第41話 視察⑥ フクロウ
スラムのボスはさっき人攫いとして、とっちめたフクロウという男だった。
「ボス!遅かったですが、何か問題でもありましたか?」
さっき僕達に外で待ってるように言った男が問いかける。
問題はあったわけだけど、なんて答えるのか?
「問題が発生した。いや、問題しかない。すぐに幹部を集めろ!……なんだこいつらは?」
「賊に金を盗まれて寝る所がないそうです。それでここに寝るかもしれないから、ボスに挨拶に来ました」
「今はそれどころではない。勝手にしろ」
流石に幹部の人との会議に参加するわけにはいかないから、ズラかるとしよう。
このスラムのボスが誰かわかっただけで、今は十分な収穫だ。
「何かお困り事でしょうか?私達でよければ相談に乗りますよ」
僕はそう思っていたけど、シトリーが口を開いた。
確かに会話はシトリーに任せたけど、今はそうじゃない。
多分、僕も会議に混ざれるようにしてくれようとしてるんだと思うけど……。
「お前らには関係ない」
実際には関係大ありだけど、今は帰ろう。
僕はシトリーに目配せする。
「先程、向こうに住んでいる方に親切にしてもらいました。困っている時は助け合いです。先程助けて頂きましたので、今度は私達があなた達の手助けをしたいです。お金はありませんが、物資なら多少持ってます。困ってる理由だけでも話してください」
僕の目配せは違う風に捉えられてしまったようだ。
「……時間がもったいない。聞きたいなら勝手にしろ。ただし、聞いたら後悔することになるぞ」
「わかりました。勝手に付いて行きます」
フクロウさんはシトリーの圧に負けたのか、同行することを許した。
なってしまったものは仕方ない。
なるようになるだろう。
フクロウさんと一緒に建物の中に入り、しばらくして4人入ってきた。
1人は初めにここにいて、幹部を呼びに行った人だ。
「ボス、そいつらは?」
入ってきた内の1人が僕達のことを聞く。
「俺達に協力したいそうだ。無視したかったが、今は時間がない。無視して構わない」
フクロウさんは勝手にしろと言ったけど、いないものとして扱うつもりのようだ。
話だけ聞く分にはちょうどいいな。
傍観者になろう。
「まず今日あったことを話す。心して聞け」
フクロウさんは、先程起きた事を幹部の方達に説明する。
少し驚いたのは、フクロウさんがシトリーを少し捉えていたことだ。
子供くらいで多分女だと言っていた。
それでもギリギリ容姿を捉えた程度で、ここにいる女の子が当人だとは気付いていない。
それから、まだ自身の財力が盗まれたことには気付いていないようだ。
起きた時には半裸にされていたと話している。
「もちろんやり返しにいくんですよね?」
幹部の1人がフクロウさんに言う。
「いや、言われた通り監禁している奴らを解放する」
フクロウさんはちゃんと約束を守るつもりのようだ。
「ボス!!?」
予想と異なる答えに幹部達は驚きを隠せないようだ。
「何故ですか!?油断しただけですよね?ボスが負けるなんて信じられません」
フクロウさんはそれ程の強者だったのだろうか?
