第38話 お見合い
Mはね、アロマンティックアセクシュアルを自認している。他者に恋愛的にも性的にも惹かれることがない。だから、日本で一般的とされている、男性と女性が何らかの形で出会って、愛し合って、そして結婚するということは難しいと思っていた。
少なくともMは恋愛的に相手のことを好きなることはあり得ないから、結婚をするにしても、まずそのあたりのことを隠すのか、それともオープンにしたうえで相手に同意してもらって結婚するのかという選択をすることになる。本人としては一人で過ごす時間も好きで、寂しいと思うこともあまりなかったから、生涯独身という選択肢でも良かった。
でも、恐らく両親が快く思わないだろうことは想像に難くなかった。
そんなある日、両親からお見合いの話が来た。『まだ大学生なのだから今すぐにどうこうという話ではない』とは言われたけれど、あわよくばという目論見も裏に感じていた。
Mとしては最初からお断りするつもりでお会いするのも失礼なのではないかと思ったのだけれども、相手もMが大学生ということは当然知っていて、お見合いというよりも軽い知人紹介のようなものだと言われれば、両親の面目を潰すわけにもいかず、了承することにした。
いざ当日を迎え、相手の方にお会いした。
5歳年上だということだけれども、それこそMと同い年と言われても納得できるような、年の割には幼い印象で、誠実そうな方だった。この年になるまで浮いた話もなく心配で、と話す相手方のご両親の話に良きタイミングで相槌を打ちながら、Mは時が過ぎるのを待った。
程なくしてお互いのプロフィールの確認のような時間は終わって、あとは若いお二人で、という決り文句でM達は残された。
さて何の話をすれば良いのかと思っていると、相手の方が口火を切ってくれた。
「あの、安心してください。私は最初からこのお見合い、断られるつもりで来ましたから」
誠実そうなその人がそう言った。
「奇遇ですね。私もあなたを好きになることは絶対にないのでお断りしようと思っていました」
Mもそう返した。すると、その方はおやっという顔になった。
「好きになることはない、ですか」
そこに食いついてきた。
「ええ、お気に障りましたでしょうか」
Mがそう尋ねると、その方はいやいやと首を振る。
「いえ、そうではなくて。まだ若いからそういうことは考えていませんとか、そんなことをおっしゃると思っていたので。まさか私と同じことを考えていらっしゃるとは思わなくて驚いてしまったのです」
今度はMがその言葉に疑問を持つ番だった。
「あなたも、ですか。私のことを絶対に好きになることがないと」
すると、少しこちらを伺ってくるような目をしながら、その方は同意した。
「ええ、その通りです」
可能性としてはいくつかあるけれど、この方とお会いするのも今日限りだろうと、Mは少し冒険してみることにした。
「あなたがどういうおつもりで同意してくださったのか分かりませんが、私はセクシュアルマイノリティだからそのように申し上げたのです」
すると、その方は安心したようににっこりと微笑んだ。
「ええ、実は私もそうなのです」
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