第144話怨霊編・真その11
病院内は荒れ果てていた。といっても廃墟のように荒れ果てているのではなく、単純に機材などがあたりに散らかっていて散乱としている状況というのが正しいのだろう。
しかしその中でも異常な箇所はいくつかあった。例えば壁、柱。それが割れているのだ。普通に考えればありえない話だ。人間の力で壁を壊すことなんて出来ない。
それができるとしたら、幽霊に取り憑かれた人間が霊障を引き起こすぐらいしか考えられない。
俺はさらに奥に進む。周辺には警察が調査をしていた。
「ん? あなたは誰だ? 関係者以外は立ち入り禁止のはずだが……」
またこれだ。いちいち確認しなければいけないのか。
「これでいいですか」
少々面倒ではあるが、俺は自分の持つ身分証を見せた。といっても運転免許証でもなければ、保険証でもない。俺が見せたのは、
「……」
警察は怪訝そうな顔をするが俺を通してくれる。確かに除霊師などという職業は普通の人間からすればよくは思われていない。単純な話だ。普通の人からすれば、幽霊なんていないと思われているのだ。だからバカバカしいと。
だけどそんな俺たちでもこの街では少し事情が変わる。特にここ最近。あまりにも不可思議現象が多く発生していることもあり、俺たちに頼らざるを得なくなっているのだ。
実際に市のお偉いさんとはもう面識も持っている。特に市長。市長は歴代の市長からつくづく言われ続けてきた言葉があるという。
『この街の市長になるなら覚悟をしておけ。この街は呪われている』
と、口を揃えて言っていたらしい。しかし肝心なことはわからないらしく、ただそう伝わってきただけらしい。
「……」
俺は歩きながら1つの出来事を思い出す。あの研究施設での出来事だ。
あの後、俺は馬鹿正直に警察を呼んだわけではない。早速上の連中とやらを頼ることとなった。
あの死体は秘密裏に処理されたのだ。理由は簡単。あれは、人間の仕業じゃない。
そんなものを報道できるか? できるわけがないだろう。だからこうやって処理するしかないのだ。あまりに非情なことだとわかってはいる。だとしてもだ。こうするしか方法はなかったのだ。
おそらく実行者であるあの男も同時に保護してもらった。怨霊に取り憑かれていたとはいえ、彼は人を殺してしまったのだ。それはどんな理由を並べようと、罰せられなければならないことだ。
こんなことは終わらせなければならない。なんとしてもだ。そんなことを考えていると、携帯が鳴っていることに気づく。
「風香か」
『はいはーい。元気で明るい風香でーす』
どんな状況でも風香はいつもこんなだ。先程、姫蓮ちゃんを助ける前。一度風香に状況を伝えようと連絡を取ってみたが一切繋がらなかった。それに魁斗や香にも連絡を取ってみようとしたのだが、それもダメだった。
しかし風香から連絡が来たことでやっと状況を伝えられる。と言うわけで、俺は今までに起きたことを全て話した。
『ふうむ。師匠、早速市長を頼ったんですね。しかしそれはいい判断だと思われますよ。下手に報道されても困りますしね』
「ああ。それを考慮しての判断だ。俺としてはあんまりこういうことはしたくないんだけどな」
当然だ。あの殺された人は表向きは行方不明という形になるのだ。親族のことを考えると胸が痛む。
『まーしょうがないですよー。バカ正直に「あなたの家族は幽霊に殺されました」なんて言ったら余計に反感くらいそうですもんねー』
とはいえやはり思うところはある。本当は真実を伝えるべきなのでは。隠してしまっていいのか。そんな気持ちが。
『そんなことより私は姫蓮ちゃんが心配ですね』
「ああ。だから彼女にはそうそうに帰ってもらって……」
『そーゆーことじゃないですよー。これだから頭おじさんなおっさんにはわからないんです』
「なっ……! おま! 言っていいこととダメなことがあるだろう!」
なんだって頭おじさんなんて言われなきゃならんのだ。というより頭おじさんってなんだ。
