第143話怨霊編・真その10
あまりに突然だったので、つい情けない声を出してしまった。
「え……?」
そしてそこにいた人が、あまりにも意外な人物だったということに驚いていた。
まず私が確認したのは1人の男性。怪奇谷東吾。怪奇谷君の父親だ。
私は数回しか会ったことはないけれど、一応顔は覚えている。しかし外で会ったのはこれが初めてだった。
そしてもう1人。同志辰巳。私が通う場芳賀高校に勤めている非常勤講師だ。
私は彼女の授業は受けていないのでそこまで詳しくは知らない。だけど智奈は同志先生の授業を受けているらしく、よく話を聞く。
そして、その彼女の後ろには2人の幽霊が宙に浮いていた。確かボクとオジサン、と呼ばれていた気がする。その2人がいたのですぐに同志先生だと気づくことができた。
よく見れば同志先生はウィッグをつけているのか、髪型がいつもと違う。たまには私も髪を伸ばしてみてもいいかもと少し思う。
「ん? 失礼お嬢さん。この子に何か用かね?」
と、東吾さんは同志先生のことを
「へ、お嬢さん……ってそうじゃなくてです! あなたこそこの子のなんなんですか? もしかしてお父様ですか?」
「父親? 確かに私は父親です。しかしこの子の父親ではなく、私は怪奇谷魁斗の父親なのです!」
「え? か、怪奇谷君のお父さん? そ、そうですか……っていやそうじゃなくて! なんで怪奇谷君のお父さんが富士見さんに!?」
この2人の様子を見て何か思ったのか、警察官2人はそっと去っていった。
「おいおいマジかよ。こいつあのボウズの親父なのか……ん? おい。こいつは……」
「おや? おやおや。これは……そうですか。まさかこんなことあるんですねぇ。いやぁ世の中案外狭いものですね」
オジサンとボクは2人で勝手に納得しているが何を思ったのだろう?
「いや、魁斗と富士見さんは友達なんだ。私も彼女と面識がある。だから助けに入っただけなのだが……」
「そ、そうだったんですか……失礼しました。私も富士見さんを助けようと思って声をかけたんです」
「そうですかー! ははは! 私たち気が合いますなぁ!」
腕を組んで笑う東吾さん。まるでナンパしているみたいだ。
「それで? 大丈夫なの? 富士見さん」
と、同志先生が私を心配そうに見つめる。
「私は大丈夫です。2人が声をかけてくれなかったら私は今頃警察に連行されていたでしょうね」
「いや……そのセリフだとまるで犯人みたいだから」
「ところで富士見さん。ここで何があったんだい?」
今度は東吾さんが真剣な表情で私を見た。しかし友人の父親にさん付けで呼ばれるのは少し違和感を感じる。
「見ての通りですよ。ここに入院していた患者が暴れ出したんです。あ、それから私のことはさん付けで呼ばなくていいですよ」
東吾さんは病院を見た。まるでその奥を、さらに奥を見ているようだった。
「そうか……君もニュースを見たのかい?」
「はい。それで気になって……」
東吾さんは答えない。東吾さんからすれば興味本位で見に来るな、と言いたいのかもしれない。だけどそう言われることはなかった。
「えっと、同志先生でしたっけ? この2人を送ってあげてやってくれませんか?」
「え? 私ですか?」
「ちょっと待ってください。東吾さんはどうするんですか?」
私たちの身を案じて帰そうとするのはわかる。だとしても東吾さんはどうするつもりなのだろう。
「俺は……仕事があるんだ。やらなければならない仕事がな」
「仕事って……何か関係があるんですか?」
私は病院に視線を向けた。そもそも東吾さんはどうしてこんなところにいるのだろう。私は東吾さんがなんの仕事をしているのかは知らない。
だからこそわからない。どうして、こんなところにいるのか。これから、ここで何をするというのか。
「簡単な話だ、お嬢ちゃん。この男はな、
「……!!」
オジサンが答えを述べた。その答えに驚きを隠せないが、出来るだけ表情には出さないようにした。それは同志先生も同じらしく、口を開けたまま表情が固まっている。
怪奇谷東吾は除霊師。怪奇谷君の父親が、除霊師。
そんな話は怪奇谷君から聞いたことは一度もない。確かにおかしいと思っていたことはあった。
怪奇谷君は父親の職業をよく理解していなかった。その時点で何かおかしいと思ってはいたけど、怪奇谷君も隠していたのだろうか? それとも、隠さなければいけない理由があったとか?
