第127話神隠し編・真その7
歩き続けて数分。遠目で見てもわかるように大きな山が見えてきた。そしてそのすぐ近くにポツリと小さな神社が見える。
「あれか。かなり古いみたいだな」
シーナは目を細めて神社を見る。
「ボロボロじゃんか! ま、それがいい味を出してるわけだがな!」
なぜか神社を褒めるウォッチ。
「それよりシーナ。神隠しについてだ」
「ああそうだな」
シーナは1度目を俺に向けて再び語り出した。
「神隠しっていうのは神さまが現実世界にいる人間や物を神域に呼び出すことを言うんだ。そしてそれが起こる理由だけど……」
シーナは少し考え込んだ。
「正直に言うとはっきりとはわからない。ただ1番説明できる理由がある」
「ゴミ拾いだろ」
「ウォッチ……?」
唐突にゴミ拾いと放ったウォッチ。それは一体どういう意味なんだ?
「そのまんまの意味だよ。神が現実世界のゴミを拾ってるんだろ。その時に人間とかがたまに迷い込んじまう」
「……確かにウォッチの言う通りではある。例えばだ。神さまが森の中の木を数えてたとする。その中に人間が迷い込んでいて間違えて数えてしまったら。その時に神域へと呼ばれてしまうんだ」
シーナの言いたいことは理解できた。だけど、1つ気に入らないことがあった。
「そうか。だけど1つ訂正しろ。ゴミ拾いなんて言うな。それじゃあまるで神隠しにあった人はゴミみたいだと言いたいのか?」
「す、すまない……ほ、ほら! ウォッチも謝れ」
「悪いな。つい感じ悪い表現を使っちまった」
別にシーナに向かって言ったわけではないんだが。それでもウォッチも謝ったし気にしないでおこう。
「神隠しってのは結局それが真相なのか?」
神隠しは本来なら誘拐事件などが全てだと思われていた。しかし本当に神隠しという現象があるのだとしたらそれも嘘になるということになるが……
「いや、そんなことはない」
それをシーナはきっぱりと否定した。
「全てが本当の神隠しというわけではない。むしろ魁斗の言う通りほとんどがそのような現実的な事件がほとんどだ。そうだな……全体の2割ぐらいが本当の神隠しってところだな」
逆に2割も本当に神隠しが起きていたということになる。
「そして神隠しがおきる原因だが、大きく分けて2種類だ」
シーナは1度振り返って遊園地の方を見た。
「1つはなんの前触れもなく消えることだ。これは本当に理由がわからない。街中だろうが人目につくところだろうが急に突然消える。原因は不明だが、神隠しにあいたいと思っている人ほどあう確率は高いみたいだ」
俺もつられて遊園地を見た。あそこで冬峰は突然姿を消した。シーナの言う1つ目の理由に当てはまる。冬峰は神隠しにあいたいとは思ってはいなかったはずだ。だとしたらなぜ……?
「そしてもう1つの原因。それは……」
声を心なしか小さくすると、シーナは歩く足を止めた。
「神域に入って目をつけられたからだ」
目の前には古びた神社があった。至る所がボロボロで、整備もほとんどされていないようだった。
入り口には看板が立てられてあり、そこには『
「へ〜。アタシこんなとこ初めて来たな〜」
「なんだよ。お前初めてだったのか! 奇遇だな! 俺様もだ!」
「だからなんだよ」
俺もここに来たのは初めてだし、名前だって今知った。入り口は大きめだが、奥に見える神社はかなり小さいのがよくわかる。ところどころがボロボロになっており、今にも崩れ落ちそうだ。
周りには人は誰もおらず、今は俺とシーナしかいない。
「シーナ。神域に入ったってのは?」
「さっき私は神域について説明したよな? 神域っていうのは
「はぁ!?」
神域とは霊界の1番上にある世界のことじゃなかったのか?