『考えてもみてくださいよ。姫蓮ちゃんと智奈ちゃん。それに同志先生。みんななんで瀬柿病院に向かったんですか?』
「それは……興味があって……」
『ちーがーいーまーすー! ほんっとこれだから加齢臭プンプンのおっさんには期待出来ないんです』
「お、おい! 俺そんな加齢臭プンプンなのか!?」
『冗談です』
全く……驚かせやがって。割と気にはしているんだぞ、これでも。
『わかりませんか? 魁斗君ですよ。魁斗君に頼まれて向かったんです』
「魁斗だと?」
その言葉で風香が何を言いたいのかがわかった。
『同志先生はわかりませんが、おそらく姫蓮ちゃんと智奈ちゃんは魁斗君に頼まれて瀬柿病院に行ったんですよ。理由は簡単です。調べるために……ですよ』
調べる。それはつまり。
『魁斗君ももう気づいてますよ。怨霊のこと。だから魁斗君ももう動いてるはずです』
その事実は風香から報告を受けていた。姫蓮ちゃんが生霊に取り憑かれてしまった時、とうとう風香の正体がバレてしまったと。その時に怨霊のことは知ってしまった。関わってしまった。だからこれは避けられないことだとわかっていた。
だからこそ。出来るだけ関わらせないようにしていたのだ。
『師匠は知らないかもしれないですけど、あの殺人事件のあと、もう1つ事件があったんです。来遊市イベントホールに爆弾が仕掛けられたというニュースが』
俺は同志先生の話を思い出す。彼女はイベントホールで魁斗と会ったと言っていた。そして智奈ちゃんと姫蓮ちゃんは2人とも魁斗に一度連絡をしたほうがいいと話していた。確かに、話は繋がる。
『おそらくですけど、魁斗君はイベントホールに向かった。そして姫蓮ちゃんと智奈ちゃんに瀬柿病院に向かってもらった。そんなところではないでしょうか?』
「多分当たりだ。だとすれば今頃魁斗は……」
あいつはあいつで怨霊に立ち向かおうとしているというのか。それはダメだ。あいつは怨霊の力をわかっていない。それどころか、自分自身の力でさえ……
『それで? 師匠はこれからどうするんですか?』
魁斗のことも不安だが、今優先して安全を確保するべき人物は1人しかいないと思った。
「俺は一度、
『……師匠の方は任せます。姫蓮ちゃんについては任せちゃってください! それで? 姫蓮ちゃんは今どこに?』
俺はバスのルートを伝えた。少なくとも、今現在は彼女の様子を見ておくべきだ。本来なら俺が見てやるべきなのだろうが、やはり彼女も女の子だ。同じ女の子である風香の方がきっとうまくやってくれる。
『わかりました! 師匠、ほかに何か伝えておくことはありますか?』
「いや、今のところない。とにかく頼んだぞ」
『そうですかー。あ、あとそうそう。師匠、同志先生に会ったんですよね?』
「ん? 会ったけどそれがどうかしたのか?」
『いえ、それだけです! それじゃあまた連絡しますねー』
話すことを話すと、パパッと風香は通話を終えた。一体何を気にしていたのだろう。
「さて……」
俺には怨霊を追跡する力はない。俺に出来ることは幽霊を除霊することだけだ。
だからそれを行うために、幽霊を見つけ出すことが出来る人間の力が必要なのだ。
そう思って俺はとある番号に電話をかけた……しかし電話は一切繋がらない。それでも地道に待ってみると。
「お久しぶりです」
声がした。やっと繋がったのか!?
「……あの。後ろですよ」
「へ?」
背中をチョンと突かれたので俺は振り向いた。そこには1人の女性が立っていた。髪は肩ぐらいまで長く、上は白いキルティングコートを着ており、下はロングスカートを履いていた。そして腕には黒い腕輪をつけており、それが目立っていた。
この女性こそ、俺が連絡を取ろうと思っていた人物であり。そして、力を借りようとしていた人物。
つまり。この街に1人しかいない、霊能力者だった。
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