「あれはヤバい。命がいくらあっても足りない。あれともう一度対峙するくらいなら、樹海に入った方がマシだ」
フクロウさんが怯えながら言った。
あの時、そんな素振りは見せなかったのに……。
「そんなにその男はヤバかったんですか?」
お腹を蹴飛ばしはしたけど、そこまで怯えさせるようなことをしたかなぁ。
「違う!俺に話しかけていた男じゃない。多分最初に襲ってきた女の方だ。生きた心地がしなかった。俺のスキルは当たりだとずっと思っていた。大ハズレだったよ。こんなスキルがなければあんなバケモノがいるなんて知らずに済んだ」
フクロウさんは生きた心地がしなかったと言っていたけど、あの時は結構冷静に見えたけどなぁ……。
「すみません。ボスのスキルとは何でしょうか?」
シトリーが場の空気を読まずに聞いた。
確かに僕も気になったけど……。
「……そういうわけだから、監禁している奴らを解放するのは決定だ。これまで生きる為に悪事にも手を染めてきた。だが、死ぬのが確定しているようなことをするのはリスクでもなんでもない。ただの自殺だ」
シトリーは無視されてしまった。
無視するように言ってはいたけど……。
「ボスのスキルが知りたいです」
シトリーは強い子。このくらいでは諦めないようだ。
大丈夫だから、そんなに私に任せて下さいみたいな視線を送らないで……。
「……気配察知と鎮静化だ。気配察知は五感に頼らず周りの気配を感知する。鎮静化は心を冷静にする。普通は昂り、荒ぶった相手に使うスキルだが、今回は自身に使った。他にもスキルは使えるが今回のことには関係ないものだ。わかったら少し黙っててくれ」
フクロウさんがイラつきながら言った。
なるほど、気配察知のスキルでシトリーの力を感じてしまい恐怖したけど、鎮静化のスキルで恐怖から強制的に脱したと……。
「丁寧にありがとうございます」
シトリーがお礼を言う。
これに対してさらにフクロウさんがイラついた気がするけど、気づかなかったことにしよう。
「そうなると、これからどうやって生活していくんですか?ここにはガキもたくさんいますよ」
フクロウさんはスラムに住む人達の為にあんなことをしていたのか?
「蓄えはまだある。あいつは悪事から足を洗って真っ当に生きろと言いやがった。悪事は許さないらしい。お前らには悪いが、俺はあの女にもう会いたくない。悪事を働いたらあの女が現れると思うだけで、震えが止まらなくなる。やり方は蓄えが無くなるまでに考える。真っ当じゃなくても、悪事以外で金を稼ぐ方法を考えるつもりだ」
フクロウさんは震えながら言った。
これはシトリーのことを思い出して震えているのか、それとも自分の不甲斐なさを嘆いているのか……。
「俺達はボスに一生ついて行きます。ボスが悪事から足を洗うと決めたなら、俺達も足を洗います。どうやって金を稼ぐか考えましょう」
「ああ。ありがとう」
いい話だなぁ。
この人達にこんな厚い信頼関係があったなんて……。
「それで蓄えはどのくらいあるんですか?どのくらいなら生活出来ますか?」
「確認する………………無い!え?あ、え?」
「どうしたんですか?」
「収納に入れていた貨幣が全てなくなっている。宝石もだ……落ち着け。こんなこともあろうかと、こっちに隠して分けてある」
フクロウさんが、部屋の隅の方に歩いて行き棚をズラす。
棚の下には小さな空間があった。
そこには……
「……なんでだ!」
何もなかった。本当は貨幣とか貴金属類が隠してあったのだろう。
フクロウさんが絶望して、膝をつく。
全て僕の収納に入っているのだろう。
やったこと自体は許させることではないけど、この人達は根っからの悪人というわけではなさそうだ。
盗んだものを返してあげたいけど、お金は持ってないことになってるし、貴金属類を返したら盗んだのが僕だとバレる。
「……蓄えが無い。金は全て俺が管理してここの奴らの為に使っていた。だから皆を飢えさせてしまう。すまない!」
フクロウさんが膝をついたまま手をつく。
フクロウさんがスラムのお金を全て管理していた結果、僕はスラムの人全員の生活費を盗んでしまったらしい。
幹部の人達も、土下座姿のフクロウさんを見て、なんて声を掛ければいいのかわからない様子だ。
「私達の出番ですね」
シトリーが静まりかえった空間の中、声を上げる。
「……。」
フクロウさんは何も言わずに顔だけをシトリーの方に向けた。
「お金はありませんが物資は持ってます。どうぞ使ってください」
シトリーが机の上に食料を置く。
何人で分けるかは分からないけど、視察ついでに色々と気になる物を買っていたので、結構量はある。
「……もらっていいのか?」
「もらって下さい」
シトリーがいいですよね?と視線で聞いてくるので、僕はシトリーの頭を撫でる。
「助かる。これで数日はもつだろう。……3日だ。3日で金を稼ぐ。お前ら!無い頭を回せ!どうすれば金がすぐに手に入るか考えろ!これが最後のチャンスだ」
フクロウさんが復活して、士気を上げる。
なんとかなりそうだ。
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