第4話 脱出

▶︎邪気

▶︎逆鱗

▶︎スキル


どれを選ぶべきか悩む。


無難にスキルを奪っておくのがいいのかな……?

他の二つと違って悪い方向に働くことは無いと思う。


僕が悩んでいるうちにドラゴンが戦いを始めようと近づいて来ている。


「シンク、なんでみんなクロから逃げていくの?なんであのドラゴンは逃げないの?」

僕は今まで気になってはいたけど、聞かないようにしていたことを聞く。


どんな理由でも僕がクロを嫌いになることはないけど、クロにとってあまりいい理由ではないかもしれないと思ったから今まで聞くのを躊躇っていた。


「クロ殿は呪いを振り撒くワン。呪いを掛けられる時間によって呪いの効果はどんどんと増すワン。クロ殿の呪いは強力だから短時間で死ぬワン。ここに住むものは皆それを知っているから、クロ殿から少しでも早く離れようと逃げるワン。勝ったとしても死んだら意味がないワン。邪龍は全ての攻撃を無効化する邪神の加護を纏っていると言われているワン。だからクロ殿の呪いも効かないと思うワン」


僕はシンクから教えてもらったことを加味して邪気を盗むことにする。


纏っているものをなくすと考えると邪気だと思った。

ただ、スキルによるものかもしれないのでこれは賭けに近い。

そもそも3つの内どれを盗んでもダメなのかもしれない。


しかし、僕は賭けに勝ったようだ。

僕が邪気を選んですぐにドラゴンが纏っていた黒いモヤが消え、ドラゴンが苦しみ出し、怯えるように逃げていった。


何が起きたのかすぐにはわからなかったけど、クロが褒めて欲しそうに寄ってきたので、クロの呪いの効果なのだろうと思う。


あんなドラゴンまで逃げ出すなんて、呪いって怖いな……。


僕はクロを撫でて褒めた後、他のみんなにもお礼を言って撫でる。


「危険な時は僕を見捨てて逃げていいからね。僕の為に死なないでね」

僕はみんなに言う。


「それは出来ないにゃ」

「ご主人様を見捨てて我だけ逃げることはしたくないワン」

シロとクロも同じことを言いたそうにしている気がする。


「……ありがとう。でも僕もみんなと同じ気持ちだよ。自分だけ助かっても嬉しくない。だから自分を犠牲に僕だけを逃そうとはしないでね」


「そうならないようにもっと強くなるにゃ」

「我が最強になるワン」


クロとシロもぴょんぴょんと跳ねて、頑張ると言っている気がする。


「ありがとう。頼りにしてるよ。僕も自衛出来るくらいには強くならないとね」


今まではクロのおかげで戦いを避けられていたので、楽観的になりすぎていたかもしれない。

さっきのドラゴンがあの1匹だけとは限らない。

他にも倒せない相手がいるかもしれない。


今回はたまたま助かっただけだ。

あのドラゴンに殺されていたかもしれないし、誰かが犠牲になっていたかもしれない。


「シンク、重いかもしれないけど、この樹海から出るまで全員を乗せてくれる?」

出来るだけ早くここを出るべきだ。


「もちろんだワン」

シンクは尻尾を振りながら答えた。

シンクも喜んでいるのだからと、今は可哀想だと思わないように自分を無理矢理納得させる。


シンクに無理をしないように言って休みを多めにとって進んだけど、2日後には樹海から脱出することが出来た。


「ありがとう。助かったよ」

僕はシンクの頭を撫でながら降りる。


「いつでも乗ってほしいワン」


「その時はお願いね。どっちに行けば街があるかわかる?」


「わからないワン」


「それじゃあ街を探して歩こうか」

景色は開けており樹海の中のような危険は少ないと思われるので、ここからはシンクから降りて歩いていく。


あの後、1匹また仲間が増えた。


名前はオボロ

アサシン・フォックスという種類のメスのキツネだ。

オボロは暗殺に特化したキツネで、僕の影に潜ったり、姿を変えたり出来る。


ただ、人の姿に化けることが出来ても、人の言葉を話せるわけではないので、フォックス言語を盗んだ僕とは会話が出来るけど、他の人と話をすることは出来ない。


ユメやシンクにはコンコンとしか聞こえないそうだ。


ちなみに、僕が話したことは皆が理解出来るように勝手に翻訳されるらしいが、ユメとシンクとオボロが直接話したりは出来ない。

