第51話 訪問者

しばらく経ち、フェレスさんとオボロが帰ってきた。


「おかえり。遠くまでありがとうね。何か問題はあった?」

僕は駆け寄ってきたオボロを撫でながら、フェレスさんに聞く。


「拐われた人は無事救出しました。リストとは別に無理矢理隷属された者もおりましたので、一緒に助けました」


「ありがとう。その人達は今どうしてる?」


「元々住んでいた村に送ってきました。ただ、子供を5人連れてきています。今は馬車の中で待たせています」


「何か事情があるの?」


「拐われたのではなく、口減らしの為に親に売られていました。親の元に帰したところでまた売られてしまうので、マオ様ならこうするだろうと連れてきました」


「……その方がいいのかな。本人は知ってるの?」

親から引き離すのが正解なのかはわからないけど、また売られてしまうならこの方がいいのかもしれない。


「薄々ですが、感づいているようです」


「それなら、孤児院を作る予定だからそこで暮らしてもらおうか。前に話したけど、スラムの方は片付いているから、建物を建ててもらってもいいかな?」


「建てておきます」


「お願いね。王国の方はどうだった?」


「建国自体は認めてもらいました。認めたというよりは、マオ様のおかげで財政難のようで、放置したという方が正しいかもしれません」

財政難も一時的なことだろうし、油断は出来ないな。


「僕の同郷の人のことは何かわかった?」

みんなのことが心配だ。


「直接は見ておりませんが、少し情報は得てきました。やはり隷属されているようです。今はダンジョンに潜らされてレベルを上げているようです」


「そっか……。無事だといいんだけど……」


「誰かが亡くなったという情報は得ていません。ただ、城内を自由に動けたわけではないので、確かではありません」


「それは仕方ないね。本来の目的は建国を知らせることだから、無事フェレスさんが戻ってきただけで今は満足だよ。頼んだこと以上のことをやってくれたフェレスさんに、ちゃんと褒美は用意してあるから」


「ありがとうございます」


「多分王国の宝物庫に入ってたやつだから、公には出さないでね」

僕はフェレスさんに杖を包んで渡す。


「気をつけます。見てもよろしいですか?」


「いいよ」

フェレスさんは包みを解いて中身を見る。


「ありがとうございます。大事にします」

大事にはしてくれるかもしれないけど、あまり喜んではいない。

やはり、フェレスさんの欲しい物ではなかったようだ。


フェレスさんからは何が欲しいとは言われてないけど、僕が持っている物でフェレスさんが欲しいと思っている物には心当たりがある。


でもそれをあげはしない。


研究の為に世界を滅ぼしそうだからだ。


今のところ魔導書が欲しいとは言われていないから他の物を渡しているけど、魔導書が欲しいと言われたら、渡すにしても何の魔法をつかって、何が起こるのか報告してもらってから試してもらうことにしよう。

その条件が飲めないなら諦めてもらう。


国王保有の魔導書とか危険な匂いしかしない。


「それじゃあスラムの件だけ頼むね。今日はゆっくり休んでもらって、明日か明後日くらいにお願い」


「いえ、今から建ててきます。その方が研究に集中出来ますので」


「フェレスさんがいいならその方が助かるよ。こんな感じで頼みたいけど作れるかな?」

僕はフェレスさんに、どこにどんな建物を作って欲しいか書いた簡単なメモを渡す。


「……問題ないでしょう」


「それじゃあ無理しない程度にお願いね」


フェレスさんがスラムだった場所に住まいを建てに行ってから少し経った後、僕に謁見したい人が来たとの知らせを受ける。


「誰が来たの?」

僕は知らせに来てくれた男性に聞く。


「帝国から使者が送られて来ました。建国について話があるとのことです」


「わかったよ。ルマンダさんに王座まで来てもらって。必要ないけど、形として兵士の方達にも声を掛けておいてね。準備が出来たら、その使者の人を案内して。それまではどこかの部屋でもてなしておいて」


「かしこまりました。すぐに準備します」

男性が部屋から出て行く。


「悪いけど、シトリーも付いてきてくれる?」

部屋の掃除をしてくれていたシトリーに頼む。


「もちろんです」

僕はシトリーと王座の間へと行き、高そうな椅子に座る。


「マ王様、お待たせ致しました。帝国から使者が来たようですね」

ルマンダさんが入ってくる


「そうみたいです。建国について話があるそうです。僕が聞いても分からないことが多々あると思うので、フォローお願いします」


「お任せください」


「シトリーに同行してもらったから、身の安全は確保出来てるけど、一応形上兵士の方達に並んでもらおうと呼んできてもらってるよ。使者の人はどこかの部屋でもてなされてるはず」


「かしこまりました。帝国の使者を名乗った刺客かもしれませんので、その対応で問題ないかと思います。相手も兵士に囲まれていても、争う気が無いのであれば問題ないはずです」


