第15話神隠し編その3

神隠し編その3

 ここは将棋部の部室。しかし同時に『幽霊相談所』としても機能していた。つい昨日決まったことなのだが。


「誰も来ないわね」


 1人ポツンと富士見は呟く。


「そりゃそうだろ。そんなにたくさん幽霊関係の相談が来ると思うか?」


 相談を受けていたとは言ったが、そんなに頻繁にではない。ない時は全くない。そういうものなのだ。


「大体さ、ここのこと知ってる人いんのかよ」


「それなら問題ないわ。ネットで広めてもらったから」


 おいおい。大丈夫なのか。


「広めたって、誰に頼んだんだよ」


「え? 智奈に」


「……」


 まじですか。


「へぇ、智奈ってコンピュータとかインターネット得意なのか?」


「それなりには……」


 そうか。これはいい協力者を得たかもしれない。


「それにしてもまさか現段階で0人とは……私に問題があったのかしら……」


 無意味に落ち込む富士見。いや、これでいいのだ。相談など無い方がいいに決まってる。

 そう思っていた矢先、勢いよく扉が開かれる。


「こんにちは!! 『幽霊相談所』とはこちらで合ってますかー!!」


 俺たちは全員その声の主に視線を向ける。肩までかかった黒髪、背は低い……小学生ぐらいだろうか? しかしどこかの学校の制服を着ていた。高校生……はさすがに無いと思うので、となると中学生ぐらいか? 猫のアクセサリーを頭につけている謎の少女が現れた。


「はっ……!! ごめんなさい! ノックもせずにいきなりドアを……! も、もう一度やり直すから! ね? ね? ね⁉︎」


 そう言うと少女はドアを閉め、ノックをした。


「失礼いたします。こちら、『幽霊相談所』で合っているでございましょうか?」


 丁寧にドアが開かれ、少女は口にする。なんともぎこちないというか違和感のあるセリフだ。


「あ、ああ。つい昨日からそうなった……らしいぜ。君はもしかして相談者か?」


「……!! は、はい! 私の弟を探してくれませんか?」


 少女は嬉しそうに俺を見つめる。話を聞いてもらって嬉しかったのだろうか?


「弟?? 探すって……迷子かなんかなのか? だとしたら俺たちじゃなく警察にでも……」


 俺の言葉を遮り少女は言った。


「違うんですー!! 私の弟、にあったんです!」


 場が凍った。神隠し? いや、まさか。そんなことあるのか?


「ま、待て! なんだ神隠しだと? そんなことあるわけ……!」


「あったからお兄さんに頼んでるんです。お願いします」


「怪奇谷君。とりあえずこの子の話を聞いてみましょう?」


 思考が追いつかない。昨日まで神隠しがどうこうとか話をしていて言うのもなんなのだが、ありえない。そんなことあるとは到底思えない。まさかここに来て本当にそんなセリフを聞くことになるとは思ってもいなかった。

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