第69話怨霊編・裏その4
エリアBは激しい爆発音に包まれて爆発した。どう考えてもそこに居合わせれば助からない。なにせエリアごと爆発したのだ。どれだけ身を固めようと耐えきれずに木っ端微塵になるはずだ。
だというのに、なぜ私はこんなにも冷静に分析しているのだろう。
辺り一面にはまだ火や煙が上がっている。そこら中にエリアBだったものが散らばっている。
「あー……まさか爆発に巻き込まれるなんてね。初体験ね」
私は煙の中からゆっくりと姿を現わす。まるで強敵を倒すことが出来なかった! ……と思わせるような登場シーンだ。
流れで私は先程刺された腹部を見る。ちゃんと服に穴が空いている。だというのに今は体だけでなく、身につけている衣類なども無事だった。
「うーん。これはどういうことなんだろう」
状況で不死身としての能力に変化があるのだろうか? など考えていたら携帯が鳴っていることに気づく。
「はい」
『はい、じゃなくて! ちょっと姫蓮ちゃん!? 今の爆発なに!? っていうか無事なの!?』
心配に思ったのか風香さんは少しあたふたしている。私としても自分自身の冷静さに少し驚いている。
「私のいたエリアBが爆発したんですよ。絶賛そこから退出中です」
『ひゃー、それで無事なんてその力は本物なんだね! まさかとは思うけど、今姫蓮ちゃん服とか全部燃えてすっぽんぽんなんじゃ……!!』
「そうだったら私のナイスバディが晒されている所でしたね。ギリセーフです」
『チッ……面白くないなー』
「そんなことで面白がるのはあなただけでしょうね。それよりどうします? むしろそっちの方こそ大丈夫なんですか?」
『ええ? もしかして姫蓮ちゃん! 私のこと心配してくれてるの!?』
大丈夫そうだなー、私はそう思いつつ辺りを見回す。万邦の声はしない。おそらく先程のスピーカーもこのエリアBにあったのだろう。
「風香さん。私がそっちに行くとエリアCも爆破される可能性があります。ここは別行動するべきでは?」
万邦の狙いはあくまで私だ。おそらく私がエリアCに入った途端に爆破してくるだろう。私は平気でも、そうなれば風香さんが無事ではすまない。
『いや、姫蓮ちゃん。一回出直そう』
「え? それでいいんですか? 今なら追い詰められるかもしれないのに」
『爆発なんか起きたら目立ちすぎる。きっともう外にも伝わってるよ。そんな状況で私たちも下手に動けないし、それは万邦も同じだよ』
確かに今の爆発はかなり大きいものだった。外に野次馬などが集まるのも時間の問題かもしれない。
「わかりました。では先程の集合場所で」
そう言って通話を終え、再び辺りを見回した。私1人のためにここまでするなんて。そう考えてことの重大さを改めて感じた。
「さて、今から病院に行くよー」
8月6日。午前10時。私と風香さんはネットカフェで1日を過ごした。
昨日の夜。風香さんと再び合流して私たちはすぐに近くのネットカフェへと向かった。途中、消防車などが通るのが見えたので風香さんの予想は当たったようだった。
「さりげなく私のポテトを奪わないでください」
「へ? あはははー。お詫びに私のポテトあげるよー」
「なんですかこのチョコレート味ポテトって。いらないですよ」
私はあーん、としてくる風香さんを押し返す。
「えー、これ美味しいのになー」
しょぼんとしている風香さん。昨日の出来事があっても普通でいられるのは、今まで同じような経験をしてきたからなのだろうか。
「それで? なんで病院なんですか?」
風香さんが言った言葉を思い出した。なぜ病院なのだろう?
「昨日の作業員の人。私が救急車呼んだから病院に運ばれてるはずなんだ。だから詳しい話を聞こうと思ってね」
昨日の作業員。つまり最初に私たちを襲った人だ。彼は怨霊に取り憑かれていた。つまり怨霊α、万邦に出会っている可能性があるということになる。
「よーし、じゃあ早速行こうか!」
「ええ……あとさりげなく私のオレンジジュース飲まないでもらっていいですかね?」
ネットカフェを出てから数分、作業員が運ばれたであろう病院へとたどり着いた。
どういう理由をつけて面会するもりなんだろう? と思っていたが、風香さんは何か身分証のようなものを受付の方に見せた。するとあっさりと通してもらった。
「これはまあ身分証だよ。免許とか保険証とは別でね。いわゆる自分の職業を証明するものってわけだね」
身分証を見せてもらうと、確かにそこには『除霊師(仮)』と書いてあった。見習いかどうかもこれですぐにわかるということだろう。
そして私たちは病室に着いた。風香さんがノックするとどうぞ、と声がしたので中に入った。
「こんにちは。私は除霊師の安堂風香と申します。こっちは助手の富士見姫蓮です」
じょ、助手?? いつのまにそんなことに?
