第25話 ヤーナ・アンネリース・レインチェス

 爺さんに勝利た俺は、油断していた。

 先ほど名乗った女の子、何だっけ?フロリーナって言ったっけ?


 そう言えば2人いたはずなのに、もう一人の姿が見えない。


 俺は嫌な予感がしたので、急ぎ背後に壁を作った。

 壁ができたか出来上がらないかのうちに、


【キュイ――――ン!!】

 と背後から変な音がした。

 魔法か?

 俺が急ぎ作った壁に、何かとんでもなく鋭い何かが当たったようだ。

 だが見えない。風魔法か?

「ヤーナ殿いけません!」


 爺さんが何とか止めようとしたようだが、俺は構わず壁をもっと高く厚くし、そのまま相手側に倒した。


「きゃあ!!!!」

 可愛らしい悲鳴とともに、倒れた壁が中途半端に。

 見ると壁に何かが挟まっている。


 恐る恐る確認すると、いた。

 もう一人の女の子だ。


 どうやらフロリーナと名乗った女の子が、壁と地面にサンドされている女の子の所へ向かったようだ。

「や、ヤーナ?どうして?」


「くっ!私はこんなの認めませんわ!」


 地面と壁にサンドされた女の子はヤーナと言うのか。

 そして何かを認めないらしい。


 さっき俺を攻撃したのこいつだよな?

 殺していい?

 え、駄目?


「ヤーナ、謝罪を。」


「こんな田舎者に何故私が頭を下げないといけないのですか!痛い!」

 身動きできないヤーナにフロリーナが拳骨を与えたようだ。


「痛いわ!いかにフロリーナさまと言えどこれ以上は・・・・」

 フロリーナ、なかなかいい拳だ。あれではヤーナと言う女も痛いだろう。


 爺さんが止めに入ったな。

「ヤーナ殿、彼はこれから貴女方が薬草採取のイロハをご教授・・・願う相手でございます。しかも相当の実力者。私はフロリーナさまを託すにふさわしい方と判断いたします。ヤーナ殿どうかお認めに。」


 なあ何でこの女の子、俺をこんなに睨んでくるんだ?俺は知らない間に何かしたのか?


「くっ!田舎者の分際でフロリーナさまに近づくとは!こんなのがフロリーナさまの想い人とか認められぬ!」


 なあ、帰っていい?

「そんなに言うならわかった。あのお姉さんに言われて仕方なく来たが、無駄足だったようだ。それからひとつ言わせてくれ、いや二つか。田舎者の何が悪い??それと俺の方が近づいたんじゃねえ!あんた達の方から近づいてきたんだ!」


 俺はその場を後にした。


「ま、待って下さい!」


 フロリーナと呼ばれている女の子が俺の前に来た。

「なあ、あんた達貴族だろう?いつも農民出身の奴にはこんな接し方をしてるのか?」

「え?その、何の事かしら?」

「あんた達がこんな態度なら俺は別の街で生活をする、それだけだ。弟と妹の祝福が終わったら出て行く。じゃあな。」

 だがもう一人のヤナだっけ?違うヤーナだ・・・・が、俺の進路の先に現れやがった。結構血まみれなんだが大丈夫か?いつの間に壁から脱出したんだ?あの爺さんが手助けしたのか?見るとまだ壁があるし。


 ヤーナと言う女の子は、俺がフロリーナと話している間にあの爺さんに何かを言われたようだ。


「くっ!し、仕方がないんだから!あんたから薬草採取について学んであげてもいいわ!」

 何で上から目線?

「いや特に学ばなくてもいいぞ。俺もいやいや学ばれても困るしな。そういう訳で、薬草採取で身を立てるには、あまりにも色々と足りなさそうだが、せいぜい頑張ってくれ。」


 今度こそ俺は引き返そうとしたが、


「ヤーナ謝って!それにもう後がないのよ?分かっているの?」

 今更謝られてもなあ。


「さっきも爺さんからあんたに危害を加えないなら、と言われたがもう一人のはいいのか?こんなのではとてもじゃないが教えられないな。」

 ヤーナってのが何だか顔を真っ赤にさせているが大丈夫か?それより早く治療した方が良くね?


「し、仕方がないから謝ってあげるわ!さあ、私達に薬草採取を教えなさい!」

 何で上から目線のままなんだ?


 あ!これはもしかして、もしかしなくても【ツンデレ】ですね!

 【ツンデレ】来たあ!!!!!


 ・・・・【ツンデレ】とはなんぞ?


「私からも改めてお願いいたしますわクーン様。どうか私達に薬草採取をお教え下さいますよう、切に願いますの。」


 よくわからん言い回しだが、貴族ってこういう言い方するのか?

 疲れるぞこんなの。


「なあ、俺は依頼で此処に来たんだが、せめて名乗ってくれないか?ああ、あんたは名乗ってくれたな。フロリーナって言ったっけ?で、そっちの女の子は?それすらできないのならやはり今回はなかった事にしてくれ。」


 フロリーナに背中を押されたヤーナと言うのが目の前にやってきた。


「くっ!し、仕方ありません。我が名はヤーナ・アンネリース・レインチェス。特別にヤーナと呼ぶ事を許可しようではないか。」

「そして私でございますが、本日よりセバスチャンと名乗る事になりました、フロリーナさま付の執事でございます。」


「既に俺の事は知っているようだが、俺はクーン・カウペル。カウペル家の4男だ。」


「フロリーナさま、カウペル家ってご存知でしょうか?」

「いえ、初耳ですわ。」


「俺の実家はクツーゴ男爵領だ。そこの単なる農家の4男だ。あんた達と違ってな。さっきさんざん田舎者と見下していただろう。」

 この2人って貴族だろう?さっき否定しなかったからな。

「左様ですかクーンさま。私もヤーナも、出自は貴族ですが、既に私は公爵家を追放されている身ですからもはや平民ですわ。ヤーナも侯爵家を追放されてますし。」


 つ、【追放】キター!しかも貴族の!貴族令嬢の追放とか!

 【異世界の】、しかも【恋愛ものの定番】ですね!公爵令嬢の追放とか・・・・え?フロリーナって元公爵令嬢?マジっすか?


 なあ、【追放キター!】とか【異世界】の、しかも【恋愛ものの定番】とかなんだ?


 またあの訳の分からん単語が頭に残ったぞ。

 それに公爵とか侯爵って、一番上と2番目の爵位じゃないか!

 その上って王族だけだよな、この国は王政と聞いているし。





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