第48話
A級ゲートが発生したと警報が鳴る。
私は運動場から急いで装備を一式しまっているロッカーを開けた。
鎧の下に着る黒色の服とこちらも黒を基調とした胸当てと小手と脛当て。
そして、新しい武器が入っている横幅1メートル近くあるアタッシュケースを手に持つ。
「最近、A級ゲートの発生件数増えてますね。」
「うわぁ!」
いつのまにか隣で着替えていた女性。
白髪の短い髪をした上代恵さんがそこにいた。
白を基調とした私と似たような服装。
腰に短刀が2本刺さっている。
「どうしたんですか?」
「い、いや、なんでも。」
急に声をかけられるとびっくりしてしまう。
S級なのに警戒心薄いとか言われないようにしなくてはいけないのにな。
「早く行きませんか?」
「ええ。」
集合場所には一台のバスが停まっていて、中に乗り込むと社長を含めた5人がいた。
運転席にはこの会社の不思議な所で社長が座っている。
本人が運転好きという事もあるのだろうがこの車は電気と魔力で動く作りになっている。
だから、最も魔力保有量が多い社長運転するのだが他に人を立てられないのかといつも思う。
一度運転した事あるが魔石、電気がなく、純粋に自分の魔力で動かせばそれなりに疲れる物なのに。
「お願いします。」
「よし!じゃあ、出発するよ。」
私と恵さんがシートベルトを締めるとバスが動き出す。音は電気自動車と同じくらいの無音でタイヤはゲート内部の素材からできた特殊なゴムだから、振動がほとんどない。
乗り物に弱い私にとってこれほど有難い乗り物は他にない。
「じゃあ、作戦会議だ。」
そして、いつも通り車内で作戦会議が始まる。事前にはやらない。
移動しながらやった方が時短になるからだ。
「て、言ってもいつも通りに。
前衛は高城さんと上代さんに岩倉君。
後衛に火蓋君と麻美さん。
そして、中間は私と桜花君。」
「あの、社長。
いつも俺、後衛なんすけど前衛の方が俺的には適正があるような……。」
赤い髪の色をした男、火蓋君が申し訳なさそうに不満を言う。
「君が前でも動けるのは知ってるけど今、内には君と同じくらいの炎系魔法使いはいないんだ。すまないが見つかるまでは後衛にいてもらうよ。」
「……ですよね。」
肩を落として、自分の剣を撫でている。
なんでも、友達が作ってくれた剣なのだとか。使う場面が無さすぎてしょげているのだ。
「君は回復役の麻美さんをしっかり守ってください。君は遠距離で援護できる方に加えて、最後の守りの要なんですから。」
「……わかりました。」
周りに聞こえる声ではそういうが小言でボソボソと何か言っている。
上の立場の人間は陰口を言われてナンボと思っている人間だから逆に自分の意見を持っている事が嬉しい。
「火蓋さん。いつも通り私を守ってください。そして、回復で疲れた私を運んでくださいね。」
黒髪セミロングの麻美さんが肩をポンッと叩く。
もう、これはいつもの流れだと諦めた。
俺の剣を打ってくれた親友に心の中で謝る。
『すまん。お前が有名になるのはもう少し先だ。』
そう心の中で土下座する。
「すまないね。
では、続けるよ。今回のゲートはアンデットタイプだから火蓋君と桜花君で雑魚敵の一掃を任す。ボスまで高城さんと上代さんは力を蓄えてくれ。」
「「はい!」」
「じゃあ、ゲートまで小一時間程まだ掛かるから各々装備のチェックをするように。
お疲れの人は少しでも寝て休むようにね。」
最後の一言は先ほどまで運動場で訓練していた私の事だと思った。
A級ゲートが開かれるならもう少し程々に魔力を使うべきだったと後悔する。
それなりに消費してしまっている。
それを見抜かれて桜花君と火蓋君に雑魚の一掃を任せたのか。
なら、私は少しでも回復する為に瞼を閉じた。
今日身につけられた経験と感触を忘れないように頭の中で刀の手触り、足の踏み込みを一つ一つ丁寧にイメージする。
「少し気を抜かないと寝れませんよ。」
頬を隣に座る上代さんに突かれる。
「それに、そんなに眉間に皺を寄せてたら眠れるものも眠れませんよ。」
「寄ってました?」
「とても。」
フフフッと笑う上代さんから手鏡を渡される。覗き込むと確かに眉間に力を入れているつもりはなかったのにシワが寄ってしまっている。
「シワが癖ついちゃいますよ。」
「……気をつけます。」
私の悪癖だとわかっていても治らない。
考え事とかムカつく事があるとすぐに眉間に力を入れてしまう癖。
「……なんとかならないかな。」
眉間に力を入れないように撫でて『眉間の筋肉よ緩め!!』っと念じる。
だが、こんな事は何度も繰り返しているが治った試しがない。
「リラックスしたください。」
上代さんに頭を抱き寄せられて肩に頭を乗せられる。なんとも言えない落ち着くポジション。頭の角度とか全ての収まりがいい。
「あ、これ、いい……。」
それに、何処か花のいい香りがする。
どんなシャンプーやボディーソープを使っているのか聞きたいが微睡が物凄い勢いで私の意識を呼んでいる。
「少し、お借りします。」
そう言って私は微睡の中に沈み込んだ。
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