第45話 建国
クロウさんとの話を終えた僕はフェレスさんのところへと行く。
「フェレスさん、お願いがあるんですけど」
「何ですか?」
「この城を作ってくれたじゃないですか?普通の家も作れます?」
「外観だけでいいなら可能だ。内装も作れないことはないが、細々とした物を作るのは好きではない」
「それなら、スラムの人が住む家を作って欲しいです。どのくらいで作れますか?」
「どんな家を作って欲しいかによるな」
「とりあえず、不自由なく住めればいいです」
「それなら、半日もあれば可能だな。城みたいに凝った細工はいらないのだろう?」
「そういうのは大丈夫です。なら、今スラムがあるところを片付けさせているので、片付いたらそこに建ててください」
「承知した。その時にまた教えてくれ」
「それから、ここに拐われて無理矢理奴隷になった人がいるかもしれないんだけど、助けるのに何かいい案はあるかな?買っていった人がどういう人かも僕は知らないんだよね」
僕はクロウさんから聞いた、どこにいるか当てのある人を助ける方法を相談する。
「……マ王様が助けに行くつもりですか?」
「そうだよ」
「マ王様は今は忙しいでしょうから、私が行ってきます。オボロ殿をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「それは助かるけど、研究の方はいいの?」
研究大好きのフェレスさんが自分からこんなことを言い出すとは思わなかった。
「行き詰まっているので問題ないです。好きに研究をやらせてもらってますので、やれる時には手を貸します。それに、マオ様から褒美をもらうチャンスだと思っています」
それが狙いか。納得だ。
「それなら頼むよ。オボロには僕の方から話をしておくからね。フェレスさんはオボロと話が出来るみたいだし、本当に任せちゃっていいのかな?相談に来たつもりが丸投げする形になっちゃったけど……」
「問題ない。助けた暁にはお願いします」
「うん。それならお願いね」
「任せてください」
拐われた人の救出をフェレスさんがしてくれることになったので、僕はその後にやろうと思っていたことをやる為にシトリーの所に行く。
「邪魔してごめんね。シトリーにお願いがあるんだけど」
庭で瞑想中のシトリーに話しかける。
「……。」
「シトリー?」
「……ひゃっ!あ、マオ様」
声をかけても気づいてくれないのでポンポンと肩を叩いたら、シトリーを驚かせてしまった。
「驚かせてごめんね。声を掛けたんだけど、集中していて気付いてくれなかったから」
「まだまだじゃな」
僕は集中力がすごいと思ったけど、オボロ的には不合格のようだ。
「何がダメなの?声を掛けても気付かないくらい集中してたんじゃないの?」
「それは寝てても同じなのじゃ。目を閉じていても周りが見えるようになってやっと意味があるのじゃ。話しかけられても気付かなかったのは集中ではなく、物思いに耽っていただけじゃ」
手厳しい。
「オボロちゃんはなんて言っていますか?」
「目を閉じていても周りが見えるようにならないと意味がないって」
「それは難しいです。でも頑張ります」
「無理しない程度に頑張ってね」
「はい。マオ様は私に何の用ですか?」
「おつかいを頼みたいんだ。ここに行って来てくれるかな。内容も書いてあるから」
僕はシトリーにメモを渡す。
「わかりました。行ってきます」
「僕は建国式の準備があるからお願いね」
シトリーが出掛けていく。
向こうはシトリーに任せて、僕は建国式のスピーチの練習をすることにする。
さて、どんな内容なのかな。
僕は収納に仕舞いっぱなしになっていた原稿を取り出して読む。
当たり障りのない内容だけど、これでいいのかな?
