第54話

「思った以上に離れれてないな。」


敵の魔石位置に向かって走っている時には霜崎の戦闘音が僅かに鼓膜を揺らしている。


「先に行くぞ。」


「頼む。」


いつのまにか戦闘モードに入っている心を先に魔石に向かわせる。

手と足から炎を噴射し、高速で飛行し始める。

だが、俺達も追い付かなければ高城さんと上代さんの二人を同時に相手にさせてしまう。


「心に注意を引かせ、上代さんの背後から作戦通りに二人で叩く。」


「了解。秒で参ったと言わせてやる!」


***


目の前のT字路に青く光る魔石が視野に入る。

しかし、そこにいるはずの二人の姿がない。


どこだ……。


パチッ!っと静電気が弾けたような音が聞こえ、振り向いた瞬間に目の前に迫っていた剣を手の甲でガードした。

しかし、電撃を纏った超高速の剣戟を完璧にガードすることが出来ずに地上に向けて吹き飛ばされる。


「……!」


地面から木の根が唸り、こちらに向かって伸びてくる。絡まれれば直ぐ様雷撃のような一撃が来てしまう。


「はぁぁ!!」


地面に向けて両手両足の炎をぶつけ、木の根を焼き払いそのまま空中に浮く高城さんに向け、飛翔する。


空中戦なら機動力がある俺の方が有利だと踏み、推進力をつけた一撃を繰り出す。

カンッ!っと金属同士が弾け合う音が響き、高城さんを空中へ飛ばす。

地面に下ろしたらこちらが不利になる。

一気に畳み掛けようと距離を詰めようとするが高城さんの足元に木の根が伸び、それを蹴り抜きビルの壁面まで飛ぶ。


「はぁあああ!!」


跳ね返るように壁面を蹴った。

さっきの不意打ちを狙った抑えた電撃ではなく全力の電撃の魔力を纏った、超高速の一撃。それに加えて、刀身は龍衝を纏っていた。


「……ふっ!」


こちらも龍衝を纏った拳で迎え撃つ。

S級の龍衝の衝突で当たり一帯に衝撃波と魔力の雷がビルと路上を壊していく。

龍衝の練度は全くの互角なのだろう。

これ以上、まったく動かなかった。

だが、背後からツルが伸びる。


スパン!


黒い一閃が目の前を駆け抜ける。


「心!高城さんは頼む!」


「ああ。任せろ。」


クソッ!不意打ち狙いなのに真正面に出ちまった。それに空中。

木の根が次々と伸びてくる。


「……ぉお!!」


襲い来る木の根を切り裂き、逆にその木の根を利用し、地面に向かい走る。

だが、中々地面への距離が縮まらない。

なんとか、相手の攻撃を止めるしかない。

黒い剣を弓矢の形へと変え、胸元から筒状になっている弓を展開させる。

弦に矢を掛けた。

僅かに青く光る矢。


ここ!


木の根から僅かに捉えた白髪の女の人。

木の根を糸を通したかのようにすり抜け、真っ直ぐ飛んでいく。

しかし、当たらず避けられるが木の根の動きが止まり、その隙に地面に足をつけた。


「よく撃てたね。」

「いえ、たまたまですよ。」


正直、攻撃を誘導された感があった。

不意に出来た隙よりも自分で故意に作った隙ならかわせるのは当たり前だ。

避け始めたタイミングからもほぼ間違いない。


「……っふ!」


路地の陰りから、息を殺して葵が背後から上代さんの頭めがけて刃を振り下ろす。

だが、来るのがわかっていたように一歩分移動しただけでそれを完璧に避ける。


「やっぱり、見られてんな。

さっきから鼻がムズムズして仕方ない。」


「花はやっぱりセンサーじゃないか。」


「正解。花は花粉という私のセンサーを飛ばすのが役割。

一度咲けばそこは私の感知領域。」


つまり、この人がいる間はもう身を潜めて気を伺う事もできないわけか。


「ビビってるわけじゃねえよな。傑。」

「アホぬかせ。」


自分の魔力と砂鉄で2本の短剣を作り上げる。


「一気に詰めるぞ。

遠距離戦はこっちが不利だ。」


「おうよ!」


葵と同時に地を蹴った。

目の前に幾百ものツルと唸る木の根が伸びる。視界から上代さんの姿が消えてしまう。

距離を取られればこちらが負けるのは間違いない。


「「……ぉおおおお!!」」


左右前後上下、四方八方からの攻撃を葵と同時に振り払う。

しかし、木の根とツルの硬度が増してきている。

それだけ、上代さんからしたら余裕が出てきていると言うことだ。

心は高城さんと戦闘中。霜崎も二人を相手にして手を離せる状況じゃない。

援護は見込めない。


カンッ!!


「……ッ!」

木の根が等々、俺達の剣の硬度を上回り出した。これほどの数、これほどの硬度。

さすが、S級……!


「うぜぇ!!」

2本の短剣を合わせて、カチッと音を鳴らす。

薙刀へと形を変え、それに全力の魔力を込め、四方八方の木の根とツルを全てを薙刀を振り回し、切り払う。

一瞬、切り開かれる視界も瞬きをすれば辺り一面から木の根とツルが伸びてくる。


「どんな、魔力量だよ。」

量も硬度も凄まじい。俺が同じように地面を操ったらものの数秒でバテル勢いだ。

こっちの限界とあっちの魔力、どっちが先に尽きるかの根比べになるか?

……いや、考えるまでもない。

こっちが先に尽きる。

青い剣を使うか?

一瞬の隙なら作れるはずだが、失敗すれば葵と上代さんの一対一になって勝ち筋が完全になくなる。

……っどうすればいい!!

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