第15話「貴女の力についてお話ししましょう」
「貴女の力についてお話ししましょう」
あの後すっかり牙が抜かれた私は、大人しくベッドに座ってテレサの話を聞いていた。
どうやら私の部屋に来たのは私の能力の説明の為らしく、テレサは先程アシビが座っていた椅子に座り、アシビはベッド脇に立っている。
そしてアシビに抑えられていた手首がまだ痛む。片方の手で労わるように摩りアシビにジト目を向ける私を尻目に、テレサが人差し指をピンと立てて話し始めた。
「数時間前の戦闘の事、覚えていらっしゃいますか?」
「まぁ、うん」
「貴女は影を使い私に攻撃を繰り出してきましたね」
「……」
気まずい。
「あれは闇と呼ばれる種類の魔法です」
「やみ?」
「はい。闇です。大昔は
「へぇ」
あまり明るくないワードを並べられて私の能力の種類を紹介された。
そしてテレサはこの世界の魔法について語りだした。大まかな仕組みはやっぱり元の世界でよく見たファンタジーものととくに変わりがないようで、要約してみる。
一。
この世界は魔法をだれでも使えるが、元の世界のようにスペックの大小は個人によって様々である。もちろん努力で伸ばすこともできる。勉強や運動と同じ。
二。
魔法には種類があり基本的に1人1種類の魔法しか扱えない。稀に2種類の魔法が操れたりする者もいるが宝くじに当たるくらいの低い確率。また、これは生まれ持った素質の問題で努力でどうこうできるものではない。
「とある国では、この問題を解決しようと闇雲に研究を進めているようですが……」
「生まれ持った素質の問題なんだから難しいんじゃないの?」
「噂からするともう既に成功しているらしいですよ」
「え。じゃあ今は後天的に数種類の魔法が使えるようになったってこと?」
「いえ……成功したとはいえあまり褒められる内容の実験ではなさそうですし、生き残る方も中々いないようです」
あぁ、たぶん人道に反するような惨い実験をしているのかな。
元の世界でもそう言う都市伝説は聞いたことあるけど、こっちの世界でもあるんだ。やっぱり。
「人道に反する実験をしてる感じか」
「私の国に召喚されてよかったですね、エリ」
私の問いには答えずに、テレサはニコリと笑みを深めた。
三。
魔法の種類は大まかに火、水、草、空、聖、闇、無。この7つに分類されるらしい。
火の魔法はその名の通り火を扱い、水の魔法もその名の通り水を扱う。
草の魔法には土。所謂地面を操る魔法も分類され、アシビのように風を操るものは空の魔法に分類される。
聖の魔法は人を回復させたりするような所謂癒し魔法を操る。
そして無の魔法は、これら火、水、草、空、聖、闇に当てはめられないような分類不明瞭な魔法を無の魔法として分類しているのだと。つまり無の魔法は、その他枠と言うことらしい。
「? 闇魔法は?」
「少しややこしくなるので、先に魔法をどうやって使うか話させてください」
四。
魔法はその属性のエレメントを借りてこの世に発現されるのだという。
つまり火の魔法を使うものは火の力を借りて火の魔法を使っているのだから、火が近くにあればその分借りれる力が増えて能力が上がり、川や海などにある水の力を借りて水の魔法を発現している水の魔法使いは、川や海などの水の近くに行くと借りれる力が増えて水の魔法の能力が上がる。
そんな感じで、草の魔法使いは草や木、土が近くにあれば草の魔法の能力が上がる。そして空の魔法使いは空気があれば能力が上がる。
無の魔法は所謂分類が難しいその他魔法枠なので一概には言えない。
「聖と闇は少しテイストが違ってきます」
「なんで」
「聖と闇はどこから力を借りているかの話になってくるのです。火、水、草、空は、自然界にある力を借りてその魔法をこの世界に発現させます。が、聖と闇の魔法は自然界にある力だけを借りるわけではありません」
「そうなの?」
「はい。聖の魔法も闇の魔法も術者の心の状態によって大きく左右されます」
「心の状態って……」
「貴女があんなに攻撃的になった理由の1つでもあります」
そう言われて思い出す。
さっきテレサがこの部屋に入ってきたときも、言いようのない不快感と不自然なほどに激しい怒りがすぐに身体中を這い回って、後先考えずテレサに飛び掛かったんだった。
確かにあれは今までにない嫌な感覚だった。元の世界ではあんなに怒りに支配されたことは一度もなかったのに。
どう考えても、この世界に来てからなんだか少し怒りっぽくなったなと感じる。
例えばアシビだ。アシビのように一言二言多い人だって私のバイト先にもいた。
だけど元の世界の時は軽く流せるほどの心の余裕があった。相手にもしなかった。
なのに、今この世界に来てからは一々イライラして皮肉や嫌味を返してしまっている。
「聖の魔法を扱うものは心が清廉で潔白で、人を想う気持ちが高ければ高いほどに能力が高まります。他者を救いたいと言う純粋無垢な聖なる思いから作られる魔法なのです。その尊い想いが転化して人を救う魔法を発現する……」
それからテレサは言葉を選ぶような表情で闇魔法の説明を繰り出した。
「闇の魔法は……エリの使う魔法ですね……それは聖の魔法とは真逆です。つまり、何かを呪えば呪うほどに強くなる魔法です」
「え」
「嫉妬妬み恨みつらみ、憎しみに殺意。そう言う人間の心の負の感情。それが高ければ高いほどに闇の魔法は同調して強くなる……そんな魔法が闇の魔法です」
「えぇ……」
「逆に言うと負の感情が少なければ少ないほど闇の魔法は弱くなります。聖の魔法も同じで、清廉で人を想う気持ちが少なければ少ないほど聖の魔法は弱くなっていきます」
聖の魔法と闇の魔法は、その魔法を操る者の心の状態に左右されるらしい。
そして、その魔法を操る者たちはその魔法に影響されてか心に変化が生じる。
聖の魔法を操る者は何故か自然と心が綺麗になっていき、人の幸せを想うようになる。個人の差は大なり小なりあれど、そうやって心が聖の魔法で塗り変えられていくらしい。つまり闇の魔法は。
「エリ、闇の魔法を操る者は皆、何故か心がひどく不安定になります」
「……」
「前まではそんなことは一度もなかったはずなのに、他者を羨んだり、少しのことでも怒りがふつふつと沸き上がってきたり、自分をコントロールできなくなったりするらしいですよ。エリには心当たりがあるようですが」
そう言われてこれまでの違和感の点が線となり、一筆で結ばれたような感覚になる。
「……確かに。さっきテレサがこの部屋に入ってくる前もすっごい不快感と怒りが沸き上がってきてて、それでテレサの声と姿が見えたら頭に血が昇って……気が付いたら攻撃してた」
そうやって過去の場面を思い返して、考える。
あれ。私ってなんでテレサにあんなに怒ってたんだっけ。と思い立った瞬間に心の奥でふわふわとどす黒い何かが忘れるなと巻き上がり、不快感がまた胸にせり上がってきた。
そうだ。私はテレサのその非道具合に頭に血が昇って、気が付いたら影を当たり前かのように操って攻撃したんだった。
この記憶……というか感情の根源というのか。その根源の、怒りの理由を忘れることが増えた気がする。これも闇の魔法の影響なんだろうか。
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