第99話動物編・裏その5

 あれから数日後の7月21日。風香から連絡が入った。それは、結界を貼り終えた報告だった。


「よくやった! それでどうだ? 何か掴んだか?」


『さっそく掴んじゃってますよぉ〜……2匹、いますね。特に霊力の高い存在が』


 結界の範囲は狭まったため、広い範囲でサーチすることは出来ない。さらには細かな情報も期待できない。わかることは霊力の高い存在を把握することが出来るぐらいだ。


『今から画像送るんでそこに書いてある通りの場所に来てください。あ、それから出来るだけ普段とは違う格好でお願いしますね!』


「……ん? 普段とは違う格好……?」


 どういうことだそれは。一体その行為に何の意味があるというのだろうか。


『いーから言う通りにしてください! なーんにも成果を出せなかったんですから私の言う通りにしなきゃダメですよー!』


「う……」


 風香の言う通りだ。俺はこの数日間、独断で動物霊、怨霊を探していた。しかし見つかる幽霊はどれも大したことのない幽霊ばかり。

 そして結局目的の幽霊を見つけることは出来ずに今に至るというわけだ。


「わかったよ。どんな格好が望ましい?」


『そーですねぇ……出来るだけおじさんっぽい感じで!』


 おじさん、か。俺も、もうそんな歳だな……など考え始める。


「それっていつもの俺じゃないか?」


『あー確かに! ならもっとおじさんっぽい感じで!!』


「もっとおじさんってなんだよ……」


 とりあえず俺はクローゼットを開けて服を探し出す。


「あー……これとかじじくさそうだな」


 見つけたのは刑事ドラマなどで、刑事が着ていそうなベージュのロングコートだ。


『いいのありました?』


「ああ、なんとかな。それより風香はどうすんだ? 服装を指定するぐらいだからお前もなんかあるんだろ?」


『へぇ……私の服装が気になると……ふーん……』


「おいなんだその意味ありげな反応は。いいか? 俺は決してやましい気持ちがあって聞いているのではなくてだな……」


 と、その瞬間扉が開いた。


「何やってんだ?」


 タイミングが悪くまさかの息子、魁斗登場なのであった。


「な、何ってクローゼットを整理してるのさ!」


「いや、さっきから話し声が聞こえたからさ。とうとういかれちまったのかと思ってたけど……なんだ。電話してたのか」


 魁斗は俺が携帯を持っていることに気づいてそのまま去っていった。


『……』


「な、なんだ? もう魁斗は行ったぞ?」


『早くお話したいなぁ』


「いやいや……ってお前! 魁斗と接触してないのか!?」


 俺は風香に魁斗と接触するように頼んだはずだ。だというのに風香はまだ魁斗と接触をしていない?


『それはですねぇ……タイミングというものがですねぇ……』


「おいおいなんだそれは。いざとなったらびびって会えないってか?」


『う……で、でもですよ! ちゃんと課題は与えましたよ! 私が呼び寄せた浮遊霊を魁斗君の元へ送りましたからね!』


「そうなのか? それならいいんだけどな」


 魁斗と接触していないのは予想外だったが、課題を与えたなら問題はない。

 最初は浮遊霊か。魁斗ととしても簡単に解決できる問題だろう。


「よし、準備を終えたらすぐに向かう。現地で合流だ」


 俺は時刻を確認する。現在は午後12時前。これから向かう場所は来遊駅だ。

 この街の主要駅であり、近くにはショッピングモールや駅ビルなど充実した施設が整っている。土曜ということもあり人は多いだろう。その中に紛れている動物霊と思われる2匹を見つける。

 とうとう動き出す時が来た。俺は素早く着替えて家を出た。


「おーい! 父さん!!」


「ん?」


 すると、後ろから魁斗の声がする。


「明後日だよな? 姉ちゃんと……恵子が来るのって」


 俺の2人の娘、香と恵子が明後日うちにやってくる。それで魁斗はそわそわしているのだろう。


「ああ! そうだぞ! 心配するな! 姉ちゃんは可愛いままだし、恵子もいい子だからな!」


「……あ、ああ」


「心配するな! とにかく俺は行ってくる。今日も遅くなるかもしれないからよろしく頼むぞ!」


 俺は、少しだけ不安そうにしている魁斗から背を向けた。俺には守るべきものがある。そのためにはこの街から脅威を無くさなければならない。


「待ってろよ。すぐに除霊してやるからな」

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