第9話 クズ令嬢、貧民支援活動をバックレてピクニックに行く。(ざまぁ)

「あー、めっちゃテン下げー……」


 今日の私は、貧民どもの支援を行うNPO(セレシア侯爵家が運営資金を寄付している)と一緒に、貧しい農村部に足を運んでいた。


「最近お父さまが忙しくて、事あるごとに私がお父さまの代わりをしないといけないのよね。でも、あーあ。ここなんにもないし超つまんないんだけど」


 だってそうでしょ?

 ここって言ってみればゴミクズどもの溜まり場だよ?

 つまりゴミ箱を覗きこんでいるようなもんなんだよ?


 そんなことして楽しい人なんている?

 いたら頭おかしいんじゃないの?


「こんなので半日潰れるなんて人生大損だよ……うん、決めた。バックレちゃおう!」


 わたしは専属メイドのアイリーン他、忠実なる使用人たちを引き連れて華麗にバックレた。

 バックレてやった。


「ま、最初にちょこっとだけ顔は出したし? 義理は果たしたよね。あとは誰かうまいことやってくれるでしょ?」


 歯車が欠けても、世の中って意外とうまく回っていくものなのだよワトソン君。

 ワトソン君が誰かは知らないんだけどね。


「じゃあ早速あの山に登りましょう!」


 私はお供を引き連れてピクニックを開始した。

 別に山を見たいってわけでもなかったんだけど、


「貧民どもの相手して人生を浪費するより、まだ雄大な自然を見ていた方がよっぽどマシだからね!」


…………


……


 そして私たちは遭難した。

 なんの比喩でもなくマジのガチで遭難した。


 急激に悪化した山の天気のせいで行動不能になった私たち一行(というか主に私)は。

 どうにかこうにか崩れかけた洞窟を見つけて雨やどりをしつつ、救助を待つことにしたのだった。


「心配はいりませんよお嬢さま、すぐに助けが参りますから」

 寒さと心細さに震える私を、アイリーンがキュッと優しく抱きしめてくれる。


 この何でもイエスと答えるマゾメイド(最近は根負けして難癖つけるのも疲れてきた)も、こういう時だけはその決して折れない鋼メンタルが頼もしいよ。


「ううっ、寒い上に暗くてじめじめしてる……」


 おおよそ名門貴族の令嬢がいていい場所ではなかった。


 それでも背に腹は替えられない。

 土砂降りの雨に打た続けたりとかしたら、高貴な私はマジで死んじゃうまであるから。


 私は貧民どもの救出部隊に助け出されるまで、寒さを必死に耐え忍んだのだった。


 助けられた後、半泣きでぐったりとしながら毛布にくるまれて搬送される私を尻目に。

 貧民どもは洞窟の奥をのぞきこんで、なにやらわいわいと言っていた。


 いや別に?

 貧民どもの心配とか要らないんだけどさ?

 でも高貴な私がこんな酷い目にあったんだから、もう少しくらいは心配すべきじゃないの?


 貧民どもはなんか「キンザン!」とか「ゴールデンマウンテン!」とか「ダイヤモンド!」「プラチナ!」とか言ってたような?

 でもしんどかったからあんまし覚えてない。


 あー。

 ほんと今日は最悪だよ。

 はやくお風呂に入って温まりたい……



 ~~後日。



「マリア様、先日視察された農村部から感謝状が届いております」

「感謝状? 私に?」


 助けてもらったことに対して、私が感謝状を書かされるんじゃなくて?


「なんでもマリア様のおかげで貧困から脱出できたとのことです」

「はぁ、そう。それはまあ良かったんじゃないの?」


 っていうか何の話?

 それ以前に私、何かしましたっけ?


 誰かと間違えてない?


「さらにはマリア様の金の像を立て、視察に来られた日を特別記念日として毎年盛大にお祝いするとのことです」


「????」


 ……いったい何が起こったの?


 ねぇねぇそこのあなた。

 ちょうどいいわ。


 参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら?

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