第28話ポルターガイスト編その6
ポルターガイスト編その6
そこは立ち入り禁止区域とされていた。宿泊施設があったその場所はバラバラに破壊されていた。とても人間業ではない。可能とするものは台風、地震といった自然現象しかありえないだろう。
あるいは、別の超常現象が起きない限りは。
「なんだよこれ……姉ちゃん、ここだけか?」
俺は姉ちゃんに確認する。本当にここだけなのか?
「……うん。まだ確認されているのはここだけみたい」
姉ちゃんの話によるとおととい、ここの宿泊施設を利用していた宿泊客が戻ってきた時にはすでに破壊されていたらしい。
幸い、小さな宿であったことから宿泊客は少なく、怪我人などはいなかったらしい。
「つまり、全員が外に出ている間にここは壊されたと?」
「そうみたいだよ」
「管理人の人は? ずっと中にいたんじゃないのか?」
「ここは管理人さんはいないの。この辺りの宿泊施設は全部一箇所の宿泊施設がまとめてるの。ここはその1つだから要は貸切状態なんだよね」
なるほど。つまりは手続きを済ませてしまえば後は勝手に使ってどうぞ、ということか。
「ここに泊まっていた人は全員出かけていたのか。でもそんな都合のいいことあるか?」
「それは当たり前だよ。ここに泊まっていた人は全員連盟の方たちなんだもん」
「連盟って、さっき姉ちゃんたちと一緒にいた?」
つまりここには全員新競技場建設に携わる関係者が集まっていたということになる。
「うん……だからやっぱり変な噂も立つんだよね。反対派の人たちの仕業じゃないかって…」
普通に考えればそういう考えになる。とはいえこれほどの規模の破壊工作は人間技とは思えない。
そうなれば必然的に超常現象を引き起こした何かを想定する。だが、仮にこれが騒霊の仕業だとしても。
「こんな現象、見たことない……」
ポルターガイスト現象とはあくまで何もないのに音がしたり、モノが勝手に動いたりする現象だ。こんな1つの施設を破壊するほどの力はないはずだ。
「魁斗?」
そもそも本当に今回の現象はポルターガイストなのか……?
「魁斗ー!」
「え、あーなんだ姉ちゃん?」
呼ばれていたらしい。姉ちゃんがむすっとして俺を睨む。
「なんだーじゃないよー。さっきからお姉ちゃんずっと呼んでるのにー」
「あーごめんごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」
「むう……」
怒ってる姉ちゃんも可愛いな。あ、いやいや今のは訂正しておいた方が良さそうだな。
「それより姉ちゃん家近いんだろ? 早くよってこうぜ。昼間に合わなくなるぞ」
「あ、そうだねー。急がないと恵子に怒られちゃうー」
こうして俺たちはこの場所を去った。無残にも破壊された宿泊施設。これがなんの意味をなすのか。よく考える必要がありそうだ。
俺と姉ちゃんは奏軸家へとたどり着いた。先ほどの宿泊施設から5分ほどの距離の位置に奏軸家は建てられていた。
一軒家で隣にはマンションが建っている。裏手には大きな森があった。この森の一部も伐採されるとのことらしい。
「さあ、魁斗も上がって」
姉ちゃんに催促され、俺も家へと上がらせてもらう。家の中は俺たちの家とはほど遠いものだった。
考えてみれば当たり前のことだ。俺の家には男しか住んでいなくて、こちらには女しか住んでいないのだから。
「ココアでいい? あ、それともGエナジーあるけど飲む?」
俺は即答した。まさか俺の好みを覚えているとは思っていなかった。
あたりを見渡すと女性物の雑誌や、洗濯物などが置いてあった。洗濯物からはすぐに目をそらした。見てはいけないような物が見えそうになっていたからだ。
そのままあたりを見渡すとふと、あるものが目に入った。写真だ。そこには子供が3人写っている。女の子が2人、そして男の子が1人。ああ、俺たちだ。長髪の女の子が姉ちゃんだ。そしてそのすぐ隣にいる生意気そうな顔をしているのが俺だ。そしてその俺が抱きついているのが恵子だ。
「へぇ、アンタ。妹ちゃんに抱きついてるじゃん」
「う、うるせぇ。……でも俺、こんな写真撮った覚えないな」
この3人。すごく幸せそうだ。だというのに、俺はこんなことすら忘れてしまったというのか。
「その写真ね。恵子のお気に入りなんだよー」
姉ちゃんが飲み物を持ってきた。ヘッドホンの声は聞こえてないだろうか? そんな心配をしつつも姉ちゃんは話した。
「3人で写ってる写真それしかないんだ。だから恵子はこれは大切なものだって」
「そうなのか。恵子がそんなこと言うようなキャラには見えないけどな」
「ねえ魁斗」
姉ちゃんは再び真剣な表情をして言う。
「恵子のこと、なんにも覚えてないの?」
「それは……」
そんなことはない。全く覚えていないなんてことはないし、ちゃんと記憶にはある。生まれた時のこと。初めてできた妹を抱っこしたこと。遊んだことも。ちゃんと覚えている。だけど……
「覚えては、いるんだよ。だけど、あまりにも遠い記憶すぎてはっきりと覚えてないんだ。なんていうか……ほんとに夢みたいな記憶なんだ」
そう。ぼんやりとしか覚えていない。まるで夢のように。
「そう……でも恵子はね……ちゃんと覚えているんだよ? 魁斗のこと」
「そんな……俺が覚えてないのに……」
俺がこんなに忘れてしまっているというのに、恵子は俺の何を覚えているというんだ。
「魁斗。お父さんとお母さんが別れて、私たちが別々に暮らすことになった時、約束したことがあるよね? 覚えてる?」
「え? 約束……?」
なんだそれは。思い出せない。なんのことだ……
「……そう。……さあもうそろそろ戻ろうよー。恵子に怒られちゃうよー」
姉ちゃんはそう言って立ち上がった。なんだかその目はとても悲しそうに見えた。
約束。俺は必死に思い出そうとしたが、どうしても思い出せなかった。
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