第52話 知らせ
帝国の遣いを帰らせてから5日後、コロネさんから定時連絡とは別に手紙が届いた。
緊急で知らせることがあるということだ。
手紙には帝国が戦の準備をしていると書かれていた。
ギルマスが情報をくれたらしい。
今はギルマスが戦争を回避出来るように独自に動いてくれているようだ。
僕は『教えてくれてありがとう。ギルマスによろしく伝えてください』と書いてコロネさんの方へ返信する。
コロネさんからの手紙を持ってルマンダさんのところへと向かう。
「帝国に住んでる方から情報をもらったんですけど、どうしたらいいと思いますか?」
僕はルマンダさんに手紙を渡して、見解を聞く。
「この手紙をくれた方とそこのギルドマスターは信用に足りる方ですか?」
「信用出来ます。僕の事情も知ってる方です」
「そうですか。それでしたら、帝国を攻める準備を進めるべきです」
「帝国と争うの?」
「それはマ王様次第です。絶対に避けなければならないのは自国が戦場になること、つまり侵略されることです。マ王様のお力が強大だということは身を持って知っておりますが、国民全てを守りながら戦うことは困難でしょう」
「そうだね」
確かにいくら皆が優れていても、ここに住む人を巻き込まないようにしながらは難しいだろう。
「ですので、こちらには戦う意思があるということを示す必要があります。先程攻める準備と言いましたが、防衛という意味もあります。領土の境に兵を展開しておけば、そこを突破されない限り、国民に被害が出ることはありません。また、あちらが侵略ではなく、正式な戦として考えているならば、そもそもその心配は必要ありません。日時と場所を取り決め、国民に被害が出ないようにすればよいだけです」
「帝国と戦をしてこちらは勝てるかな?」
ルマンダさんの話には、こちらが負けるという想定が無いように聞こえる。
「絶対ということはありませんが、負ける可能性はほぼ0に等しいと思います。シトリー様が訓練されている姿をお見かけしますが、正直姿を追いきれません。帝国の騎士や兵士の中に、シトリー様の姿を捉えることの出来る方が果たしているのでしょうか?」
そう言われると負けることはなさそうに思える。ただ…
「本人の意思を尊重するつもりではいるけど、僕としてはシトリーは僕の専属使用人であって兵士ではないから、戦場に行かせるつもりはないよ」
「それは失礼致しました。それはオボロ様達も同じでしょうか?」
「そうだね」
頼めばやってくれそうだけど、進んで戦場に送り出したくはないかな。
「であれば、帝国に勝てる見込みはありません。残された兵力は元々私が保有していた兵士達になります。練度は高いと自負しておりますが、帝国を相手に出来る程ではありません」
「それはマズイね。うーん、でもやっぱり、無理矢理戦場に送りたくはないんだよね。みんなの気持ちを聞いてくるから待ってて」
「かしこまりました。確認される前に、先程の話に付け加えさせて下さい。シトリー様程のお力があれば、相手を殺さずに無力化することも可能だと思われます」
「うん、わかったよ」
僕は自主訓練しているだろうシトリーに会いに庭へと行く。
庭にはシトリーの他にオボロとシンクもいた。
ユメは部屋で寝てるのかな?
「マオ様、何か私に用ですか?」
以前と同じく目を瞑り瞑想していたシトリーに、話しかける前に聞かれた。
「……よく気づいたね」
「マオ様の足音がしました」
足音なんてしてたかな?
