第148話怨霊編・真その15
昨日は色々なことがあった。瀬柿病院で怨霊に取り憑かれた男と戦った。
怪奇谷君のお父さんである東吾さんが除霊師だということがわかった。
怨霊βに智奈と同志先生が襲われた。そして私は助けられた。
こんなにたくさんのことがあったというのに、私はあっさりと睡眠をとることができた。その事実に少しだけ嫌な気分にもなる。
とにかく、もう睡眠はたくさん取れた。さっさと目覚めてしまおう。
そう思って私は目を開けて起き上がった。
「あ、おはよう姫蓮ちゃん」
すると何故か私の膝の上に寝転がっている先輩がいた。起きる前から妙に重いとは感じていたけど。
「おはようございます風香さん。とりあえずそこをどいてくれませんか?」
なんで風香さんは私の膝の上にいるのだろう。
「えー、もう少し姫蓮ちゃんの上にいたいなー」
「はっきり言わないとダメみたいですね。邪魔です。早くそこからどかないと無理やり落としますよ?」
「むうー。仕方ないなー。ま、姫蓮ちゃんの可愛い寝顔がたっぷり見れたからよしとしますかー!」
名残惜しそうにすっと立ち上がる風香さん。
「私が可愛いのは当然として、私が寝てる間に変なことしてないでしょうね?」
「変なこと? イヤだなー私がそんなことするわけないじゃん! まあおっぱいは1度だけ揉んだけどね」
「いや、それが変なことと言うんですが」
「ダメだった? それじゃあ私のおっぱい揉む?」
「いえ、そんな駄肉に興味はないですので」
寝てる間に人の胸を揉むだなんてとんだセクハラだ。
「駄肉っ!! うぅ、まさか私のおっぱいが駄肉だったなんて……」
「いいじゃないですか。そんな駄肉でも役に立つ時はきますよ」
と、そんな適当なことをいいながら私は冷蔵庫を開けて飲み物を取り出す。
ちなみにここは私の家ではない。ましてや、風香さんの家でもない。
この場所はビジネスホテルだ。私と風香さんは今ここに泊まっていた。
昨日のことを思い出す。突然現れた風香さんに私は助けられ、その後このホテルへと流れ込んだのだった。
「あ、私にもちょーだい」
智奈と同志先生について。智奈に取り憑いていた怨霊は風香さんが除霊してくれたみたいだった。しかし私と風香さんは逃げることに集中していたため、智奈を連れてくることは出来なかった。
そして同志先生。同志先生についてはどうすることも出来なかった。救急車を呼ぼうにもやはり連絡が取れなかった。しかし風香さんは大丈夫と念を押したので逃げることを優先とした。
私はそれが一番申し訳ないと思っていた。智奈と同志先生をあの場に放置して逃げたという事実に対して。
「どうぞ」
「うーん。姫蓮ちゃんが飲んでるそれがいいなー」
そして怨霊β。私はてっきりあの時に風香さんが除霊してくれたのかと思っていた。
しかしそれは違った。怨霊βは風香さんが現れることを察知して逃げたのだ。だから取り憑かれていたあの髪の長い女は気絶したのだ。
つまり、まだ怨霊βは健在ということになる。
「なんでですか。それも同じオレンジジュースじゃないですか」
「姫蓮ちゃんが口をつけたそれが飲みたいんだよ」
「……風香さん。あなたはわざとなのかどうか知りませんが、もしかして変態なのでは?」
私たちが智奈と同志先生を置いてまで早く逃げたのにはちゃんと理由があった。
あの場にいたら私たちも間違いなく事情を聞かされることとなる。そうなれば怨霊を追うことは出来ないし、再び被害者が出てくるかもしれない。
さらには怨霊βが逃げたとはいえ、いつ襲いかかってくるかはわからない。少なくともあの場にいることはリスクが大きすぎたのだ。
そして風香さんは言った。私を助けるためにここにやって来たと。おそらく風香さんは指示をされたのだ。彼女の師匠から私を守るようにと。
「そんなことより姫蓮ちゃん。ニュースは見たかな?」
