30話



ーーピ、ピ、ピ、ピ


遠くで機械の音がする。

いや、近くだろうか。耳元で聞こえている気もするし、隣の部屋で聞こえているような気もする。距離感が分からない。音量が分からない。そもそもこれはなんの音だったか。聞き覚えがあるはずなのに、曖昧な意識では無機質なそれの正体さえわからない。


ーーピ、ピ、ピ、ピ


身体は動かない。視線だけはゆったりと動くが、瞼は重くてうっすらとしか開かなかった。重い、重い、全身がまるで鉛になったかのよう。


「ーーーーー21番、薬のーーー」

「それはーーーーーまだ確認できない」

「ーーーありえない」

「ーー限ってーーーー」

「先生はどこに」


声がする。

知らない声。知っている声だっけ。分からないけど、酷く不快になる声たちだ。私を蔑む声だ。私を憐れむ声だ。私たちを利用しようとする人間の声だ。

嫌悪感が湧いた。

でもどこにも行けない。


「被験体21番ーーーーーせん」

「成分はーーー」

「ーーーー君は馬鹿か!」

「ーーーーーーーー」


ああ、眠い。眠くて仕方がない。

気力を振り絞って瞼を開くが、眩しすぎて白い光が見えるのみだった。

瞼を閉じる。

隣で声をかけられた気がしたが、反応する気力は無かった。


なにも分からない。なにも。

でもあの人が裏切ったことだけは理解していた。




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