第23話 リザード

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 それで、寒い地域にも訪れた。モンスターすら生息できない程の寒さで、薄い衣服しか持っていない俺たちは身を寄せ合って寒さを凌いだ。


 それもこれも、全てセントリーの領地内。他の国には専用の許可証が無いと行き来できないため、境界に建てられた低めの壁を見ながら歩いていた。


 そうだ、あの話があった。

 ちょうどシティストと、また別の都市・ハルマーナの境で、ある上級モンスターと遭遇した。


 その名は、リザード。

 山に囲まれた水辺に出没するとされている、巨大なモンスター。トカゲみたいな体つきだが、マーナガルムくらい大きく、二足歩行もできるように足も長くなっている。


 最初、泊まる場所を探すべく辺りを歩き回っていたが、田舎で何も無かったために川の近くで野宿することにした。流石に危ないと思ったが、少し休憩するだけだし……と油断していた。周りは森に囲まれているが、川の近くで交代交代に休憩を取れば大丈夫だと思っていた。


 近くの川で魚を捕って食べ、一旦ティナが眠りについたところで、そのリザードが森から現れた。急いで彼女を起こし、抱きかかえるようにして逃げた。森は抜け出したものの、リザードは追ってきていた。


 夜で周りに人は居ない。元から田舎で、草原に囲まれていたってのもあったが。


 ティナをゆっくりと地面に下ろし、俺はリザードと戦った。幸いにも剣と盾は常備していたため、すぐに剣を構えることができた。


 リザードは鋭い爪を持っている。

 奴はそれを振り下ろして来たため、俺はティナを庇うように盾で守った。そして奴の腕を右の剣で斬った後、背後に回り急いで首を絞めた。


 斬るのは怖かった、トカゲのしっぽは切っても再生するから。首や腕を斬ったとしても、元通りになるかもしれない……と考え、斬らないまま討伐する方法を考えた。


 予想通り、斬り落とした腕は徐々に再生されていったが、俺の力ずくの首絞め攻撃により、奴の体はそのまま動かなくなった。1人で討伐したのだ、弱点も明確に分からない相手を。


 リザードの弱点は分からなかった。

 訓練所でも習ったことがない。それでも、野生の勘を活かして倒すことができた。これは今までの経験の積み重ねが実ったものだ。


「ありがとう、マイト。本当に」


 このことがあったお陰で、俺はものすごく……いや何でもない。このまま2人で抱き合った。危機的状況で、命の危険性があったんだ。しかも上級モンスター、一般人の彼女からしたら「本当に死ぬかもしれない」という気持ちにもなる。俺は彼女を安心させるよう、何度も慰めた。


 で、そのまま軽くなったリザードの死体を、シティストの端にある公式の取引会に持っていった。


 夜のことだから開いてないかと思ったが、意外にもまだ営業していた。公式の認定士もそこにおり、パーティーとしてではなく個人として討伐したことにしてもらった。


 突然、上級モンスターであるリザードの死体を持っていったんだ、もちろんそこにいた店員たちは驚いていた。

 死体の損傷も少なく、リザードは高値で買われた。俺も詳しくは知らないが、どうやらリザードの死体のしっぽが高級部位らしい。部位というのは……後で食べるつもりか? 人間がモンスターの肉を食べる……ちょっと考えたくはない。


 この時、俺は半分調子に乗っていた。

 ティナと抱き合った後、自身をさらけ出したくなった。リザードとの戦闘の際に、仮面は川の近くに置いていった。それはあまりにも突然のことだったから、持ち出す暇がなかった。


 川に戻ってから仮面を回収してもよかったのだが、討伐して意気揚々になっていたのもあって、そのままで行こうとした。デリーシャのメンバーと気づかれてもいい、と思っていた。


 結果、全く気づかれなかった。「上級モンスターを討伐した一般人の男」と判定された。何度も素顔を見られたのに、公式の認定士もいたのに、俺は気づかれなかった。ある意味悲しくもあったが、仮面を被らなくていいと思うと、少し気が楽になった。


 逆に、今までが自意識過剰なだけ。

 最初から仮面なんて必要なかったんだ。彼ら、ノーマッドには必要だったとは思うけど。


 それで大金を貰った俺たちは、ゆっくりと家に帰った。もう新聞会の人たちは居ないだろうと思っていた。その通り、もう誰も居なかった。村長によると「来たのは最初の一日だけだった」とのこと。俺たちは二月以上の旅をしているから、無駄足だったことが分かる。


 言い方が悪かった、無駄ではない。

 最高に楽しかった。しかし、俺とティナが居ない村はどうなっていたんだろう。浮浪者と村長だけ、想像のできない組み合わせだ。


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「懐かしいね、また行きたい」


 満天の星空の下、ティナと2人で温かい茶を飲みながら、長旅の思い出を話していた。あの旅をしたお陰で、俺とティナはより仲良くなれた。その上、大金が手に入った。こんなにあれば、村の整備を進められる。


「でもさ、何で旅をさせてくれたんだろう?」


 彼女は疑問に思っていたみたいだ。

 俺も疑問に思っている。気が合うな、それはそうと、普通なら一週間くらいでいいのに、村長は俺たちに一月以上隠れるようにと伝えた。


 俺からすれば、幸福の時間だった。

 しかしティナからすれば……本当はどうだったんだろう。俺が勝手に楽しいと思っているだけで、彼女は本当は村に居たかったんじゃないか。そんな不安なことを考えてしまう。


「ねぇ、マイト。いつまでこの村にいるの?」


「村を立て直すまで、としか」


「じゃあ、目標を変えて」


 俺は彼女と、熱さを交換した。

 彼女と出会ってから、俺は何かが変わった。追放された真の理由を突き止めるために、村に居るんじゃない。俺は彼女と……何でもない。


 何でもなくない、言おう。


 俺は彼女に惚れたんだ、いや、互に。

 彼女の赤さを、直で感じた。


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