「まさか彼の父親が除霊師だなんてね。すごいことですよ。この街には除霊師は1人しかいないんですから」
さらにボクが補足する。確かそんな話を聞いたような聞かなかったような……
いや、待ってほしい。この街には、
「ん? どうかしたのかい? 先生も口が開いてますよ」
「えっ? あっ……ごめんなさい。ちょっと考え事を」
「そうですか。そういえば先生はどうしてここへ?」
東吾さんはいつもの調子で同志先生に声をかける。はたからみれば本当にただの一般人にしか見えない。
未だに信じられないけど、指導霊であるこの2人が言うのであれば間違いない。嘘をつく必要もないし、それが真実であることに間違いはないはず。
だから私は1つ、試してみることにした。
「智奈。さっきあったことを風香さんに伝えようと思うんだけどどう思う?」
「え? ふ、風香先輩ですか? そ、そうですね……別に構わないと思いますけど……」
突然話を振られてビックリしたのか智奈は反応が悪い。そしてチラッと東吾さんを見る。特に気にせずに同志先生と話しているように見えた。
「東吾さんはどう思います?」
「…………なんですよ〜。ん? なんだい?」
話を聞いていなかったのか、それともとぼけているのか。
「風香さんに伝えようと思ってるんです。どう思いますか?」
東吾さんは一瞬黙り込んだ。そしてうーんと言いながら腕を組んだ。
「まあいいんじゃないかな。その子が誰かは知らないけど、わざわざ伝えるってことは頼れる先輩なんだろう?」
と、あっさり答えられた。結構ストレートに質問したつもりだったのだけど。
「そうですね。胡散臭いけどそこそこ頼れる先輩ですね」
その言葉を聞いて東吾さんはほんの一瞬だけ、ニヤリとした気がした。
私の考えが正しければ風香さんの師匠とは東吾さんだ。それしかない。
先ほどの出来事を思い出す。暴れていた医者が突然大人しくなった。あの雰囲気を見たことがあるように思えたのは単純なことだった。
そう。過去に見ているからだ。除霊師である風香さんが除霊している姿を。
きっとあの時東吾さんはあの怨霊を除霊したのだろう。だからあの医者は大人しくなったんだ。
納得はいく。しかし同時に疑問も増える。怪奇谷君はそのことを隠していたのか? それとも知らなかったのか?
そして風香さんについても。風香さんは師匠のことを私たちには一切伝えなかった。それはなぜ? むしろ近しい存在だから、色々とやりやすかったはずなのに……
「とにかく、2人はもう帰るんだ。きっと魁斗も待ってる」
東吾さんは意地でも私たちを帰そうとする。しかし考えてみれば、この現状では私たちにできることはほとんどないとも言える。
「姫蓮先輩。せめて一度魁斗先輩に連絡を入れましょう」
確かに怪奇谷君の方も気になる。彼も彼で、爆弾の問題に向き合っているのだ。心配がないと言えば嘘になる。
「そうよ。私怪奇谷君とイベントホールで会ったのよ。彼もあなたたちのこと気にしてたよ。連絡ぐらいしてあげたら?」
「おうそうだぜ。何かあれば嬢ちゃんたちに伝えてやってくれって言われたけど……今んところ伝えられるのはあれだけだな」
怪奇谷君と同志先生はすでに接触していたんだ。そしてオジサンの言う
「そうね。とにかく連絡を取ってみましょう」
私は携帯で怪奇谷君の番号にかけるが……しかしどういうわけか全然繋がらない。
「おかしいわね。智奈。智奈からかけてみてくれる?」
「え? は、はい」
どういうことだろう。通信状況が悪いということでもないだろうに。
「……ダメです。私も繋がりません」
それは単純に、怪奇谷君が出られない状況なのかもしれない。むしろそうであってほしい。
「そう……それじゃあ仕方ないね」
同志先生は東吾さんの方を見た。
「私がこの2人を送ってあげればいいんですね?」
「そうしてくれると助かります」
同志先生も諦めたのか、私たちを送ることにしたらしい。私も断念して送られるとしよう。
「東吾さん」
「なんだい、姫蓮ちゃん」
さん付けはやめてほしいと言ったけど、まさか名前呼びとは思わなかった。
そんな彼の父親に向かって私は一言残していった。
「
東吾さんはそれをどう捉えたのかはわからない。だけどそれにはこう答えた。
「
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