第24話 君と一緒にいたい
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♢A FEW YEARS AGO(数年前)
デリーシャから追放され、黒いローブを羽織った男に「ウェール村を立て直してほしい」と頼まれ、ウェール村の村長には「お前が追放された本当の理由を知っている、まずは最底辺のパーティーを立て直してこい」と言われ、いざシャリアを立て直したと思ったら不合格と言われた。
それで未だに追放された真の理由が分かっていない。俺の力不足ならそう言ってほしいし、何か他の理由があるなら早く言ってほしい。
焦らされていて、焦りもある。
精神的にも結構くる。村長に不合格と言われた理由も探さなきゃいけないし、追放された理由も探さなきゃいけない。もう八方塞がりだ。
独りで考える時間が欲しい。
最近、村にいる浮浪者たちに技を教え始めた。ノーマッドのメンバーに技を教えたように。彼らも身体能力は高いから、すぐに追い付いてきた。彼らに技を教えれば教える程、パワー・コンテストでそれを披露し、いつも以上の金が貰える。だからいつも感謝された。
有難いことだが、独りになりたい。
村長に会えば「不合格」や「もう一度出直せ」と言われる。言い返したくもなったが、必死に耐えた。シャリアに加入する時にタイガに言われた……「屈するな、耐えろ」という言葉を思い出しながら。
ノーマッドの住むアジトに何回か訪れることがあったが、彼らも俺のことを慕ってくれた。ノーマッドが有名になった時からずっと。有難いことだが、俺からしたら彼らの方がよっぽど凄い。何度酷い目にあったか分からない、それでも彼らは耐え続けた。だから、今がある。
まぁ、色々とあって、今は独りになりたい。
夜の村を抜け出して、独りで満天の星空の下で寝転がった。今なら、上にある星共を掴めそう……なんてな。
「どうしたの、マイト?」
ティナは寝転がった俺の顔を見つめつつ、話しかけてきた。独りになりたいとは言えない。
「少し1人なりたくて」
「ごめんね、本当に」
独りになりたいと言えない……と思ったが、勝手に口からその言葉が溢れてしまった。彼女を心配させるような口調でボソッと言ってしまったのだ。申し訳ない、ああ俺は……。
「安心して。頼りないかもしれないけど、私がいるから」と彼女は、俺の横に寝転がりつつそう言った。
頼りないことない。むしろ有難い存在だよ。いつも俺と話してくれて、追放された身だと知っているのに、いつも優しくしてくれる。本当に。
「人生で一番辛かったことはあるか」
俺はまた無意識のうちに、彼女にそう言っていた。さっきからどうなってるんだ、俺の口は。考えていること、考えていないこと、それが一気に口から漏れる。
「人生で一番辛かったこと、無いと思う。でも楽しいことは沢山あった。数え切れないくらい」
彼女はおもむろに立った後、間を置いてからこう言った。
「うん、今もだよ」と。
今も楽しいということか、今っていうのは……どの今だ。俺がこの村に来てからなのか、星空の下で一緒にいる今なのか、受け取り方によって変わってきてしまう。
彼女は照れつつも笑い出した。
俺もそれにつられて笑い出した。何故だろう、彼女の笑顔を見ていると、疲れが吹き飛ぶ。
「ありがとう、ティナ」
この出来事から程なくして、俺とティナは例の旅に出た。
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♢PRESENT DAY(現在)
「娘さんを俺にください」
「何も成し遂げられなかったお前がにか?」
俺とティナは、結婚前提で付き合っていた。旅から帰ってきて1ヶ月が経ったくらいに、俺の方から告白した。「君と一緒にいたい」と、臭い言葉だ。ティナも断ることなく受け入れてくれた。あの旅での出来事が、俺たちをその気にさせてくれた。感謝しなければならないな、リザードに。
そうして村長や浮浪者たちには隠れて、ずっと付き合っていた。彼らがコンテストに参加している夜の間に、2人で草原を駆けた。モンスターには会わないよう、明るい場所で。村長が用事で村の外に出た時は、2人で遊んだ。愛を確かめあったりもした。
こうやって楽しんでいるうちに、月日は経っていった。ずっと裏でコソコソと隠れるように付き合っていてもいいのだが、もうそろそろ婚約の時期だろうとなった。付き合ってからちょうど1年、普通の家庭よりも長く時間をかけている。普通なら、付き合ってから1ヶ月もすれば婚約すると聞いた。
それは置いておいて、俺とティナの2人で村長の元に挨拶に行った。結婚していいかの許可を得たかった。得られないのは何となく分かっていたし、その通りだった。断られた後、どうするかまでは決めていなかった。
「私、村を出ようと思う」
ティナがボソッと呟いた。
村から離れた、夜の草原の上。だから小声でも俺に聞こえた。
「私はマイトと一緒に生きていきたい、でも断られた。じゃあ……外に出よう。外の世界が広いことを、私は旅で知った。だから、行きたい」
彼女は立ち上がって、手を広げながらそう言った。
外に出る……か。
彼女はいつだって村のために生きてきた。頑固な村長の言うことを聞き、その小さな体を酷使し続けた。村長は「用事がある」と言って、村の畑仕事は手伝わない。腰が痛むというのもあるとは思うが、何より彼は重大なミスを犯している。
それは、彼女……ティナに正しく接さなかった。
親のいない彼女に、親として接することなく……村の村長として接していた。いつも、またいつも。俺が来る前からずっと。
村長が思っているより、ティナは幼くない。もう強い、立派な大人だ。そして、俺の妻であり家族の一員。この事実は何があっても変わらない。
「外に行こう、俺も賛成だ。但し準備があるから……明明後日の早朝に行こう。それまでは、村長の機嫌を損ねないように」
彼女は笑顔で頷いた。仕方ない、これ以外の案は思いつかない。俺にも、彼女にも都合がある。あと金もある。
浮浪者たちにも村長にも悪いが、いつかもっと金を稼げるようになったら、その時はウェール村に寄付する。それで、いい。直接関わらなければ、いい。
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