第32話ポルターガイスト編その10
ポルターガイスト編その10
あれから大分片付けに時間がかかった。理由は明確だった。机に椅子、下駄箱に上履きだ。ガラスに関してはどうしようもない。明日学校に行って訳を説明するしかない。
「……」
帰り道。俺は姉ちゃんと共に家に向かっていた。ポルターガイスト現象を引き起こす騒霊。数が尋常じゃないことになっていたが、姉ちゃんに取り憑いていた騒霊を吸収したと同時に全ての騒霊は去っていった。
これでひとまずは解決……で良いのだろうか?やはりまだ何かある気がする。
人に取り憑くはずがない騒霊が姉ちゃんに取り憑いていたこと。明らかに異常な数。人を襲わないはずの騒霊が俺を襲った理由。そして宿泊施設の破壊。まだまだ謎は残っている。
「ねえ魁斗? どうかしたの?」
姉ちゃんが俺の顔を覗き込む。
「あ、ああ。ちょっと考え事を」
「ポルターガイストのこと?」
その通りだ。純粋に疑問が残りすぎている。
「そういえばさ、あの宿泊施設のこと。あれ、ポルターガイスト現象なんだとしたら、私がやったことになるんだよね……」
「いや、違うと思う……ポルターガイスト現象であそこまでのことは出来ないはずなんだ」
1番の疑問はそれだ。騒霊にあんな大規模な破壊力はない。だとすれば一体何が?
「そうなの? うーん。確かにうちの近くではあんまりポルターガイスト現象はなかったからね。やっぱり別の事件なのかな?」
「どういうことだ? ポルターガイスト現象はこの辺で起きてたんじゃないのか?」
「うんそうだよ。この辺というのはこの街のことだね。でもどういうわけかうちの近くでは全然なかったんだよ。まあ、取り憑かれてたのが私だったからなんだろうけど」
いや、そうとも限らない。取り憑かれていたからといって、奏軸家の近くでポルターガイスト現象を引き起こしてはいけない理由はないはずだ。
「やっぱり反対派の人たちなのかな?」
「それはないだろ。だってあれは人間業じゃない」
「そうだけど……」
結局原因は不明のまま解決には至らない。腑に落ちない状態で俺達は家にたどり着いた。
「あれ? 恵子?」
姉ちゃんが俺たちが通った方向とは別の方を向いて言った。暗がりの一本道から恵子が歩いてくる。
「え? ね、姉ちゃん!! どこ行ってたの!」
恵子はこちらに気づいて走って来た。そのまま姉ちゃんに抱きついた。
「ごめんね、恵子。私、取り憑かれていたみたいなの」
「やっぱり……! それで、もう大丈夫なの?」
「うん。魁斗が助けてくれたよー」
そう言われると照れる。穏やかに笑う姉を見て、恵子は微笑んだ。そのまま流れでこちらに目を向けた。
「あ、ありがと。一応礼は言っとく」
全く。素直じゃないな。
「それにしても恵子ー。なんで裸足なのー」
姉ちゃんがキョトンとした表情をしながら言った。言われてみれば恵子はなぜか裸足だった。その状態で走ったのか、足は泥だらけになっていた。
「え? あれ? ほんとだ。姉ちゃんがいないから急いで家飛び出したからだーきっと」
恵子は変に笑う。
「そういう姉ちゃんも裸足じゃん」
「私は窓から飛び降りたらしいから」
姉ちゃんは信じられないよー、と言いたげな表情を浮かべている。
「……」
俺達は家に入った。家に入る前、遠くで砂埃が舞っているように見えた。
翌日、俺と姉ちゃんは鹿馬中学へと向かった。監視カメラもあるから適当なことを言うより、正直なことを言った方がいいと姉ちゃんは提案した。
学校側は意外にもすんなりと受け入れてくれた。ポルターガイスト現象のことは噂にも聞いていて、理解していたからだろう。
午前中は掃除に全ての時間を費やした。午後の予定だが、姉ちゃんはサークル活動。俺と富士見は一応念のために調査をした。だが特にめぼしい結果は得られなかった。
「結局、私が知らない間に事件は解決してたってわけね」
富士見は不満そうだ。冷たい目つきで睨んでくる。
「仕方ないだろ」
ちなみに恵子だが、今日は学校に行っている。明日で学校は終わり、夏休みに入るらしい。鹿馬中学は災難だったろう。まるで空き巣に入られてしまったかのようになってしまったのだから。
「あれ? お姉様じゃない?」
「当たり前のようにお姉様っていうなよ」
富士見の言う通り、前から姉ちゃんが少しだけ俯きながら歩いてくる。なんだか浮かない表情を浮かべている。何かあったのだろうか?
