第47話 バステトと状況整理

 女の子たちが帰宅して、僕は自室に1人きりになっていた。

 ずっと正座させられていたのだが、特に足は痺れていない。これも「HP常時回復」の効果だろうか?


 ここ最近は状況が目まぐるしく変化している。

 バステトの試練、スチルにかけられた神性の呪い、鋼崎こうさきいわい、レゾンデートル。

 様々な思惑が絡んでる中で、僕がやるべきことを整理する必要があった。


 しばし考えた上で、僕はバステトを呼んだ。

 最優先事項はスチルの病を治すことで、それにはバステトの協力が不可欠だ。


「テトちゃん、いる?」

「にゃんですか?」


 いつの間にか黒猫の姿のバステトが部屋の隅に寝転がっていた。

 僕はバステトにレゾンデートルのことを話すことにした。


「神性カテゴリのユニークカードを所持するハンターを見たんだ」


 僕はバステトに軽く状況を説明する。

 神性ユニークカード「遥かな地底で」を所持する空染そらぞめ異真いしんのこと、そのユニークカードは殺人を行うことで祝福を得る効果であったこと。


「率直に聞くけど、これってテトちゃんの仕業だったりする?」


 僕は神性カードを与えられる存在をバステトしか知らない。

 今後レゾンデートルと敵対した時に、バステトも敵に回すことになったらたまったものではない。

 質問しながらも、僕の中ではバステトの仕業ではないという確信があった。なんというか、こういう方法は、この神の好みでは無いだろう。


「まさか」


 バステトは呆れたように否定した。


「いるのですよ、お前たち人類の文明を滅ぼそうとしている神性が。外なる者ども、人間の尺度で見るなら邪神といったところにゃのです」


 なるほど。

 今までに手に入れた情報から、徐々に構図が見えてきた。


 かつてバステトはこう言った。

 お前たちが英雄を求めた、と。


 これは対立構造なのだ。

 人類に対して敵意を持った邪神と、邪神に対抗するために神々の試練と祝福を受けた人類と。


「つまり、テトちゃんのようなチョイ悪な神と、邪神のような邪悪な神がいるってことだね?」

「ふ、不敬! お前、今、わらわを不良みたいにゃ扱いしましたね!?」

「ごめんて」


 ダンジョンに人間を放り込んで殺しかける神を善神とは言い難かった。


 とにかく、バステトとレゾンデートルが組んでいる路線が消えただけでも有り難い。

 いや、むしろ、僕の目的と、バステトの目的は一致している可能性もあるのか。


「テトちゃん、前に言ってたよね? 僕に強くなって、手を貸して欲しいって。それってもしかしてさ」

「お前にしては察しが良いのです。お前の妹からは、邪神の呪いの気配がする。アレが顕現しているのなら、力をつける前に潰すのです」

「へえ、スチルを苦しめてる奴がいるんだ。そう、なるほどね」

「お、お前、急に怖い顔するの止めろにゃのです」


 怒りを抑えながら、状況を整理した。

 結局のところ、やることは変わってないのだ。


 ――僕自身が強くなって、バステトの手助けをする。


 この方針に専念すれば、付随する様々な問題も解決していくだろう。


 バステトは最初に出会った時よりも僕に協力的になってくれている。

 おそらく「性愛の女神の権能」を与えられた試練で、僕はバステトの信頼を得たのだ。


 【名前】性愛の女神の権能

 【ランク】S

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続・神性

 【効果】

 神性たち、もしくは恋人たちとの絆が深まるほどに祝福を受ける。


「そういえばテトちゃん、もっと良いカードが貰える試練は無いの? 結局”性愛の女神の権能”だとステータスが2しか上がってないんだけど。たったの2しか……」

「お前マジ最悪にゃのです! 本当は数億ぐらい上がるはずだったのです! しばらくそのカードと自分の心に向き合ってみろにゃのです!」


 バステトの言葉に嘘は無さそうだった。

 バステトは試練に見合った報酬を与えてくれている。ステータスが2しか上がっていないのは僕の使い方に問題があるのだろう。


 差し当たって、ステータス強化のため、大まかに2つの行動を並行して進めていくことになるだろう。


 1つ目。ダンジョンを攻略して永続カードを増やす。

 2つ目。「性愛の女神の権能」の祝福を受けられる条件を調査する。


 僕は早速2つ目の方法を試すことにした。


「いつもありがとう、テトちゃん。こんなに優しい女神そういないよ。愛してる」

「え? えへへ、急に言われると照れるのです……」


 ステータスは上がらなかった。

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