僕が通訳として間に入る必要がある。


しばらく歩いていると馬車が通れそうな整備された道に出た。

この道を歩いていけば、人がいる所に行けるだろう。


どっちに行こうかな……。


僕はなんとなく右に行くことにする。

理由はそっちが気持ち下り坂になっていたからだ。


街道沿いに歩いていると、前から馬車が走ってきた。


近くの街まで乗せてくれないかなと僕は手を振る。


「兄ちゃんどうしたんだ?」

馬車を操縦していた筋肉質な男が馬車を止めてくれて、聞かれる。


「実は迷子でして、お金も全く持ってないのでお礼とか出来ませんが、近くの街まで乗せてもらえませんか?ちなみにここってどこですか?」

僕は男性に頼む。


「乗せてやるのは構わないが、その魔物は安全か?見たことのない色のスライムだが……。それからここは帝国領のハラルドって街の辺りだ。俺達はこれからその街に帰る所だ」

最初に連れてこられた所は王国って言ってたし、ここは別の国なのかな?


「このスライムは僕の仲間なので、危害を加えたりしない限り暴れたりはしません。この子達も同じです」


「テイマーなんだと思うが、こちらから危害を加えるつもりはないが、暴れるなら斬る。それでも良ければ乗ってくれ」

テイマーという職種もあるようだ。

ちょうどいいので、これから僕はテイマーだということで通すことにしよう。


「ちゃんとテイムしているのでそれで大丈夫です。ありがとうございます」


僕は馬車に乗せてもらう。


馬車の中には男の人が1人と女の人が2人乗っていた。


「お邪魔します。街までご迷惑をお掛けします」


「坊主、苦労してるな。ガハハハ」

男の人にバンバンと背中を叩かれる。


「マオっていいます。皆さんは?」


「俺はライカンだ。こっちがシズネで、こいつがイザベラだ。御者をしてるのが俺らのリーダーのルイスだ」


「4人でパーティを組んでるんですね?」


「ああそうだ。俺達はセブンソードって冒険者パーティだ。聞いたことはないか?」

有名は人達なのだろうか?

どれだけ有名でも僕が知ってるはずはないけど


「すみません。知らないです」


「そうか……。俺達の名も売れてきたと思ったがまだまだだったみたいだな」

ライカンさんが残念そうに言う。


「僕が辺境の村に住んでいたからかも知れません。実際、何もわからないので……」

とりあえず怪しまれないように、世情に疎そうな村出身だということにする。


「金も持たずに1人であんな所で何してたんだ?」


「実は人攫いにあってしまって、逃げてきたんです。この子達も捕まってたので、隙をついて一緒に逃げました」

王国に追放された話をしようとすると、僕が異世界から連れてこられたことや、天職が盗賊だということも話さないといけなくなるので、嘘をつく。


「苦労したんだな。助かってよかったな」

ライカンさんの言葉に少し心が痛む。


セブンソードの人達と話をしながら進み、ハラルドという街に着いた。


「ありがとうございました」

僕はセブンソードの人達にお礼を言って馬車を降りる。


「坊主、金が無いんだろ?これをやるから、早いところ仕事を見つけろよ」

ライカンさんから銀色のコインを3枚渡される。


価値はわからないけど、言葉を聞く限り数日は生活が出来そうな額のようだ。


「そこまでしてもらうわけにはいかないです」

僕はライカンさんにコインを返そうとするが断られた。


「いいから受け取っておけ。貰うのが嫌なら貸しておくから、返せる時に返してくれればいい。冒険者ギルドに言えば俺達と連絡は取れるからな。また困ったら相談くらい乗ってやるから声を掛けてくれ」


「ありがとうございます」

いい人達に出会えてよかった。


セブンソードの人達に冒険者のことを聞いたので、とりあえず僕は冒険者登録をしようと思う。


聞いた話だと、新人でもギリギリ生活出来る程度のお金は稼げるらしい。

薬草を集める依頼や、街の中の雑用をする依頼もあるそうで、危険の少ないものもたくさんあるようだ。


みんなのご飯代も稼がないといけないし、頑張ろう。

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