第24話 隼人さんの知らない表情(晴日視点)
今日は久しぶりの休日で、実家に帰ってきた。
結局ドラゴンにしたプレゼンは仕事として正式に動き出すことになり、会社からご褒美として土日を含む三連休を頂いた。正直働きすぎて熱を出すときはやりすぎなので丁度良かった。
ゴロゴロしていたら一階から義姉の楓ちゃんに声をかけられた。
「晴日ー、ごめん、
「大丈夫だよー」
「現場が遠いのー、夜まで怪しい」
「了解~~」
私の実家は工務店をしていて、楓ちゃんには二人の子供がいる。
私と3つしか変わらないのに二人の子持ち……私は隼人さんにキスされたら発熱する女……この差はなんだ。
でもなんというか、この前から隼人さんが甘くて優しくて、すっごく大切にされてるのを感じる。
毎朝ご飯食べ終わると軽くキスしてくれて、抱きしめてくれるの……晴日さんはもう暴れ出したいほど幸せです!!
いやっほぉぉぉぉ!!! ただのストーカーだったのにこんなに愛されて良いんですか? 良いんですかああ?!
「……晴日さ、前からアホだったけど、最近頭おかしくない? 突然床に丸まったり飛び跳ねたりグルグルしたり、変だよ? 頭大丈夫?」
気が付くと小学生の渉が私の横に立って冷静に見降ろしていた。
仕方ないので体制を戻して髪の毛を整える。
「渉くん? 五年生にもなるとお姉さんをそんな真顔でバカに出来るのかい。今日はお姉さんが君たちと遊ぶからあ~? しゃぶしゃぶ予約してあげようと思ったのに~~残念ですね~~」
「わかーった、わかーった!! はいはいごめんなさい、超謝る、ごめんちゃい~」
楓ちゃんの上の息子、渉は今11歳の五年生で今が生意気真っ盛り。
とても可愛い。
楓ちゃんが20才の時に産んだ子で私はその時17才だった。
衝撃だったなー……3才上の義姉が子供を産むなんて。
自分自身が「そろそろ私も大人だから自分の進路考えないと」なんて思ってたら、義姉が子ども産むんだもん、え~~~? だった。
そして自分がどれほど子供か思い知らされた。
そんな決断、絶対出来ない。
でも旦那である浩之さんはお父さんの所で真面目に働く大工さんで、なんだかんだ二人は幸せに結婚した。
楓ちゃんは子育てしながら建築士の資格も取って、今もバリバリ働いている。
我が家は大家族なので、誰かが誰かを助けるのは日常だ。
施主さんが働いている人が基本なので、細かい打ち合わせは休日が多い。
だからなるべく家にいたいんだけど、なにしろすいません恋と仕事が忙しくて!
6才の和真がトコトコ寄ってきて私に言う。
「和真、ローラー公園行きたい」
「お、いいね。じゃあコンビニで適当に買い放題して行こ~~~」
「やったー、晴日ちゃん何でも買ってくれるから好きー!」
「からあげ棒とおにぎりと菓子パン買おう~~!」
「和真はウインナーソーセージも食べたい!」
「好きにしたまえ。あ、この前コンビニ限定コンソメ三倍のポテチ売ってたよ!」
「食べたい!!」
楓ちゃんとか、普段面倒を見てくれている祐子さんとかは、出かける時にいつもお弁当を作る。
バランスよく美しくちゃんと。バランスはとても大切だし、それを守らせるのは大変だということも見ていて知っている。
いいとこ取りで悪いけど、私は所詮義妹だ。弁当持たされてない限り、適当にさせてもらう。
それに私が作ることに時間をかけるより、コンビニで好きなもの買って早く遊びにいったほうが良いに決まっているのだ。
餅は餅屋。
私は一緒に楽しむことには自信がある。
ローラー公園は車で行く少し遠くにある公園だが、ローラーコースターが山の斜面に10個くらいあって、正直楽しい。
問題はローラーコースターに乗るために山の頂上まで毎回のぼる必要があることだ。
これがもう凄まじい量の階段で、8割の親は一番下で見てるだけだけど、私はわりと好きなので一緒に遊ぶことにしている。
基本的にデスクワークなので、運動はしたほうが美味しくご飯も食べられるってもんだ。
ご褒美の一環として会社近く高いしゃぶしゃぶ屋の金券を頂いたのだ。
ありがたき幸せ。子供たちと美味しくしゃぶしゃぶするために、ここは体力を削る必要がある!!
