第33話 追撃
戦艦「ウォースパイト」が三本の魚雷によって大傾斜、「リベンジ」と「レゾリューション」、それに「ラミリーズ」と「ロイヤル・ソブリン」はいずれも片舷に二本の魚雷を食らって航行に著しい支障をきたしていた。
これら戦艦以外にも軽巡「エメラルド」が三本を被雷、すでに海面下へと没している。
他のB部隊の軽巡や駆逐艦もまた、日本の戦闘機による緩降下爆撃によって戦闘能力を大きく低下させていた。
さらに午後になってからは日本の戦闘機と攻撃機の魔手がA部隊にも及ぶ。
おそらく日本の機動部隊指揮官は午前中の攻撃や索敵に使用した機体のうちで、その稼働機のほとんどを投入してきたのだろう。
この攻撃で重巡「ドーセットシャー」と「コーンウォール」、それに六隻の駆逐艦はそのいずれもが二五〇キロ爆弾の直撃かあるいは至近弾によって傷ついてしまった。
機動部隊が保有する艦上機の大半を投入した総攻撃が失敗し、そのうえ戦艦群が大打撃を被ったことでソマーヴィル提督は撤退を決意する。
ソマーヴィル提督は大量の浸水によって脚を奪われた五隻の戦艦はすべて自沈処理あるいは撃沈処分させ、それら乗組員を「インドミタブル」と「フォーミダブル」、それに「ハーミーズ」の格納庫に収容するよう命じる。
「インドミタブル」と「フォーミダブル」、それに「ハーミーズ」の格納庫にはわずかばかりのアルバコアしか残っていなかったから収容スペースには余裕があった。
格納庫が空いているのは、乾坤一擲の思いで送り出したそれぞれ三六機の戦闘機と雷撃機からなる攻撃隊が日本艦隊の姿を認める前に六〇機ほどと思われるゼロファイターの迎撃を受けてそのほとんどが未帰還となってしまったことが原因だ。
当然ながら、攻撃隊による戦果も皆無だ。
一方で、不幸中の幸いだったのは敵の戦艦部隊のほとんどが脚の遅い「伊勢」型かあるいは「扶桑」型だったことだ。
それゆえに、実戦経験を積んだ貴重な将兵たちを救う時間が捻出できる。
傷つき傾いた戦艦からそれぞれ千人近い将兵を空母に移乗させるには相応の時間がかかるのだ。
その移乗作業は整然と進み、日が大きく西へと傾いた頃にはあらかた終了する。
だが、同時にソマーヴィル提督は最も聞きたくない報告を受ける。
水平線の向こうに艦橋の一部が、つまりは日本の艦隊が現れたのだ。
想定よりも遥かに早い接触だった。
「航空隊はずいぶんと派手に暴れてくれたようだな」
旗艦「愛宕」の艦橋で第二艦隊司令長官の近藤中将はそう言って相好を崩す。
五隻あった英戦艦のうちの一隻は二航戦の攻撃によって撃沈にこそ至っていないものの大傾斜しており、残る四隻の戦艦もすでに放棄が決定されているのか乗組員が空母に移乗しているという。
戦艦以外の艦艇については三隻の空母こそ損傷軽微だったものの、六隻の巡洋艦はそのいずれもが大きく傷つき、そのうちの一隻はすでに沈没している。
一四隻あったはずの駆逐艦は一二隻に減ったうえに無傷のものは数えるほどしかない。
そこへ、高速を飛ばして肉薄してきた第二艦隊が殴り込みをかける。
近藤長官は脚の遅い「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」に一個駆逐隊を護衛につけたうえで置き去りとし、巡洋艦と駆逐艦、それに機関換装によって二九ノットを発揮出来る「長門」と「陸奥」の二隻の戦艦をもって今日の早い段階から英艦隊との距離を詰めにかかっていたのだ。
「二戦隊目標敵重巡、四戦隊目標敵空母、五戦隊目標敵軽巡、二水戦と四水戦は敵駆逐艦を撃滅せよ。
魚雷の出し惜しみは無しだ。それと、敵の戦艦はすでに戦闘力を喪失している。こちらの始末は遅れてやってくる二戦隊第二小隊と第三小隊に委ねる。今は無視して構わん」
各隊への命令の後、近藤長官は直率する第四戦隊に目標を割り振る。
「『高雄』は左翼、『摩耶』は右翼の空母を追撃せよ。中央の空母は『愛宕』が受け持つ。
敵空母に対しては降伏勧告し、可能であれば鹵獲せよ。逃げ続けるようであれば構わないから二〇センチ砲で蜂の巣にしてやれ!」
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