第60話 vsレッサーリヴァイア
周囲と同じ姿になろうとするアンの願望は、どこか僕の胸に刺さる話だった。
バステトは、『性愛の女神の権能』の効果が得られないのは僕の心の問題だと言っていた。ヒントになるかもしれないことは全て頭の片隅に留めておこう。
「ダンジョンに着いたよ!」
アンが指差すほうを見ると、黒い楕円形の大穴があった。別次元のダンジョンへと繋がるダンジョンゲートだ。
高ランクのダンジョンゲートは結界カテゴリのカードによって厳重に封鎖されていて、許可されたハンターしか入ることができない。
「気を付けてね。ここ数年は事故が多くて、死者や行方不明者が出てるから」
「へえ、そうなんだ」
「聞いてない? ハン連本部にも情報が共有されてるはずだけど」
「えっ」
アンの指摘を受けて姫香と
そもそもこの案件を持ってきたのはカード・プロフェッサーだ。僕が危険な場所に行きたがらないのを見て、意図的に情報を伏せた可能性があるな。プロフェッサーはそういうところがある……。本人は「危険はないのである」とのたまっていたが。
アンが案内人としてつけられた理由を、僕はインスマス支部としての実績が欲しいのかと思っていたが、もしかしたら本当に心配してのことなのかもしれない。
アンは不安そうにこちらのメンバーを見回す。
「ランクBの制限ダンジョンって話は伝わってるんだよね? 半日で攻略予定って聞いてるけど、100体規模のランクBダンジョンだよ?」
アンが不安に思うのも無理はない。
制限ダンジョンでは脱出不可テンポラリーカードが付与される。これはダンジョンを崩壊させるまでダンジョンから出られないことを意味する。
ダンジョン崩壊の条件はボスを討伐すること、そして、ダンジョン内のモンスターの9割以上を討伐することだ。仮にパーティにボスを討伐するほどの戦闘力が無かった場合、死が待ち受けている。
調査系ハンターの事前調査によってある程度のダンジョン情報は把握していた。
付与されるテンポラリーカードと出現モンスター数規模を考慮すると、ランクBハンター4人だと攻略に3日はかかるだろう。
それらを踏まえたうえで、僕、姫香、星辰天の結論はこうだった。
「大丈夫。たぶん30分もかからないと思う」
◇◇◇
ダンジョンに突入し、辺りを見回す。
石で出来た通路と水路が半々で構成されたようなダンジョンだった。海底に沈んだ石の神殿のような趣がある。
ダンジョンへの突入と同時に付与された、3枚のテンポラリーカードを確認する。
【名前】脱出不可
【ランク】C
【カテゴリ】パッシブスキル・テンポラリー・制限
【効果】
ダンジョンゲートを通ることが出来なくなる。
このカードを所持している人間が死亡した時、その人間のパーティメンバーはダンジョン外に転移される。
ダンジョンの崩壊条件を満たした時にこのカードは消失する。
【名前】海底小神の侵食
【ランク】B
【カテゴリ】パッシブスキル・テンポラリー
【効果】
水属性カテゴリの攻撃を受けた時、ダメージが1000%増加する。
【名前】ウォーターブロック
【ランク】C
【カテゴリ】アクティブスキル・テンポラリー・水
【効果】
水属性のブロックを生成する。
『海底小神の侵食』は水属性の攻撃を受けると大ダメージになるデバフパッシブスキルだ。当然、このダンジョンに出てくるモンスターは水属性攻撃を多用してくるはずだ。
『ウォーターブロック』は、数十cmの水で構成された直方体を出すアクティブスキルだった。試しに目の前に生成してみると、水の直方体が宙に浮いた状態で留まる。
「何に使うんだろうね、これ」
「結構固いですね。盾にはなりそうですよ」
姫香と2人でウォーターブロックを指でつんつんと突きながら使い道を探る。制限ダンジョンで与えられるバフテンポラリーカードである以上、おそらく何らかのダンジョンギミックで使うのだろう。
ウォーターブロックで神殿のギミックを解きながら、強化された水属性モンスターを討伐していく、というのがおそらくこのダンジョンに設定された試練だ。しかし、今回は正攻法で攻略する気は全く無かった。何故なら、僕たちのパーティには羅睺星辰天がいる。
「それでは
「うむ、苦しゅうない」
僕が大仰に星辰天を崇めるフリをすると、星辰天もそれにのっかって尊大に無い胸を張った。
「
【名前】無形の落とし子
【ランク】A
【カテゴリ】召喚
【効果】
無形の落とし子を召喚する。
星辰天は
一般的なサモンビルドのハンターは数体のモンスターを自身の周囲に展開するのが精一杯だが、星辰天のそれは質、規模が飛び抜けている。
「
1体1体が僕のステータスを上回るランクB~ランクA相当のモンスター、それらを20体ほど展開すると、魔物の女王は冷たく命を下した。
「
星辰天が召喚したモンスターが散開する。
空を飛び、水路を泳ぎ、人には入れない隙間を潜るモンスターたち。やがてあちこちで戦闘が始まる音が聞こえてくる。いや、果たしてこれは戦闘だろうか。聞こえてくるのはダンジョンに生息するモンスターたちの悲鳴ばかりだ。一方的な虐殺に近い。
これが羅睺の秘蔵っ子、ランクAハンター、
僕が感心していると、モンスターと視界を共有して監視していた星辰天が舌打ちした。
「チッ、ボス逃した。こっちに追い込むからハガネ、姫香、ボスよろしく」
「了解」
「任されました!」
しばらく待っていると、このダンジョンのボスである海竜レッサーリヴァイアが逃げ込んできた。
身の丈10メートルほどの小型の竜は、すでに全身のあちこちにダメージを負っている。
「ボアアアアアア!」
「ふん!」
怒り狂い叫ぶレッサーリヴァイアの正面まで飛び上がると、そのまま上から頭部を殴りつけた。
レッサーリヴァイアがダンジョンの床に叩きつけられ、地面が大きく揺れる。レッサーリヴァイアが地に伏せってる隙に、姫香が二天王刃で全身を切り刻む。
既にHPが減っていたレッサーリヴァイアは、そのままHPが0になり、魔力の粒子となって拡散していった。1枚のカードと数個の魔石がドロップする。
「こっちも大体終わったよ」
星辰天のほうも仕事を終えたようなので、これでダンジョン攻略完了である。
かつてランクBのヘビ人間に囲まれてボロボロになったことを考えると、星辰天がいるだけでずいぶん楽になるものだ。
実際に目の当たりにすると僕も召喚カードが欲しくなってくるが、未だにテンポラリーカードの召喚カードを見たことが無い。
「えー? なんかずるい!」
ほぼ星辰天1人で攻略されたダンジョンを見て、アンの不満気な声が響いた。
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