「よっ姉ちゃん。サークル活動はもう終わりなのか?」
「それがね。今日は自宅待機になったの」
「自宅待機? なんだってそんな?」
姉ちゃんは一瞬戸惑ったのか言葉を詰まらせる。
「実はさ、今日から本格的に工事が始まる予定だったんだ」
「予定……?」
「うん。工事現場に向かうには一本の道しか通らないんだけど、その……そこの道路が
「なっ……!」
道路が破壊? なぜだ? そもそもなぜそんな異常事態が起こった?
「ねえ、私じゃ、ないよね?」
「ありえない! 昨日姉ちゃんに取り憑いていた騒霊は吸収した!」
俺は姉ちゃんの白く細い手を握った。しっかりと握り、彼女の中を確かめた。
「……取り憑いてない。だから姉ちゃんじゃない!」
姉ちゃんにはもう騒霊は取り憑いていない。
「どういうことなの? ポルターガイスト現象は解決したんでしょ?」
富士見が俺に確認する。間違いない。ポルターガイスト現象は解決した。つまり。
「
「別って……どういうことよそれ」
それ以外考えられない。騒霊とは違う別の何かが動いているとしか。
「でも、一体なんなんだ……?」
俺は考える。昨日まで引っかかっていたこと。それがあと少しで繋がりそうなのだ。なんだ。あとは何が足りない?
「やっぱり、どうしても新競技場を建設して欲しくないのかな?」
ふと姉ちゃんが言った。
「姉ちゃん?」
「だっとそうでしょ。宿泊施設も、今回の道路も。それに私今日聞いたんだけど、こういった破壊事件毎日起きてるらしいんだ……」
聞き間違いじゃないだろうか? まさかあんな出来事が毎日起きているというのか?
「それでね、その破壊事件の影響を受けてるのは全部新競技場関連なんだって」
つまり新競技場設立を邪魔するために、関連している事象を破壊しているというのか。
「やっぱりさ」
どうしても新競技場ができては困る。そこまでする理由はなんだ?
「新競技場が完成すると困る人がいるってことなのかな……?」
「そんなことあるんですかね? 新競技場ができて困ることとかあるんでしょうか?」
「あるんだよ。やっぱり反対派の多くはここの土地を大事にしている人たちだからね。土地が、自然が壊されるのをよく思わない人がいるんだよ」
「土地……」
その言葉を聞いた途端、頭の中で何かが引っ掛かった。土地を守るために行動しているのだとすれば……この一連の事件の真相。そして浮かび上がる存在。
もしかして、そういうことなのか。
「は、ははは」
繋がった。つまりあれだ。俺達は犯人に完璧に踊らされていたのだ。
「怪奇谷君? 何笑ってるの?」
胸に溜まっていた疑問が一気に解決した。だが全ての謎が解けたわけではない。まだ確認することがある。
「富士見。智奈に連絡できるか? 調べて欲しいことがあるんだ」
「え? いいけど……何かわかったの?」
「確証はない。ただ、可能性はある」
今夜、一連の事件を引き起こした犯人の全てが判明する。だが出来れば、俺の思い違いであってほしいと祈っている自分もいた。
時刻は夜12時。俺は今夜も奏軸家の世話になることになった。
残念ながら富士見には帰ってもらった。俺から頼んだのだ。今回の事件は俺1人で解決したかった。
昨日と同じく虫たちの鳴き声が聞こえる。そんな音に包まれ、俺は眠りについた。
真夜中、影は動いた。影はゆっくりと、進む。行き先はどこだろうか? 台所だ。
喉が乾いて飲み物でも探しているのかもしれない。でも、そうでないかもしれない。
影は台所で探し物を見つけたらしい。見つけたモノを手に取ると、影はゆっくりと寝室に戻ろうとする。
「こんな時間にどうしたんだよ」
それを、俺の声で防ぐ。
「てっきり飲み物でも飲むのかと思ってたよ」
影は動かない。俺は続ける。
「夏だしな。喉乾くよな」
影は、それでも動かない。
「探し物、見つかったみたいだな。よかったな」
俺は言葉を紡ぐ。
「じゃああとは寝るだけだよな。そう、寝るだけだよな。寝るだけだ……」
俺は何度も繰り返した。そして最後に。
「
影はまだ動かない。その手には凶器があった。
「全く。おまえには騙されたよ。騒霊は囮だったんだろ? 自分の計画を実行するための。……そうだろ?」
寝室には姉ちゃんが寝ている。そもそも昨日気づいていればよかったのだ。窓から飛び降りたのは姉ちゃんだけじゃなかった。もう1人いたのだ。
残された寝室で寝ていたのは富士見だけだった。だとすれば、もう1人は何をしていた?
「
恵子に取り憑いた幽霊の名を俺は呼ぶ。影は、ゆっくりとこちらを見た。
『バレちまったら仕方ねぇな。初めましてだな、兄貴』
恵子は、地縛霊は不敵な笑みを浮かべてそう言った。
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