大伯父様?
「よくぞ来てくださいました、大伯父様!」
「あぁ」
「そちらのお嬢様が例の?」
ニンマリ笑っている男性は両腕を広げ、巨犬に向かって御挨拶。
しかしアオイはある言葉に引っ掛かる。
今、確かに〈大伯父様〉と言った。
(ちょっと待って。両親の兄が伯父で……両親の親は祖父母、それで祖父母の兄が……大伯父……あれ? と、いうことは? え?)
「アオイ様……っ!?」
「はいっ!?」
頭の中で家系図を組んでいたら、どうやら何か聞かれてたらしい。
(なにボケッとしているんですか!)と言いたげな、いや、恐らくそう思っているステラ。
やばいという顔をアオイもしていたのだろう、怜は呆れたようにフンと鼻息をたて、すかさず「そうだ。森で迷って家に辿り着いたんだ」とフォローした。
あぁその話かとアオイも慌てて軌道修正。
「お、御初にお目に掛かります、ヒューガ・アオイと申します。森で迷ってしまい、行く道も分からなくなって、困ってところに御邸を見つけ、そして助けてもらったのです」
「ほお。そう言えば私も自己紹介がまだでしたね。私は
「クリス様ですね、どうぞ宜しくお願いします」
「こちらこそ。しかし……助けてもらった、とは……さぞ怖かったでしょう」
「え……は、はい。まぁ……」
クリスは細くてつり上がった目をより細くして笑うから、思わず警戒してしまう。
何故なら目の奥が笑っていないからだ。
アオイの反応を伺うように、じいっと見つめるので目を逸らしてしまった。
刺々しい感情が胸に刺さる。
(な、なんであの人、あんなに見つめるの……!? 私、何かした……?)
「この邸の部屋ならいくつも空いているので、お困りならば私達がおもてなし致しますが……。如何ですかな?」
「え? い、いえ、あの、今で十分過ぎるぐらいですから」
「遠慮なさらなくとも良いのですよ」
「え……? えっと……??」
──「お父様……」
「おっと、そうだった!」
突然発せられた弱々しい声は、クリスの背後から聞こえてきた。
流石に「いやぁもふもふ出来て最高なんですよぉ」とは言えず困っていたので、タイミングに恵まれた。
「こちらが私の娘でね。さ、ほら」
「っあ……私は、アリスと申します。お願い、します……」
俯き加減で自信が無さそうなカーテシー。
肌の色は不健康に白く、薄い髪の色もあってか余計に蒼白くみえる。
顔の作りは美人な方だが、何と言うか覇気がない。
着ているドレスも
ニコニコと作り笑いをしている父とは正反対の娘。
「まぁ見ての通り人見知りなもので、身体も弱く友達もあまり居なくて。今年で十四歳になりますが、どうぞ話し相手になってやって下さい。アオイ様と気が合えば良いのですがね」
十四歳、アオイが思っていたよりも下だ。
自分も普通の少女とは言えないからなとアオイは心の中で少し苦笑い。
怜が「では私達は本題に入ろう」とクリスに言うと、男性一人と犬二頭は何処かの部屋へ消えていく。
アオイとステラはサロンへと案内された。
「アオイ様? 口はくれぐれも滑らせぬように」
「えぇ、まぁ、大丈夫よ」
ひそひそ会話していると「お茶を、どうぞ……」とまるで亡霊のような白い手が目の前に差出される。
互いに何を話せば良いのか分からないので、アオイは取り敢えず出された茶を飲んだ。
こくりと飲むと、独特な華やかな香りがして何だか落ち着く。
「ん~ん、良い香りで美味しい! 何と言うお茶なのですか?」
「
「へぇ……、初めて飲んだわ!」
「隣国の……
「へぇ……? この国と、あまり関係が宜しくないとお聞きしましたが……」
「そう、ですね。けれど、個人の貿易は止まらないので……」
「それもそうね! このお茶リラックス効果もあるのね。わたしこれでも緊張しておりますので、とても有難いです」
「あっ、私もっ、すごく緊張していて……、最近では家族以外とあまり話さないので……」
「そうなのですか?」
「あ、はい。身体が弱くて……」
あまり目を合わせようとしないアリスだが、それなりの教育なりコミュニケーションなりは、教えられているのだろう。
(う~ん、こんな感じで良いのだろうか……私が歳上なのだからリードしないと……話題、何か話題を……)
アオイはぐるぐると目玉を回しながら、会話のきっかけを探す。
するとある事に気が付いた。
このアリスお嬢様、ちらちらとステラを見ているではないか。
ステラを見ているから目が合わないのか。
(はっ! なるほど! 私には分かるぞ。これはそう……貴女、犬好きですね!?)
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