第20話 トドメだ
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発光が収まり、奴は本来の姿を俺の前に現した。奴の頭が狼なのはそのままだが、体は人間ではなく狼の形に変化していた。狼の頭を切り取り人間の胴体に無理やりつけたような違和感はあったが、こっちが本来の姿でさっきまでは仮か偽の姿だったことになる。
真っ白の毛に覆われ、鋭い牙と爪を持つ、木よりも大きな狼の姿に変化した奴は遠吠えをした。
そういえば、6人の姿が見えない。彼らはどこに行ったんだ……と思い奴の近くに行くと、彼らは奴の後ろ足に踏まれていたらしく、腹部に黒く大きな跡が残っていた。潰されていなくてよかったが、意識を失っている。戦闘時に仲間を失うのは危険。
「そこの人、頼むから手伝ってくれ」と周りで見ているだけの討伐者に助けを求めるも、皆奴に怯えてばかりで何もしなかった。
目の前で、巨大なモンスターに仲間を倒された人たちだ、無理もないが。
しかし、俺だけで奴を倒せるか?
上級モンスターの上の存在である奴を。緑の巨人とはまた違った存在だ。もし俺が倒されたら、奴は人の密集するポリスタットへ向かうだろう。それだけは避けなければ。
なら、俺がここで食い止める。
まずはさっきと同じように関節部分を斬ろう。そう思い向かうと、奴は俺に立ち向かうようにして突進してきた。突然の出来事に若干足がもたついたものの、すぐに体勢を立て直して避けた。奴とのすれ違いざまに、奴の膝部分に剣を入れたが……効果は無かった。
急いで倒れているメンバーの元に行ったが、やはり気絶していた。近くで眠っていたユーゴの剣を拝借し、2本の剣で奴に立ち向かった。
しかし弱点も分からない上、さっきまで効いていた関節部分への攻撃も今は効果無し。どうやったら奴を倒せるのか。
さっきは頭と胴体の接着部分に剣を突き刺すことで呻き声を上げていたが、弱点はそこだったのか? 弱点がそこだとして、奴は強化されている。
俗に言う、形態変化ってやつか? それなら、他にもいる。下級モンスターだが、スケルトンは偶に形態変化をする。寒い地域で形態変化をすれば、身体が凍った状態になる。逆に暑い地域で形態変化をすれば、身体が半透明になり蒸気を発生させる。つまりは環境によっての形態変化。
しかし、攻撃されて形態変化をするモンスターというのは聞いたことがない。訓練所時代でも。授業は真面目に聞いていた方だから、聞き逃したというのは無いはず。
形態変化と仮定するなら、弱点は変わらない。環境によって変化するスケルトンも、弱点は変わらずに首。こいつも変わらずに首なんだろう。
そうと決まれば、首を狙うのみ。
草原の上で一度立ち止まり、奴が突進してくるのを待つ。奴は人の多いポリスタットに向かうかと思いきや、きちんと俺のことを狙って来た。距離が近くなっても動かない。スレスレになるまで。
奴との距離がスレスレになった時、俺は高くジャンプする。そうして左で持っていたユーゴの剣を、奴の左目に突き刺すことで視力を奪わせる。俺は空中でくるりと回ることで、奴の頭の上に乗ることができた。意外とやってみたら簡単だった。想像するより、行動だ。
奴は頭の上にいる俺を振り落とそうと、辺りを駆け回る。しかし……もう遅い、首の根元に剣を突き刺して耐える。奴が動けば動くほど、剣が深く刺さる仕組みだ。後は俺が耐えるだけだが……耐えられるか?
奴は森の中に入り、様々な木にぶつかっていく。ぶつかった衝撃で俺を落とそうとしたんだろう。森に入ったせいで視界も悪いし、俺も助けが呼べなくなる。
「グラァァァ……ガルル!!」
奴は暴れ叫びながら、色んな木にぶつかる。流石の俺も耐えきれなくなってきた。この森一番の巨大な樹木にぶつかろうとした所で、俺は身の危険を感じて奴から飛び降りた。
ここは森のど真ん中。周りにはモンスターが大量に潜んでいるのだろう。で、ここにいるのは俺とマーナガルムのみ。メンバーもいなければ、他の討伐パーティーもいない。明らかに奴の方が有利な状況に誘い込まれた。
しかも剣は奴の首に刺さったまま。俺は何の攻撃手段も無いまま、森に残された。
奴は無防備な俺を殺すようなことはせず、またさっきの小道に向かって突き進んでいった。
俺はポツンと、残された。
奴の後を追うか、助けを待つか。追っても追わなくても、周りにいるモンスターに殺される運命だ。それなら待つより、抗うか。それとも耐えて耐えて、耐えてみるか。
行動しないよりは、する方がいいな。
俺は盾を左に持ち、奴の後を追った。
巨大なモンスターといえども動きは早い。簡単には追いつけないが、ここで脳に電流が走るような感覚を味わった。巨人を討伐した時と同じ感覚だ、これなら行ける気がする。
腕も足も、いつも以上に速く動く。
さっきまで戦闘を行っていた。普段ならここら辺で疲れが来ているが、今の俺には関係ない。逆に走ることに快感を覚えたのか、もっと走りたいと考えるようになった。
モンスターの攻撃から身を守るための特殊な靴も脱ぎ捨て、裸足で森を駆け抜けた。裸足で草木を踏んづける、走れば走るほど脳内に電流が走り、全身を駆け巡る。
まだ走り始めて少ししか経っていないが、もうマーナガルムに追いついた。俺は奴に向かって跳び、首に刺さっている剣にしがみついた。
奴はそれに気づいていながらも直進し続けた。俺を振り落とすよりも先に、森の外に出たいのか。分からないが、奴が森を出るのを待った。
小道に出たところで、奴の首に刺さっている剣を何度も踏みつけた。ガシッ……ガシッ……と何度も。そうすればより深くに入ると思って、何度も何度も。
「トドメだ」
俺は半ば無意識にそう呟き、剣を1回抜いてから、また強く突き刺した。
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