もっと、僕が王になったからにはこの国をこうします!みたいな政治家みたいなことを言うのだと思っていた。
「フェレスさん、少し相談に乗ってください」
僕はまたフェレスさんの所に行き、これでいいのか聞いてみることにする。
「今度はどうされましたか?」
「建国式の原稿をルマンダさんに貰ったんですけど、なんだか内容が当たり障りのないことで、これでいいのかなって。普通はこんな感じなの?」
「読ませてもらってもいいか?」
「どうぞ」
僕は原稿を渡す。
「確かに当たり障りのない内容ではあるが、悪くないのではないか?何が気になるんだ?」
「なんかもっと、この国をこうします!みたいなことを言った方がいいのかなって」
「マオ様はこの国をこうしたいという思いが何かあるのですか?」
「名ばかりかもしれないけど、王になったからには、ここに住む人が僕が王で良かったと思ってもらえるようにはしたいよ」
「ではそれを伝えればいいのではないですか?ルマンダはマオ様が困らないように原稿を作ったのであって、これを読ませたいわけではないでしょう。この国を良くするのに何か具体的に気になるところはありますか?」
「そうだね。フェレスさんも動いてくれるけど、まずはスラムのことだね。それから商業ギルドの件。後は冒険者ギルドに冒険者が足りてないことかな。他にも問題があれば出来る限りで手を貸したいと思うよ」
「それでしたら、私がそのように内容を修正しておきます」
「ありがとう。それから、大勢の前で話をするのって緊張するんだよね。なにか緊張せずに話す方法とか知らないかな?」
「……マオ様は実はあまりやりたくないのですか?」
「やらないといけないというのはわかるけど、実際のところやりたいとは思ってないよ。でも仕方ないかなって。だから、原稿をちゃんと読んで覚えて、緊張しないようにしないとって思っている所だよ」
「緊張しない方法は知りませんが、他の案ならありますよ」
「他って?」
「任せてもらえれば私の方で上手いことやっておきます。マオ様は当日部屋から出ないようにしてくれればそれで問題ありません」
フェレスさんから詳細を聞く。
いいのかな?と思いながらも、楽な方に逃げてしまった僕は、フェレスさんの案を快諾することにした。
そして建国式当日、僕は自室の窓から城の外を眺める。
建国式をやるという話をルマンダさん主導で街の人に広めていたので、結構な人が集まっている。
集まっている人のほとんどは不安気な表情をしている。
これから自分達が暮らす国のトップがどんな人間なのか、これで少しわかるからだ。
それに、理不尽な事を言ってくるかもしれないと思っているかもしれない。
本当は僕が出ていかなければいけないけど、僕は自室の中で建国式が終わるのを待つ。
2の鐘が鳴り終わった所で、ルマンダさんがまずバルコニーに出て話を始める。
ルマンダさん自らこの領地を明け渡すことになった経緯を説明し、先の侵略で犠牲が出ていないことを話した後、僕がどんな人物かという話をする。
不安を取り除くのが目的のような話が終わった後、建国することを宣言した。
国の名前はルシフェルになった。
導く者みたいな意味があるらしいけど、僕のイメージは堕天使だ。
だけど、そんなことこの国の人は知らないだろうから、異論は唱えなかった。
この後、本来であれば僕の出番になる。
僕はこうして部屋にいるわけだけど、バルコニーには僕がいる。
実際には僕の姿に化けたオボロだけど……。
そして、フェレスさんが魔法で僕の声のように変声して、オボロが話しているかのように、隠れて原稿を読んでいく。
話の内容は僕の手元にある原稿と同じだ。
まずはスラムを解体すること。
スラムの人を城で雇うことはここでは言わない。
その代わりに、孤児院を作ることを話し、スラムが必要ない環境作りをすると話す。
この街……というか、この世界には孤児院というものはほとんど無いらしい。
あったとしても、個人がボランティアのようにやっているだけで、国や領主が主導してはいないようだ。
次に冒険者ギルドについて、今は国が不安定なことを認めた上で、冒険者がこの国を拠点にしたいと思える国づくりをしていくと話す。
そして、滞っている依頼に関しては国として支援も行うつもりだとも話す。
それから商業について。
これはあえて商業ギルドとは言わない。
活気のある国づくりの一環として商業に力を入れるつもりだと言う話をして、いろんな店が建ち並ぶ商店街を作る計画をしていると説明する。
区画に限りがあるので全ての人を受け入れることは出来ないが、良い物をお手軽な価格で販売する商人を歓迎していると話して、気になる方は城まで足を運ぶようにと宣伝する。
最後に、この国に住んで良かったと思える国にするつもりだということを話して、困っていることがあればなんでも城まで相談しにきて構わないと話す。
オボロが大きく手を振ってから、城内に戻り建国式は終わりになる。
無事?終わってよかった。
後は嘘ではなかったと思ってもらえるように、変革を進めていくだけだ。
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