「ニュース? 見てないですよ。なぜなら私は今さっきまで眠っていたのですから」
結局私のではなく、手渡したオレンジジュースを飲み始めた風香さん。
現在時刻は午前9時過ぎ。何か新しい情報でも得たのだろうか。
「来遊市で電波障害が発生してるんだって。だから姫蓮ちゃん達は連絡が取れなかったんだ」
電波障害。それが原因だったんだ。
「でも安心して! 私の持ってるこのエクストリーム4はその影響を受けないみたい!」
「そうなんですか。だから風香さんは救急車を呼べたんですね」
あの後、私には出来なかったことを風香さんはした。救急車を呼ぶことができたのだ。しかしそれもかなり遅れてしまった。無事だといいんだけど……
私はこの先のことを考える。敵の狙いは私。そしてそれが原因で智奈や同志先生を傷つけた。今現在、私は派手に動くことはしないほうがいいと思う。
しかし、何もしなければ事件は解決しない。
「風香さん。これから先、あなたはどうするつもりですか?」
私は風香さんに尋ねた。風香さんの目的は私を助けることだった。そしてその後。彼女は怨霊と戦うのだろうか?
「私? どうするってそりゃもちろん姫蓮ちゃんを守るんだよ。怨霊からね」
「つまり風香さんは私のボディガードということですか」
「ふっ……そうだよ。大人しく私に守られるんだよ、姫蓮ちゃん」
キメ顔を作ると、私の顎をくいっと上げた。正直、ウザい。私はその手を払って窓際に向かった。
「それは、師匠に頼まれたんですか?」
風香さんはどう答える? まさか私が師匠の正体を知っているとは思えない。
「まあそんなところだねー。師匠に姫蓮ちゃんを守るように頼まれたんだー」
つまり、師匠……東吾さんは私がなぜ狙われてるのかを知っているということになる。
どうして? 私はどうして怨霊に狙われるのだろう。
「それで? 私はこのホテルでただじっとしてろというんですか? そうだとしたら私はあなたを振り切ってでもここから出て行きますよ」
私を守るだけなら簡単だ。このホテルから私を出さないようにすればいいだけなのだから。
だけどそんなことは私が許さない。私に怨霊を退治することは出来ない。だけど私が狙われてるということは、間違いなく不死身の幽霊が関係しているはずだ。
「私はただ守られてるだけじゃ終わりたくないです。むしろせっかくの不死身なんです。この身が危険な目にあおうが、私も解決に協力したいんです」
もう誰も傷ついて欲しくはない。そのためにもいち早く解決したい。そしてその場に私がいないのは絶対にダメだ。そんな気がするのだ。
「うん、いい心意気だね。それじゃあ一緒に行こうか。怨霊を退治しにね」
風香さんは意外にもあっさりと私の提案を飲んだ。否定されるかと思っていたけど。
「姫蓮ちゃん。私たちって実は相性かなりいいんだよ」
「なんですかこんな時に。カラダの相性とか勘弁してくれます?」
「ちょっと姫蓮ちゃん! まるで私がそういうエッチなことしか考えてないみたいなキャラにしないでくれるかな? 確かに相性はいいと思うけど」
いや、考えてますよ。あなた。
「そうじゃなくてだよ。姫蓮ちゃんは不死身。そして私は除霊師。姫蓮ちゃんが囮になってる間に私がそれを倒す。これって中々出来ないコンビネーションなんだよ」
それは確かに言えてることだ。私は死なないし、それを利用して風香さんに戦ってもらう。お互いの苦手な分野を補っていることになる。
「ふふ、あの時以来だね。姫蓮ちゃん。もう一度、私に協力してくれる?」
にこりと笑うと、風香さんは手を差し出した。
「それはこっちのセリフです、風香さん。もう一度、私に協力してください」
私は風香さんの手をしっかりと取った。こんな変人のような人だけど、頼れるのは間違いない。
私たちが組めば、怨霊など敵ではない。
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