「ここは合わせて」
私が睨むと風香さんが小声で伝えてきた。そういうのはあらかじめ打ち合わせておくものじゃないのだろうか……
「ああ……ってことはあんたが俺を助けてくれたのか」
「まあそんなところです。それで1つお尋ねしたいことがあるのですがよろしいですか?」
作業員の男性は自分が取り憑かれていたという自覚があったのだろう。だから除霊師と聞いてすぐにハッとしていた。
「あなたに怨霊を取り憑けた人物のこと。わかる範囲でいいので教えてくれませんか? 出来れば場所とその時の状況も」
作業員の男性は必死に思い出そうと目を閉じた。
「場所は工場だ……時間は昨日の……夜8時ぐらいだったかな……もう1人の作業員に呼ばれて管理室に向かったんだ。そこで……話をしてた時に……この辺りから曖昧だ」
「ありがとうございます」
その話を聞き、私と風香さんは同じことを考えていただろう。
「そのもう1人の作業員の方……その人が犯人の可能性があります」
風香さんの発言に作業員の男性は驚愕した。
「そ、そんなはずあるか! 万邦君はそんなことするような奴じゃない!」
「っ……! 今、万邦って言いましたね? 万邦はあの工場の作業員だったんですか?」
「そうだ……ちょうど3ヶ月前ぐらいだよ。万邦君が雇ってほしいって言ってきたのは」
まさか。万邦はあそこの作業員だったなんて。私の予想は外れていたみたいだ。
「万邦君には病気の妹さんがいるんだ。そのためにお金が必要だって言ってた……毎日必死に働いてたよ……そんな彼がなんだって俺に怨霊を取り憑けるなんてことするんだ? するはずないだろう」
「まだ確定ではないです。あくまでその可能性があるというだけです。だからそのためにも万邦の情報が知りたいんです。教えてもらってもいいですか?」
作業員の男性は黙り込んでしまった。未だに信じられないといった表情だった。あの男がそこまで良く思われているなんて。
しかし現に私を襲ったのは紛れも無い事実で、万邦がやったことだ。
「……わかった。万邦君の為にも情報を開示するよ。ちょっと待ってくれ」
そういうと男性はカバンの中から何かを取り出した。
「これは社員証だ。これを工場の管理室にあるパソコンにかざしてくれ。そしたら社員一覧が表示される。パスワードは*******だ。そのあとに「B・M」と入力してくれ。そしたら万邦君の情報が得られる」
「ご協力ありがとうございます」
社員証を受け取ると礼を言って病室を出た。
「風香さん」
「これで万邦の情報は得られるね」
風香さんは喜んでいるが、私にはまだ不安が残っていた。
「その……工場に記録されている情報なんてあてになるんですかね? ごく普通のことしか記録されていないかもしれないですよ?」
それで怨霊の情報なんて得られるのだろうか? そもそもこうしている間にも万邦は何を企んでいるのかもわからないというのに。
「どのみちあの工場にはまた行く予定だったからさ。ついでだよ」
「ついでですか……」
「……? あー姫蓮ちゃんは心配なんだね。大丈夫大丈夫。奴らの狙いは姫蓮ちゃんだから。こっちから追わなくても勝手に現れるよ。ただ昨日みたいに分断されると厄介だね」
そういえば昨日は突然上から巨大なドラム缶が降ってきて私と風香さんは分断された。まるで2人を離れさせるためのように。
「いい? 除霊師ってのはね。別に対象に触れる必要はないんだ。昨日の私の行動、思い出してみて?」
言われて思い出してみる。怨霊に取り憑かれた作業員が現れ、風香さんは腕を前に出して呪文を唱えた。その後作業員は動きを止めて倒れた。
「……確かに触れてはいませんね」
「そ。でもある程度は近づかないとダメなんだけどね」
「なら腕が塞がれたら除霊することは出来ないんですか?」
そうでなければ腕を前に出す必要はないはずだ。
「そんなことはない。別に除霊のために腕を使ってるわけじゃないからね」
「え? それじゃああれは何のために?」
「姫蓮ちゃんは走る時に腕を振らないで走ることってできる?」
言われて想像してみた。腕を振らずに走る……出来ないことはないだろうけど、やりづらそうだと感じた。それを風香さんに伝えてみた。
「要はそういうこと。出来ないわけじゃないけど、その方がやりやすいってことだね」
なるほど。それはわかりやすい。
「でまあ話が逸れたけど、除霊の条件として、対象を捕捉していること。なおかつある程度近くにいること。これが条件なんだけど、昨日みたいになると祓えないんだよね」
つまり除霊師である風香さんが近くにいる限り、怨霊は近づけないとも言える。
「それじゃあおびき出すもなにもないじゃないですか」
「そこはちゃんと考えてるよ。それはその時! とりあえずは万邦の情報を得ること! その後のことはちゃんと考えてるから安心してね」
そう言って風香さんは歩き出した。なんだか不安になってきた。
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