第2章『正体』
第25話 ティナを連れて逃げろ
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外からの騒がしい音で俺は目が覚めた。
昨日、村長に断られての今日だ。まだ眠いんだ、畑仕事は後でやっておくから……今はもう少しだけ----
「ティナを連れて逃げろ。ローブを羽織って、必ず2人でだ。ティナに傷を付けたら俺が許さん」
俺の寝ているベッドの横に、あの村長が立っていた。逃げろ? 傷を付けたら? 何があったんだ、やけに外が騒がしいと思ったら、急に村長が俺に逃げろと言ってきた。
もしや、近くに上級モンスターが出現したのか? それなら俺が倒しに行ける、倒せなくとも足止めはできる。今は守る者がいるから、命懸けの特攻はしたくないが、と----
「早くしろ! ティナは先に森近くで待っている、人通りを避けて移動だ、村には帰ってくるな」
村長は声を荒らげ、顔を真っ赤にさせながらも、俺に命令した。
口調は常に厳しくとも、ここまで声を荒らげたことはない。只事ではない、ともかく村長に言われた通りの荷物を持って、急いで村を出た。
外には人集りができていた。何の集まりか見たかったが、今はそれを我慢してティナを迎えに行った。ティナも事情を分かっていなかったようで、何のことだか分からないまま、森の外周を歩き始めた。
目的地はどうしようか、村から離れればいい……と考え、森をグルリと周るようにしてポリスタットに行くことにした。それも人通りが少ない、ノーマッドの古いアジトを通るようにしよう。
彼らとは何度か連絡を取っている。
金はガッポリと稼いだらしいが、家はまだ買っていないとか。結局は、あの古い拠点の方が居心地がいいらしい。モンスターの出現率が高い森にも近い……ってのもあるか。ともかく、まだ彼らはあそこにいるだろう。
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『一世を風靡したノーマッド、ストーズ出身だった』
『世界征服を諦めきれなかった国・ストーズ。次はセントリーに潜伏か』
『ノーマッドのメンバーには、あの有名討伐パーティー・デリーシャの元メンバーが参加』
人通りを避け、ポリスタットの郊外に辿り着いた時、ある新聞が俺の目に入ってきた。
ノーマッド、デリーシャ、元メンバー、有名討伐パーティー。あぁ、全部俺に関することだ。間違いない、同一人物とかじゃない。全部、俺とノーマッドに関する記事だ、それが新聞の一面を覆っていた。
『世界征服を目指した小国・ストーズ。しかし計画は失敗に終わり、司令部は壊滅。そこで世界中にスパイを送り込み、内部からの壊滅を狙っ----』
『ノーマッドのメンバーには、デリーシャから追放されたマイト・ラスターも偽名で参加し----』
『古代史によると、〇〇年に小国だったセントリーを征服し、奴隷として扱った。立場が逆転した今、国際法による”奴隷搾取の禁止”により、ストーズ出身の人間を奴隷にすることは禁止されている。そのためストーズ出身を見つけても、何もせ----』
俺は集中して、新聞の詳細欄を立ち読みしていた。今は逃げるべきなのは分かっている。それでも、情報は集めとかなきゃならない。デリーシャ時代も、マーナガルムを討伐した時も、いつも新聞は役に立っていた。それが敵に回ろうとも、情報収集として扱っていくしかない。
「おっと、読むなら買ってからにしろよ」
多分、新聞屋の店主なんだろう。そう思われる男が話しかけてきた。顔を見られてはいけない、フードを更に深く被り、人目を避けるように外に行こうとしたが止められた。
「いや、別に叱っているんじゃない。それにしても、まさかノーマッドがストーズ出身だったなんてな」
彼はまだ気づいていない。俺がその追放された人間だということ。ただの立ち読みしていた客として扱っている。
ストーズ出身、というだけでそこまで忌み嫌われるのか。ストーズの歴史も新聞に書いてあったが、そんなのどの国でもありそうだ。正当化する訳じゃないが、立場が違うだけで……どの国も同じ。奴隷搾取が禁止されていなかったから、セントリーでもやっていたんだろ。
「ノーマッド、俺の知り合いも新聞屋をやっているんだが、そこにも来ていたみたいだ。仮面被ってたから分かりやすかった、とか言ってたな」
まさか、コンテスト帰りに通った新聞屋か、鮮明に記憶に残っている。巨人と緑の巨人・ハロークを討伐した帰りのことだろう。タイガがよく「最高」とか言ってたな。
「そういや……デリーシャの元メンバーも参加してたんだってな。よりによってまぁストーズの奴らとつるんでたとかな。所詮、追放された人間だよ。全く、俺の推しのガルに何したってんだ」
まさかの、ガルのことを推している人が目の前にいた。別に今更、今更だ。嫉妬とかも特にしない。だが、俺のことを「所詮、追放された人間」と言ったことには腹が立った。「ストーズの奴ら」という言い方もだ。
第一、ストーズが悪いことをしていたとしても、出身国がストーズなだけの彼らには何の関係もない。
先祖が何かやっただけで、タイガもジェスも、その他メンバーたちも、何の関係もない。それなのに……俺がおかしいのか? 彼らの肩を持つ、俺がおかしいのか? そんなことはない、普通の感情だ。
これ以上新聞屋の店主と一緒にいたら、怒りで彼のことを殴ってしまうかもしれない。感情が今は不安定なんだ。申し訳ない。
特に礼も言わずに、店の外に出た。
外で待っているティナには礼を言い、また2人で長い道のりを歩いた。
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