第26話 侵略開始
翌日の夕方、フェレスさんの元へと出向き、昨日頼んだ答えを聞く。
丸投げしてしまって申し訳ないとは思っているけど、僕の頭で考えるよりもフェレスさんに頼んだ方が良い案が出るのは間違いないと思うので、これは仕方のないことだと自分で自分に言い訳する。
「フェレスさん、昨日の答えを聞きに来たんですが、どうですか?」
「色々と考えたんだが、シンプルに行くのが1番成功率が高いだろう。案は考えたが、実行にはマオ様にもですが、オボロ殿に協力を頼みたいがいいか?戦力としてだ。マオ様はオボロ殿達をテイムした魔物というよりも、ペットというか、友達とか家族のように接しているだろう?」
「確かにそういう目であの子達を見てはいますけど、状況が状況なので、オボロに危険がないなら目を瞑ります。ただ、オボロに聞いてみてになります。無理強いするつもりはないです」
「オボロ殿が嫌がるなら他の方法を考えるから言ってくれ」
「とりあえず、オボロに聞く前に何をするのか聞いてもいいですか?」
戦力とは言っていたけど、ルマンダ侯爵の領地に住む人を惨殺するからではないはずだ。
そうしないように1日時間が欲しいと言ったのだから。
「私とオボロ殿で攻めるわけだが、圧倒的な力を見せて降伏させるつもりだ。本気だと思わせる為に実際に攻撃はする。ただ、殺しはしないようにするつもりだ。私だけだと兵士に囲まれて詰んでしまうので、オボロ殿に暴れてもらいたい」
確かにシンプルだ。
戦うのも馬鹿らしいと思わせる程の力量差を見せつける必要があるので、普通なら無理だけど、深淵の樹海で生きてきた時よりもさらに力を増しているオボロならそれが可能と、フェレスさんは考えているようだ。
「なんでオボロなんですか?シンクやユメではダメなんですか?」
「オボロ殿は影から影へと移動が出来るから、広範囲を制圧するのに適している。取り囲まれて多対一にされ、ピンチになる可能性も低いだろう。さらに逃げるのも困難な状況を作ることも可能だろうから、相手の戦意を削ぐことが出来るはずだ」
なるほど、そう言われるとオボロが適任だというのも納得だ。
「わかりました。オボロに話をしてきます」
僕は今日もシトリーの訓練相手になっているオボロの元へと行く。
庭ではシトリーが集中して周りを警戒していた。
オボロの姿はない。
僕は邪魔しないように少し待つ。
「痛っ!」
静かにシトリーの背後の影から現れたオボロが、シトリーの頭を叩く。
「まだまだじゃ」
頭をさすっているシトリーにオボロが言う。
「頑張ります!」
通訳しようと思ったけど、シトリーにはオボロがなんて言っているのかわかったようだ。
理解しているのではなく、表情から読みとっているのだろう。
「オボロ、お疲れ。シトリーもね。オボロに少し聞きたいことがあるんだ」
訓練が一旦終わったようなので、オボロにフェレスさんからの話を伝える。
「妾の力を見せるときじゃな」
オボロはやる気のようだ。
オボロがやる気なら僕が止める必要はないね。
「それじゃあ、フェレスさんと詳しい作戦を練ろうか。フェレスさんの方で考えてはあるみたいだけど、フェレスさんはオボロが何を出来るのか全ては知らないから、その辺りも共有して万全を尽くそうね」
僕はオボロと研究室へと戻り、僕が通訳となり、フェレスさんとオボロが話を進める。
この2人は考えることがえげつない。
元々フェレスさんが考えていた案にオボロが口を出した結果、僕はルマンダ侯爵が可哀想になった。
結果は僕の頼み通りではあるけど、その過程には情けがない。
ただ、僕の頼みを聞いてくれているので、口を出さないことにする。
いつ内乱が始まってしまうか分からないので、翌日ルマンダ侯爵家に向けて出発することにした。
向かうメンバーは僕とフェレスさんとオボロにシロだ。
作戦に必要な最低限のメンバーである。
馬車に揺られて帝国領を出て、王国領に入りルマンダ侯爵家の領地へと近づく。
「止まれ!何用だ!?」
領地に入る前に兵士に止められる。
「ルマンダ侯爵に用があって来た。通してもらう」
フェレスさんが兵士に告げる。
「今は誰も通す訳にはいかない。急用であれば要件を話せ!」
警備が厳しくなっているようだ。
「通してくれないならそれでいい。私はフェレス・ファウストだ。名前を聞いたことがある者もいるだろう。伝言を頼む。侯爵の所までは急げば1日で着くだろう?ここで2日待つ」
「……暫しここで待たれよ」
帝国の貴族だとわかり、兵士は上のものを呼びに行った。
「フェレスさん、ファウスト家の名前を出してよかったんですか?追い出されたって聞いてますけど……」
「私は名前を名乗っただけだ。ファウスト家として来たとは言っていない。確かに追い出されたが、私がフェレス・ファウストだということに嘘偽りはない」
相手はそうは思わないだろうに……
「フェレス殿、お待たせ致しました。皇帝からの使者として来られたということでしょうか?」
フェレスさんが貴族として名乗るから、代わりに出て来たさっきよりも偉いだろう兵士の人が勘違いしている。
「皇帝陛下は関係ない。私個人としてここにいる。それで伝言を頼めるのか?」
ちゃんと訂正してくれるようだ。
このままだと後々帝国まで敵に回すことになりそうだから、訂正してくれて良かった。
「伝えるかは内容次第です」
「オボロ殿頼む」
フェレスさんがそう言いながら、合図を出す。
「うああああああ!」
「た、助けてくれぇ!」
オボロが馬車の上に飛び出すと、オボロの影が見える範囲全てを飲み込むように伸びていき、僕達と話している兵士を除いて、この辺り一帯の全ての人をズブズブと影に飲み込んでいく。
建物はそのままなのに、人だけが底なし沼のように沈んでいくという不思議な光景だ。
地獄絵図ともいう。
建物の中にいる人も例外ではないので、この辺りにいる人は僕達だけということになる。
「え、あ?な、え?」
話をしていた兵士は何が起きたのかわかっていない。
「伝言だったな。侯爵が国王と揉めることを私は望んでいない。だから侯爵家を潰すことにした。降伏するなら命まではとらない。抵抗するなら領地にいる者は全て死ぬことになるだろう。逃げることも許さない」
フェレスさんが手を上げて合図する。
オボロの影が今度はぐるっと領地を囲むように伸びていく。
見えていないけど、領地を囲っているらしい。
「2日だけここで待つ。降伏するなら侯爵自らがここに来い。来なければ戦う意思有りと判断して侵略を開始する。侯爵にあなたの伝言が正しく伝わるようにしておこうか」
フェレスさんがそう言ってから、空に向かって火球を放つ。
世界が終わるのではと思ってしまう程に大きな火球だ。
一瞬でここが砂漠になったのではと錯覚するほどの熱風が吹き荒れる。
「時間がないぞ。早く行った方がいいのではないか?」
フェレスさんが呆然と立ち尽くしている兵士に言った。
「お、終わりだ……」
兵士は顔面蒼白のまま動けないでいる。
「終わるかどうかはお前次第だ。行かなければ本当に終わるぞ」
フェレスさんは兵士の肩を叩く。
何も知らずに見れば励ましているように見えるけど、原因を作っている人間に肩を叩かれた兵士はどんな気持ちなんだろうか……。
やらせている僕が思っていいことではないかもしれないけど、この人が可哀想だ。
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