第53話 帝国へ
「何故マ王様が馬車に乗られているのですか?」
帝国へ出発する日、馬車に乗っている僕にルマンダさんが聞いてくる。
「色々と考えたんだけど、僕も行こうかなって。迷惑かな?」
「迷惑ということはありません。しかし、僭越ながら申し上げるのであれば、マ王様には王座にドッシリと座っていて欲しいとは思っております」
「僕が王座に座っていることなんてほとんどないよ」
「実際に座っているかどうかではありません。王自らが動かれる必要はないので、下のものに命じて欲しいと言う意味です」
「ああ、そういうことね。基本的には任せるつもりでいるけど、結末はちゃんと見届けようと思っているだけだよ。よっぽどのことがない限り口を出すつもりはないから、城にいるか、近くにいるかの違いしかないよ」
「左様でございますか。それでしたら私から言うことはございません」
「シトリーには僕も行くことをさっき伝えたから、僕の分の食料を追加で準備してくれてるよ。準備が出来たら出発しようか」
「かしこまりました」
「みんな、いい子にしてお留守番してるんだよ」
僕はシンク達に留守を頼んで、馬車で帝国へと移動する。
御者として2人男性が同行しているが、馬車の中には僕とルマンダさんとシトリーしかいない。
「任せっきりになってて申し訳ないんだけど、どうやって帝国と和解するのか聞いてもいいかな?」
僕の望みを叶えてくれるという結果は聞いたけど、過程を聞いていなかった。
ルマンダさんがずっと忙しなく動いていたのと、任せると言ったからには内容がどうだろうと口を出すつもりがなかったからだ。
それに、馬車に揺られる時間は長いので、その時に聞けばいいやと僕が後回しにした結果でもある。
僕はルマンダさんから作戦の全貌を聞かされる。
思っていたよりも大胆なことをするけど、うまくいけば僕の望み通りになることには間違いないから口は出さないことにする。
「ということは、作戦は2段階あるってことだね。1段階目でなんとかなるといいね」
1段階目でなんとかなるなら、和解したと言えなくもない。
でも2段階目に移ってしまったら、和解したと胸を張って言うことはできない。
でも僕の望みから外れてはいないし、自国の事だけを考えれば悪い話ではない。
むしろ良い話とも言える。
「そうですね」
僕達は数日馬車に揺られ続けて、最初の目的地であるハラルドの街へと到着した。
「では話を聞きに行きましょうか」
僕達は冒険者ギルドに入り、ギルマスに取り次いでもらう。
「お久しぶりです。お手数お掛けしてます」
僕はギルマスに再会の挨拶をする。
「ああ、待っていた。初めましてルマンダ様。シトリーちゃんも元気そうでなによりだ」
ギルマスが挨拶する。
「単刀直入にお聞きしますが、帝国とルシフェル国との戦争は回避出来そうでしょうか?」
ルマンダさんがギルマスに本題を聞く。
「正直難しい。俺の伝手でカナル伯爵に連絡をとったんだが、皇帝陛下は既にあの地を傘下とする方向で事を進めようとしているそうだ。そちらに遣いの者が行ったはずだが、断るとは思っていなかったらしい。関税を払わずに通行するのが目的だったようだから、同盟を結ぶなら争う事にはならなかったはずだ」
「あの内容で同盟を結ぶことは出来ない」
ルマンダさんが答える。
「お互い譲れないものがあるのであれば仕方ない。双方が納得のいく話し合いが出来ればいいのだが、皇帝陛下はそちらの国の力を正しく認識出来ていない。だから力で言うことを聞かせようとしている」
「カナル伯爵は其方の話を聞いて掛け合ってはくれなかったのか?あの御仁は話の通じる方だったと記憶していたが」
「カナル伯爵は半信半疑ではあるが、俺の話を聞いて動いてくれた。だが、皇帝陛下が突っぱねた」
「半信半疑と言ったが、カナル伯爵に実際に力を見せて確信に変わったとしてもその結果は変わらないのか?」
「変わらないだろうな。カナル伯爵は俺の話す全てを鵜呑みにしなかったというだけで、俺がルシフェル国を相手にするべきではないと言っている意味を正しく認識してくれてはいたはずだ」
「公爵か侯爵に話をすることは出来ないか?」
「カナル伯爵とは俺が冒険者時代から個人的に付き合いがあっただけだ。俺の顔が広いわけではない。話を出来るとしても、後は領主くらいだ」
「カナル伯爵が進言しても無駄で、ハラルド子爵が進言したら皇帝の意思が動くことはないだろう。マ王様、仕方ありません。次に行きましょう」
