第46話 密偵 オボロとフェレス②
フェレス視点 マオがハラルドから戻ってきた日
「さて、君の処遇について考えているわけだが、何か言い分はあるか?」
私は1人の男を捕まえて研究室に連れてきている。
捕まえた理由は、オボロ殿が場内に不審な男がいると教えてくれたからだ。
あれから何度もマオ様にオボロ殿との通訳をしてもらい、ほとんど差異なくオボロ殿の言葉を理解できるようになった。
「なんで私がこんな扱いをされているのかわからない」
男は怯えながら言った。
本当にこの男がスパイなのか?
「お前は王国のスパイだろう?隠しても無駄だ」
「何を言っているのかわからない」
「決まりじゃ」
男は否定するが、オボロ殿は確信を得たようだ。
私にはなんで確信を持てるのかわからないが、オボロ殿が言うなら間違いないだろう。
「認めるのであれば使いようもあったが、認めないのであればこのまま死んでもらうしかないな」
マオ様はこんな輩にも情けを掛けそうだが、今ここにマオ様はいない。
バレる前に始末してしておくか。
「ま、待ってくれ!み、認める。俺は王国の諜報員だ」
男の頭を掴み燃やそうとしたら、男がスパイであることを認めた。
「やはりな。選択肢をやる。私の元で王国のスパイをするか、このまま死ぬかの2択だ。私の元で動くならこれを体に埋め込んでもらう」
私は男にガラス玉を見せる。
「……それはなんだ?」
「これはただのガラス玉だ。隷属の呪法を掛けてあるがな。首輪や指輪だと隷属されていることがバレるかもしれない。だから埋め込む。私の言うことを聞いている限りは悪いようにはしないと保証しよう。裏切らないようにする為だ。もちろん断るなら死んでもらうしかない」
「……わかった」
「ちょうど駒を探している時でよかったな。お前は運がいい。ほら、埋め込め」
「うっ……ん!」
私は男にガラス玉を投げて、男の腹を切る。
男が自分で腹にガラス玉を入れた後、私は男の傷を治す。
隷属の呪法は、呪いを掛けられる本人自らが媒体を付ける必要があるのが難点だな。
改良できれば、もっと簡単に隷属しやすくなるのだが……。
呪法を悪用しないようにこの呪法を作った人物が組み込んだのだろうが、こうして脅してしまえば意味はない。
「そういえば名前を聞いていなかったな」
「……名は捨てました」
「そうか……それならカゲと呼ぶ。お前と私の関係はマ王様にも秘密だ。わかったな」
「かしこまりました」
「よし。ではお前には1つ目の仕事を与える。王国に戻り、ルマンダ侯爵が敗れた経緯を説明してこい」
私は隠すことなく侵略した際の出来事をカゲに説明する。
こちらの戦力を王国に伝えて、簡単には攻められないと思わせる。
今回は下手に手を打つ必要はない。
ありのままを伝えれば十分だ。
「かしこまりました」
「それからバレない程度でいいから、王国の情報を掴んでこい。特に召喚された者たちについてだ。どれほどの戦力か調べてこい」
「かしこまりました」
「お前が王国を裏切ったとバレた場合には速やかに自害しろ。死ぬことだけを考えろ。これは呪法を使っての命令だ。死にたくなければ、悟られないようにすることだな」
「……かしこまりました」
「死なずに戻ってくることを期待しておく」
いくつか他に命令をした後、カゲが研究室から出て行く。
「オボロ殿のおかげで良い駒が手に入りましたよ」
「あの者は使えるのかの?」
「なかなかに優秀ですよ。オボロ殿が教えてくれなければ気付かなかった。使用人の1人にうまく溶け込んでいたな」
「すぐに鞍替えしたわけじゃが、信用出来るのかの?」
「信用なんてしてませんよ。だからこそ隷属したんです。実際にどれだけあいつが使えるかは戻ってきたらわかるでしょう」
数日後、カゲが戻ってきた。
やはり優秀だな。バレなかったということか。
「右手を上げろ!」
私はカゲに命令する。
カゲは動かない。
