第17話神隠し編その5

神隠し編その5

 7月11日。俺は初めてズル休みをした。理由は簡単だ。遊園地に来ているからだ。

 これだけだとただ遊びに来ていると思われるかもしれないがちゃんとれっきとした理由があるのだ。

 神隠しにあったという冬峰の弟を探す。それが目的だ。なのだが……


「私あとでここ行きたいんだけど」


「どれどれ……怪獣コースターほう。なかなか面白そうですね! 私はここ行きたいです! コーヒーカップ!」


「怪獣コースターの待ち時間は約30分ほどですね……もう行って並びましょうか……?」


 うん。やっぱり忘れてないかね。


「あのあの皆さん。目的忘れてないか?」


 俺は純粋に楽しもうとしている彼女らに声をかける。ちなみに富士見と智奈は私服での参戦(俺も)智奈は昨日変なことを言われたせいか、地味な格好だった。そして冬峰はなぜか制服だった。


「怪奇谷君。これも調査よ。どのアトラクションで神隠しにあったかはハッキリしてないんだから。全部周る必要があるのよ」


「そうかい。ならいいんだけどな」


 お化け屋敷の辺りと冬峰は言っていたな。その周辺は特に集中して確認しないと。


「それじゃあみんな! 行くわよ!」


 おー! っと声が上がる。正確には冬峰だけだが。



「おいおい。なんだこれは、大丈夫なんだろうな? アンタ、アタシを手放すなよ?」


 と言うわけで怪獣コースターとやらに乗っている俺たち一行。なんだか1番楽しみにしていた方がとてもうるさい気がする。


「まあ、黙ってれば一瞬でおわ……」


 ジェットコースター最初の難関である頂上からの落下。勢いよく下へと落ちてゆく。


「ちょっ! こ、これはっ! う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 首元がうるせぇ! でもそれ以上にジェットコースターの勢いがとんでもない。


「ま、待て!! と、止めて! 止めテェェェェェ!!!!」


 アトラクション内に絶叫が響いた。



「楽しかったです! なんかすごい騒いでる人いた気がします!」


 とりあえず俺たちは昼食を取ることにした。あれからヘッドホンから生気を感じない。


「で、どうなの?」


 富士見が俺に質問する。


「どうって……」


「なにかわかったのかってことよ?」


「いや、なにも」


 シーンとした。なんだよ。


「ダメね。この先が思いやられるわね」


「待て。ジェットコースターに乗ったぐらいでわかるわけないだろ? それに俺が出来るのは幽霊を吸収することが出来るぐらいなんだ。はっきり言って神隠しなんてさっぱりわからないんだ」


 言ってからしまったと思った。冬峰が申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい。無理言ってしまって」


「あ、いや……だからこそだ。俺だけの力を頼っても困る。みんな何か気づいたことがあったら言ってくれ」


 とにかく、まずは情報が欲しい。解決方法はそこからでも大丈夫だ。


 結局、その後も全部周ってみたが特になにも感じることはなかった。

 ただ純粋に楽しんだだけだった。冬峰たちが楽しそうにしていたのは当然いい事だ。だがこのままなんの収穫も得られないと言うのは腑に落ちない。


「ここが最後だな」


 お化け屋敷。冬峰の記憶ではこの辺りで弟は消えたという。1番可能性は高い場所とも言える。


「怖いか?」


 不安そうな表情の冬峰に声をかける。


「ちょちょっとだけ……」


 俺たちは中へと進んだ。受付を進み、待機室で待たされた。このお化け屋敷はチームで進んで出口を目指すというものだ。俺たちは全員一緒に行動することになった。


「よし、行きましょう」


「……」


「姫蓮先輩。頼りになりますね……」


「さすが怖いものなしか」


 真っ暗の道を歩いていく。灯りは無い。あるのは富士見が持つ懐中電灯のみだ。少し肌寒い。冷房が効いているのもあるかもしれないが、この雰囲気も寒さを感じさせているのかもしれない。