ここで話が付けば大事にはならず、お互いの納得のいく同盟を結べた可能性はあった。
残念だ。
「待て!何をするつもりだ?まさか本当に一戦交えるつもりか?」
「……僕は交えるつもりはないです。皇帝次第です。皇帝が兵を下げれば僕が攻めることはありません」
「……そうだな。攻めようとしているのは帝国だから坊主に言っても意味がないか。俺も争わない為に国を差し出せとは言えん。だが、これだけは言っておく。争いは不幸しか生まない。そして不幸は連鎖する。覚悟はしておけ。どちらが仕掛けた戦だろうと、残された者は相手を恨み続ける。返り討ちにする力はあるかもしれないが、一度踏み込んだら坊主は血塗られた人生を歩むことになるぞ」
「ご忠告ありがとうございます。そうならないように皇帝を説得するつもりです。説得に応じてくれない場合は覚悟を決めます」
「そうか……。坊主に頼みがある。戦を回避出来なかった場合、この街は見逃して欲しい。帝国全てをとは言わない。ここが戦場になれば、立場上所属する冒険者に依頼を出さないといけない。帝国に所属しているわけではないから、冒険者には断る権利はあるが、国からの高い報酬に目が眩み俺の忠告を無視して依頼を受ける者もいるだろう。俺はここの長として仲間を死地に送りたくない。それにこの街の者にも死んでほしくない」
ギルマスが頭を下げる。
「それは無理な相談だ。ハラルドは帝都へ進軍する場合には通る街になる」
ルマンダさんがギルマスの頼みを断る。
「ルマンダさん、帝都に進軍する時はこの街を通らないルートを選びましょう。遠回りをすればいいだけです」
「しかし……」
「今回こうして開戦前に動けているのはギルマスのおかげです。知らせてくれなければ、侵略されていたかもしれない。そしたら返り討ちに出来たとしても国民に被害が出ていたはずです。そのギルマスからの頼みを断るのは義に反します。それに、ギルマスの頼みを聞けば、今後も似たことが起きた時に情報をくれるはずです。この繋がりを壊すことの方が痛手のはずです」
「確かにそうかもしれませんが……この街を通らないルートとなると、魔国に入るか山を超えるしかありません」
ルマンダさんは納得のいかない様子だ。
「それなら山を越えればいいです。そもそも、ルマンダさんは僕の望みを叶えてくれるんですよね?それならこれは要らぬ心配です。僕はルマンダさんの言葉を信じてますし、シトリーならやり遂げてくれると思ってます。必要ない心配の為に、ギルマスとの繋がりを壊す必要はないです。万が一今回の作戦が失敗したなら、それは自分達への罰として山に登りましょう。僕もつきあいます。それともルマンダさんは自分の立てた作戦に自信がないんですか?」
「失礼しました。問題ありません」
ルマンダさんが答える。少し意地悪な言い方だったかもしれないけど、僕は本当に戦になるとは思っていない。
だから何も問題はないはずだ。
「いいのか……?」
ギルマスに聞かれる。
「もちろんです。では失礼します」
僕達は冒険者ギルドを後にする。
「口出ししないって言っておいて、ごめん」
僕はルマンダさんに謝る。
「いえ、マ王様の言うことは間違っておりません。確かに必要のない心配でした」
「話を聞いてくれてありがとう。今日は屋敷に泊まって、明日帝都に出発でもいいかな?コロネさんにも話をしておきたいから」
「問題ありません。では明日の朝にお迎えにあがります」
「わかった。明日もよろしくね」
ルマンダさんも屋敷に泊まればいいのにと言おうとして、やめる。
よく考えたら部屋はあるけど、布団が足りない。
僕とシトリーは屋敷で降ろしてもらう。
屋敷にはコロネさんの他にコロネさんの両親も住んでいる。
コロネさんから屋敷の管理は両親にやらせるから、追加で人を雇う必要はないと言われた。
それなら、両親に給金を払うと言ったけど、屋敷に住まわしてもらうだけで十分だと言っていた。
コロネさんは引くつもりがないようだったので、気持ちが変わったら言って欲しいとだけ伝えてある。
コロネさんに今回のことを説明しようと思っていたけど、コロネさんの両親と挨拶したり、雑談していたりしたらあっという間に寝る時間になってしまった。
わざわざ心配させる必要もないと思い、結局話をせずに僕は寝ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます