第33話 ハルの"友達の話"
「その時気づいたんだよね。その子はさ、別に自分のことを女の子だと思ってたわけじゃないってこと。単純に、友達が男の子の方がしっくり来ているみたいだったから、気弱な自分は逆に女の子に近いんだろうって、自分の弱さの理由を女の子であることに求めてた。でも、その中で誰よりもか弱そうな女の子が男の子たちを次々に投げ飛ばすところを見てさ。別に女の子は弱くなんてないし、ちゃんと自分の弱さと向き合わないといけないなぁって。で、結局自分はどっちなんだっていう疑問と向き合い続けた結果、男と言われるのも女と言われるのも違和感があって、今のところはXジェンダーが一番しっくりくるっていう結論に達したわけ。めでたしめでたし」
こうしてハルの"友達の話"は終わった。
「そっかぁ。それで服を交換するのやめちゃったんだね。私はてっきりあの事件がトラウマになっちゃったのかと……」
ミライがそんな風に感想をもらした。
「言っておくけどこれ"友達の話"だからね?」
ハルが苦笑する。
「あ、もちろん! それはわかってるんだけどね!」
するとミライは慌ててそう言った。『これは友達の話なんだけど』大会主催者様がそんな様子だから笑ってしまう。
「まあ服に関してはメンズもレディースも関係なく着るけど、それは男装したいとか女装したいということじゃなくて、単純にこれが着たいと思うかどうかっていう基準だな。あ、らしいよ」
ハルはとってつけたようにそう言った。もはやグダグダだけど、なるべく会の体裁は守るらしい。なんにせよ、ハルの話は俺にとってもたくさんの学びがあった。特に3人の昔の関係性については、聞いていいのかもわからず避けていた話題だっただけに、知ることが出来て嬉しかった。しかし、だ。俺は一つだけどうしても確かめておきたいことがあった。
「えっと、つかぬ事をお伺いしますが、そのお友達のお友達って、もしかして武道か何かをやってらっしゃったのでしょうか」
「言ってなかったっけ? ミライは柔道黒帯だよ!」
俺が躊躇いがちにそう尋ねると、ダブルピースとともにミライがそう答える。いや、だからお前が答えではダメだろう。しかしもうそんなことはどうでもいい。
「前に怒らせると云々って話をしたと思うんだけど……」
「あぁ。ミライは怒るととりあえず投げ飛ばすから気を付けろ~」
俺がそう切り出すと、ハルが笑って答えた。流石に冗談だろうと思ってマヨとコウの方を見ると、2人はすっと目をそらした。俺はこの時、ミライだけは怒らせてはならないと頭のメモ帳に書き込んだ。
「さて、じゃあ自分の話は終わりだけど次は誰にする?」
ハルがそう言った。するとミライが元気よく手をあげる。
「はいはいはい! ミライ! ミライが話す!」
むしろ本当は一番に話したかったのかもしれない。俺たちは次の手番をミライに譲った。
「やったー! おほん。えっと、じゃあ、これは友達の話なんだけど」
またしてもその一言から、ミライの"友達の話"が始まった。
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