「魁斗の気持ちもわかる。私も最初に知った時は意味がわからなかったさ。そうだな……最初に霊界の説明をしたな? 幽界、霊界、神域。神域は神の領域だ。他の2つは別世界だが、神域は現実世界と密接に関わっている世界でもあるんだ。1番遠い世界でありながら、1番近いところにその領域があるんだ」
「おい、それってまさか」
「ああ。古来から山や森などは神さまがいると言われていた。さらにそこに近いところにも同じような領域があった。そこに出来たのが神社だ。つまり、神社も神域なんだよ」
シーナは先を真っ直ぐと見据えると、黒戸神社へと入っていった。俺もそれを追う。
「神社の周りには結界が張られている。これは無闇に神域に入らないようにするためだ。そのおかげで基本、幽霊は神社に入ることは出来ない」
それは俺も知っていた。幽霊は神社に入ることが出来ない。幽霊とざっくり言ってしまったが、それは基本悪霊に限る。
むしろ他の幽霊は神社に来ることによって成仏されることが多い。除霊師も神社で除霊を行うことが多いのも、成功率が高いからだ。
「じゃあどうして神域で神隠しなんてことが起きるんだ?」
「そうだな……例えばだ。神域である神社に強力な悪霊が何かの間違いで現れたとする。その時神さまはどうすると思う?」
つまりなんだ。神さまが現実世界から神域に連れて行っているということなのか。
「山や森ではそれは妖怪の仕業だとも言われている。1番有名なのは天狗、じゃないか? 日本の妖怪は私はあんまり詳しくないんだがな」
「だけどその理論でいけば悪霊に取り憑かれた人間だけが神隠しにあっているってことにならないか?」
シーナは再び難しそうな表情を浮かべた。
「いや、そうでもない。正確には現在調査中というところか……原因の1つでそれは証明されたということだ。他にも理由はあるかもしれないけど、それはまだわかっていないんだ。神隠しという現象……その現象自体がまだ神魔会ですら把握しきれていないんだから」
悪霊、あるいは悪霊に取り憑かれた人間が間違って神域に入ってしまうと神隠しにあう確率が高いということか。
「それで? ここまで来たけど神隠しにはあえませんなんて言うんじゃないよね?」
ヘッドホンがシーナに向かって言う。
「ヘッドホンが言っている通りとまでは言わないが、確かにここに来てこの後どうするんだ? そんな都合よく悪霊なんていないだろ?」
先ほどの理論でいくとしたら、悪霊に取り憑かれることが神隠しにあう条件となる。本来なら悪霊に取り憑かれる時点でもうかなり危険なのだが、ここにはゴーストコントロールを持つシーナがいる。彼女の力を使えば悪霊に取り憑かれようが平静を保つことが出来る。
おそらくシーナも過去に、みずから悪霊を取り憑けて神隠しにあったのだろう。
「……ああ。神社だからな。案の定幽霊は1匹たりともいない」
「おいおい〜! ダメじゃん。どうするつもりなんだよ」
「考えがあるのか?」
シーナは俺を真っ直ぐ見た。
「鍵は魁斗だ。魁斗次第というわけだ」
「はい……?」
ここで鍵になるのが俺? それは一体どういうことだ?
「魁斗の
は……? なんだ? ゴーストドレインの、中……?
「シーナ? お前は何を言ってるんだ? なんだよゴーストドレインの中って……」
「……? 魁斗こそ何を言ってるんだ? ゴーストドレインの中を見させてくれと言ってるんだ」
「だからその中ってなんだよ!! 俺はそんなもの知らねーぞ!!」
動揺が隠せない。何か、シーナは俺の知らないこの力の真実を知っているというのか。
「魁斗、自分の力だというのに知らなかったのか」
「知らない……俺だってこの力が使えるようになったのは今年の4月なんだ」
それを聞いてシーナは一瞬驚いた。
「そう、か。魁斗の近くにはきっと……いい人がいたんだな」
「どういう意味だ?」
シーナは羨ましそうに、そして悲しそうにも見える表情を浮かべた。
「特殊能力っていうのはな、
特殊能力が生まれつき……そしてその力を誰かが封印した?
「きっと、魁斗に危ない目にあって欲しくなかったからだろう。それがどういうわけか復活してしまった。おそらく幽霊などと接触してしまったからだ」
俺は力を手にした……いや、使えるようになったあの時を思い出す。
果子義という霊媒師に俺は幽霊を取り憑けられた。その時だった。取り憑いていた幽霊が消えたのは。正確には、吸収していたのだった。
あの時に、俺はゴーストドレインを手にしたのだと勝手に思っていた。だけどそうではなかった。
俺は、生まれた時からあの力を持っていたんだ。
「シーナ」
確かに気になることはある。俺の力を封印したのは誰か。なんのために。だけど今、それは問題ではない。今やるべきことは1つだ。
「ゴーストドレインの中って言ったな。それはつまり、俺が今まで吸収してきた幽霊もその中に?」
「そうだ。いわば魁斗の中に別の世界があると言っても過言ではない。ゴーストドレインで吸収された幽霊はその中にいる。そこは幽界でもなければ霊界でもない。完全に別の世界とも言える。そこにいる幽霊がどうなるかは私にもわからない」
そう考えるとゾッとする。考えたこともなかった。まさか俺の中に今まで吸収してきた幽霊がいるだなんて。
「そこで魁斗が過去に吸収してきた幽霊を利用しようと思う。私のゴーストコントロールでその幽霊を操って魁斗に取り憑ける。そうすれば神隠しにあうかもしれないからだ」
「シーナには俺の中ってものを見れるのか?」
「できる……と思う。やったことはないけどな。ゴーストドレインの中といっても霊界や神域みたいに干渉が出来ないわけじゃないんだ。なんなら除霊師による除霊も可能だと思うぞ」
つまりゴーストドレインで吸収した幽霊は俺の中に入り、その幽霊をゴーストコントロールで操ることも可能。さらには除霊することもできるということか。
「ただ1つ問題があるとすれば、私のゴーストコントロールで操ることは出来るが、魁斗の中から出すことは出来ないんだ。つまり魁斗にしか取り憑けることが出来ないんだ」
「それがなんの問題なんだ?」
「いや、1度経験がある私が行くべきだと思ったんだがな。それは出来ないということだ。すまない」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるシーナ。
「いいんだ。元々俺は行くつもりだった。あいつは俺の手で助ける」
こうして方針は決まった。俺に幽霊を取り憑け、神隠しにあう。ただそれだけのことだ。
時間は過ぎていく。あとは、実行に移すだけだ。
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