 先に進む。進むたびに足音が響く。他にはなにも聞こえず。ただただ足音が響くだけだ。

 すると突然、ガチャッと。なにか音がした。


「きゃあ!!」


 今のは冬峰だろう。驚いたのか俺の腕にしがみついてきた。


「……っ! え、あっ……うわぁ!!」


 なぜか冬峰は再び驚き俺から離れる。


「おいおい。俺だよ」


「え、あ……そ、そうですよね…」


 どこかしょんぼりすると冬峰は前に進み、富士見の腕にしがみついた。


「……」


「ふっ。フラれたなアンタ」


 そんなにビクビクしなくてもいいじゃないか。とか考えていると。


「え?」


 なにか俺の手に感触が。手だ。手の感触がある。


「……」


「あ、あの。智奈?」


 智奈だった。智奈が手を握ってきたのだ。ああもう。あざとすぎるけど可愛い。


「アンタ、あとで覚えとけよ」



 結局、ここでもなんの収穫も無かった。あるとすれば、冬峰にビビられたのと、智奈による手繋ぎという嬉しいことぐらいだった。


「もうこれで全部よね。なにもわからないんでしょ?」


「すまん。俺からわかることは今のところ何もない」


 専門外とはいえ、俺を頼ってくれたというのに何もしてあげられないというのはさすがにショックだった。


「大丈夫ですよ。もう慣れちゃってるのかもしれないですね……ずっと探してますけど、もう見つからないって心のどこかで思ってるのかもしれません」


 そんなこと……冬峰はずっと弟を探しているのか。


「ねえ、冬峰さん。あなた、いつから弟さんを探しているの?」


 富士見が唐突に質問する。確かにそれはまだ聞いていなかった。


「え? えっと……いつだろう。もう思い出せないな……ほんとにずっと探していたから」


「ご両親は、どうしているの?」


「あ、えっと……」


 なんだか、答えずらそうだった。


「富士見、その辺にしとけよ。家庭事情に深入りするもんじゃない。それは富士見が1番わかってるだろ?」


「……そうね」


 でも確かにそれは気になることだった。両親はどうしているのか。

 おそらくだが、弟は数年前に行方不明になった。両親も被害届を出したが結局見つからなかった。だけど冬峰だけは未だに探し続けているのではないだろうか。


「みなさんありがとうございました! 私のお願いを聞いてくれて。また明日お礼をします!」


 冬峰が諦めたのか、帰ろうとする。


「まだだ。もう少し調べてみよう」


「魁斗お兄さん。今日はもう大丈夫です。きっと見つからない。今日も……」


 冬峰はまるでなんどもこの結果を味わったかのように、決まったことのように言った。


「怪奇谷君。闇雲に調べても仕方ないわ。今日は一旦解散しましょう」


 富士見の言う通りだ。時刻も午後6時であと1時間で何ができるというんだ。


「そうだな。ごめんな、冬峰」


「謝らないでください! 私ももうなんとなくわかっているんです。もう見つからないかもしれないって」


 その言葉が心に響く。一体どれぐらいの期間、手がかりも無しで探し続けたというのか。


「それに久々に遊園地にこれて遊べて楽しかったです!」


「そうだな。気分転換にはなったんじゃないか?」


 冬峰は笑って言った。


「はい! 前に来た時に比べてアトラクションがだいぶ変わっててびっくりしましたけど、すごく楽しかったですよ!」



 俺たちはそうして帰宅した。バスで最寄りの駅まで向かい、そこから各自自宅へと向かった。冬峰は途中まで俺と同じだった。


「魁斗お兄さん! 改めて今日はありがとうございました! また明日も部室行きますね!」


 そう言って冬峰は俺とは別方向へと向かって歩いて行った。


「なあ、あの子は学校行かないのかな?」


 ヘッドホンがふとそんなことを言った。言われてみれば冬峰は中学生だ。大丈夫なのだろうか?


「あー、おい冬峰! お前学校は……」


 少し離れてしまったが俺は振り返って声をかける。冬峰の姿は無かった。歩くのが早いのかすぐに曲がってしまったんだろう。


「まあいっか。明日聞いてみるか。それよりお前。今日めちゃくちゃビビってたよな?」


「なっ……! バカジャネーノ! あれはその、あれだ! アンタらの気分を盛り上げようとだな!」


 ヘッドホンの言い訳を聴きながら俺は考えた。どうすれば冬峰を、弟を見つけて彼女を助けることができるのか。

 その夜、必死に考えたが何も思い浮かばなかった。

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