第141話 挨拶

 馬車から沢山の若者が降りてきた。

 意外な事に、ほぼ半数は女性だった。

 それも皆例外なく身綺麗な、正確には領地の開発に来たとは到底思えない、洒落た服装でやってきたのだ。


 俺はヤーナにこっそりと聞いた。


『』内の会話は小声です。

『なあヤーナ、あれは活動的な服なのか?それともやはり洒落た服なのか?』

『クーンごめん、先に謝るわ。クーンが指摘した相手の服は、確かに社交場で着るような服ではないけれど、何もない辺境に、一からの開発を行う場に適切な服ではないわね。馬車に長時間乗るから、流石に女性もスカートでは・・・・スカートもいたわね、それも半数近くが。何しに来たのかしら?宿もないわよ?』

『そうだよな。じゃああっちの馬車はどうなんだ?』

 10台中3台だけだが、降り立った男性は軽装とはいえ武装をしており、または魔法を使うのか、身軽な服に杖を持っている奴もいる。女性もいたが、皆動きやすそうなズボンだ。

 残りの7台は、先ほど俺が指摘した連中だ。

『あっちにはお兄様とお姉さまが乗っているのが見えたわね。それにフロリーナの兄と姉もいるわ。』


 どうやらヤーナとフロリーナの身内は、それなりの情報を仕入れていたのか、これから再開発に関わる上で、適切な服装のようだ。

 特に男性陣の装備だ。

 ここは魔境に近く、魔物も出現する。魔物の強さは王都とは比べるまでもなく強い。


 そんな辺境へ、ちゃんと?それなりに備えをもってやってきた連中と、何処かの街へ

 物見遊山の感覚なのか、どう考えてもこれから苦労して開発をしなくてはならない人の姿ではない。

 特に女性だ。

 間違ってもスカートで来る場所ではない。

 開発が終わればいいが、それまでは未だ建物は不足、店等もそうある訳ではない。

 あんな姿でどうするつもりだ?



 そんな奴らだが、俺達に気が付いたようだ。

 だが最初に動きだしたのは、ヤーナとフロリーナの身内だ。

 そしてそれを察した3台の馬車に乗っていた他の連中。


『クーン様、あれに見えるのは私の兄で、フェラウデン公爵家の次男ですわ。そして隣は同じく長女。その後ろも・・・・身内ですわ。』

 フロリーナがそっと教えてくれた。


 そして公爵家・次男のもう片側の隣には、

『あっちは私の兄ね。次男と三男が来ちゃったのね。そして2人の姉様も来ちゃったわ。』


 その他も貴族の子女らしい。


「フロリーナ、久しいな。」

「お兄様、どうしてここへ?」


 先ずはフロリーナだ。

「この地の開発に、領地に関して知識のある人材が必要と言われてね、立候補させてもらったよ。で、こちらが件のクーン殿か?」

「・・・・俺がクーンだ。」

「これは失礼を。私はフロリーナの兄であり、フェラウデン家の次男、マンフレットと申す。もし我々の知識が必要であれば、遠慮なく言ってほしい。我々が持っている知識を役立てたいと思う。その時はよしなに頼む。」

 少し腑に落ちないがこんなものか?

 そして次だ。

「初めましてクーン卿。私はヤーナの兄で、ペペイン・アンネリース・レインチェス。レインチェス家の次男だ。後の面々は追々でいいか?」

 うーん、やはり微妙な挨拶だ。相手は貴族だ、仕方がない?

「あんたらの事はまるで聞かされていないが、色んな意味でこの地は人材不足だ。詳しい事は後で・・・・で、あれは何?」


 俺は残りの7台に乗車していた連中を、暗に聞いた。

「あれは・・・・我々がこの地で再開発の手助けをすると聞いて、一緒に向かうと言ってきかなくてね。説明はしたのだが、あの姿だ。察してくれるとありがたい。つまり我々とは関係がなく付いてきたのだよ。まったく迷惑な話だ。ただ、ごく少数だが人材も混じっている。今は無理だがそういった人材を見てやってはくれぬか?僅か3名だが。」


 そう言い終わるか終わらないうちに、問題の連中がやってきた。

「おい下郎、いつまで待たすのだ。なぜ我々が馬車から降りた時に出迎えぬのだ!」

「ちょっと信じられませんわ!どうしてこのような仕打ち?早く休みたいのだけど、そこの者!早く案内しなさいよ!」

 いきなりやってきた招いていない連中。

 お前達の事なんか知らん!


 俺は一言、

「帰れ!」

 思わず大声で怒鳴ってしまった。

「な、何だと!」

 何だと、と言ってもな。







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