「兵士の方達が来たら使者の人を呼ぼうか」


「かしこまりました。マ王様に一つお願いがあります」


「なに?」


「マ王様が先に座られていると、兵士の方達が王を待たせたことになってしまいます。お手数ですが、一度お部屋に戻って頂けますでしょうか?」


「確かにそうだね。そうするよ。僕が気にしなくても、みんなが気にするよね」


「お心遣いありがとうございます。準備が出来次第呼びに行かせます」


少しして準備が終わったとの連絡が来たので、再度王座へと座り、使者を呼びに行ってもらう。


「謁見をお許し頂きありがとうございます。皇帝陛下よりルシフェル国、マ王陛下へ封書を預かっております」

使者の男性が片膝を着いて頭を下げ、書状を差し出す。


「こちらへ」

ルマンダさんが兵士の一人に取りに行かせる。


「失礼します」

ルマンダさんが断ってから先に中を見る。

表向きは毒とかが仕込まれていないかの確認で、実際には対応を僕の代わりにやる為だ。


「マ王様、どうぞ」

ルマンダさんから書状を受け取り、読む。


内容を簡単に解釈すると、帝国と争う気があるかどうかということだ。

それから、同盟や貿易についてもいろいろと難しいことが書いてある。


仲良くやりましょうということかな?


「私に任せてもらってもよろしいでしょうか?」

ルマンダさんに小声で聞かれる。


元々そのつもりだったので、僕は頷く。


「皇帝陛下はルシフェル国と一戦交えたいということでよろしいか?」

ルマンダさんが僕の解釈とは異なることを言った。


え、なんで?


「……そのようなつもりはございません」


「其方は封書の内容を知っているのか?」


「存じておりません」


「読んでみよ」

ルマンダさんが僕が持っていた書状を使者の男性の前に投げる。


何か問題があるみたいだけど、一触即発の空気になってるよ……。


「……失礼致しました」

書状を読んだ男性が震えながら謝罪をした。


「もう一度聞くが、帝国は一戦交えるつもりということでよいか?」


「私には答えかねます」

先程と答えが変わった。その可能性があると思ったのだろう。


「マ王様、どうされますか?この男の首を帝国に送りつけますか?」

ルマンダさんが怖いことを言い、男性がビクッと震える。


そんなことを僕に聞かないで欲しい。


「城を血で汚すつもりはない。ただし、許すのは今回だけだ」

僕はよくわかってないけど、さっきの書状にふざけたことが書かれていたのだろうと判断して答える。


「マ王様の寛大な判断に感謝することだな」


「……ありがとうございます」

男性がホッとした顔をした後、頭を下げる。


「皇帝に伝えろ。対等な同盟なら話は聞いてやる。この内容が対等だというのであれば、逆の条件で同盟を結んでやるとな」


「承知いたしました。失礼します」

男性が出て行った。


「ルマンダさん、後で部屋に来てくれる?」


「かしこまりました」


僕が立たないと兵士の方達が本来の仕事に戻れないので、とりあえず部屋に戻ることにする。


「それで何が問題だったの?」

僕はルマンダさんに書状の内容の何が問題か聞く。


「この国が弱小国家ならあの内容でも問題ありません。他国から攻められた時に兵を貸し出すとの記載もありました。その代わり自由にこの国を通らせろと書いてありましたね」


「そんなこと書いてあった?」


「直接は書かれていません。表向きは緊急時に手続きなく出入りする為となっていました」

確かにそんなようなことは書いてあった気がする。


「それの何が問題なの?」


「大きな問題は2つあります。一つは帝国が同盟を破りこの国を攻めようとした時に、兵士を街中に容易に忍ばせることが出来る様になります。もう一つは税収が減ります。マ王様は帝国領からこの国を通った先に何があるかはご存知ですか?」


「魔族領があるね」


「そうです。帝国が魔族領に住む者と貿易をする際にここを通ります。その際に、本来であればルシフェル国に入りますので、入国税を払います。しかし、名目を兵士ということにすれば払わなくても通れます。こちらとしては頂けるお金をもらえません」


「なるほどね」

そんな意味があの書状に隠されていたなんて気づかなかった。


「ですから、帝国がルシフェル国を弱小国だと思っているなら、一度剣を交えてどちらが上か白黒付けましょうと言ったのです。最初に言いましたが、税収が減ったとしても、王国や魔国に攻められた時に帝国が助けてくれるなら悪い話ではありません。しかしそれは帝国の助けが必要ならです。自国よりも弱い国の助けはいりません。あの書状の意味を簡単にいうと、建国は認めるが、帝国の傘下に入れということです」


「そっか。ありがとうね。ルマンダさんがいなければそのまま話を受けてたよ」

危なかった。ルマンダさんを呼んでおいてよかった。

僕には腹の探り合いみたいなことはやはり向いていないようだ。


「お力になれたようで何よりです」


「これからもお願いします」


「お任せください」

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