第37話 太平洋艦隊再出撃

 日本軍が予告通りブリスベンに対して年内の攻撃を控えてくれたことは僥倖だった。

 おかげで、太平洋艦隊は「ノースカロライナ」級ならびに「サウスダコタ」級といったすべての新型戦艦の訓練が終わり、日本の戦艦部隊に対抗できる戦力を整えることが出来た。

 これら新型戦艦はそのいずれもが旧式戦艦とは一線を画する機動力とともに九門の四〇センチ砲を装備している。

 しかもその砲弾は同じ四〇センチ砲でも旧式戦艦の「コロラド」級のそれより二割以上も重いSHSだ。


 空母も「ヨークタウン」と「ホーネット」、それに「ワスプ」ならびに「レンジャー」といった合衆国海軍が保有するすべての正規空母を揃えることが出来た。

 それら空母に搭載する機体も大きく様変わりしている。

 戦闘機はF2Aバファローの姿が消え、すべてF4Fワイルドキャットに統一された。

 そのF4Fは翼を大きく折り畳める新型が導入され、開戦時に比べて大きくその数を増している。

 また、速力や防御力の貧弱さから十分な働きが出来なかったTBDデバステーター雷撃機に替えて高速で防御力が充実したTBFアベンジャーの配備もまた間に合った。


 マーシャル沖海戦で大量喪失の憂き目にあった重巡や「ブルックリン」級軽巡の穴を埋めるべく最新鋭の「クリーブランド」級軽巡や「アトランタ」級軽巡も続々と戦列に加わっている。

 駆逐艦も大型で対空火力に優れた「フレッチャー」級がそのほとんどを占めている。

 海面下では新鋭の「ガトー」級潜水艦が目を光らせ、というか耳を澄ませ、日本艦隊の動きを追っているはずだ。

 日本海軍の暗号の解読や敵信傍受によって日本艦隊がブリスベンに来寇するおおよその時期も分かっていた。

 マーシャル沖海戦の惨敗によってパイ提督をはじめとした多くの有為の人材を失い、それこそ地獄を見た太平洋艦隊だったが、それでもわずか一年の間にかつてのそれを大きく上回る戦力を持つに至った。


 「あとは、戦うだけか」


 胸中でそうつぶやくニミッツ太平洋艦隊司令長官の目には今まさに真珠湾を出港しようとする艨艟の群れが映り込んでいる。

 戦力に不安は無いはずだった。

 いずれの艦も開戦時とは比べものにならないくらい電子兵装を充実させ、さらにマーシャル沖海戦の戦訓を元に、将兵らは戦技向上とともにダメージコントロールのトレーニングもまた積み重ねている。

 各艦の甲板には機銃や機関砲がそれこそ山のように積まれ、米空母や英戦艦に手ひどいダメージを与えたケイトを容易には近づけさせないはずだ。


 「大和」型戦艦に対する戦術も考案済みだ。

 マーシャル沖海戦で深手を負いながらも奇跡の生還を果たしたハルゼー提督がその戦策を授けてくれた。

 その彼の提案を実現するために自分は合衆国陸軍や豪空軍に頭を下げて回った。

 太平洋艦隊単独で日本の連合艦隊と戦えばこちらの大量流血は間違いない。

 だが、合衆国陸軍や豪空軍の協力があれば合衆国海軍の青年たちが流す血は確実に減らすことが出来るうえに連合艦隊に対しては逆に多くの出血を強いることが可能となる。

 それでも、ハルゼー提督の策を実行すれば味方の空母はそのほとんどが無事では済まない。

 友軍機動部隊にとってはいばらの道だ。

 しかし、ハルゼー提督であればその困難な任務をきっとやり遂げてくれるだろう。


 戦艦「サウスダコタ」の艦橋に立ち、僚艦の動きを見守るニミッツ長官は新型戦艦を基幹とする第一任務部隊を直率する。

 前任の太平洋艦隊司令長官だったキンメル提督はマーシャル沖海戦の際は海軍上層部からの命令によってハワイにその身を留め置かれていた。

 そして、ただ敗北の責任だけを取らされてしまった。

 その結果、キンメル提督は自分に太平洋艦隊司令長官の椅子を明け渡すことになってしまったのだ。

 ニミッツ長官としては司令長官として責任を取ることについてはやぶさかではない。

 しかし、それは自身が納得したうえでのことだ。

 戦わず、何もせずにただ単に詰め腹を切らされるのは正直言ってごめんこうむりたい。

 だから、指揮官先頭による士気の高揚という建前を押し通して「サウスダコタ」に乗り込んだ。

 その太平洋艦隊は真珠湾を出て一旦南下、その後は進路を西にとって豪州を目指す。

 目的はブリスベンの防衛。

 だが、その真の目的は差し違え上等の連合艦隊の撃滅だった。



 第一八任務部隊

 「ヨークタウン」(F4F四八、SBD二四、TBF一五)

 「レンジャー」(F4F四八、SBD一二、TBF一五)

 重巡二、軽巡二、駆逐艦一二


 第一九任務部隊

 「ホーネット」(F4F四八、SBD二四、TBF一五)

 「ワスプ」(F4F四八、SBD一二、TBF一五)

 重巡二、軽巡二、駆逐艦一二


 第一任務部隊

 戦艦「サウスダコタ」「インディアナ」「マサチューセッツ」「アラバマ」「ワシントン」「ノースカロライナ」

 軽巡六、駆逐艦一六


 第二一任務部隊(ハワイ、西海岸防衛)

 戦艦「コロラド」「ニューメキシコ」「ミシシッピー」「アイダホ」「テキサス」「ニューヨーク」

 軽巡四、駆逐艦一六

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