第80話悪魔編その7

 翔列からの話で未だに信じ難いが、ある程度の知識を得た。それでも理解は追いついていない。

 とにかく今わかっていることは、銀髪の女が神魔会の連中に狙われているということだ。


「それから君の力については正直わからない。ただ僕もそういう特殊能力者に会ったことはあるけどね」


 そして俺の力については不明だ。知識のある翔列ならわかるかと思ったのだが……


「それで? 君はどうしたいんだ?」


 翔列は俺に問いかけた。どうしたいのか、答えは決まっている。


「……あいつを、助けたい」


「一応確認するけど、神魔会に狙われてる理由はわかってるの?」


「わからない。だけど、あいつは俺の知り合いなんだ」


 考えてみれば俺と彼女の関係性はたったそれだけだ。まだ出会って1週間ほどしか経っていない、そんな奴を俺は助けようとしているのだ。

 俺は、そうまでしてあいつを助けたいと思っている。


「人間じゃないかもしれないんだよ? それでも助けるのかい?」


 翔列の言葉に胸が詰まる。もし助けたとしても、あいつが実はとんでもない悪人だったらどうする? 人間じゃない可能性も高い。それでもいいのか?


「助ける。あいつは身を張って俺を助けたんだ。だから次は俺が助ける。それだけだ」


 悪人だったら、人間じゃなかったらどうするかって? そんなこと知るか。俺は正義の味方なんかじゃない。俺が助けたいから助けるだけだ。その相手が善人か悪人かどうかなど知ったこっちゃない。


「そうか。なら僕も君に協力しよう」


「いいのか? あんたが俺を助けるギリなんてないだろ?」


「僕も君と同じだ。知っちゃったからね。それに僕が協力したいからするだけさ」


 協力を提案した翔列は手を差し伸べてきた。握手、ということだろうか。


「じゃ、少しの間だけどよろしくね。魁斗君」


「ああ、頼む」


 俺は翔列の手をしっかりと握った。細く、本当に女の子みたいな手だ。


「さて、それじゃあ作戦を立てよう。僕達にとって厄介なのは霊能力者だ。彼は僕がなんとかする。彼を潰せば僕達のサーチは出来なくなる」


「潰すって……」


「え? ……ああ安心してくれよー。僕は無意味な殺生は好まないからね。それがいくら神魔会の外道だとしてもね。ちょっと痛めつけてやるだけさ」


 無意味なって……意味があれば人を殺すことに躊躇はないってことなのか。

 そんな俺の考えとは裏腹に、自慢げな表情で片手に持つ刀を構えた。これを使うのだろうか。


「そして君には単独で行動してもらう。目的地はない。適当に動き回っててくれればいいよ」


「は? そんなんでいいのか?」


「奴らの目的は魁斗君だ。魁斗君が1人で行動していれば奴らから接触してくるよ。その間に僕が霊能力者の方をなんとかする。幸い君には幽霊を吸収出来る力があるからね。霊媒師相手なら大丈夫だよ」


 霊媒師、つまり果子義だ。銀髪の女は果子義と共に消えてしまった。もしかしたらどちらかは既に倒されている可能性もある。


「あ、あとこれも渡しておくよ」


 翔列から灰色の球を1つ渡された。おそらくこれは先程使用していた煙玉だろう。確かにこれはありがたい。


「真令の居場所がわかるのか?」


「真令? あー霊能力者ね。あいつは結界を張ってるからね。すぐにわかるさ。それよりも僕から提案しておいてなんだけど、魁斗君、1人で大丈夫?」


 正直かなり不安だ。俺は自分の力というものを完全には理解出来ていない。そんな状態でまたあんな目に遭いたくはない。だけど。


「大丈夫だ。必ず見つけて助け出す」


 果子義とあいつは一緒にいる可能性が高い。別れていたとしてもどちらかと出会えればいい。

 果子義と出会えば果子義を倒す。銀髪の女と出会えば一緒に逃げる。

 運悪くどちらとも会えない可能性もある。それでも出会う可能性に賭ける。


「それじゃあもう一度確認しよう」


 俺と翔列は別行動をとり、翔列は真令を倒すことに専念する。そして俺は果子義か銀髪の女のどちらかに接触する。

 携帯は燃えてしまったため連絡手段は無い。それぞれ目的が果たされたら、この高層ビルに集合することになった。

 しかし全てが思い通りに動くとは限らない。例えば、銀髪の女がとんでもない悪人だと判明した場合。

 その場合翔列は、神魔会に協力することを検討するかもしれないらしい。

 俺自身はわからないとしか言えなかった。想像がつかないからだ。その時はその時考える。出来れば考えたくはないが。

 何はともあれ、これから取るべき行動は決まった。後は実行に移すだけだ。


「じゃあ何かあった時の合流地点は外湖神社にしようか。この辺りだと1番集合しやすそうだからね。それじゃあ、行こうか」


「ああ」


 待ってろよ、必ず助け出してみせる。俺は覚悟を決めて前に進んだ。

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