わざわざ消して歩いてはいないけど……
「訓練の成果が出ているみたいだね」
どんどんシトリーが常識からかけ離れている。
「及第点じゃ」
「オボロが及第点だってさ」
「やりました」
シトリーは嬉しそうだ。
「引き続き頑張ってね」
「はい!それでマオ様の用事はなんでしょうか?」
「なんか帝国が攻めてきそうなんだよね。コロネさんから手紙が届いたんだよ」
「訓練の成果をお見せする時が来ましたね」
シトリーが言った。
僕の心配とは裏腹にシトリーはやる気満々といったようだ。
「帝国と争うことになったら、シトリーは戦場に行くつもりなの?」
「私が行くことでマオ様のお力になれるなら喜んで行ってきます」
「そっか。無理してるわけではない?」
「してません。孤独に生きるしかなかった私に、手を差し伸べてくれたマオ様のお力になりたいんです」
「ありがとう。でも、今も十分シトリーには助けられてるから、そんなに気負わなくてもいいよ。オボロとシンクは?」
「ご主人様に従うワン」
「帝国も手に入れるのじゃ」
シンクは僕の判断に任せるようだけど、嫌がってはいない。
オボロは好戦的なようだ。
僕の心配を返して欲しい。
「帝国の領土を奪うつもりはないからね」
僕はオボロに言う。
自分の国を守るのが目的であって、領土を広げたいわけではない。
ユメは後で聞くとして、一応フェレスさんにも聞いておこうかな。
「帝国が攻めてくるかもしれないんですけど、フェレスさんは戦場に行きたいですか?」
研究室に行き、ストレートに聞く。
フェレスさんの答えは大体予想がついているからだ。
「研究の時間が割かれますので行きたくありません。しかし、この国を守る為に私の力が必要なら、戦場に行くのもやぶさかではありません。魔法を試すいい機会でもあります」
やっぱり予想通りだ。
「それは、研究に集中出来るからという認識でいいんだよね?」
「もちろんです。これ程の環境はありません。それを守るためなら、少しくらいの時間は割きます」
「そうならないようにはしたいけど、争うことになったら頼むね」
「任せてください」
結局誰も戦いに赴くことを拒否しないようだ。
これが生きてきた環境の違いというやつなんだろうか……。
僕はルマンダさんのところへ戻り、みんなの答えを伝える。
「ユメは聞けてないけど、他の皆は行ってもいいそうです。クロとシロはわかりません」
多分ユメの答えも同じだと思う。
面倒くさそうにするくらいだろう。
クロとシロは会話できないのでわからない。
「それはよかったです。断られてしまったら、兵士を死地に向かわせるしかありませんでした」
「僕が平和ボケしすぎていただけみたいだったよ」
「それは悪いことではありません。戦場に向かう者は、死にたいわけでも、誰かを殺したいわけでもありません。自分や自分の大切な人が、幸せに暮らせるように命と誇りを掛けて戦うのです。戦いを忘れて幸せに生きることが出来るなら、それに越したことはありません」
「……そうだね」
「それでどうされますか?マ王様の望む結末をお聞かせください。シトリー様達のご協力が叶うのであれば、マ王様の望む結末にしてみせます」
「……この国に残ってくれた人が死ぬのは嫌だよ。それにこの国の為に戦ってくれる人が死ぬのも嫌。出来れば相手にも死んでほしくない。そもそも歪み合いたくない。わがままを言っているのはわかるけど、僕の望みを言うならこうなっちゃうよ……。でも贅沢は言わない。この国の事だけを考えよう。向こうも向こうの都合で攻めてくるんだから」
「お任せください。ルシフェル国を最優先に考えて動きますが、帝国兵にも犠牲を出さず、帝国と今後も戦にならない方法で解決してみせます」
「出来るの?」
僕が言ったのは夢物語に近い。
「相手次第ですが、可能性はあると思います。この件を私に任せてもらえますか?」
「わかった。任せるよ。僕は何をしたらいいかな?」
「作戦を考えてから帝国に行く予定でいます。実際に力を見てもらい、ルシフェル国とは争うべきではないと思わせるのがいいでしょう。どなたか私と一緒に来ていただきたいです」
「誰がいいの?」
「シトリー様が1番適任です。魔物が力を見せるよりも効果は高いです」
「わかった。話をしておくよ」
「お願いします」
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