「右手を上げろ!」
私は再度命令する。
カゲは今度は右手を上げる。
何度か同じことを繰り返す。
私はカゲに戻ってきたら、隷属が解かれていないかの確認をすると言っておいた。
確認方法は命令を無視するかどうかだ。
カゲには何を言われても動くなと言ってある。
最初はただ口で右手を上げるように言っただけで、呪法で無理矢理従わせてはいない。
二度目は呪法の力で無理矢理右手を上げさせた。
何度か右手を上げるように言って、私が呪法の力を使った時だけ右手を上げれば、隷属は解かれていないと確認が取れる。
隷属の呪法は主人が死ぬか核を壊さない限り解かれないと思われているが、実際は違う。
他にも解く方法はある。
私の知っている方法だけでも他に2つあり、その内の1つは私にも可能だ。
だからこそ、この確認を怠るわけにはいかない。
カゲには隷属を解くなと命令してあるので、カゲが自らの意思で隷属を解くことはないが、隷属が解かれたら自害しろと命令しても、隷属が解かれればこの命令の効力を失うので意味がない。
「良し、問題ないな。よく戻ってきた。報告を聞こうか」
「王国の国王には言われた通り報告してきました」
「何か変わったことはあったか?」
「建国するのがマ王と言った所、酷く動揺しているようでした」
やはり、勇者を召喚しただけあって魔王の存在は知っていたか。
狙い通りだ。
「そうか。召喚された者たちはどうだった?」
「皆隷属され、ダンジョンでレベル上げをさせられています」
「予想通りだな。それで戦力はどの程度だ?」
「勇者、聖女、賢者の3人は能力の伸びが大きいようです。しかし、他の者はそうではありません。ここを侵略した話を聞く限りでは、フェレス様とオボロ様で問題なく王国を落とすことが出来ると思われます」
「勇者の力はその程度なのか?マ王様のスキルから考えると相当厄介な相手だと想定していたが……」
思ってもいなかった報告に驚く。
「把握出来ていない能力があるかもしれませんが、騎士団長くらいの戦力だと思われます。レベル上昇時の伸びが良いようなので、放置すればまだまだ力を付けるとは思います」
「……わかった。他に報告はあるか?」
「確証はありませんが、もしかしたら聖女は隷属されていないかもしれません」
「どういうことだ?」
「聖女も付けていた指輪に隷属の呪法が掛けられていると思われるのですが、呪法で従わされた時の反応がワンテンポ遅かったように見えました。偶然呪法に従わされている所を見かけただけですので確認は取れてませんが、隷属はされておらず、周りに合わせて従っているフリをしているのかもしれません」
「わかった。頭の片隅に入れておく。他には?」
「これで以上です」
「よし、よくやった。しばらく休みをやるから自由にしていてよい。ただし、私が呼べばすぐに来れるようにはしておけ」
「かしこまりました。失礼します」
カゲが安堵し研究室から出て行く。
「オボロ殿、困ったことになりましたね」
「主以外がポンコツとは思いもしてなかったのじゃ」
マオ様以外も特殊な力を持っていると思って動いていたが、まさか一般の人よりは優れている程度とは予想外だ。
もっとバケモノの集まりだと想定していた。
「これがマオ様に知られたらすぐにでも救出に向かうでしょう。マオ様は知らないはずですが、隷属されていようとも王国に内密に解放する手段はあります。魔族領に行けば本当に元の世界に戻れるのかは知らないが、仮に戻れるのであればマオ様が帰ってしまうかもしれません」
「それはダメなのじゃ。主と別れたくないのじゃ」
「……勇者方には本当に強くなってもらわなければなりませんね」
「何か案があるのじゃな?」
「とりあえず無能な王には退場してもらいましょうか」
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