拡散9、伝導9、回復9 ランクA
こうしてみると、このチームの特徴(イネコさん以外)が分かってくる。射程と伝導が低いのだ。
「あ~これは、射程が低くて遠距離魔術が使えず、さらに伝導低くて魔力タンク役もだめなのを集めたっぽい?」
「ああ、そうだろうな。多分、魔術的な軍事行動とでも言おうか、その中のどこにも組み込めないのではないか? あえて言えば、魔術障壁による肉壁くらいか? 魔力回復も少ないから潰しが効かないんだろうな。我々は。イネコさんは、まあ、年齢的に、な」
「まあ、変に戦力として期待されてないだけマシ。割り切って、別のことで生きていく・・・この判定が本当なら」
「この国というか、世界が魔術的才能持ちに対してどれだけのアドバンテージがあるか、にもよるか。戦いだけではなく、通常の職業や日常生活も魔力ありきだったら、才能が低くても鍛えておかないとまずい話になる」
「そっすよねぇ。俺、障壁も兵装も出来なくて」
と、俺とスキンヘッドの御仁が談義する。
「はぁ? あんた、基礎もダメだったの? あ、ごめんなさい。あんた見てるとなんか安心するのよね。私より年上そうなのに。いや、慣れ慣れしくしてごめん」
元ヤンちゃん。なかなかいい笑顔。かわいい。でも俺、嫁いるんだよね。口きいてくれないけど。
「兵装はともかく障壁の方は、無いと命の危険がありますよね。こんな魔術なんかがある世界では」
「う~ん。これは提案なんだが、私は空手の有段者でね。みんな空手を習わんか? さっきの数値とかはあくまで魔術の、しかも才能の話だろ? 努力次第でどうとでもなると思うし、何より、戦いに関しての能力というのかな? 反射神経とか、筋力、体力、防御姿勢、体裁きだとか、そういったものとは全く関係のないものばかりだ。自分的には、こと戦いにおいては武道でも鍛錬になると思うし、武道をやると魔術障壁の能力も上がると思うんだが。どうだろうか」
スキンヘッドのおじさんが提案。カラテマンだったのか。しかも黒帯。
「私は賛成! 一度空手やってみたかったんだ」
元ヤンちゃんが即座に賛成。
「俺も賛成」
俺も賛成だ。サラリーマン生活で衰えまくった体を何とかしたい。
「僕は、その、右手を痛めないようなやつなら。野球もしたいし」
野球少年も賛成。
「それはもちろん。本気で拳を作るようなことはさせないから。逆に、野球的にまずい訓練があったら遠慮無く意見を言ってくれ」
「私も賛成。その、護身術とか習いたかったし」
女子中学生も賛成。
イネコさんは、つぶらな瞳で何を考えているか分からない。でも、まあ軽く運動くらいはいいだろう。
「よし、では、まずは準備運動して、基本から行くか」
「まずは、はい!」
元ヤンちゃんが右手を差し出した。ピンときた。俺はそれの上に右手を重ねる。スキンヘッド、陸上部、野球部と手を重ねる。
「「「「「えいえい、おー!!」」」」」
Dチーム結成! 俺はおそらくE、イネコさんはAだけど、細かいことは無視。
◇◇◇
<<王城の一室>>
「ねえねえ、イセ様ぁ~。日本人達がぁ~何か変なことをやってますよぉ」
眼下に広がる庭には6人くらいの男女が、『セイヤァ!』と声を上げて、正拳突きを反復している。
イセ様と呼ばれた女性は、ふかふかの椅子に腰掛けながら、紅茶を口にする。
後ろにはメイド服に身を包んだ女性が控えている。
「ここのサロン室、気に入っていたんだがなぁ。しばらく場所を変えるかのぉ」
イセと呼ばれた女性は、長い手足と高い上背。大きなバストと引き締まったウエスト。お尻は少々大きい。肩に掛かるくらいの美しいストレートの黒髪。顔は恐ろしく整っている。少し目が鋭いが、どことなく愛嬌のある表情をしている。
そしてひときわ目を引くのが美しく象牙色に輝く2本の角。こめかみの少し上の方から真上に綺麗に伸びている。
「ええぇ~面白いじゃないですかぁ。見ていましょうよ。あの人達、あれって、素手で相手を倒す訓練ですよね。すごくないですか?」
「ジニィよ、格闘戦を馬鹿にしてはならん。魔術士が格下に肉薄されて討ち取られた、なんて話はざらじゃ」
「そうなんですけどねぇ。なんで素手なんだか。そういえばですけど、ラメヒー側から会談の連絡きてたじゃないですかぁ。あれ、どうなったんですか?」
「ああ、あいつら、勇者召喚の制御に失敗して一度に600人も召喚しただろう?」
「ええ、下の人達もその一部ですよね。私もみましたよぅ~。全員黒髪で、子供達なんか、全員同じ服、帽子、口には謎の布を付けて整列していたんですよぅ。なんだか不気味でしたぁ」
軽口の女性は、たわわに実った自分の胸の下に両腕を回し、”いやいや”をする。
さて、このジニィは、イセより一回り小さい女性だ。ただ、バストだけは同じくらいあるので、非常にバストが強調されたような体付きをしている。顔の造形はやや丸顔で、やたらと目力が強い。口を開かなければ、気の強い少年のように見える。ちなみに、彼女はメイドではない。
「不気味かどうかは分からんが、そのことについて、報告があるらしい。それから勇者殿と合わせてくれるそうだぞ?」
「勇者って、異世界に来た瞬間に勇者なんですかねぇ」
「その辺は言葉遊びだろう。でな、400年前、我が国の魔王殿下を暗殺した勇者がいただろう?」
「ええ、神聖帝国が呼んだ勇者の一人ですよね。大量の勇者を暗殺者として送り込んで、唯一成功した
「いや、魔道帝国がその100年後に分裂して滅んだのも、原因はその暗殺の成功にあるという学者もおる。まあ、コスパの話ではなくてな、今回の勇者召喚はその勇者と同郷から呼んだと主張しておるのよ」
「は? うちに喧嘩売ってると?」
「いやいや。やつらにそんな度胸はない。このことは最初に連絡があったのじゃ。魔王を殺した暗殺者と同郷のものを呼んでよいか、とな。『是非見てみたい』と返しておいたのじゃが、まさか600人も呼んで、ほんとうにその勇者との会談に招待されるとは思わなんだ」
「はあ、ラメヒーのやつら、どういう腹づもりでそんなことを? だいたい、国名が違うじゃないですか。日本国って言ってましたよね。その600人」
「ヤツら、何も考えておらんと思うぞ? あいつら、皮肉とか外交とかけん制とか、なーんも考えずに、行き当たりばったりじゃ。国名の件はよく分からん。あれから400年も経っておるのじゃ、滅んだんじゃね? で、面会には、明日行ってくる」
「はぁ~い。いてら~~~」
「はぁ。今回のは”まとも”だといいのぅ。それから、おぬしはわしの護衛ではなかったかのう」
大使の女性は、正拳突きのかけ声を聞きながら、ため息をつくのだった。
「お労しや、イセ様」
メイドの女性が紅茶を継ぎ足す。彼女は2人とは違い、とても小柄で角も生えていない。普通のメイドのようである。
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