「晴日、こっちこっち!! こっちの滑り台が激ヤバい」
「渉、これ使ったら? 段ボールひくと、速度アップするよ」
「ヤバいそれ、めっちゃ楽しそう」
「前の人が下りるのまってねー」
渉は夢があるらしく、中学受験をする。
それは中高一貫の理系の学校で、週に二回塾に通っている。
私は靴飛ばししかしてない小学生時代をすごしたので、この頃から明確な目標を持てる事を尊敬する。
大人びた言動をするくせに、基本子どもで、公園にくると私の2倍すべって楽しそうなのも良い。
それに家ががっつり商売してると子どもはわりと淋しいものなのだ。
私も父親がずっと仕事しててどこにも連れて行ってくれなかったことを少しさみしく思っていた。
まあ仕事しないとご飯食べられないからね!
私と男児二人は朝から夕方までローラー公園を超満喫した。
「よっしゃラストいこ!」
この公園は18時には施錠される。
ラストローラー決めようと一番長いのに上り、滑り始めた。
このお尻に伝わるゴロゴロ感もすっごく好きなのだ。ああああ楽しいー!
「よっしゃ!」
勢いそのままに立ったら、後ろを滑って降りてきた渉が地面に倒れこんで笑いだした。
「ちょっと晴日、ズボンが破れててパンツ見えてるんだけど!!」
「え?! なにそれ?! は?!」
私は振り向いても見えないので、指で触れてみたら……7時間近く続いたローラーコースターの刺激に薄いズボンは耐えられなかったようだ。
無邪気の塊、6歳の和真が「ここだよここ」と指をつっこんでツンツンしたら、ズボンがさらに破れてしまった。
「ちょっと!!」
「あー、晴日パンツは灰色パンツ」
「渉!!!!」
周りの大人が哀れんだ目で私を見ている。
子どもの着替えだけは車に積んできたので、とりあえず渉の上着をお尻に巻き付けて車に戻った。
しゃぶしゃぶの時間は18:30でもう出ないと間に合わない……渉と和真もハラペコで頭の中は私が「今日はしゃぶしゃぶ!」と言いながら坂を昇ったせいでしゃぶしゃぶのことしか考えてない。
まあ途中で服を買えば……!
そして気が付いた。しゃぶしゃぶ屋は会社のすぐ近くだ。私、隼人さんの家に服があるじゃないか。
車を飛ばしておにぎり屋さんに向かった。
今日は日曜日だけど、おにぎり屋さんは営業している。
最近美和子さんがお店にメインになり、働いている人も増えたように見える。みんな忙しくお仕事中だし、邪魔にならないようにササッと二階にのぼってササッと服を取って来よう。
会社の駐車場に車をとめて、後ろを振り向く。
「車で待っててよ、すぐに戻ってくるから」
「お腹すいたよ、晴日ー」
「和真ごめんね、すぐに戻る!!」
私は走って二階へ向かった。
こういう時にストックしてある服が役にたつ。
何でも良いから着替えを……と入ったら、一階から隼人さんがのぼってきた。
作業着にエプロン姿の隼人さん、個人的にはめっちゃ好きで、実の所いつもドキドキする。
隼人さんはマスクを取って、私に話しかける。
「これから仕事?」
「いえいえ違うんです。ちょっとえっと……」
私はスッ……と正座して服を足にかける。
困った……ローラーコースターを満喫した結果お尻が破れて服を取りに来ましたとは言えない。
28歳の女がすることとしては痛すぎる。
優しい瞳で見てくれる隼人さんを見るとキューンとしてしまってモジモジパリパリズボンが破けていくのが分かります。
もういつ漫画みたいにパ~~ンってお尻が出てきてもおかしくない。
そしてカンカンカン……と階段を上る音が響いて来る。
ああああ……。
「晴日あああ、まだ?」
「渉に和真は、車で待っててって言ったよね?!」
我慢できずにすぐに二人は二階に上がってきてしまった。
隼人さんはきょとんとして二人を見る。
私は慌てて姉の子どもなんですと紹介した。
渉は「ふ~~ん」とニヤニヤしながら
「晴日の彼氏か。晴日の彼氏、知ってる? 今、晴日のズボンは真ん中で破れてて灰色のパンツも破れる2秒前。知ってた? ちなみに晴日は今日ローラーコースターを7時間すべってケツが真っ赤」
「…………いや、知らなかった」
死。
私は畳に倒れこんだ。そしてズボンも完全に破れたのが分かる。
もう私は隼人さん含めて全員外に出した。
そして速攻着替えて二人を捕まえて外に出た。
たった数分だったけど、知らない場所、それに車の中に置き去りにされたら心配になるのも分かるけど!!
クスクス笑いながら後ろを付いてきていた隼人さんが、会社の駐車場まで見送りにきてくれた。
そして丸くほほ笑んで言った。
「渉くん、和真くん、今度一緒に遊ぼう」
「晴日の彼氏、陰キャじゃね? 俺陽キャ。そこ大丈夫?」
「渉はもう黙って?!?!」
私は渉を車に投げ込んだ。
恐る恐る後ろを見たら、隼人さんは爆笑していた。
隼人さんって、そんな派手に笑えるんですね……初めて見ました……。
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